ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode6

『雨の日の404 HOUSE』

― 誰にも見せなかった弱さ ―



Scene3

『ユナの秘密』



午後9時14分。

映画が始まるまで、あと少し。



リビングでは男性メンバーがポップコーンを作り始めていた。



「塩味?キャラメル?」

スングァンが大きなボウルを抱えながら聞く。



「半分ずつ。」

ミンギュが即答する。



「優柔不断だな〜。」



「どっちも食べたいだけ。」



スニョンが笑いながら肩を組む。



「じゃあ俺、飲み物準備する!」



「ウォヌ、映画選んで!」



ウォヌは静かにリモコンを手に取った。



その頃。

二階の女性部屋。



柔らかな間接照明だけが灯る部屋に、

五人が自然と集まっていた。



誰かが「集まろう」と言ったわけではない。



映画が始まるまでの少しの時間。



それぞれがお茶やクッションを持ってきて、

床に円になるように座る。



窓の外では、

まだ雨が静かに降っていた。



「今日のゲーム。」

チェリンがクッションを抱きしめながら笑う。



「ウォヌさん面白すぎた。」



「宇宙なら静かそうだから宇宙飛行士って(笑)。」



全員が吹き出す。



ソヨンも笑いながら頷く。



「真顔で言うから余計に。」



「ウォヌさんらしかったですね。」

チアキも優しく笑う。



笑いが落ち着いた頃。



ユナがマグカップを見つめたまま、

ぽつりと呟いた。



「……さっきの質問。」



「『自分を褒めたいこと』。」



「答えられなかったな。」



部屋が静かになる。



チェリンが首を傾げた。



「ユナさんって、自分に厳しいですよね。」



ユナは苦笑する。



「厳しいというか……。」



「褒める前に。」



「もっとできたんじゃないかって思っちゃう。」



少し間が空く。



「みんなさ。」



「私のこと、順調な人生だと思ってるでしょ?」



ソヨンがすぐに首を横へ振る。



「そんなことは……。」



ユナは穏やかに微笑んだ。



「そう見えても仕方ないよ。」



「SNSには成功したことしか載せてないから。」



「会社も順調そうに見えるし。」



静かに息を吐く。



「でも。」



「今の会社を作るまで。」



「三回、失敗した。」



誰も言葉を挟まない。



ユナは少し遠くを見るように話し始めた。



「一社目は。」



「商品を作ることしか考えてなかった。」



「いいものを作れば売れるって、本気で思ってた。」



苦笑する。



「全然売れなかった。」



「半年で資金が尽きて。」



「社員のみんなに。」



『ごめんなさい』って頭を下げて終わった。」



チェリンが小さく息を呑む。



「二社目は?」

ジウォンが静かに尋ねる。



「共同経営。」



「でも。」



「お互い譲れなくて。」



「最後は喧嘩別れ。」



「その人とは今も連絡取ってない。」



部屋には雨音だけが響く。



「三社目は。」



「商品は良かった。」



「でも。」



「誰にも知られなかった。」



「毎日レビューを更新して。」



「一件も増えない日が続いて。」



「自分には才能がないんだって思った。」



ユナは笑った。



その笑顔は、

どこか寂しかった。



「SNSでは。」



「キラキラした写真だけ載せて。」



「本当は毎日泣いてた。」



「でも。」



「泣いてる写真なんて。」



「誰も見たくないでしょ?」



その一言に、

チェリンがゆっくり首を振る。



「……私は。」



「見たかったです。」



ユナが顔を上げる。



チェリンは少し照れながら笑う。



「私も。」



「SNSだと、自信ありそうって言われるんです。」



「でも。」



「毎日、自分の顔を加工して。」



「他の人と比べて。」



「全然自信なんてなくて。」



「だから。」



「ユナさんだけじゃないって思えました。」



ソヨンも穏やかに口を開く。



「私も。」



「獣医になって一年目。」



「助けられなかった命がありました。」



「今でも忘れられません。」



「だから。」



「家に帰って泣く日もあります。」



ジウォンは苦笑する。



「弁護士も同じ。」



「負けた裁判は忘れられない。」



「勝っても。」



「もっとできたんじゃないかって思う。」



少しずつ。



「弱さ」は、

一人だけのものではなくなっていく。



その時間の中で、

チアキはずっと静かに話を聞いていた。



誰の話も遮らず、

相槌だけを返しながら。



ユナがチアキを見る。



「チアキは?」



「失敗したことないの?」



突然話を振られ、

チアキは少し驚いたように目を瞬かせる。



「あります。」



少し笑う。



「たくさん。」



「でも。」



「今日は。」



「ユナさんのお話を聞く日だと思うので。」



「私のお話は、また今度。」



その言葉に、

ユナは優しく笑った。



「……そういうところなんだよね。」



「え?」



「チアキって。」



「いつも相手を優先する。」



「自分の話を後回しにする。」



チアキは少し照れたように笑うだけだった。



ソヨンがそっと口を開く。



「でも。」



「私は今日。」



「ユナさんが話してくれて嬉しかったです。」



チェリンも頷く。



「私も。」



ジウォンも小さく微笑んだ。



ユナは四人を見渡す。



少し目を潤ませながら笑う。



「……ありがとう。」



「こんな話。」



「誰にもしたことなかった。」



「『社長なんだから強くいなきゃ』って。」



「ずっと思ってたから。」



チアキは静かに答える。



「強い人だから。」



「弱い部分を話せたんだと思います。」



ユナは驚いたようにチアキを見る。



チアキは優しく微笑んだ。



「私は。」



「今日のお話を聞いて。」



「ユナさんのことを。」



「前よりもっと素敵な方だと思いました。」



数秒の沈黙。



ユナの目から、

一粒だけ涙がこぼれた。



慌てて拭う。



「ごめん。」



「泣くつもりじゃなかったのに。」



ソヨンがティッシュを差し出す。



「今日は泣いてもいい日です。」



その言葉に、

部屋の空気がふっと和らいだ。



コンコン。



部屋のドアがノックされる。



「みんなー!」



スングァンの元気な声。



「映画始まるよ!」



「ポップコーンなくなるぞー!」



五人が顔を見合わせて笑う。



「行こう。」



ユナは立ち上がる。



部屋を出る直前、

小さく呟いた。



「……話してよかった。」



その声を、

チアキだけが静かに聞いていた。



【Interview】

ユナ



「失敗した話なんて、人前でしたことありませんでした。」



「成功してる私だけを見せていた方が、楽だったから。」



少し微笑む。



「でも今日は。」



「誰も私を否定しなかった。」



「『頑張ったね』じゃなくて。」



「『分かる』って言ってくれた。」



「その一言が、すごく嬉しかったです。」



【STAFF NOTE】

共同生活6日目。



この夜、

404 HOUSEで初めて、

「弱さ」が誰かとの距離を縮めた。



励ますことより、

最後まで話を聞くこと。



答えを出すことより、

隣にいること。



チアキは今日も、

自分のことはほとんど話さなかった。



それでも、

誰かが安心して本音を話せる空気を、

自然と作っていた。



その優しさに、

少しずつ気付き始める人が、

この家には増え始めていた。



Episode6 Scene4

『誰かの弱さを受け止める』




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