ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode6

『雨の日の404 HOUSE』

― 誰にも見せなかった弱さ ―



Scene4

『誰かの弱さを受け止める』



午後9時45分。

女性メンバーがリビングへ戻ると、映画の準備はすっかり整っていた。



「遅いよ〜!」

スングァンがポップコーンを抱えながら大げさに言う。



「もう食べ始めちゃってるじゃないですか。」

チアキが笑う。



「待ってたら冷めるもん!」



「言い訳。」

スンチョルが苦笑する。



「ほら、みんな座って。」



大きなL字ソファに、自然と全員が座っていく。



座る位置

左側から

スンチョル、ジウォン、スニョン。



中央の長いソファには

スングァン、チェリン、ソヨン。



そして反対側には

ウォヌ、チアキ、ユナ、ミンギュ。

ジョンハンは一人掛けソファへ腰掛けた。



偶然だった。

誰も席を決めたわけではない。



「電気消すよー。」



部屋が暗くなる。



スクリーンに映し出されたのは、

心温まるヒューマンドラマ。

恋愛ではなく、

家族や仲間との絆を描いた作品だった。



映画鑑賞



開始から二十分。



主人公が不器用な父親と喧嘩する場面。



スニョンが小声で呟く。



「絶対あとで仲直りする。」



「まだ始まって二十分。」

スングァンが笑いを堪える。



「早すぎ。」



「映画ってそういうもん!」



「ネタバレ禁止。」

ウォヌが静かに言う。



「まだ予想だから。」



小さな笑いが起こる。



三十分後。



感動的な場面。



ソヨンがそっとティッシュを取る。



チェリンが横を見る。



「もう泣いてる?」



「動物が出てきたら弱いんです……。」



「まだ元気だけど?」



「でも心配で。」



全員が吹き出す。



ミンギュが静かにティッシュ箱をソヨンの方へ寄せた。



「ありがとうございます。」



「たぶんまだ使うから。」



「……はい。」



再び笑いが広がる。



四十分。



主人公が大切な人へ

「ありがとう。」

と伝えるシーン。



誰も話さない。



チアキは画面を見つめたまま、

少しだけ目を伏せた。



その横顔を、

ミンギュは一瞬だけ見る。



涙をこらえているようにも見えた。



しかし、

声は掛けなかった。



ただ、

ポップコーンのボウルを少しだけチアキの方へ寄せる。



チアキは気付き、

小さく微笑んだ。



「ありがとうございます。」



囁くような声。



「どうぞ。」



それだけのやり取り。



映画は静かに続いていく。



エンドロール



照明が少し明るくなる。



「よかったぁ……。」

ソヨンは目元を押さえる。



「最後のお父さんの言葉、反則。」

チェリンも涙ぐんでいる。



「泣いてない。」

スニョンが言う。



スングァンがすぐ突っ込む。



「いや、泣いてる。」



「汗。」



「目から?」



リビングは笑いに包まれた。



その笑い声の中、

スングァンはソファにもたれたまま、

静かになっていく。



「……。」



「……スングァン?」



返事がない。



「寝てる。」

ジョンハンが笑う。



映画の途中から眠気と戦っていたスングァンは、

そのまま寝落ちしてしまっていた。



「本当に寝るの早い。」

スニョンが笑う。



「さっきまで一番うるさかったのに。」



みんなが笑う中、

ミンギュは何も言わず立ち上がる。



棚からブランケットを取り出し、

そっとスングァンの肩へ掛けた。



起こさないように。



静かに。



「優しいね。」

ソヨンが小さく呟く。



「風邪引くから。」



ミンギュはそれだけ言って席へ戻る。



その様子を、

ウォヌは静かに見つめていた。



サンルーム



映画が終わり、

男性メンバーが後片付けを始める。



ユナはチアキへ視線を向けた。



「チアキ。」



「少しだけ。」



「外、いい?」



「はい。」



二人はリビング横のサンルームへ向かう。



ガラス越しに見える雨は、

少しだけ弱くなっていた。



しばらく無言。



雨音だけが二人を包む。



ユナが先に口を開く。



「今日ね。」



「話せてよかった。」



「本当に。」



チアキは静かに頷く。



「私も。」



「聞けてよかったです。」



ユナは少し笑う。



「チアキ。」



「頑張ってる人ほど、『大丈夫』って言うよね。」



チアキの表情が、

ほんの少しだけ揺れる。



「……そうですね。」



「私も今日、何回『大丈夫』って言った?」



「たくさん。」

ユナは優しく笑う。



「でも。」



「チアキも同じでしょ?」



「……。」



「人のことはよく見てる。」



「困ってる人にもすぐ気付く。」



「でも。」



「自分のことは全然話さない。」



チアキは視線を落とした。



マグカップを両手で包み込む。



「私は……。」



言葉を探す。



「昔から。」



「人に迷惑を掛けるのが苦手なんです。」



「だから。」



「自分で何とかしようって。」



「思ってしまいます。」



ユナは静かに頷いた。



「分かる。」



「私もそうだった。」



「でもね。」



「頼ることって。」



「迷惑じゃないよ。」



「頼られると。」



「嬉しい人もいる。」



チアキは少し驚いたように顔を上げる。



ユナは穏やかに微笑んだ。



「この家には。」



「そういう人がたくさんいる。」



「だから。」



「少しずつでいい。」



「チアキも誰かに甘えて。」



その言葉を聞いた瞬間。



チアキの胸に、

昔の記憶が一瞬だけよぎる。



“信じて。”



“ずっと一緒だから。”



そして、

裏切られた日の景色。



チアキは小さく息を吸う。



「……はい。」



その返事は、

まだどこか不安そうだった。



けれど。



「やってみます。」



その一言には、

昨日までなかった小さな前向きさが宿っていた。



サンルームのガラス越しに、

リビングを見る。



スニョンとスングァンを見て笑うスンチョル。



ソヨンと楽しそうに話すチェリン。



ジョンハンが静かにカップを片付ける。



ウォヌは雨を眺め、

ミンギュは寝たままのスングァンのブランケットをもう一度整えていた。



その光景を見ながら、

ユナはぽつりと呟く。



「この家。」



「不思議だね。」



「まだ一週間も経ってないのに。」



「帰ってきたって思える。」



チアキは微笑み、

小さく頷いた。



「……はい。」



「私も、そう思います。」



雨はまだ降っている。



けれど404 HOUSEの中には、

もう冷たい空気はなかった。



【STAFF NOTE】

共同生活6日目。

ユナは初めて誰かに弱さを見せた。

そしてチアキは初めて、「変わってみたい」という意思を言葉にした。

恋愛はまだ始まっていない。

しかし、人を信じる準備は、静かに始まっていた。



Episode6 Scene5

『雨の日の夜』




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