ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode40

『完璧じゃなくても』

― ありのままの自分を受け入れる。―

Day:Friday(共同生活40日目)



Scene5

『二人の会話』

Friday|Night



夕食を終えた404 HOUSE。



リビングでは、

テレビを見ながら笑う声が聞こえる。



スングァンとスニョンはソファで話し、

ジョンハンは本を開いている。



ウォヌは静かにコーヒーを飲み、

スンチョルたちは今日の出来事を話していた。



そんな中。



キッチンでは、

チアキとミンギュが並んで食器を洗っている。



蛇口から流れる水の音。



皿が重なる小さな音。



二人だけの、

静かな時間だった。



チアキは泡のついた皿をすすぎながら、

ふと口を開く。



「ミンギュさん。」



「ん?」



「ミンギュさんって、自分に厳しすぎます。」



ミンギュは少し笑う。



「そうかな。」



けれど、その笑いはすぐに消えた。



自分でも分かっていた。



そう言われるたびに、

胸の奥が少しだけ痛むことを。



厳しいのは、ただの性格じゃない。



失敗したくない。



迷惑をかけたくない。



期待されたことはきちんと返したい。



そう思えば思うほど、

いつの間にか自分の中に

「できて当たり前」が積み重なっていく。



できなかったことばかりが目につく。



誰かに褒められても、

「たまたまうまくいっただけだ」と思ってしまう。



今日の料理もそうだった。



味は悪くなかったはずだ。



でも、火加減をもう少し見ていれば。



盛り付けをもう少し丁寧にしていれば。



片付けの段取りも、もっと早くできたかもしれない。



そんなふうに、

終わったあとからいくらでも欠点が見えてしまう。



「うん。」



チアキは頷く。



「今日も。」



「失敗って言ってたけど。」



「私には全然分からなかった。」



ミンギュはスポンジを置き、

少しだけ遠くを見る。



その視線の先には、

何もない白い壁があるだけだった。



けれど彼の頭の中では、

さっきの食卓の光景が何度もよみがえる。



皿を運ぶ手つき。



少しだけ遅れた返事。



ほんのわずかな沈黙。



自分だけが気づいている小さな綻び。



それを見つけるたびに、

「やっぱりまだ足りない」と思ってしまう。



「自分では気になるんだよ。」



「もっとできたんじゃないかなって。」



「いつも思う。」



言葉にすると、

それはただの反省のように聞こえる。



でも本当は違った。



反省というより、

自分を追い立てる癖に近い。



少しでも気を抜けば、

誰かの役に立てない自分になる気がして怖い。



だから、うまくいった日でさえ安心できない。



「次はもっとちゃんとしなきゃ」



「今のままじゃだめだ」



そうやって自分を急かし続けてきた。



そのたびに、

心のどこかが少しずつ疲れていくのを感じていたのに、

立ち止まることができなかった。



少し沈黙が流れる。



チアキはタオルで皿を拭きながら、

静かに言う。



「もっと自分にも優しくしていいと思います。」



その声は、

優しかった。



励ますというより、

願うような声。



ミンギュは何も言わない。



ただ、

その言葉をゆっくり受け止めていた。



優しくしていい。



その一言が、

思った以上に難しかった。



自分に優しくすることは、

甘えることと同じに感じてしまう。



手を抜くこと。



逃げること。



責任から目をそらすこと。



そんなふうに結びついてしまっているから、

素直に受け入れられない。



けれど、

チアキの声は責めていなかった。



「もっと頑張れ」でも、

「気にしすぎ」でもない。



ただ、

そのままの自分を少しだけ許してほしいと、

静かに言っているようだった。



ミンギュは、

その優しさに戸惑っていた。



受け取っていいのか分からない。



受け取ったら、

今まで自分を縛ってきたものが崩れてしまう気がした。



でも同時に、

その縛りが少し苦しかったことにも気づいてしまう。



チアキは少し笑う。



「私ね。」



「ミンギュさんに頼ることが多いじゃないですか。」



ミンギュも笑う。



「そう?」



「うん。」



「車で送ってもらったり。」



「料理を手伝ってもらったり。」



「荷物持ってもらったり。」



「いっぱい助けてもらってる。」



少し間を置く。



「だから。」



チアキはミンギュを見る。



「もっと頼って下さい。」



「私ばっかりミンギュさんに頼ってるの、嫌です。」



ミンギュは少し驚いたように目を瞬く。



頼る。



その言葉は、彼にとっていつも少し重かった。



誰かに頼るということは、

自分の弱さを見せることだと思っていた。



弱さを見せれば、

がっかりされるかもしれない。



期待を下げられるかもしれない。



それが怖くて、

できるだけ一人で抱え込んできた。



でも、チアキは違う。



頼られることを負担だと思っていない。



むしろ、

頼ってほしいと笑っている。



その事実が、

ミンギュの中の固い何かを少し揺らした。



そのあと、

小さく笑った。



「チアキって。」



「そういうところあるよね。」



「え?」



「自分のことより。」



「人のことを先に考える。」



チアキは少し照れながら笑う。



「そうかな。」



「うん。」



ミンギュはそう答えながら、

ふと気づく。



自分も同じように、

いつも人のことを先に考えているつもりだった。



けれど実際は、

人のためというより、

人に迷惑をかけないために動いていただけかもしれない。



誰かを支えたい気持ちと、

失敗したくない気持ち。



その二つがいつも絡み合って、

自分の中で区別がつかなくなっていた。



だからこそ、

うまくいかなかったときの落ち込みも大きい。



「ちゃんとできる自分」でいなければ、

自分には価値がないように思えてしまうから。



でも。



本当にそうだろうか。



今日、少し失敗した。



それでも夕食は終わった。



誰も困っていない。



むしろ、みんな普通に笑っていた。



自分が思うほど、

世界は自分の失敗を大きく扱っていないのかもしれない。



そのことに気づいた瞬間、

胸の奥にあった緊張が、

ほんの少しだけほどけた。



「でも。」



「今日は違います。」



チアキは皿を片付け終えて、

少しだけ得意そうに笑う。



「今日は。」



「ミンギュさんを甘やかす日にしましょう。」



ミンギュは思わず吹き出す。



「何それ(笑)」



笑いながらも、

その言葉が妙に心に残った。



甘やかす。



そんなふうに言われたことは、

あまりなかった。



誰かに必要とされることはあっても、

「休んでいい」と言われることは少ない。



「いいじゃないですか。」



「たまには。」



「何もしなくても。」



「『今日はこれでいい』って思う日があっても。」



ミンギュは笑いながら首を振る。



「難しいな。」



本音だった。



何もしなくてもいい日。



それは楽そうに見えて、

彼にとってはむしろ落ち着かない。



何かをしていないと、

自分の価値が薄れてしまう気がするから。



けれど、

その考え方自体が少し苦しいことも、

もう分かっていた。



ずっと走り続けてきたせいで、

立ち止まることが怖くなっている。



止まったら、

自分の足りなさが全部見えてしまう気がする。



だからこそ、

「今日はこれでいい」と言われることが、

こんなにも難しく感じるのだ。



「じゃあ。」



チアキはいたずらっぽく笑う。



「練習。」



「今日はデザートも美味しかった。」



「夕飯も美味しかった。」



「だから今日は百点。」



「それで終わり。」



ミンギュは照れたように笑う。



「そんな簡単?」



「うん。」



「私が決めました。」



その言い方が可笑しくて、

ミンギュは声を出して笑った。



笑いながら、

ふと気づく。



百点。



その言葉は、完璧を求めるための百点ではなかった。



欠点を探して埋めるための百点でもない。



今日できたことを、

今日のまま受け止めるための百点だった。



失敗が一つあっても、

全部がだめになるわけじゃない。



足りないところがあっても、

それだけで自分の価値が消えるわけじゃない。



そんな当たり前のことを、

頭では知っていたはずなのに、

心ではずっと信じられずにいた。



でも今は、

少しだけ分かる気がした。



完璧じゃなくても、

誰かと笑える。



完璧じゃなくても、

今日を終えられる。



完璧じゃなくても、

ここにいていい。



その感覚が、

胸の奥に小さく灯る。



その笑い声に、

リビングのみんなが振り向く。



スングァンが笑う。



「何笑ってるの?」



チアキとミンギュは顔を見合わせる。



そして同時に笑った。



「秘密。」



チアキがそう答えると、

スングァンは大げさに肩を落とした。



「えー!」



リビングにまた笑いが広がる。



ミンギュはその笑い声を聞きながら、

ふと思う。



完璧じゃなくても。



今日みたいに笑えるなら。



それも悪くないのかもしれない。



そう思った瞬間、

いつもならすぐに浮かんでくる

「でも、もっとちゃんとしなきゃ」という声が、

少しだけ遠くなった。



代わりに残ったのは、

失敗を責める気持ちではなく、

今日をちゃんと終えられたという静かな実感だった。



まだ完全に、

自分を許せたわけじゃない。



それでも、

完璧でなければならない理由は、

少しずつ薄れていく。



誰かに見せるための自分ではなく、

ここで笑っている自分でもいいのだと、

初めて心の底で思えた。



そんな考えが、

胸の奥に静かに芽生え始めていた。



【STAFF NOTE】



「もっと自分に優しくしていい。」



その言葉は、

誰かに言われるまで、

自分では気づけないことがある。



頼ること。



弱さを見せること。



完璧じゃない自分を受け入れること。



404 HOUSEでは、

それを少しずつ教え合っていた。



次回 Scene6【UNSEEN】



スタッフインタビュー。



「失敗しても離れていかない人がいる。」



その安心が、

ミンギュを少しずつ変えていく。




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