ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode40
『完璧じゃなくても』
― ありのままの自分を受け入れる。―
Day:Friday(共同生活40日目)
⸻
Scene7
『404 HOUSE』
Friday|Night
⸻
404 HOUSE。
⸻
夜。
⸻
リビングには、
テレビの小さな音が流れている。
⸻
一日の終わり。
⸻
それぞれ仕事を終え、
少しだけ肩の力を抜いて、
いつもの場所へ戻ってきた夜。
⸻
⸻
Living Room
⸻
スングァンがソファに寝転ぶ。
⸻
「今日、疲れたー。」
⸻
その声はいつも通り大きいのに、
どこか本当にくたびれた響きがあって、
聞いているだけで少しだけ胸がゆるむ。
⸻
⸻
スニョンが笑う。
⸻
「毎日言ってる。」
⸻
⸻
「でも今日は本当に(笑)」
⸻
⸻
チェリンがクッションを抱えながら笑う。
⸻
「絶対昨日も言ってた。」
⸻
⸻
「昨日は昨日。」
⸻
「今日は今日!」
⸻
⸻
リビングに笑い声が広がる。
⸻
その笑い声は、
ただ賑やかなだけじゃない。
⸻
一日を終えた安心と、
ここに戻ってこられた安堵が混ざっていて、
チアキはその空気を聞くだけで、
少しだけ心がほどけていくのを感じていた。
⸻
その横では、
ジョンハンが本を読んでいる。
⸻
ページをめくる音。
⸻
笑い声が聞こえるたび、
ほんの少しだけ口元が緩む。
⸻
自分から輪の中に入るわけではないのに、
ちゃんとその場の温度を受け取っている。
⸻
そんな静かな優しさが、
今のこの部屋にはよく似合っていた。
⸻
ウォヌはソファの端でコーヒーを飲んでいる。
⸻
特に会話には入らない。
⸻
でも、
みんなの笑い声を聞いているだけで、
どこか穏やかな表情だった。
⸻
その横顔を見ていると、
この家で過ごした時間が、
少しずつ彼の中にも積もっているのだとわかる気がして、
チアキは理由もなく、胸の奥があたたかくなった。
⸻
⸻
Kitchen
⸻
チアキは、
最後のマグカップを洗い終える。
⸻
蛇口を閉める。
⸻
タオルで手を拭く。
⸻
振り返ると、
リビングからまた笑い声が聞こえた。
⸻
その音に、思わず少し笑う。
⸻
「何笑ってるの?」
⸻
自然にそう聞く。
⸻
スングァンが振り返る。
⸻
「チアキ!」
⸻
「ミンギュの小さい頃の写真見てた!」
⸻
⸻
「え?」
⸻
⸻
ミンギュが慌ててスマホを取り返そうとする。
⸻
「ちょっと!」
⸻
「勝手に見るなって!」
⸻
その慌てぶりがあまりにも必死で、
チアキは驚きながらも、どこか可笑しくてたまらない。
⸻
⸻
スニョンが大笑いする。
⸻
「可愛いじゃん!」
⸻
⸻
チェリンも笑う。
⸻
「面影ある!」
⸻
⸻
チアキもスマホを覗く。
⸻
写真を見るなり、
思わず吹き出した。
⸻
「かわいい。」
⸻
その一言が、思った以上に素直にこぼれる。
⸻
⸻
ミンギュは照れながら笑う。
⸻
「やめて(笑)」
⸻
⸻
「今と全然変わらない。」
⸻
チアキがそう言うと、
ミンギュは少しだけ照れたように笑った。
⸻
褒められているのはわかるのに、
うれしさを隠しきれない顔。
⸻
その表情があまりにもまっすぐで、
チアキは見ているだけで頬がゆるんだ。
⸻
「それ褒めてる?」
⸻
⸻
「もちろん。」
⸻
⸻
「じゃあ保存しとく。」
⸻
スングァンがすかさず言う。
⸻
「だめだって!」
⸻
⸻
「えー、みんなに見せたいのに。」
⸻
⸻
「見せなくていい!」
⸻
ミンギュが本気で止めると、
今度はジョンハンまで本から目を上げて、
静かに笑った。
⸻
「その反応が一番おもしろいんだけど。」
⸻
⸻
「ジョンハンさんまで!」
⸻
⸻
二人のやり取りに、
また笑いが起こる。
⸻
その笑い声の中で、
チアキはふと気づく。
⸻
こうして何気ないことで笑い合えることが、
こんなにも安心できるなんて。
⸻
最初の頃は、
こんなふうに自然に笑える日が来るなんて、
きっと誰も想像していなかった。
⸻
その間にチェリンは、
棚から新しいお菓子を取り出していた。
⸻
「ねえ、これ食べる?」
⸻
⸻
「食べる!」
⸻
返事が重なる。
⸻
スニョンがすぐに立ち上がる。
⸻
「じゃあ皿出す。」
⸻
⸻
ウォヌも立ち上がって、
自然にコップを人数分並べる。
⸻
「お茶、いる?」
⸻
⸻
「いるー。」
⸻
ソヨンがソファから顔を上げる。
⸻
「私、温かいのがいい。」
⸻
⸻
「じゃあお湯沸かす。」
⸻
チアキがそう言うと、
ミンギュがすぐに振り返る。
⸻
「手伝う。」
⸻
⸻
「じゃあ、こっちお願い。」
⸻
チアキが軽く指示すると、
ミンギュは素直にうなずいて、
ケトルに水を入れた。
⸻
そんな何気ない動きが、
もうすっかり自然になっている。
⸻
最初は少しぎこちなかった距離も、
今では言葉にしなくても伝わるくらいに近い。
⸻
そのことがうれしくて、
でも少しだけくすぐったくて、
チアキは湯気の立つケトルを見つめながら、
静かに息をついた。
⸻
⸻
22:45 PM
⸻
ソヨンはあくびをする。
⸻
「もう眠い。」
⸻
⸻
ユナも笑う。
⸻
「今日はいっぱい笑ったね。」
⸻
その言葉に、みんなが少しだけ静かになる。
⸻
笑い疲れたような、満ち足りた沈黙。
⸻
それが嫌じゃないのは、
この部屋がもう、安心できる場所だからだ。
⸻
スンチョルは時計を見る。
⸻
「そろそろ寝る人は寝ようか。」
⸻
⸻
「はーい。」
⸻
返事が重なる。
⸻
⸻
スングァンはソファから起き上がる。
⸻
「おやすみー。」
⸻
⸻
「おやすみ。」
⸻
⸻
「また明日。」
⸻
⸻
自然に交わされる言葉。
⸻
その一つひとつが、
今日という一日をやさしく締めくくっていく。
⸻
最初の頃は、
部屋へ戻るタイミングさえ少し遠慮していた。
⸻
今は。
⸻
誰かが眠そうなら、
「おやすみ。」
⸻
誰かが起きているなら、
「まだ寝ないの?」
⸻
そんな何気ない会話が、
当たり前になっていた。
⸻
その当たり前が、
こんなにも愛おしい。
⸻
⸻
廊下
⸻
それぞれの部屋へ向かう。
⸻
ジョンハンは本を閉じる。
⸻
ウォヌはカップを流しへ運ぶ。
⸻
ソヨンは電気を一つ消す。
⸻
スニョンは最後まで笑っている。
⸻
チアキは、
リビングを一度だけ見渡した。
⸻
さっきまで笑い声でいっぱいだった部屋。
⸻
誰かのマグカップ。
⸻
クッション。
⸻
テーブルの上に置かれたお菓子。
⸻
生活の跡。
⸻
何気ないものばかりなのに、
そこには確かに今日の時間が残っていた。
⸻
その景色が、
今はとても愛おしかった。
⸻
「おやすみ。」
⸻
小さく言う。
⸻
「おやすみ。」
⸻
何人もの声が返ってくる。
⸻
その一言だけで、
胸の奥が少しだけ温かくなる。
⸻
そして同時に、
この夜が終わってしまうことが、
ほんの少しだけ惜しくもあった。
⸻
⸻
【STAFF NOTE】
共同生活40日目。
⸻
最初は、
「同居人」だった11人。
⸻
それぞれ違う生活。
⸻
違う仕事。
⸻
違う価値観。
⸻
でも。
⸻
40日間を一緒に過ごして、
笑って、
悩んで、
支え合って。
⸻
いつの間にか、
この家は「帰る場所」になっていた。
⸻
誰かが笑えば、
自然と笑う。
⸻
誰かが疲れていれば、
自然と気づく。
⸻
その変化は、
誰も意識していなかった。
⸻
だからこそ、
本物だった。
⸻
40日目の夜。
⸻
404 HOUSEは、
もうただの共同生活の家ではなかった。
⸻
11人にとって、
大切な居場所になっていた。
⸻
その事実は静かで、
けれど確かに胸に残る。
⸻
派手な出来事がなくても、
こうして積み重なった時間こそが、
人と人をつないでいくのだと、
そっと教えてくれる夜だった。
⸻
Episode40 END
⸻
次回予告
Episode41
『近づきすぎた距離』
共同生活41日目。
⸻
知れば知るほど、
相手のことが気になる。
⸻
でも――
⸻
近づくほど、
怖くなる気持ちもある。
→
ノベルに戻る I
Addict