ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode42

『言葉より近く』

― 言葉にしなくても伝わるものがある。―

Day:Sunday(共同生活42日目)



Scene3

『夕食準備』

Sunday|17:30 PM



404 HOUSE。



夕方、窓の外はゆっくりと夕焼け色に染まり始めていた。

休日の一日が、静かに終わりへ向かっていく。

外出していたメンバーも戻り、家の中にはいつもの穏やかな賑やかさが戻っていた。



Kitchen



チアキはエプロンをつけ、冷蔵庫を開けて夕食の食材を取り出す。

野菜、肉、調味料。

慣れた手つきで並べていくと、冷たい空気の代わりに、切ったばかりの野菜の匂いと、これから火を入れる肉の気配がキッチンに広がった。

その横に、自然とミンギュが立つ。

肩が触れそうで触れない、ちょうどいい距離。

それでも、同じまな板を囲むには十分だった。



「今日は何作る?」

チアキは笑って答える。

「ハンバーグ。あとスープ。」

ミンギュが頷く。

「じゃあ俺、野菜切る。」

「お願い。玉ねぎ、目にしみるから助かる。」

「それ、毎回言ってる。」

「だって毎回しみるし。」

チアキが少しだけ口を尖らせると、ミンギュは小さく笑った。

「じゃあ今日は俺が全部やる?」

「それはだめ。チアキのハンバーグ食べたい。」

そのやり取りも、もうすっかり自然だった。



Kitchen



チアキはまな板をミンギュの前に置き、包丁を手に玉ねぎを半分に切る。

そして、何気なく言った。

「これ切っとくね。」

ミンギュの手が一瞬止まり、少しだけ笑う。

「うん。」

「……敬語、減ったね。」

チアキは包丁を動かしたまま、照れくさそうに笑った。

「そう?」

ミンギュが頷く。

「前だったら、『切っておきますね。』だった。」

チアキは少し考えてから、恥ずかしそうに笑った。

「うん。やっと慣れた。」

「俺には?」

「え?」

「俺には、もうそんなに気をつかわない?」

チアキは手を止めて、ミンギュを見る。

少しだけ困ったように、それでもやわらかく笑った。

「……気をつかってないわけじゃないよ。」

「じゃあ?」

「ミンギュには、ちゃんと話したいって思う。」

その一言に、ミンギュもやわらかく笑う。

「そっか。なんか嬉しい。」

チアキは少し照れる。

「敬語じゃない方が変だった?」

ミンギュは首を振る。

「違う。今の方がチアキらしい。」

「ほんとに?」

「うん。無理してない感じがする。」

チアキは視線を落として、切った玉ねぎをボウルに移す。

「……ミンギュの前だと、ちょっとだけ楽。」

「ちょっとだけ?」

「うん。ちょっとだけ。」

そう言って笑うチアキに、ミンギュは少しだけ身を寄せた。

「じゃあ、もっと楽にしていいよ。」

「それ、ずるい。」

「なんで?」

「そう言われると、ほんとにそうしたくなる。」

チアキの声は小さいのに、どこか甘かった。

ミンギュはその横顔を見て、ふっと息を漏らす。

「じゃあ、そうして。」

「……うん。」

短い返事だったが、その声にはもう以前の固さはなかった。



Kitchen



包丁の音が小気味よく響く。

野菜を切るミンギュ。

ハンバーグの具を混ぜるチアキ。

ボウルの中で肉だねをこねる音が、少しずつ空気を温めていく。

「塩お願い。」

「はい。」

「パン粉取って。」

「これ?」

「うん。」

「卵、もう入れる?」

「まだ。あと少し混ぜたい。」

「了解。」

会話は短い。

けれど、動きはぴったり合っていた。

言葉より先に、お互いの次の動きが分かる。

そんな時間になっていた。



Kitchen



チアキがボウルを持ち上げたまま、少しだけ首をかしげる。

「ねえ、ミンギュ。」

「ん?」

「これ、もう少しこねた方がいい?」

ミンギュは手を止めて、ボウルの中を覗き込む。

「うん。あと少し。……でも、チアキのやり方で大丈夫。」

「それ、優しい言い方してるだけで、実はよく分かってないとか?」

「ばれた?」

「やっぱり。」

チアキが笑うと、ミンギュもつられて笑った。

「でも、チアキが作るの好きだから。」

「……そういうの、急に言わないで。」

「なんで?」

「手が止まる。」

「止まってもいいよ。」

「だめ。夕飯作る。」

そう言いながらも、チアキの耳は少し赤くなっていた。

ミンギュはそれを見て、満足そうに目を細める。

「かわいい。」

「今のは聞かなかったことにする。」

「聞こえてたでしょ。」

「聞こえたけど、流したい。」

「じゃあ、もう一回言う?」

「言わなくていい。」

「じゃあ、代わりに味見する?」

「……する。」

チアキが小さく差し出したスプーンを、ミンギュは素直に受け取る。

ひと口食べて、少し考えるように目を細めたあと、頷いた。

「おいしい。」

「ほんと?」

「うん。ちょうどいい。」

「よかった。」

チアキはほっとしたように笑う。

「じゃあ、もう少しだけ塩足してもいい?」

「少しだけなら。」

「了解。」

その返事があまりに自然で、チアキは思わず笑ってしまう。

「なんか、夫婦みたい。」

ミンギュの手が止まる。

「……それ、今言う?」

「だめだった?」

「だめじゃないけど。」

「けど?」

「ちょっと、照れる。」

チアキは目を丸くして、それからふっと笑った。

「ミンギュが照れるの、珍しい。」

「チアキが言うから。」

「じゃあ、もう言わない。」

「それはそれで寂しい。」

「どっちなの。」

「どっちも。」

そのやり取りに、チアキはとうとう吹き出した。

「なにそれ。」

ミンギュも笑う。

「でも、ほんとにそう思う。」

「……うん。」

チアキは小さく頷いて、またボウルに手を戻した。

その横顔は、さっきより少しだけやわらかい。



Living Room



リビングでは、スニョンがその様子を見て笑う。

「最近さ。」

スングァンを見る。

「あの二人、息ぴったりじゃない?」

スングァンもキッチンを見る。

「確かに。前は『ありがとうございます』ばっかりだったのに。」

ジョンハンも笑う。

「今は普通に話してる。」

ウォヌが静かに言う。

「自然になったね。」

誰も、それ以上は言わない。

けれど、その変化はみんな感じていた。



Kitchen



ハンバーグが焼き上がる。

じゅう、と油のはぜる音がして、香ばしい匂いが家中に広がる。

焼き色のついた表面から立ちのぼる湯気が、夕方の少し冷えた空気に溶けていく。

チアキがフライパンを見ながら笑う。

「うまくできた。」

ミンギュも笑う。

「今日は大成功。」

「ミンギュ、さっきの味見どうだった?」

「ちゃんとおいしかった。」

「ちゃんと、って何。」

「ちゃんと、チアキが作った味だった。」

チアキは一瞬きょとんとして、それから少しだけ目を伏せる。

「……それ、褒めてる?」

「褒めてる。」

「じゃあ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

二人は顔を見合わせ、少し笑ってからまた作業に戻る。

並んで立つ距離は近いのに、不思議と窮屈ではない。

肩が触れそうで触れないまま、同じ匂い、同じ音、同じ温度の中にいる。

その距離は、もう無理に縮めようとしなくても自然と近くなっていた。



【STAFF NOTE】

共同生活42日目。

「これ切っとくね。」

「お願い。」

ほんの短いやり取り。

でも、そこには以前のような遠慮はもうない。

敬語が少し減ったこと。

頼ることが自然になったこと。

味見をしながら、何気ない言葉で笑い合えるようになったこと。

その小さな変化が、二人の距離を静かに映していた。



次回 Scene4

『404 Diary』

Sunday|22:00



今日のテーマ。

「最近、一番安心した瞬間」

誰かを思い浮かべながら、11人は静かにペンを走らせる。




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