ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode43

『笑顔の理由』

― 笑顔は、強さの証とは限らない。―

Day:Monday(共同生活43日目)



Scene3

『スニョンの秘密』

Monday|Evening



スタッフインタビュー。



静かな部屋。



白い壁。



一脚の椅子。



時計の針の音だけが、

やけに大きく聞こえる。



いつもなら、

冗談を言ってから座るスニョン。



でも今日は違った。



椅子へ腰を下ろしても、

すぐには顔を上げない。



膝の上で指を組んだまま、

しばらく、何も言わなかった。



スタッフも、急かさない。



沈黙が、

そのまま答えになることがあると知っているように。



静かな時間が流れる。



やがてスタッフが、

壊れないようにそっと尋ねる。



「スニョンさん。」



「皆さんにはまだ話していない秘密がありますね。」



その言葉に、

スニョンの肩が、ほんの少しだけ揺れた。



顔を上げる。



一度だけ、息を吸う。



そして、

静かに頷いた。



「はい。」



それだけ言って、

また少し黙る。



まるで、

その先の言葉を口にするまでに、

心の奥で何度も扉を開け閉めしているみたいに。



長い沈黙のあと、

スニョンはゆっくりと話し始めた。



「昔……。」



そこで一度、言葉が途切れる。



「大きな怪我をしました。」



その一言だけで、

部屋の空気が変わる。



スタッフの表情も、

ほんの少しだけ固くなる。



スニョンは、

視線を落としたまま続けた。



「膝です。」



「ダンサーとして、一番怖い怪我でした。」



当時の映像。



病院。



松葉杖。



リハビリ施設。



汗だくになりながら、

何度も、何度も足を動かそうとしている若い頃のスニョン。



その映像の中の彼女は、

今よりずっと細く、

でも、目だけは負けていなかった。



スタッフ。



「その時、お医者さんには何と?」



問いかけたあと、

スタッフもまた、言葉を待つ。



スニョンは少しだけ目を伏せた。



長い、長い沈黙。



その沈黙の中で、

彼女の喉が小さく上下する。



「……もう前みたいには踊れないかもしれない。」



「そう言われました。」



静かな声。



けれど、その一言は、

今もまだ胸の奥に刺さったままだった。



「その瞬間。」



「頭の中が真っ白になりました。」



ダンスしかなかった。



踊ることだけを考えて生きてきた。



それが突然、

終わるかもしれない。



その現実を、

すぐには受け止められなかった。



「毎日。」



「リハビリでした。」



歩く練習。



曲げる練習。



少しずつ、

少しずつ。



前に進んでいるのか、

戻っているのかも分からないまま、

ただ続けるしかなかった。



周りは励ましてくれた。



「絶対戻れる。」



「スニョンなら大丈夫。」



でも。



一番信じられなかったのは、

自分自身だった。



「怖かったです。」



その言葉は、

ほとんど息のようにこぼれた。



「また踊れなくなるんじゃないかって。」



「今でも。」



そこで、少しだけ笑う。



けれどその笑顔は、

404 HOUSEで見せる明るい笑顔とは、

どこか違っていた。



強がりにも似た、

静かな痛みを含んだ笑顔だった。



「怪我が怖くない日は、一日もありません。」



スタッフ。



「今もですか?」



スニョンは、ゆっくり頷く。



「はい。」



「踊る前は毎回思います。」



「今日も大丈夫かなって。」



「このジャンプで痛めたらどうしよう。」



「この着地で終わるかもしれない。」



「そういう考えは、消えません。」



言い終えたあと、

また沈黙が落ちる。



今度は、

誰もその静けさを壊さなかった。



「だから。」



スニョンは、

少しだけ唇を結んでから続ける。



「たぶん。」



「笑ってるんだと思います。」



スタッフが静かに耳を傾ける。



「不安な顔してたら。」



「周りまで不安にしちゃうから。」



「だったら笑ってようって。」



「その方が、自分も少し楽になれる気がして。」



笑顔は、

強いからできるものじゃない。



弱さを隠すために、

何度も何度も身につけてきたものだった。



「404 HOUSEでも。」



「みんなの前では笑ってたいです。」



「みんなが笑ってる方が好きだから。」



少し照れたように笑う。



でもその笑顔の奥には、

さっきまでの沈黙が、

まだ静かに残っていた。



「でも。」



その一言の前で、

スニョンはもう一度だけ息を止める。



「最近は。」



「疲れたって言ってもいいのかなって。」



「そう思える時があります。」



その言葉は、

告白というより、

ようやく口にできた本音だった。



404 HOUSE。



共同生活。



誰かが、

「大丈夫?」

と聞いてくれる。



無理に笑わなくても、

隣にいてくれる人がいる。



そのことが、

少しずつスニョンを変えていた。



【STAFF NOTE】



誰よりも笑う人。



誰よりも場を明るくする人。



その笑顔は、

生まれつきの強さではなかった。



怪我への恐怖。



失うことへの不安。



それでも笑うことを選んできた、

優しさだった。



共同生活43日目。



404 HOUSEの誰もまだ、

スニョンが抱えてきた重さを知らない。



でも。



その笑顔の裏にあるものを知った時、

11人の距離はまた少しだけ変わっていく。



次回 Scene4

『変わらない笑顔』

仕事帰り。



駅で偶然出会う、

チアキとスニョン。



「今日、疲れてる?」



その何気ない一言が、

スニョンの胸に静かに残っていく。




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