ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode40
『完璧じゃなくても』
― ありのままの自分を受け入れる。―
Day:Friday(共同生活40日目)
⸻
Scene4
『404 HOUSEで』
Friday|Evening
404 HOUSE。
夕方。
仕事を終えたメンバーが、少しずつ家へ戻ってくる。
「ただいま。」
「おかえり。」
いつもの声。
いつもの景色。
でも今日は、少しだけ違う夜になる。
Kitchen
夕食の準備。
キッチンには、ミンギュとチアキ。
チアキは野菜を洗い、ミンギュはフライパンを振っている。
「これお願い。」
「うん。」
「チアキ、もう少しこっち。」
「こう?」
「うん、ちょうどいい。」
「近い?」
「……このくらいが、やりやすい。」
「ふふ、私も。」
言葉は少ない。
でも、息はぴったり合っていた。
鍋から立ち上る湯気。
包丁の音。
心地いい生活音が、キッチンに広がっている。
そのとき、ミンギュが味見をして、わずかに眉をひそめた。
胸の奥で、いつもの癖が顔を出す。
失敗を認めるくらいなら、黙って作り直した方がいい。
そうすれば誰にも気づかれない。
完璧じゃないところを見せなくて済む。
ずっと、そうやってきた。
でも今日は、隣にチアキがいる。
隠すより、正直に言った方がいい気がした。
まだ少し怖かったけれど、ミンギュは小さく息を吐いて口を開く。
その瞬間、胸の奥がひどくざわついた。
たった一言なのに、喉の奥がきゅっと狭くなる。
「失敗した」と認めることは、これまでの自分なら絶対に避けてきたことだった。
弱いと思われるのが嫌だった。
できない人間だと見られるのが怖かった。
だから、どんなに納得できなくても、平気なふりをして飲み込んできた。
でも今は違う。
隣にいるチアキにだけは、隠したくなかった。
完璧じゃない自分を見せても、ここにいていいのだと思いたかった。
その気持ちが、怖さを少しだけ上回る。
チアキが気づく。
「どうしたの?」
ミンギュは苦笑した。
「ちょっと失敗した。」
その一言に、チアキは一瞬だけ目を丸くする。
以前なら、きっと何も言わずに作り直していたはずだ。
誰にも気づかれないように、自分だけで直そうとしていた。
でも今日は違う。
「え?」
チアキはもう一度味見をして、少し考えてから首を傾げた。
「え、でも……」
「すごい美味しいよ。」
自然に出た言葉だった。
ミンギュは少し照れたように笑う。
「そう?」
そのタイミングで、スングァンがキッチンを覗き込む。
「何?」
「味見?」
チアキが笑った。
「ミンギュさん、失敗したって。」
スングァンは驚いた顔をする。
「え? ミンギュが?」
その声に、リビングのみんなが反応する。
「どうした?」
スニョンが近づいてくる。
ソヨンも鍋を覗き込んだ。
「どれどれ。」
スングァンが一口食べる。
「……いや。」
「美味しいじゃん!」
スニョンも味見する。
「普通に美味しい。」
「これで失敗なの?」
ソヨンも笑う。
「十分美味しいよ。」
リビングに、小さな笑いが広がる。
ミンギュは少し困ったように笑った。
「でも、自分の中では、ちょっと違うんだよね。」
そのとき、チアキがもう一度スープを飲んで、ミンギュを見た。
「私は、この味好き。」
短い一言。
飾らない言葉。
ミンギュはその言葉を聞いて、少しだけ目を細めた。
「……ありがとう。」
少し照れたように笑って、ぽつりと呟く。
「チアキのおかげかな。」
チアキは首を傾げる。
「ん?」
ミンギュは少し笑って首を振った。
「何でもない。」
その瞬間、玄関のドアが開く。
「ただいま!」
スンチョルが帰ってきた。
靴を脱ぎながらキッチンを覗き込む。
「お。いい匂い!」
スングァンが笑う。
「ミンギュが『失敗した』って言うから大事件かと思った(笑)」
スンチョルは笑いながら鍋を見る。
「これで失敗なら、俺たち毎日失敗してるよ。」
リビングが笑いに包まれる。
その笑いの中で、ミンギュも自然に笑っていた。
「……そうかも。」
ほんの少し前までなら、この料理は誰にも出さなかったかもしれない。
納得できないから。
もっと完璧にしたいから。
でも今日は、「失敗した」と言えた。
そして、「美味しい」と返してくれる人たちがいた。
そのことが、思っていたよりずっと嬉しかった。
完璧じゃなくてもいい。
少しだけ足りなくても、誰かが「美味しい」と言ってくれるなら、それはもう失敗だけでは終わらない。
ミンギュは鍋の湯気の向こうで、胸の奥がじんわりとほどけていくのを感じていた。
隠さなくてもいい。
取り繕わなくてもいい。
ありのままの自分を、こんなふうに受け止めてもらえる場所がある。
その事実が、静かに、でも確かに、ミンギュの心を温めていた。
【STAFF NOTE】
「失敗した。」
その一言は、弱さではない。
完璧じゃない自分を、信じる誰かの前に差し出せた証だった。
404 HOUSEでは、完璧でいることよりも、ありのままの自分を受け入れられることの方が、少しずつ大切になっていた。
そのやさしさが、恋のはじまりを静かに支えていた。
次回 Scene5
『二人の会話』
片付けをしながら交わす、短い会話。
「もっと自分にも優しくしていい。」
その一言が、ミンギュの心に静かに残っていく。
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