ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode1

『404 HOUSEへようこそ』



Scene5

『放送されなかった夜』

【UNSEEN(未公開映像)】



午後11時47分。

ROOM 404。

リビングの照明は消えていた。

11人の足音も、会話もなくなった家。

初日の緊張が終わり、

それぞれが自分の部屋で休んでいる時間。



しかし。

一台だけ。

まだカメラの赤いランプが点いていた。



深夜撮影用の固定カメラ。

スタッフが設置したもの。

放送では数秒しか使われないような、

何気ない生活の記録。



最初にリビングへ現れたのは、

チアキだった。



髪は昼間とは違い、

アッシュブラウンのロングヘアを低い位置でゆるくまとめている。

仕事中の客室乗務員のような完璧なシニヨンではない。

少し癖のある毛先が自然に残っていた。



彼女はキッチンへ向かう。

水を飲みに来ただけだった。



……はずだった。



テーブルを見る。

そこには、

夕食後に使ったグラスが数個。

誰かが洗おうとして、そのままになっていた皿。



チアキは少し迷った。



「……明日の朝でもいいかな」

小さく呟く。



でも。

結局、袖をまくった。



食器を洗い始める。



【UNSEEN】

スタッフカメラ映像。

00:18。



ナレーション。

「この時、まだ誰も知らなかった」

「チアキが毎晩、誰かのためではなく、習慣として家を整えていたことを」



静かなキッチン。

水の音だけが響く。



そこへ。

別の足音。



「……やっぱり」



振り返る。



スンチョルだった。



「すみません、起こしましたか?」

チアキが小声で聞く。



「いや」

スンチョルは首を振る。



「水を飲みに来ただけです」



彼は少し間を置く。



「手伝います」



「大丈夫です」



「でも」



スンチョルはテーブルを見る。



「一人で全部やる量じゃないですよ」



その言葉に、

チアキは少し笑った。



「職業病かもしれません」



「職業病?」



「客室乗務員って、次の人が困らないように準備することが多いので」



「気付いたらやっています」



スンチョルは静かに頷く。



「……大変ですね」



「慣れています」



そう答えた後。

チアキは少しだけ考えた。



「でも」



「誰かが気付いてくれると嬉しいですね」



その言葉。



スンチョルは一瞬だけ黙った。



「分かります」



彼の声が少し低くなる。



「頑張っているところって」

「意外と見えないですよね」



二人の間に短い沈黙。



まだ恋ではない。



ただ。

同じ感覚を持っている人間同士の会話だった。



「ありがとうございました」



食器を片付け終える。



「おやすみなさい」



「おやすみなさい」



二人はそれぞれの部屋へ戻った。



その数分後。



またリビングのドアが開く。



今度は、

ウォヌだった。



彼はキッチンを見る。



綺麗になったテーブル。

整えられた椅子。



そして。

冷蔵庫の横に貼られた小さなメモ。



『明日の朝使いやすいように、食材をまとめました』



名前は書いていない。



ウォヌはそのメモを見る。



「……」



誰が書いたか。

すぐ分かった。



でも、

口には出さなかった。



【UNSEEN】

ウォヌはメモを外さず、

そのまま冷蔵庫を閉めた。



後日、スタッフインタビュー。



スタッフ。

「この夜、チアキさんが片付けをしていたことを知っていましたか?」



ウォヌ。

「知りませんでした」



「でも」



少し笑う。



「たぶん、彼女ならすると思いました」





【UNSEEN】

午前0時31分。



今度はジョンハン。



彼はリビングのソファに座っていた。

眠れないようだった。



初日。

11人。

新しい環境。



心理カウンセラーである彼でも、

環境の変化には疲れる。



そこへ。

チアキが戻ってくる。



「まだ寝てなかったんですか?」



「はい」



「私もです」



二人は少し離れて座る。



「緊張しますよね」

ジョンハンが言う。



チアキは笑う。



「分かりますか?」



「仕事柄」



「人を見る仕事ですから」



「じゃあ、私が緊張してるのも分かります?」



ジョンハンは少し考える。



「はい」



「でも」



「緊張しているのに、周りを安心させようとしていることも分かります」



チアキは少し驚いた顔をする。



「……すごいですね」



「職業病です」



二人とも笑う。



「でも」

ジョンハンが続ける。



「自分が疲れている時は」



「誰かに頼ってもいいと思います」



その言葉に。

チアキは少しだけ視線を落とした。



「……そうですね」



小さな返事。



その表情は一瞬だけだった。



でも。

カメラはその一瞬を記録していた。



【STAFF NOTE】

初日の深夜。

スタッフが最も印象に残った場面。

それは、

誰かが誰かを好きになる瞬間ではなかった。



「この人も、何かを抱えているのかもしれない」



そう感じる瞬間だった。



チアキは、

優しい人だった。



でも。

優しい人ほど、

自分の傷を隠すのが上手い。



この時点で、

まだ誰も知らない。



彼女が、

「もう一度、人を信じられる自分になりたい」

という理由で、この家に来たことを。



そして。

同じように。

この家にいる10人も、

それぞれ誰にも言えない秘密を抱えていることを。



午前1時。

ROOM 404。

全員が眠りにつく。



3ヶ月の共同生活。

最初の一日は終わった。



しかし。

本当の物語は、

ここから始まる。



Episode2へ続く

Episode2

『知らなかった隣人』




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