【act.07 WN】

新しいアルバムの歌詞を書きに宇宙工場に来た。
部屋で書いても良かったんだけど、何となくここの方が早く書ける気がして来たら、ジフニはちょうどボムジュヒョンとご飯に行くタイミングだったらしい。

一緒にって誘われたけど俺は腹も減ってないし、1人で宇宙工場に残ることにした。

ボノニとクプスヒョンが先に書いた歌詞を見ながら、歌詞を考えてると、宇宙工場のドアが開いてなまえが入ってきた。

なまえに会えるなんて宇宙工場来て良かった。

ジフニに用かと聞けば、演技をするためのヒントを得る為に来たらしい。

まあ確かになまえは恋愛もののバラードがすこぶる苦手で、レコーディングのたびに、怒られたり注意されたりしてるし、MVも演技とかになるとNGばっかりだ。

そんななまえがドラマに出演するって聞いた時はびっくりしたけど、まあ理由を聞けば今後のバラードやMVのためだって言うからなまえらしいなって思った。

だけど、いきなりハードル上げすぎだろ。
しかもこんなボロボロになってまでやることじゃない。

WN「前も聞いたけどさ、お前って恋愛したことあんの?」
「…ん、分からん。」
WN「分からんって…。」
「いや、そりゃ小学生や中学生の時に◯◯君かっこいい!みたいのはあったよ?でもそれは恋愛じゃないでしょ?」

なまえには乙女心と言うものが不足してるんだろうか。
かっこいいだけじゃ勿論恋愛とは言えない。
てか、こいつジフニのこと好きなんじゃないの?

いや、待て。やっぱりなまえは…

WN「じゃあキスしたこともない?」
「…はい、アリマセン。え、待って。もしかしてクユズ皆んなキスしたことあんの!?」
WN「…は?」

待て待て、え?何か俺ら皆んなキスした事あるってことになってる!?

「え、皆んな経験者なのに、もしかして私だけ未経験!?」
WN「いや、なんでそうなるんだよ!俺はただ恋愛もしたことないのにキスなんてしたことないよなって思って聞いただ…。」

だめだこいつ。
もう全く俺の話聞いてない。

スニョンはないよね?なんて1人でぶつぶつ言ってる。怖いわ。

WN「聞いてないな。」

まあ受けたもんは仕方ないし、最後までやるしか無いよな。

WN「まあ頑張ー…」
「私はどうしたらいいの!?」

急に俺の胸ぐらを掴んで上目遣いで俺を見上げるなまえ。
いや、どうしたらいいのって…。

WN「何を!?」
「恋愛すら知らない私が恋愛ドラマなんて出来るわけなくない!?」

うん、いや、まあそうなんだけど…。

WN「お前ジフニのこと好きなんじゃないの?」
「…え?は?」

驚いて目を丸くしてるなまえ。
え、もしかして違うの?

WN「え、違うの?結構そう思ってるやつ多いと思うんだけど。」
「は?え?いや好きだよ?好きだけど、それが恋愛の好きとか分かんないよ。だって私ウォヌのことも好きだし、セブチの皆のこと好きだよ?」

なんだよそれ…。
軽率に好きって言われて、思わず目を逸らした。
別に俺のことだけを好きと言ったわけでもないし、告白されたわけでもないのに、何してんだ俺…。

「どうしよう、私もしかして悪い女…?」

さっきまでの惚けた表情筋から、今度は不安そうな表情で俺に詰め寄るなまえ。

お前は何でこうも無防備なんだよ…。
こいつは俺らの気持ちなんてこれっぽっちも分かって無い。

だから、ムカつくし意地悪したくもなる。
悪い女だよ。

WN「お前は悪い女だよ。」
「…うぉぬ?」

ギュッと抱き寄せても、いつもの声のトーンで俺の名前を呼ぶなまえ。

WN「抱き締められてもドキッともしないだろ?」
「え、いや、だって皆すぐ抱き付いてくるじゃん!だから慣れちゃったんだもん…。」

確かになまえを見つければメンバーの誰かしら引っ付いてるけど、慣れるなよ。

「あ、でもね、普段ウォヌから抱き着いてくることないから、ちょっとびっくりはしてるよ?」
WN「びっくりじゃなくて、ドキドキしろよ。」
「うんー、ちょっとはしてるよ?」

本当かよ。
そう思いながら、腕の中にいるなまえの心臓の鼓動に耳を澄ませる。

あ、本当だ。
確かにいつもより、早いかもしれない。
けど、それより俺の心臓の鼓動の方が早い。

WN「抱き締められるのに慣れてんなら、キスシーンも何とかなるんじゃない?まあファーストキスがドラマで可哀想だとは思うけど。」

なんて、意地悪を言えば「初めてがドラマは嫌かも…。」って俺の腕の中で項垂れる。

そりゃ嫌だよな。
男の俺でさえ嫌だと思うのに、女のなまえにとってはもっと嫌だと思う。

でも、そんな事を考える前に歌のために出演を決めたんだから、今更後悔したってどうにもならないことをなまえはきっとわかってる。

「…ウォヌはしたことあるんでしょ?」
WN「ん?キス?」
「…うん。」

どうだろうね。なんて濁せば、頬を膨らませて怒るから、いつも幼いなまえが更に幼く見える。

「…今から断りたい……。やっぱり初めてがドラマは嫌だよ…。」

なまえが珍しく弱音を吐いた。
断りたいなんて、なまえの口から出るくらいやっぱり初めてがドラマは嫌なんだろうな。

俺だってなまえのファーストキスがドラマで、ましてやBTSに盗られるなんて嫌だ。

WN「じゃあ俺とする?」
「…は?ちょっ、何言ってー…」
WN「なまえの初めてが誰かに盗られるくらいなら、俺が貰うけど?」
「…え、あ、ちょっ、うぉー…」

なまえの頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近付ける。
本当にキスしたいって思った。

だけど、急に怖くなった。
ここでもし俺が本当にキスしたら、俺はなまえに嫌われるかもしれないって。

今のこの関係が変わってしまうかもしれないって。
朝方まで一緒にぐだぐだゲームしたり、本読んだり、それが出来なくなるかもしれないと思ったら、俺の顔は少し逸れて、なまえの唇の端に少しだけ触れた。

ピタリと動きが止まったまま遠くを見てるなまえは、この状況を必死で理解しようとしてるのか、目をパチパチさせてる。

WN「ムードも何もないな、せめて目閉じろよー…ってお前…。」
「…な、何さ……」

顔を離してなまえの顔を見れば、見た事ないくらい真っ赤になって少し潤んだ目で俺を見上げるなまえと目があった。

…なんだよ、その顔…。

WN「ちゃんとキスしてないんだけど。誘ってんの?」
「…え?いや、ちがっ、違くて!」

ごめん、なまえ。俺はずるい。
慌ててるなまえも、俺のせいで真っ赤になってるなまえも、全部愛おしい。

WN「今のでそんな顔赤くしてたらオッケーもらえないぞ。それとも俺のこと好きになった?」
「ふぇ!?」

お前がジフニのこと好きなんじゃないかって、さっきの言葉を聞いても何となくそう思ってる。

でも、今だけは俺でいっぱいになってくれって思う俺はわがままだろうか。

俺はミンギュやホシみたいに真っ直ぐなまえに向かって行けない。
少し一歩引いてなまえを見つめるのが好きだ。
でもそれももうやめよう。

WN「やっぱりなまえは可愛いわ。」
「…え、ちょ、うぉぬ……。」

なまえの顔はさっきよりも赤くて、目を少し潤ませながら俺を見上げるなまえの唇を親指でなぞる。

普段可愛いなんて言わないもんな。
そりゃ驚くよな。でも、いつも思ってるよ、可愛いって。

「…うぉ…ぬ……。」

照れてるなまえにこれ以上一緒に居たら理性が抑えられない気がして、慌ててなまえから離れた。

WN「そろそろジフニも戻ってきそうだから俺行くわ。じゃあな、頑張れよ。」

頭をくしゃりと撫で、ジフニが戻ってくる前に宇宙工場を後にする。

WZ「あれ、もう終わったの?」

駐車場に向かうと、俺の読み通りちょうどご飯から戻ってきたジフニと会った。

WN「いや、書けなさそうだから後で送る。なまえ来てるよ。」
WZ「おう、分かった。」

じゃあな、と手を上げ宇宙工場に戻ろうとするジフニに少しだけ罪悪感を感じる。

WN「ジフナ…ごめんな。」

ジフニに向けた謝罪は本人に聞こえる事はなかった。




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