【08 WONWOO】

ヌナにメイクをしてもらい、衣装を着てから戻ると
いつもはヌナがメイクしてるシュアヒョンが珍しくなまえにやってもらってた。

どういう風の吹き回し?
まあ、いっか。俺には関係ないし。

そう思ってシュアヒョンの後ろのソファーに腰を下ろして、撮影までゲームでもしようとスマホを取り出す。

シュアヒョンとなまえの会話が聞こえて来てたけど、ゲームに集中しててジョンハニヒョンが近くにいることに気付いてなかった。

JH「別にそいつが勝手に壁作ってんならいいんじゃないの?ヌナと同じようになるなんてこいつには絶対無理だろ、似ても似つかない。」

その声で顔上げる。
ヌナ達はこっちの様子に気づいてない。

「分かってます…そんなこと。あなたに言われなくても…。」

なまえの言葉にジョンハニヒョンは怒ったように、スタスタと部屋から出て行った。

残されたなまえの表情が下からだとよく見えた。
悲しそうな、苦しそうな、何とも言えない表情を浮かべてた。

シュアヒョンのメイクを最後までやり終えた。
やっぱりこの子はメイクが上手だなと純粋に思った。

まあ、オリジナリティはないけど…。

シュアヒョンもなまえのメイクを気に入ったみたいで、嬉しそうになまえの頭を撫でようとした。

パシンッ…

乾いた音が響いた。
シュアヒョンの手を払ったなまえは、その後も何事もなかったように、いつも通り仕事をこなしてた。

『うわ!やっばー!遅れちゃう!』
「用事あるなら片付けしとくから、帰っていいよ。」
『大丈夫だよ!ちょっとくらい!』
「ずっと休めてないんだし今日くらい帰って。はい、帰れ。」

ふふ…。
帰れとヌナの背中を押すなまえに思わず笑いが溢れる。

なまえも早く帰りなさいよ!と言い残しヌナが帰る。
その瞬間になまえはいつもの、無表情に戻っていた。

SG「あーこれから練習だー!」
DK「なまえはもう帰る?」
「片付けしたら帰ります。」
VN「真っ暗だから気をつけて帰ってね。」
「ありがとうございます。みなさんも頑張ってください。」

スングァン達に手を振り、また直ぐに片付けに戻るなまえ。

DN「ヒョン、行こ?」
WN「あ、うん。」

お疲れ様でしたと、誰に向かってか分からない挨拶をして部屋を出て練習室に移動する。

いつもなら気にもしないのに、どうしてもジョンハニヒョンの放った言葉の後に浮かべたなまえの表情が頭から離れない。

WN「忘れ物した。先行ってて。」
DN「うん!早く来ないとご飯無くなるからね!」

可愛いなディノや。
ディノと別れさっきの部屋に戻る。

そこになまえの姿はない。

『あれ、ウォヌどうしたの?忘れ物?』
WN「え、あ、う、うん。そう、忘れ物。じゃあお疲れさまでした。」

咄嗟に見つけた忘れ物を手に取って部屋を出る。
まあ、これは俺の忘れ物じゃなくてなまえのだけど。

いつもなまえが持ってるメモ帳。
勝手に見ていいのか迷ったけど、ボノニがなまえは絵が上手だよと言ってたのを思い出してパラパラとめくってみた。

お、本当に上手だな…。
あ、俺のもある。まだ俺のメイクしたことないのに。

メモ帳の後ろの方には、新しいメイクの案が書いてあった。
あいつにもアイデアとかあったんだな。
あんまりやる気なさそうなのに…。

そう思いながらメイク室へ向かう。
メイク室の電気は付いてて、たぶんなまえが片付けをしてるんだと思った。

ノックをしようと拳を上げる。


「…もう、うんざりだよ……。」


メイク室からなまえの苦しそうな声が聞こえて、ノックする前に「何が?」と声をかけていた。

「…あ、お疲れ様です。何か御用ですか?オンニなら今日はもう帰りましたけど…。」

こいつ、こんなに早く話せるのか。
早口のように言葉を並べるなまえにメモ帳を差し出す。

WN「これ、忘れてたから。」
「すみません。ありがとうございます。」

深々と頭を下げるなまえ。
これで終わったとか思ってる?甘いよ。

WN「で?」
「へ?」
WN「何がうんざりなの?」

一瞬目を見開いて

「何でもな…」
WN「誤魔化しても無駄。言うまで戻んないから。」
「え、あ、あの…。」

メイク室のソファーに腰を下ろして、なまえを真っ直ぐに見つめる。

困ったよう明らかにあたふたするから、ちょっと笑いそうになった。

「あの…。」
WN「ん?」

観念したのか、小さく声上げるなまえ。

「話しますけど、この事は…誰にも言わないでもらえますか?」
WN「最初から誰にも言うつもりなんてないよ。」

そう言えばなまえは少し驚いたように目を見開いて、俺の向かいのパイプ椅子に腰を下ろした。

「…私のお姉ちゃん…オンニって綺麗じゃないですか。スタイルも性格も良いし。誰でも好かれるし。」

ちょっと身構えてたのに、なんの話かと思えばスビンヌナ、なまえのヌナの話で拍子抜けする。

WN「あ、うん。まあ、そうだね。」

確かにスビンヌナは綺麗だし身長も168センチあってすらっとしてるし、性格も明るくて誰とでとすぐ打ち解けてる印象。

「それに比べて私は、ブスだしチビだし、スタイルだって良くないし、性格は根暗な方だし、オンニとは真逆じゃないですか。」

いや…、確かになまえは小柄だけど、ブスだとは思わないし、スタイルも悪いとは思わない。
性格は良く分からないけど…。

WN「色々修正したいけど、ヌナと真逆ってのは認める。」
「ですよね…。まあ、血繋がってないし、当たり前なんですけど。」

そりゃそうだ。と突っ込みたくなる自分を抑える。
どうにも真面目な話なのか、何なのか未だによく分からない。

「血繋がってないから似てないのなんて当たり前なのに、比べられるんです。何もかもオンニと。容姿から性格から何から何までぜーんぶ。スビンは出来るのに何であんたは出来ないの?スビンはこんなの2日で出来たのになんであんたは出来ないの?って…うっせーよって話しですよね。」

…そうか。
ようやくジョンハニヒョンの言葉に何とも言えない表情をしてた理由が分かった。

「お母さんが再婚して、急に韓国人のお義父さんとお姉ちゃんが出来たと思ったら、凄い綺麗で何でも出来て、最初は嬉しかったのに…、だんだん苦しくなってって…私は、私なのに…気付いたらスビンの残念な妹って…。」

俯きながらグッと膝の上に置いた拳を握るなまえ。

「…私なんか、いなくていいじゃんって…。そしたらどんどん人と話すのも会うのも嫌になって…、気付いたらこんな根暗になってました。」

そう言って顔を上げたなまえは、悲しい顔で笑った。
何で悲しいのに笑うんだろう、悲しいなら泣けばいいのに…。

「…もう呪いですよね。こんなの。お姉ちゃんから…オンニから逃げたいのに、またこうやってオンニのとこにいて、結局今までみたいに比べられて…、何もしてないのに嫌われてるし。なんかもう、うんざりだなって。それをウォヌさんに聞かれました。」

呪いか…。
何でそんな呪いかけられたんだろうな。

WN「お前、呪いかけられるような事したの?」
「え?いや、したつもりはないんですけどね…。」

無意識にしたのかもしれないですね、なんて真顔で言うから思わず吹き出してしまった。

そんな俺になまえは少しだけムッとしたような表情をして、でもまた悲しく笑った。

「すみません。」
WN「ん?何が?」
「いや、何か長々と話してしまって…。しかもこんなクソどうでもいい話…。」

俺が話せって言ったんだから、なまえが謝ることじゃないだろ…。

WN「どうでも良くねぇだろ。」
「いや、私の話なんて聞く価値ないですから。」

そう言えば、ボノニが言ってたっけ。
なまえの口癖は“私なんか”と“私なんて”だって。

WN「それ禁止な今後。」
「それとは?」
WN「私なんか、私なんて。」

あーと頷きながら顔を伏せる。

WN「次言ったら、そうだな…俺の事ウォヌオッパって呼んで。」
「え、いや無理です。」

即答かよ。

WN「俺はお前のこと、可愛いと思うし、メイクと絵に関しては才能あるなって思うよ。ヌナより。」
「…え、」

驚いてポカンと口を開けてるなまえは、なんとも馬鹿面で面白い。
ほら、こんな色んな表情出来んじゃん。

WN「それにお前面白いよ。」
「や、私なん…ぞ…面白くもくそも…」

今私なんてって言おうとしたなこいつ。
上手く誤魔化してたけど。

WN「少なくとも俺はスビンヌナよりお前の方が好きだよ。」
「そんなご冗談を。」
WN「冗談じゃねーよ。確かにヌナは綺麗でいい人かもしんないけど、俺はお前と話してる方が楽だし楽しい。」

なまえがボノニと仲良くなったのも分かる気がする。
ヌナはどっちかって言うとイケイケつーか、なんと言うかすごく明るく俺らと接してる。
だけど何か黒いものを感じてしまってるから、俺はあまり深い会話はしないようにしてる。

それに比べてなまえは無表情だけど、黒い物を感じないし、なまえのこのゆるーい感じの方が合ってる。ボノニも多分そう。

WN「ジョンハニヒョンとかさ、まああの人も悪い人じゃないんだけど。兎に角お前は自信持てよ。そんでさ、何か嫌な事あったら今みたいに俺に吐き出せ。」
「は!?いや、アイドル様にそんな…」
WN「うるせー、黙れ。ま、そう言う事。分かったか?」

渋々、ほぼ渋々はいと呟いたなまえの顔は、いつもより晴れやかに見えて、俺も嬉しくなった。

そして気付く、ポケットのスマホが震えていることに。

ディノからのカトク
ヒョン遅いからもうご飯ないよ!
どこにいるの?

少しは飯残しといてよ。

WN「練習室行かないと。お前のせいで飯食い損ねたから今度奢ってね。」
「え、そこは俺が今度奢ってや…」
WN「奢ってね。」
「はい。」

何だこいつ、めっちゃ面白いじゃん。
悔しそうな顔してるなまえの頭をくしゃっと撫でると、耳まで真っ赤になってた。

可愛いじゃん…

WN「じゃあ明日な。」
「あ、あの!ありがとうございました。」
WN「ん。」

きっとなまえが今すぐ自信を取り戻す事も、今すぐ変わる事もないだろう。
だけど、少しは笑えるようになってくれたらと思うよ。



DN「ヒョン遅い!どこ行ってたの?」
WN「忘れ物探し。」




ノベルに戻る I Addict