【11 なまえ】
皆んなが収録に向かう。
私たちは楽屋で待機になったけど、お姉ちゃんだけはみんなのメイクがいつでも直せるようにと楽屋から出て行った。
私も行くと言ったら、なまえは休んでてと1人で行ってしまった。
さっきまでうるさかった楽屋もシーンと静まり返る。
こんなに静かだと眠くなってしまう。
『最近スビンおかしいんだよね。彼氏でも出来たのかな?なんか知ってる?』
ボーッとしてるとハンジュさんが話しかけて来た。
「知らないです。私もオンニも一人暮らしなので…。」
『そうだって言ってたね!まあスビンくらい美人なら彼氏の1人や2人居てもおかしくないんだけどね。』
2人はだめでしょ。1人じゃないと。
『なまえちゃんは彼氏いないの?』
「いや、私は居ないですよ。」
『そうなの?なまえちゃん可愛いのに勿体無い!』
可愛い?私が?
本音じゃないと分かってるけど、ちょっとだけ嬉しくて思わず顔がニヤけそうになる。
『今まで彼氏とかは?』
「あー、居ないですね。私暗いし、オンニみたいに美人でもないので。」
『そんなこー…』
「そんな事ないじゃね?」
ハンジュさんの声に重なるように声がして、振り向けばウジさんが立っていた。
いつから私たちの会話を聞いていたのだろうか。
『どうしたの?』
WZ「いや、汗でメイク落ちたから直してもらおうかと思って。」
「スビンは?」
知らないといい、私の隣に腰を下ろすウジさん。
お姉ちゃん何処に行っちゃったんだろう…。
いや、それにしてもめっちゃ白い…。
WZ「お願いしてもいい?」
「あ、はい。」
慌てて立ち上がりメモを確認してから、ウジさんに合うファンデの色を選び、ソファーに戻る。
『スビン何処行ったんだろ?』
WZ「トイレとかじゃないですか?」
『かなぁ?あ、そろそろお昼だからお弁当届くね!』
ハンジュさんやマネージャーさん達がゾロゾロと楽屋を出て行ってしまって、広い楽屋にウジさんと私だけが取り残されてしまった。
ちょっと、気まずい…。
さっさとメイク直ししちゃおう。
WZ「……さっきの話だけどさ。」
「はい?」
WZ「私暗いし、オンニみたいに美人でもないのでってやつ。」
うわ、がっつり聞かれてるじゃん…。
WZ「人の好みはそれぞれだから、スビンヌナや誰かと比べなくていいんじゃね?お前はお前だろ。」
……ウジさん…。
“お前はお前だろ”
その言葉がどれだけ嬉しいか、この人には分からないんだろうな。
「…ありがとうございます。」
その後の数分間、ウジさんから何かを話すことはなかった。
「終わりました。」
WZ「ありがとう。」
立ち上がりグッと伸びをするウジさん。
WZ「じゃあ行って来るわ。」
「はい。」
楽屋を出て行ったウジさんの背中を見つめる。
アイドルって何であんなに人を喜ばせる言葉を言えるんだろう。
それが仕事で本心じゃなくても、少しだけ気持ちは軽くなるなんて、分からないんだろうな…。
それからお昼を食べ、また皆さんのメイクを直す。
アイドルがいっぱい出場するだけあって、収録時間も長い。
お腹も満たされて、また静かになった楽屋に黙っていると睡魔しか襲って来ない。
飲み物でも買いに行こう。
スタッフの出入りは自由だと、ハンジュさんが言ってたはず。
スタッフ証を首から下げ、スマホとお財布を持ち楽屋を出る。
…うわ、すごい人。
楽屋を一歩出ればスタッフさんや、アイドルと思われるキラキラした人達がいっぱいて思わず身構えてしまう。
眠気覚ましにここから1番遠い自動販売機まで歩くことにした。
途中すれ違うスタッフさんやアイドルの方に頭を下げる。
『あの、すみません。』
後ろから急に声を掛けられてゆっくりと振り向くと、キラキラしたアイドルの人がいた。
「…私ですか……?」
『あなた、SEVENTEENのメイクさんですよね?』
「…はい。」
何を言われるかなんて予想してなかった。
アイドルの人達の言ってることが嘘だと思いたい。
でも、完全に嘘だと思えない自分もいる。
『ごめんなさい、新人さんに言うのもおかしいと思うんですけど…。』
申し訳なさそうにしてるアイドルさん、この表情が本心なのかどうか私には区別がつかない。
「いえ…、こちらこそ申し訳ありませんでした…。」
頭を下げると、アイドルさんはお願いしますねとだけ言って去って行った。
……私何しに楽屋から出たんだっけ?
あぁそうだ。飲み物買いに行こうと思ってたんだ…。
でも、もういいや。
さっきのアイドルさんの話で眠気はすっかり覚めてしまった。
楽屋に戻ろう…。
DK「なまえちゃん!」
前からドギョムさんが笑顔で走ってくるのが見えて、慌てて顔を伏せる。
そんな大声で私の名前を呼ばないでほしい。
「ドギョムさん、お疲れ様です。どうかなさいましたか?」
DK「休憩で楽屋戻ったらなまえちゃんが居ないってハンジュヌナが騒いでたから探しに来た!迷子?」
迷子って、私は幾つだよ…。
「すみません。飲み物買いに出ただけです。」
DK「…その肝心の飲み物は?」
「もういいんです。それより休憩なのに、すみません。戻りましょうか。」
そう言えば「なまえちゃんが無事よかった!」と柔らかい笑みで言うから、私も少しだけ笑顔になった。
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