【act.33 なまえ】

ウォヌとキスをしてしまった。
ドキドキが止まらなくて、心臓が口から出るんじゃないかと思った。

ウォヌは何でキスしたんだろう…。
何で私は受け入れたんだろう…。

もしここがスタジオじゃなかったら、私たちは一線を越えてたんだろうか…。

そんな事を考えてしまった自分が恥ずかしくて、話題を変えようとしたけど、私の中に浮かんできたのは、ウォヌがガールズグループの子にも同じ事をしてたら嫌だなって気持ちだった。

思わず口走った不安を、ウォヌは全力で否定してくれた。

それからお互いの練習動画を見たけど、私たち2人で踊ってる時と全然違ってた。
下着のことも、表情のことも、ウォヌとなら考えずに踊りだけに没頭できるんだな。

本番もウォヌとがいいな…。

WN「もう一回踊る?」
「変なスイッチ入るからだめ!」
WN「何でだよ。練習しないと。」
「もー!後1回だけね!」

今度は録画もせず、曲が始まった。

ウォヌとのダンスはやっぱり楽しくて、気持ち良い。
荒くなった呼吸のリズムさえも同じだ。

「…んっ……!」

最後のポーズは本当は私が男の人首に顔を埋めるのに、ウォヌに再び唇を奪われた。

唇を優しく甘噛みしてくるウォヌに、私も無意識に返してた。

WN「…誘ってんの?」
「…ちがっ…、無意識…。」
WN「誘ってよ。」
「…んっ……。」

どんどん深くなるキスに、呼吸が追いつかなくなる。
苦しくなって胸を少し押すと、ゆっくりと唇が離れた。

WN「ちゃんと息してよ。」
「出来ないよ…、初めてなのに…。」
WN「そうだな…。俺が教えてあげるよ。全部。」
「…え?」
WN「だからなまえの初めて全部俺にちょうだい。」

このウォヌの言葉が何を意味しているか、私だってもう子供じゃないから分かってる。
もし、私もウォヌも一般人だったら、ここで頷けたかもしれない。

でも、私達はアイドルだから。
ファンを傷付けるような、無責任な事は出来ない。
まだ曖昧な気持ちのまま、ウォヌを受け入れることは、ウォヌにもファンにも失礼だと思う。

WN「そんな困った顔すんな。分かってるから大丈夫だよ。」
「…ウォヌには何でもお見通しだね。」
WN「なまえのことだけな。そろそろお腹も空いただろ?」

ウォヌの言葉とタイミングよく鳴るお腹。
エスパーかなウォヌって。

WN「飯食って帰るか。」
「うん!」

事務所から近い行きつけのご飯屋さんでウォヌとご飯を食べて、タクシーに乗る。
さっきまでの雰囲気とは違って、いつも通りなウォヌに戻ってる。

WN「でもあの衣装でなまえが他の男と絡むのか…。」
「…ウォヌが思ってる以上に私自身も嫌なんだけど。アンチもまた増えちゃう…。」
WN「アンチよりファンの方が圧倒的に多いから気にすんな。」

そうだね…。そうだと良いけど。

「今日は練習付き合ってくれてありがとう!」
WN「俺こそありがとう。じゃあ、おやすみ。」
「うん、おやすみ。」

ウォヌが乗ったエレベーターを見送り宿舎に戻る。

「ただいまー。」
AY『お帰り!門限過ぎてるぞ!』
「あはは!ごめんって!」

出迎えてくれたアヨンオンニ。
いつも家に居る誰かしらが出迎えてくれる。
血は繋がってないのに本当の家族みたいだなって思う。

AY『ご飯は?』
「ウォヌと食べて来たから大丈夫!」
SY『おかえり!ってウォヌと?』
「うん、ウォヌと。」

何でウォヌ?ジフニかミンギュじゃなくて?と聞いてくるオンニ達に、ウォヌも練習に来てたからご飯食べて一緒に帰って来たことを伝えた。

IM『オッパと一緒に練習してたの?』
「え!?う、ううん!別々だよ!」
AY『振り違うだろうし、一緒には出来ないか。』

何で私は嘘をついたんだろうか…。
別に一緒に練習したって言えばいいだけなのに。

IM『ウォヌオッパだけ?ミンギュやホシオッパは?』
「居ないよ!珍しくウォヌだけ。」
SY『確かに珍しいけど、なまえと同じで苦労してそうだもんね。』
AY『ウォヌが女子と絡むとか想像つかないもんな!』

…確かに。
ウォヌは女の子との絡みが極端に少ない。私と同じで目を合わせることもしない。
それがファンに安心感を与えてるんだけど…。

JW『オンニお帰り!お風呂入って良いよ!』
「あ、うん!ありがとう!じゃあ行ってくるね!」

部屋から着替えを待ち、お風呂に行く。
そう言えばスマホ見てなかったな…。

カトク5件

3件はミンギュ。
민큐

何で俺に会いに来てくれないの?俺のこと嫌い?


민큐

なまえに会いたい


민큐

あとで電話していい?



初めて合同練習を見に行ってから、私とスヨンオンニはセブチの練習室に行ってない。
子供っぽいただのわがままな理由なんだけど、私達以外の女の子と楽しそうにしてる姿を見るのが嫌だった。

その気持ちがヤキモチだと気付いた私とスヨンオンニは、そのヤキモチがどんなヤキモチなのかまだ分からずにいる。

ハニオッパとスングァニから1件ずつだった。

さすがにミンギュに返事返さないとな…、そう思ってカトクを開いてはいるけど、実際どう返したらいいのか分からなくなった。

結局返事が出来ないまま、髪と体を先に洗い再び湯船に浸かると、またカトクが鳴った。
ミンギュだろうなと思ったのに、ウォヌからだった。

원우

映画かと思った



そんな一言と一緒に添付された動画はさっきの練習動画だった。

再生を押すと、さっき帰って来たばっかりなのに少しだけ動画に手が加えられてて、本当に映画のような雰囲気になっている。

“ WN「嫌だったら殴って。」”

ウォヌと私の唇が重なる。

私はウォヌを殴らなかった。
殴れなかったし、殴るつもりもなかった。

ただウォヌから伝わってくる愛と鼓動が、心地良かった…。

IM『オンニ!溺れてない!?大丈夫!?』
「え!?あ、う、うん!大丈夫!もう上がるね!」

1時間以上もお風呂に居たのか…。
あ、ミンギュにもウォヌにも返事してなかった…。





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