【act.08 なまえ】
ウォヌが出て行ったドアを、ただボーッと見つめる。
何が起きたのか…。
ウォヌにキスされるかと思った…。
いや、正確には唇の端に触れてはいたけど。
てか、なんだったの、さっきのウォヌは。
いつもは可愛いなんて言わないし、スキンシップをしてくる事も滅多に無いのに…。
本当に弱った時に、肩貸してって私の肩に寄りかかって来るくらいなのに…。
何で?
初めてがドラマだと嫌だって言ったから?
…だめだ、意味が分からない。
でも、こんな話誰に相談すればいいの…?
ジフニ?すにょん?じゅんぴ?
いや、ダメだ…。
オッパかな……、いや、もし相談するならスヨンオンニか、メイクオンニだよな…。
でも何て相談するの?
うぉぬに可愛いって言われたって?
普通に意味不明だよね…。
もう何考えてんだよ、ちょのぬ…!!!
「お、来てたのか。」
ドアが開いてジフニが入って来た。
「あ、ジフナ…。」
WZ「ん?どうした?って…何だよ。」
ジフニの顔を見て安心したのか、分からない。
だけど、何となく抱きつきたくなって抱き付いた。
「ジフナー!」
WZ「はいはい、やめろって。」
「無理。」
抱き締めたまま、左右に動けば、なんだかんだ言いながらも優しく抱き締め返してくれるジフナ。
“ お前ジフニのこと好きなんじゃないの?”
ウォヌの言葉が頭に浮かんで、少しだけ体を離してジフナを見つめる。
WZ「…な、何だよ。」
「ううん、何でも無ーい!」
確かにジフニと居るのは居心地が良い。
でもこうやってくっ付いててもドキドキしたりはしない。
WZ「はいはい、今日はエギの日か。」
「…うんー、そうかも。」
よしよしと私を抱き締めたまま、優しく背中をさすってくれるジフニに思いっきり抱き付く。
たまに無性に誰かに甘えたくなる時があって、その日をエギの日だってジフニが名付けた。
エギの日は俺に頼れと言ってくれたあの日から、私は辛いことがあるとジフニにずっと甘えて来た。
ジフニが忙しい時はミンギュに甘えることが多い気がする。
ミンギュは一応歳下だけど、数ヶ月しか変わらないし、2人きりだとみんなといる時と違って意外と大人っぽくて、何故か落ち着く。
大型犬と居ると落ち着くって感じのあれだと思ってる。
ミンギュが大型犬なら、ジフニは小型犬か。
WZ「てか本当にちゃんと食えって…。指一本で持ち上げられそうだわ。」
「さすがにそこまで軽くはないでしょ。」
行ける気がするって笑うジフニにつられて、私も笑う。
WZ「甘えに来ただけか?」
「んー、いや、違う。」
どうした?って優しく問いかけてくれるジフニの声は、暖かくて心地良い。
「…ジフナはさ…」
WZ「うん?」
「ジフナは…、キスってしたことある?」
私の問い掛けに、背中をさすってた手が止まった。
こんな事を聞いて何になるんだろうとは思う。
あるって言われても、ないって言われても私の中で何かが変わるわけじゃ無い。
でも、何となく聞きたかった。あんなに素敵な歌詞を書くジフニはきっとたくさん素敵な恋愛をしてきたんじゃ無いかなって思ったから。
WZ「それ聞いてどうすんの?」
「分かんない。」
お前なぁって少し呆れたように呟いてから体を離し、真っ直ぐに私を見つめるジフニ。
WZ「ファーストキスって、大事かもしれないけど、俺はそれよりも愛のあるキスの方が大事だと思う。」
…ジフナ。
WZ「お前が気にしてんのってドラマでファーストキスするのを気にしてんだろ?もしそうならそんなの気にする必要ないんじゃね?
お前が本当に好きになった人とするキス以外は、本物のキスじゃねぇーよ。所詮演技だ。」
本物のキス…。
それがどんなものか勿論私には分からない。
好きな人とするキスとか言われても、全然想像もつかない。
ジフニは知ってるのかな…大人だな…。
離された体をもう一度くっつける。
「…ドラマに出たら色々成長出来るかな?」
WZ「色々?」
「うん…、バラード上手く歌えるようになったり、MVでもっと上手に演技出来るようになるかなって…。」
ジフナはまた少し体を離し、真っ直ぐに私を見つめる。
WZ「どうだろうな。まあ、俺的にお前はまだエギでいて欲しいけどな。」
そう言って悪戯に微笑むジフニ。
「やー!いっつもバラードの時感情こもってないって怒るくせに!」
WZ「仕事だから仕方ないんだよ。ウジの時だけ。それ以外は優しいだろ。」
レコーディングしてる時のジフニは、鬼PDだ。
ちょっと調子悪いだけですぐ見抜くし。
でも、確かにレコーディングが終われば頑張ったなって頭を撫でてくれる。
WZ「兎に角あんまり考え過ぎんなよ。」
「うん…ありがとう。」
その後、ジフニの邪魔にならないように宇宙工場のソファーで大人しく台本を読んだ。
オンニに言われたように、主人公になりきれるように、何回も何回も読むでみたけど、やっぱりイマイチよく分からなかった。
「…取り敢えずスパイになりきるか。」
WZ「…は?」
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