ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode12

『近づくほど、見えなくなるもの』

― 相手の”当たり前”を生きてみる ―

Friday

テーマ

人は、相手の生活を体験して初めて、本当の大変さや優しさに気づく。



Scene9

【UNSEEN】

Friday|10:15 PM



夕食も終わり、

リビングでは何人かが映画を見始めていた。



笑い声が時折聞こえてくる。



その少し離れたキッチン。



シンクには、

夕食で使った食器がまだ少し残っていた。



チアキは袖を少しまくり、

蛇口をひねる。



水の流れる音だけが静かに響く。



「……。」



一枚ずつ、

丁寧に皿を洗っていく。



昼間、

ソヨンの”当たり前”を体験したばかりだった。



(やっぱり最後までやりたくなっちゃうな。)



小さく笑いながらスポンジを動かす。



その時。



隣に誰かが立った。



「半分やります。」



聞き慣れた声。



チアキが顔を上げる。



「ミンギュさん。」



ミンギュは笑いながら、

自然にゴム手袋をはめた。



「今日は”当たり前”を体験した日ですから。」



「一人でやるのが当たり前なら。」



「今日は違います。」



チアキは思わず笑ってしまう。



「そんなルールありましたっけ?」



「今、僕が作りました。」



二人は顔を見合わせ、

小さく笑った。



ミンギュは洗い終わった食器を受け取り、

水滴を拭いて棚へ戻していく。



息は自然と合っていた。



「チアキちゃん。」



「はい?」



「今日、ソヨンさんのこと見てて思ったんです。」



「誰かが毎日やってくれてることって。」



「やってもらってる時は気付かないですよね。」



チアキは静かに頷く。



「そうですね。」



「でも、気付いたら。」



「ありがとうって言いたくなりました。」



ミンギュも微笑む。



「僕もです。」



少し沈黙が流れる。



不思議と気まずくない。



食器の触れ合う小さな音だけが、

二人の間を満たしていく。



やがて最後の一枚を洗い終えた。



「終わりましたね。」



「はい。」



チアキは手を拭きながら笑う。



「ありがとうございました。」



「こちらこそ。」



ミンギュは少し照れくさそうに笑ってから、

ぽつりと呟いた。



「チアキちゃんって。」



「ありがとうって言うのが自然ですよね。」



チアキは少し驚いた表情を見せる。



「そうですか?」



「はい。」



「今日だけで何回聞いたか分からないです。」



「でも、その一言だけで。」



「また手伝おうって思えるんですよね。」



チアキは少し照れながら笑った。



「CAの仕事をしていると。」



「ありがとうって言ってもらえることも嬉しいですけど。」



「私も自然と言うようになったのかもしれません。」



「相手がいてこそできる仕事なので。」



ミンギュはゆっくり頷く。



「……なるほど。」



その一言だけ返す。



それ以上は何も聞かなかった。



聞かなくても、

少しだけチアキという人が分かった気がしたから。



リビングから、

スニョンの笑い声が聞こえてくる。



「二人ともー!映画始まってますよー!」



「今行きます!」



チアキが返事をする。



ミンギュがキッチンの電気を消した。



「行きましょう。」



「はい。」



並んでリビングへ戻る二人。



肩が触れることも、

特別な会話もない。



それでも、

歩幅は自然と揃っていた。



放送では流れなかった、

たった10分。



けれどその10分は、

二人の距離をほんの少しだけ近づけていた。



【STAFF NOTE】

この日、

スタッフが確認した映像を見返すと、

ある小さな変化が記録されていた。



ミンギュは、

チアキが家事を始めると、

無意識に手伝いへ向かうことが増えていた。



チアキもまた、

誰かに何かを頼む時、

ミンギュへ視線を向ける回数が少しずつ増えている。



まだ恋ではない。



けれど、

「一緒にいることが自然」

そう感じ始める瞬間は、

こうした何気ない日常の中から生まれていく。



一方で、

別のカメラにはこんな場面も映っていた。



映画を見ながら笑うチアキに、

ふと視線を向けるウォヌ。



リビングで話すユナの表情を、

穏やかに見つめるスンチョル。



みんなの笑い声に安心したように微笑むスングァン。



誰も自分では気づいていない。



けれどスタッフは知っている。



人は、

気になる相手を目で追う時間が、

少しずつ長くなっていくことを。



共同生活12日目。



404 HOUSEでは今日も、

名前のつかない感情が、

静かに育ち始めていた。



― Episode12 END ―

次回予告

Episode13

『すれ違うタイミング』

日曜日。

二度目の404 Diary。

届いた返事に笑顔になる人。

何度も書き直す人。

そして、一冊のDiaryがあるメンバーの心を静かに揺らし始める。

さらに、共同生活開始から約2週間。

初めての404 Choiceが近づき、

それぞれの「気になる人」は、少しずつ「特別な人」へと変わり始めていく――。




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