ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode41
『近づきすぎた距離』
― 一緒にいることが当たり前になるほど、気持ちは隠しにくくなる。―
Day:Saturday(共同生活41日目)
⸻
Scene3
『それぞれの休日』
Saturday|13:00 PM
⸻
ソウル市内。
⸻
澄んだ昼の光が、
ビルのガラスに反射してきらきらと揺れていた。
⸻
それぞれのグループが、
違う場所で休日を過ごしていた。
⸻
遠くからは車の流れる音。
⸻
近くでは笑い声や、
カフェのドアベルが小さく鳴る。
⸻
仕事も。
⸻
撮影も忘れて、
ただ一日を楽しむ時間。
⸻
Bグループ
ソンス
⸻
カフェや雑貨店が並ぶ街。
⸻
石畳の路地。
⸻
レンガ造りの建物。
⸻
休日の人通り。
⸻
焼きたてのパンの香りと、
コーヒーの深い匂いが風に混じって流れてくる。
⸻
「ここ、好き。」
⸻
チアキが周りを見渡す。
⸻
ミンギュは、いつの間にか少しだけ歩幅を合わせていて、
隣に並ぶ距離が前より自然になっていた。
⸻
「歩いてるだけで楽しいね。」
⸻
ミンギュが笑う。
⸻
「チアキ、こういう雰囲気好きでしょ。」
⸻
「分かるの?」
⸻
「分かるよ。」
⸻
「前に、ヨーロッパっぽい街並みが好きって言ってたじゃん。」
⸻
チアキは少し驚く。
⸻
そんな細かいことまで覚えていたのかと思うと、
胸の奥がくすぐったくなる。
⸻
「……覚えてたの?」
⸻
「そりゃ覚えてるよ。」
⸻
自然な返事。
⸻
その一言に、
チアキは少しだけ照れたように笑った。
⸻
視線を逸らしたあとも、
すぐ隣にいるミンギュの気配が妙に近く感じられた。
⸻
石畳を踏むたび、
靴音がやわらかく響く。
⸻
店先に並ぶ観葉植物や、
窓辺の小さな飾りまで目に入って、
街全体がゆっくり呼吸しているみたいだった。
⸻
カフェ
⸻
人気のカフェ。
⸻
ショーケースには、
色とりどりのケーキ。
⸻
ガラス越しに見えるクリームの艶や、
フルーツの瑞々しさがまぶしい。
⸻
チアキはケースの前で立ち止まる。
⸻
「うーん……。」
⸻
真剣な顔。
⸻
右を見る。
⸻
左を見る。
⸻
「決められない。」
⸻
スンチョルが笑う。
⸻
「そんなに悩む?」
⸻
「だって、どっちも本気でおいしそうなんだもん。」
⸻
ミンギュもショーケースを覗く。
⸻
肩がほんの少し触れそうな距離に、
チアキは無意識に息を止める。
⸻
「じゃあ、両方いく?」
⸻
「このピスタチオも気になるし。」
⸻
「でも、このレモンも食べたい。」
⸻
店内には焙煎したての豆の香りが満ちていて、
カップが触れ合う小さな音や、
奥のキッチンから聞こえる泡立て器の音が心地よく響いていた。
⸻
五分経過。
⸻
まだ迷っている。
⸻
スンチョルが笑い出す。
⸻
「まだ決まらないの?」
⸻
チアキも笑う。
⸻
「本当に決められない(笑)」
⸻
ミンギュは店員を見る。
⸻
迷っている時間を急かさないその様子が、
なんだかいつもより頼もしく見えた。
⸻
「じゃあ。」
⸻
「二つ頼んで、三人で分けよう。」
⸻
チアキが顔を上げる。
⸻
「いいの?」
⸻
「その方が、全部食べられるでしょ。」
⸻
スンチョルも頷く。
⸻
チアキは嬉しそうに笑う。
⸻
「ありがとう。」
⸻
フォークでケーキをすくうたび、
甘い香りがふわりと立ちのぼる。
⸻
ミンギュがさりげなく皿を少しだけチアキの方へ寄せる。
⸻
その小さな気遣いが、
当たり前みたいに受け取れてしまうことに、
チアキは自分でも少し驚いていた。
⸻
テラス席
⸻
ケーキを食べながら、
のんびり話す三人。
⸻
ソンスの街並みを眺めながら、
休日らしい時間が流れる。
⸻
テラスにはやわらかな風が吹き抜け、
遠くの通りからは自転車のベルや、
誰かの笑い声がかすかに届いていた。
⸻
スンチョルが聞く。
⸻
「チアキって、韓国で他に行ってみたい場所ある?」
⸻
チアキは少し考える。
⸻
「チェジュ島。」
⸻
即答だった。
⸻
「一回は行ってみたい。」
⸻
ミンギュが笑う。
⸻
「意外。」
⸻
「もっと都会が好きかと思ってた。」
⸻
チアキは首を振る。
⸻
「都会も好きだけど、自然も好き。」
⸻
「海も見たいし。」
⸻
「ぼーっと景色を眺めるの、好きなんだ。」
⸻
スンチョルも頷く。
⸻
「チェジュ島、いいよ。」
⸻
「時間の流れがちょっと違う感じがする。」
⸻
ミンギュが続ける。
⸻
「今度みんなで行けたら、絶対楽しい。」
⸻
チアキが笑う。
⸻
「ほんと、行けたらいいね。」
⸻
その言葉は、
気づけば自然なタメ口になっていた。
⸻
言い終えたあと、
少しだけ自分で驚く。
⸻
でもミンギュが何も気にしていないように笑っているのを見て、
胸の奥がふっと軽くなった。
⸻
ミンギュも、
スンチョルも、
何も言わない。
⸻
ただ、
その自然さが少し嬉しかった。
⸻
ミンギュは、
カップを口元へ運びながら、
小さく笑った。
⸻
その笑い方がやわらかくて、
チアキはつられるようにもう一度笑う。
⸻
午後の光がテーブルの上に落ちて、
ケーキの皿の縁をやわらかく照らしていた。
⸻
Aグループ
南山タワー
⸻
展望台。
⸻
ソウルの街が一望できる。
⸻
遠くまで続く高層ビル群と、
その間を縫うように流れる車の列。
⸻
風が少し強く、
頬に当たる空気はひんやりしていた。
⸻
「すごーい!」
⸻
チェリンが写真を撮る。
⸻
スングァンは、
自撮り棒を持って走り回る。
⸻
「ほら!」
⸻
「こっち向いて!」
⸻
ユナが笑う。
⸻
「ちょっと、落ち着いて(笑)」
⸻
三人で、
何枚も写真を撮る。
⸻
途中、
変顔大会になり、
観光客まで笑っていた。
⸻
展望台の端では、
街のざわめきが遠くに沈み、
代わりに風の音だけが耳に残る。
⸻
Cグループ
アックンジョン
⸻
古本屋。
⸻
静かな店内。
⸻
紙の匂いと、
少し乾いたインクの香りが漂う。
⸻
ウォヌは本棚を眺める。
⸻
ジョンハンは写真集を手に取る。
⸻
ジウォンは、
アートブックを見つける。
⸻
会話は少ない。
⸻
でも、
沈黙が心地いい。
⸻
ページをめくる音だけが、
やわらかく店内に落ちていく。
⸻
「この街。」
⸻
ジョンハンが呟く。
⸻
「ウォヌっぽい。」
⸻
ウォヌが少し笑う。
⸻
「どのへんが?」
⸻
「うるさくないところ。」
⸻
「それ、褒めてる?」
⸻
「もちろん。」
⸻
ジウォンが本を閉じて、ふっと笑う。
⸻
「二人とも、静かな場所に来ると急に似るね。」
⸻
窓の外では、
通りを行き交う人の足音と、
カフェから漏れる音楽がかすかに混ざっていた。
⸻
三人で、
ゆっくり街を歩いていく。
⸻
日差しの下、
ショーウィンドウに映る自分たちの影が、
並んで伸びていた。
⸻
Dグループ
ナンデムン市場
⸻
「これ食べよう!」
⸻
スニョンは屋台を見つけるたび止まる。
⸻
ソヨンは笑いながら付いていく。
⸻
「また?」
⸻
「せっかく市場に来たんだし、食べなきゃ損でしょ!」
⸻
市場の通りには、
揚げ物の香ばしい匂いと、
甘辛いタレの匂いが立ちこめていた。
⸻
店主の呼び込みの声。
⸻
鉄板の上で弾ける音。
⸻
人の波の熱気。
⸻
ホットク。
⸻
トッポッキ。
⸻
韓国おでん。
⸻
気づけば、
食べ歩きツアーになっていた。
⸻
「もうお腹いっぱい(笑)」
⸻
ソヨンが笑う。
⸻
「まだデザートあるよ。」
⸻
「え、まだ食べる気?」
⸻
「もちろん!」
⸻
二人の笑い声が、
市場に響いた。
⸻
紙コップの温かさ。
⸻
指先に残る砂糖の甘さ。
⸻
通り抜ける風に混じる、
焼き栗の香り。
⸻
【STAFF NOTE】
同じ街でも。
⸻
誰と歩くかで、
思い出は変わる。
⸻
景色より、
会話を覚えている。
⸻
写真より、
笑った時間を覚えている。
⸻
404 MEMORY MAP。
⸻
その一枚一枚に、
11人だけの休日が刻まれていく。
⸻
次回 Scene4
『思い出の一枚』
夕方。
⸻
404 HOUSEへ戻った11人。
⸻
今日撮った写真をテレビに映し、
笑いながら振り返る時間が始まる。
→
ノベルに戻る I
Addict