【act.31 なまえ】
衣装と同じスリット入りのスカートとヒールの靴で踊るのは大変だった。
スリットが深い分、踊り方を工夫したり、ちゃんと相手と密着しないと下着が丸見えになってしまう。
スカートの衣装の時に履く見せパンを履けると思ったのに、スリットが太ももの付け根まであるのと、見えたらカッコ悪いってことで無くなった。
一応今は練習だから中に短いスパッツは履いてるけど…。
『なまえ、本当にもっとくっ付かないと下着見える。後、ターンの後スリットの入ってる足をクロスさせて止まってみて。とにかく下着が見えることは死守しないと。』
「じゃあ衣装変えてくださいよー。」
まだくっついて踊らないところは、まあ頑張って練習すれば大丈夫だと思うけど、これ以上くっつくのは…しかも相手BTSだし。
TH『俺がなまえの下着見えないように死守するよ。』
JG『俺も!だからもっとくっついて下さい!』
いや、そうなこと言われても…。
『ただくっつくじゃだめよ。さっき見た映像のようにしないと。』
「…無理です……。」
先生が参考にと、私と同じ深いスリットで踊るペアのダンス映像を見せてくれた。
セクシーで官能的で、確かに美しかったけど、あれを自分がやるとなると話は別だ。
イリムなんて私が踊ってる間ずっと不機嫌だ。
『後1回しか合同練習が出来ないんだから、それまでに完璧しないと、本番恥かくのはあんた達だよ。』
はいっと私たちとBTSのメンバーの声が重なった。
本番まで後10日、最後の合同練習は8日後。
それまでに完璧にしないと…。
TH『なまえ、明後日ドラマのコンテンツ動画撮った後ちょっと練習しようよ!うちの事務所の近くでの撮影だから。』
「え?」
IM『オオオオンニと2人きりはだめです!』
JG『俺も練習したい!』
いや、そう言ってくれるのは嬉しいけど予定が詰まってるのは聞いてる。
JN『イリムちゃん、俺らその日スタジオで練習でみんな居るから2人きりじゃないよ!』
IM『で、でも…。』
「ありがとうイリム。イリムも時間あったら一緒に練習しにお邪魔しよ?」
IM『うん!じゃあスケジュールめっちゃ早く終わらすね!』
イリムのご機嫌が治った所で、BTSの皆さんとお別れした。
その後私たちもスケジュールをこなす。
AY『疲れたぁ。帰るよ!』
「私残って練習してってもいい?」
SY『いいけど、1人で大丈夫?』
「うん!逆に1人の方が下着とか気にしなくていいから。」
IM『私も残る?』
「ううん!大丈夫!イリムも足休ませないと!」
慣れないピンヒールで踊るせいで、みんな足も限界に近い。
私は背が低い分、みんなよりさらに高いピンヒールだから安定感もない。
JW『あんまり無理しないでね!』
「うん、ありがとう!」
『帰りは迎えに来る?』
「ううん!タクシーで帰るから大丈夫。マネオンニもみんな送ったら帰っていいよ!」
ちゃんとタクシーで帰って来なさいよ!とか、帰る前に連絡しなさいよ!とか、なるべく早く帰って来なさいよ!とか、皆んな過保護だななんて思いながら心配してることは素直に嬉しくて皆んなをハグだ見送った。
…よし。練習しよう。
練習室の中が見えないようにドアのカーテンをしめ、少し照明を落とす。
練習用のスカートに着替え、スパッツを脱ぐ。
……うわ…、どう踊ろう…。
先生が見せてくれた映像を、モニターに流しながら練習を始める。
しばらく練習して、1人で踊る箇所のコツはだいぶ掴めるようになった。
問題はペアダンスだ。
くっついて、官能的かつ情熱的に。
先生のお手本のペアダンス映像を見ながら自分の動きを確認する。
“世の中の男全員色気で落とすくらいの勢いでやりなさい。中途半端が1番かっこ悪いわよ。”
先生の声が蘇る。言ってることは分かってる。
分かってるけど難しすぎるよ…。
「苦戦してんな。」
…え?
ドアの方から声がして振り向くと、ウォヌが立っていた。
「見ての通り。」
WN「俺も…。ってお前それ本番の衣装と同じ?」
「あ、うん…。」
恥ずかしくなって太ももを隠すと、フッと鼻で笑われた。
WN「ミンギュとかうるさいだろうな。」
「…そっちのペアの子達もこういう衣装じゃないの?」
WN「知らない。興味ない。」
ウォヌの言う興味ないは本当に興味がないように思える。
WN「これがなまえの振り?」
「そう。これくらい近付かないと下着見えるって言われてるんだけど、中々近付かなくて。」
WN「俺も。一緒に練習する?」
「…え?」
WN「俺物覚えはいいから。ちょっと最初から見せて。」
「う、うん…。」
ペアダンスは相手が居ないと全然練習にならなかったからウォヌが一緒に練習してくれるのは嬉しいけど…。
先生達の見本ダンスの映像を真剣に見てるウォヌ。
3回くらい見た後、ようやく映像を止めた。
WN「多分いける。」
「まじ?すごーい!」
WN「じゃあやる?」
「うん。あ、待って、スパッツ履く!」
スパッツを取りに行こうすると腕を引っ張られた。
WN「そんな色気無いの履かないでよ、雰囲気出なくなる。それに本番は履かないんでしょ?」
「う、うん…。」
WN「じゃあ下着見えないように頑張って踊ろう。」
「…見ないでね。」
WN「さあ?」
悪戯に微笑むウォヌを睨むと、ふわっと頭を撫でられた。
WN「よし、やるか。あ、動画撮りながらの方がいいか?」
「うん、そうだね。」
スマホを立て掛け、タイマーをセットしてウォヌと向かい合うと、腰に腕が回る。
WN「…もっとくっつかないと。」
勢い良く腰を引かれ、鼻先がぶつかりそうなほど顔が近付く。
…ドクンっと大きくなった鼓動。
「…待ってウォヌ、恥ずかし…」
WN「綺麗だよ、なまえ…。」
「…え?」
チュッと鼻先にキスをされ、戸惑ってる間に曲がスタートした。
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