【01 なまえ】
「…ちょ、お姉ちゃん、頭上げてよ…。」
『お願い!なまえにしか頼めないんだって!見てよこの隈!もう休む暇もないのよ!なまえが手伝ってくれれば私も助かるの!』
だからお願い!と、頭を下げるお姉ちゃん。
ツヤツヤな髪の毛が綺麗で思わず見惚れてしまう。
髪の毛だけじゃない、お姉ちゃんは全てが綺麗で、私なんかとは比べ物にならないくらい…。
「でも私がいたところで、足手纏いになるだけだし…。」
『そんな事ないよ!私はなまえの才能を信じてるもん!だから、お願い!』
必死に頼んでからお姉ちゃんに、断ろうにもうまく言葉が出てこない。
『ずっとじゃなくていいの!せめて、アヨンオンニが戻って来るまででいいから!』
数ヶ月前、お姉ちゃんと同じ職場の人が怪我のため休みに入った。
その人が戻って来るまでか…。
それくらいなら…。
「…分かった。その人が戻ってくるまでなら…。」
『本当!?なまえ!ありがとう!』
嬉しそうに顔を上げ、私の手を取ってぶんぶん上下に振るお姉ちゃん。
隈が出来てたって、やっぱりお姉ちゃんは綺麗だと思う。
次の日、私はお姉ちゃんと一緒に職場になる場所へ来た。
「…わぁ……。」
『んふふ、口開いてる!まずは代表に挨拶しに行くよ!』
「あ、うん…。」
お姉ちゃんに着いて大きなビルへと入る。
顔認証の立派な警備システムを通過して、代表さんにも挨拶した。
『スビンの妹さんだね。期待してるよ!頑張りなさい!』
そう言って微笑んでくれた代表さんに、小さく頭を下げて部屋を後にする。
期待なんてしなくていいのに…。
『次はメイクとスタイリストチームに挨拶ね!』
「うん。」
スタイリストさん達とメイクさん達はとても仲が良いらしい。
と、言うのも担当するメンバーが多いため、ヘアメイクだけスタイリストだけに偏ると人が足りないらしく、空いてる人が色んな事をするから必然的に仲良くなったみたい。
『お疲れ様です!』
『スビンお疲れ!あれその子が?』
『そう!妹のなまえ!仲良くして上げてくださいね!なまえも挨拶して!』
お姉ちゃんにポンと背中を押され、一歩前に出る。
「なまえです。…よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げると、自然と起こる拍手に身構える。
だけど、いつも聞こえて来るセリフが聞こえなくて恐る恐る顔を上げると、柔らかい笑みを浮かべた皆さんと目が合った。
『私はスビンと同期のハンジュです!私はスタイリストなの!なまえちゃん、これから慣れるまで大変だと思うけどよろしくね!』
お姉ちゃんと同期のスタイリストさんも、お姉ちゃんと同じくらい綺麗。
と、言うか、ハンジュさんだけじゃない。
みんな、綺麗だと思う。
私には場違いこの上ない…。
『ほら、なまえ?何ボーっとしてるの?』
お姉ちゃんに声をかけられ我に返り、慌ててハンジュさんに頭を下げて、よろしくお願いしますともう一度呟いた。
『よし!じゃあ次はメンバーに会いに行くよ!練習室にいるよね?』
『うん、いるはず!』
じゃあ行って来るねと告げるお姉ちゃんに手を引かれて部屋を出ようとすると、後ろから頑張ってね!と声をかけられた。
お礼を言おうと振り向くと、ハンジュさんが苦笑いのような何とも言えない表情を浮かべていた。
その表情がすごく気になって、足取りが重くなるのを感じる。
『……だけど、仲良くなればいい子達だから。』
何であんな表情で私を見ていたんだろうか。
やっぱり私はお姉ちゃんと違うから、哀れに思ったのかな…。
『…っ!なまえ!?聞いてる!?』
「え?あ、ごめん。何?」
気が付けばお姉ちゃんの顔が目の前にあった。
『またボーっとして!ちゃんとしないと!今から会うのが私が担当してるアイドルで、なまえも担当するアイドルね!打ち解けるまで大変かもしれないけど、打ち解けたらいい人たちだから!』
打ち解ける?誰が?私が…?誰と?アイドルと?
そんなこと絶対にあり得ない。ないない。
『お、いたいた!ここだ!入るよ?』
「…うん。」
お姉ちゃんが少し重そうなガラスのドアを開ける。
部屋の中にはたくさんの男の人がいて、私は思わず俯いてしまう。
『みんなー!お疲れ様!』
お姉ちゃんが声をかけると、わースビンヌナだ!と喜ぶ声と同時に駆け寄って来る足音が聞こえて、私の足は自然と一歩後ろに下がった。
『みんなお疲れ様!』
「スビンヌナ今日休みじゃなかった?」
「ヌナ!そう言えばこの前…」
気がつくとお姉ちゃんは輪の中心にいた。
アイドルに囲まれてると言うのに、お姉ちゃんも負けないくらい綺麗で、やっぱりすごく綺麗な人なんだと痛いくらい見せ付けられた気がして、胸が苦しくなる。
JH「…ヌナ。これ…何…?」
私の直ぐ近くでとても低い声がした。
『これって、失礼な!なまえ!私の妹で明日からサポート役やってもらうの!だから皆んな優しくしてよ!』
ふーんっと興味が無さそうな声がいくつかと、ため息にも似た吐息がいくつか聞こえた。
『ほら!なまえも俯いてないで自己紹介!』
ゆっくりと顔を上げる。
誰とも目線を合わせないように、数十センチ先の床を見たまま。
「…なまえです。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる。
さっきとは違って拍手は起きない。
SG「…韓国の名前じゃないよね?」
MG「確かに、しかも全然似てない!」
似てる訳がないじゃない。
全くの他人だもん…。
ただ、親が再婚して出来たお姉ちゃんで、血の繋がりなんてないんだから…。
『そうなの!なまえは日本人よ!血は繋がってないけど、本当の妹みたいに可愛がってるの!だからあんた達!優しくしてよね!』
JH「血繋がってないなら他人じゃん。」
お姉ちゃんの明るい声とは正反対な低い声。
『そうかもしれないけど、この子は今までの子とは違うから!ね!』
今まで何があったのかなんて、私は聞かされてないし、聞く必要もない。
JH「悪いけど俺は認めないよ。スビンヌナの妹かなんか知らないけど、また同じことにならない保証なんて何処にもないじゃん。」
歓迎されてないのはこの部屋に入った瞬間に分かった。
私はお姉ちゃんみたいに明るいわけでも、人を惹きつけるような魅力も無い。
JS「まあそうは言っても決めたのはスビンヌナだし、様子みようよ。」
『さすがシュア!ありがとう!じゃあ私達はそろそろ行くね!また明日!』
お姉ちゃんがドアを開ける前に逃げ出すように練習室とやらを出た。
息苦しかった。
また、私はお姉ちゃんと比べられる日々が続くのかと思うと吐き気がした。
それでも、才能のない私にとって今回お姉ちゃんから頼まれたことは大きな一歩で、今後の人生に役に立つかもしれない。
だから、ほんの少しの短い期間だったとしても私はお姉ちゃんから少しでも学ばなといけない。
お姉ちゃんみたいにならないといけないんだ…。
→
ノベルに戻る I
Addict