【05 見つめる瞳 ーなまえー】

ミンギュの楽しそうな声が嫌でも耳に入ってくる。
分かってる、私なんかただのお遊びだってこと。

“大好き”なんて、ただやりたいから言ってるだけだって。
だって、私を見る時の瞳と、彼女を見る時の瞳が全然違うから。

なるべく早くここから出たくて急いで片付ける。

「手伝って頂いて、ありがとうございました。じゃあまだ時間あるのでゆっくりしててください。」

ウォヌさん、ウジさん、バーノンさんにお礼を言い両手にゴミを持って立ち上がる。

WN「捨てに行くの?」
「はい。」
VN「後ででいいのに。」
「匂いが充満するじゃないですか。大丈夫ですよ、私1人で行くので。」

空になったゴミとは言え、そこそこの量があるから歩きにくい。

WN「俺も行く。」
「…え?いや、大丈夫で…」
WN「いいから。」

私の手からゴミ袋を簡単に奪って先に歩き出すウォヌさん。

「あ、待ってくださいよ!」
WN「早く行くぞ。」

慌ててウォヌさんの後を追いかけようと足を踏み出した瞬間。

『あー!ウォヌ!あんた私に挨拶もしてくれないの?ジフナもボノナも!』

ヨンアさんの横を通り過ぎたウォヌさんに、ヨンアさんが声を掛けた。

WN「あ、お疲れ様です。」
『もー!何その反応!本当昔からウォヌは塩対応よね!』

ちょっと拗ねたように頬を膨らませるヨンアさんにウォヌさんは「そうですか?普通です。」と呟く。

そんな反応に更に拗ねたような表情を浮かべてるけど、その表情すら美しくて、一般人の私なんかとは比べものにならないと思う。

『ウォヌもこっち来て一緒に話そうよー!ジフナもボノナも来て!』
WN「俺ゴミ捨て行くんで。」

あ、そうだった。
私ウォヌさんにゴミ持たせてるんだった!
慌ててウォヌさんに駆け寄ってゴミ袋を貰おう手を伸ばした。

「ウォヌさん、わた…」
『ゴミ捨てなんてマネージャーに行かせなよ!てか、アイドルにゴミ捨てさせるマネージャーなんていないよ?』

…そうだよね。
そんな事、分かってるから。

DK「僕たち人数多いから、なまえヌナ1人だと大変なんですよ!」

ドギョムさんが優しくフォローしてくれる。
有難いけど、ヨンアさんの意見はもっともだと思う。

私はアイドルをサポートする仕事なんだから。

『そうかもそれないけど…』
「すみません。ウォヌさん、私1人で行きますから休んでて下さい。」

そう言ってゴミ袋を貰おうと手を差し出したのに、ウォヌさんはそんな私の手を握った。

………え?

「うぉ、うぉぬさん?私はゴミ袋を貰おうと思っ…」
WN「いいから行くぞ。」

私の手を掴んだまま歩き出そうとするウォヌさんに戸惑って立ち止まる。

『うぉぬー!』

ヨンアさんが可愛い声でウォヌさんを呼んでも、振り返ろうともしない。

このままじゃウォヌさんの立場が悪くなってしまうのではないか?

ヨンアさんは代表のお気に入りだ。
そんなヨンアさんの一言で、クビになった職員、練習生がたくさんいる。

「ウォヌさ…」
WN「行こ、なまえ。」

歩き出すウォヌさんに、ヨンアさんの少し不機嫌な声が聞こえる。

MG「ヒョンなんていいから!それより俺ヌナとご飯行きたい!」

…え?

『そうだね!じゃあ今日行く?なんか予定ある?』
MG「無いよ!ひま!」
SG「僕も行く!」
『じゃあみんなで行こう!』

“無いよ!ひま!”

ミンギュの声が脳内にこだまする。
今朝、約束したのに…。
しかも、ミンギュが言ったのに…

“今日はなまえの手料理が食べたいから、終わったら来るね!約束!”

「……き。」
WN「え?」
「何でもないです。貸してください。」

恐ろしく冷たい言い方になってしまったかもしれない。
それでも一刻も早くここから出たかった。

ウォヌさんの手にあるゴミ袋を奪うように取り、練習室を出た。

何回も見せられた。
ヨンアさんを見るたびに、嬉しそうに駆け寄るミンギュの姿を。

嬉しそうにぴったり隣に居る姿を。

もう見たくない…。

分かってる、分かってるんだ。
ミンギュの気持ちが私にない事くらい。

私なんてただの暇つぶしで、ただの性のはけ口ってだけだってことぐらい。

分かってるのに…。

焼却炉にゴミを投げ入れる。
私のこの心も燃えちゃえばいい。

燃えて灰になって舞ってしまえ…。

代表に言ってプロミのマネージャーに戻してもらおう。
もしダメなら、もう辞めよう。
会社を辞めて、家を引っ越して、携帯を替えて。

そうしよう…。

気付いたら流れていた涙を拭おうとした瞬間、誰かに背中から抱き締められた。

ふわっと香る嗅いだことのある匂い。
でも、あなたのはずはない。絶対に…。

だとしたら、この匂いを纏ってるのは後1人…。


「…何してるんですか、ウォヌさん。」
WN「なんで俺だって分かったの?」

彼と同室だもん、同じ匂いがするなんてそんな事言えない。

「私、宇宙人なんで。」
WN「何だそれ。」

ふはっと笑うウォヌさんにバレないように涙を拭う。

「それより離してください。」
WN「やだ。」
「何でですか。」
WN「暖かいから。」

まあ、確かに暖かいけど…。

「私で暖を取るのはやめてくだ…」
WN「それと…、こうしてないと、なまえが消えそうな気がしたから。」

……ウォヌさん…。

「宇宙が恋しくなったんです。」
WN「宇宙に帰られたら困ります。」

あまりにも真面目なトーンでそんな事を言うもんだから、つい笑ってしまった。

WN「今日なまえの作るハンバーグ食べたい。」
「え?今日ですか?」
WN「うん。今日。だめ?」

別に私は構わない。
どうせミンギュはヨンアさんとご飯に行くだろうし…。

「いいですけど…、ウォヌさんは行かないんですか?」
WN「行かない。なまえのご飯の方がいい。」

ウォヌさんは何を考えているか分からない時が多々ある。
今朝の件もそうだけど…。

まあ、ご飯を作るぐらいならいいだろう。
ついでに部屋の片付けぐらいしよう。

汚かったし…。

「じゃあ帰りにマート寄っていいですか?」
WN「うん。俺も行こ。」
「え、いや、ウォヌさんは車待機です。」

えっ?と聞いた事ないくらい間抜けな声が聞こえて顔を上げると、ウォヌさんと目が合った思わず笑った。

さっきまでの落ち込んだ気持ちは、少し良くなっていた。




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