ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode6
『雨の日の404 HOUSE』
― 誰にも見せなかった弱さ ―
⸻
Scene5
『雨の日の夜』
⸻
午後11時32分。
映画の余韻が残るリビング。
誰もすぐには部屋へ戻ろうとしなかった。
⸻
「なんか小腹空いた。」
スニョンがソファにもたれながら言う。
⸻
「さっき夕飯食べたばっかじゃん。」
スングァンが笑う。
⸻
「映画見るとお腹空くんだよ。」
⸻
「それはただのスニョン。」
ミンギュが笑いながら立ち上がる。
⸻
「ラーメン……はダメか。」
⸻
「この時間だからね。」
ジョンハンが苦笑する。
⸻
「じゃあホットミルクでも作ろうか。」
⸻
「賛成!」
ソヨンが嬉しそうに手を挙げた。
⸻
「私、お手伝いします。」
チアキも立ち上がる。
⸻
「ありがとう、チアキちゃん。」
ミンギュが自然にそう呼ぶ。
⸻
一瞬だけ、チアキは目を丸くした。
⸻
「……はい。」
少し照れたように笑う。
⸻
それを見ていたスングァンがすぐに反応する。
⸻
「あれ?」
⸻
「もう”チアキちゃん”なんだ?」
⸻
ミンギュは「あ」と小さく声を漏らす。
⸻
「……なんか自然に。」
⸻
「いいじゃん。」
スニョンが笑う。
⸻
「俺も今日からチアキちゃんって呼ぼ。」
⸻
「私も。」
チェリンが続く。
⸻
「じゃあ私もそうします。」
ソヨンも笑顔で頷く。
⸻
チアキは少し照れながら頭を下げた。
⸻
「皆さんが呼びやすければ……。」
⸻
「敬語はまだなんだね。」
スングァンが首を傾げる。
⸻
「はい。」
チアキは少し笑う。
⸻
「まだ皆さんの方が年上ですし……。」
⸻
スンチョルが穏やかに言う。
⸻
「無理しなくていい。」
⸻
「チアキのペースで。」
⸻
「ありがとうございます。」
⸻
その空気はどこか心地よかった。
誰も急かさない。
誰も変えようとしない。
⸻
キッチン
ミンギュとチアキは温めた牛乳に少しだけ蜂蜜を入れる。
⸻
「甘いの大丈夫ですか?」
⸻
「うん。」
⸻
「チアキちゃんは?」
⸻
「好きです。」
⸻
「よかった。」
⸻
ほんの少しだけ、
会話が自然になってきた。
⸻
その頃、リビングでは――
⸻
スニョンがストレッチを始める。
⸻
「スニョン、それ映画見たあと毎回やるよね。」
ジョンハンが笑う。
⸻
「体固まるじゃん。」
⸻
「職業病。」
⸻
ウォヌは窓際に立ち、静かに雨を眺めていた。
⸻
その隣にスンチョルが並ぶ。
⸻
「何見てる?」
⸻
「雨。」
⸻
「……それは見れば分かる。」
⸻
ウォヌが少しだけ笑う。
⸻
「静かだから。」
⸻
「今日みたいな日は。」
⸻
「考え事しやすい。」
⸻
スンチョルはその言葉に頷いた。
⸻
「確かにな。」
⸻
「俺も嫌いじゃない。」
⸻
リビング
全員が温かい飲み物を手にする。
⸻
「乾杯する?」
スングァンがマグカップを掲げる。
⸻
「何に?」
チェリンが笑う。
⸻
「雨の日に!」
⸻
「雑だなぁ。」
⸻
「じゃあ。」
ジョンハンが優しく続ける。
⸻
「404 HOUSEで迎えた、最初の雨の日に。」
⸻
全員がマグカップを軽く合わせる。
⸻
「乾杯。」
⸻
その瞬間だった。
⸻
バチッ――。
⸻
部屋中の照明が一斉に消えた。
⸻
「えっ!?」
チェリンが小さく声を上げる。
⸻
真っ暗。
⸻
エアコンの音も止まり、
聞こえるのは雨音だけ。
⸻
「停電?」
ソヨンが不安そうに呟く。
⸻
「大丈夫。」
スンチョルが落ち着いた声で言う。
⸻
「ブレーカーかもしれない。」
⸻
「スマホのライトつけるね。」
ミンギュがポケットを探る。
⸻
その時。
⸻
「……。」
⸻
誰かの手が、
そっとチアキの腕に触れた。
⸻
暗くて誰かは分からない。
⸻
一瞬だけ、
チアキの肩が震える。
⸻
しかし、その手はすぐに離れた。
⸻
「ごめん。」
低く落ち着いた声。
⸻
「ぶつかった。」
⸻
ウォヌだった。
⸻
「いえ、大丈夫です。」
⸻
暗闇の中で交わされた、
それだけの会話。
⸻
次の瞬間、
非常灯がぼんやりと灯る。
⸻
その淡い明かりの中で、
ジョンハンがふと気付く。
⸻
「スングァン。」
⸻
「寝てる。」
⸻
見ると、
停電にも気付かず、
スングァンはソファで眠ったままだった。
⸻
「すご。」
スニョンが吹き出す。
⸻
「大物すぎる。」
⸻
全員が笑い出す。
⸻
その笑い声に合わせるように、
照明がふっと戻った。
⸻
「戻った!」
⸻
「よかったぁ。」
チェリンが胸をなで下ろす。
⸻
スングァンがその物音でようやく目を覚ます。
⸻
「……え?」
⸻
「映画終わった?」
⸻
「終わってる。」
全員が声を揃える。
⸻
「うそでしょ!?」
⸻
リビングは大きな笑いに包まれた。
⸻
その笑いを見ながら、
チアキも声を出して笑う。
⸻
飾らない、
心からの笑顔。
⸻
その笑顔に、
ミンギュは思わず視線を向ける。
⸻
(今日、一番笑ってる。)
⸻
そう思った。
⸻
その隣で、
ウォヌも静かにその様子を見つめていた。
⸻
言葉にはしない。
⸻
けれど二人とも、
同じことを感じていた。
⸻
この家に来てから、チアキちゃんの笑顔が少しずつ増えている。
⸻
そして、その変化が嬉しいと、
自然に思っている自分にも気付き始めていた。
⸻
【Interview】
スングァン
「停電した?」
「……本当に寝てたから全然知らなかった(笑)。」
「みんなに笑われたけど、それくらい安心して寝られる場所になってたってことかな。」
⸻
ウォヌ
「停電って、不思議ですよね。」
「何も見えなくなると、普段気にならない音や空気がよく分かる。」
少し考えてから続ける。
「今日の404 HOUSEは、静かで心地よかったです。」
⸻
ミンギュ
「チアキちゃんが今日はよく笑ってました。」
「……それを見てると。」
照れたように笑う。
「なんか、安心しました。」
⸻
【STAFF NOTE】
共同生活6日目。
停電は数十秒。
けれど、その短い暗闇の中で誰も騒がなかった。
それは、この家に少しずつ「安心」が生まれていたからかもしれない。
そして今日、スタッフがもう一つ気付いたことがある。
ミンギュとウォヌは、無意識にチアキへ視線を向ける時間が少しだけ増えていた。
本人たちはまだ、その意味を知らない。
⸻
次回予告
Episode7『404 HOUSE、初めての休日』
→
ノベルに戻る I
Addict