【14 JEONGHAN】

最近すごく、いや、正確に言えば最近じゃない。
もう半年以上前から感じてる違和感がある。

これは誰にも言ってないし、きっとみんなも気付いてないと思う。
勘の鋭いシュアなら気付いてるかもしれないけど、何も言っては来ないから、俺からも敢えて何も言ってない。

『よーし!今日はなまえの歓迎会だしいっぱい飲むぞー!』
SC「いや、お前が飲んでどうすんだよ!」
HS「じゃあ俺が飲むぞ!」
SC「主役はお前らじゃないだろ!」

賑やかな撮影現場。
別に嫌いじゃないし、俺もあの輪の中に入ることだってある。

でもたまに1人になりたくなったり、外の空気を吸いたくなる。
今がまさにそれで、自分の撮影まで時間がある事を確認してから、屋上に外の空気でも吸いに行こうと立ち上がった。

マンネラインが3人で固まって何やら険しい表情を浮かべてる。
話しかけようと思ったけど、何となくやめておいた方が良さそうで、そっと撮影現場を抜け出す。

自販機で暖かいミルクティーを買って屋上のドアを開ける。

冷たい風が体に当たって一瞬身震いする。
でも空は快晴で清々しい。

ぐーっと伸びをして、ミルクティーの缶を開けようとした時だった。

……あいつ、何してんの?
少し手すりが緩んでて立ち入り禁止のコーンが並んでる所に、膝を抱えて座り込むなまえの姿を捉えた。

いや、危ないから立ち入り禁止って書いてあるじゃん。
え、何?韓国語読めないの?それともバカなの?

無性にイライラしながら、ズンズン歩いてなまえの腕を引っ張った。

JH「やー!お前マジ何しー…」

こいつ、いつからここに居たんだ…?
触れた手が凍えるように冷たい。

それに…

JH「……何で泣いてんだよ…。」

いつも無表情と言うか、あまり表に感情を出さないなまえを俺は嫌いだったし、正直不気味なやつだとも思ってた。

それにメンバーを傷付ける存在かも知れなかったから。

なのに今、俺の目の前にいるなまえは、目を真っ赤にして泣いている。
まるで小さな子供みたいで、放っておいたら消えてしまいそうなくらい儚い。

JH「…取り敢えず危ないからこっちこい。それに冷たすぎ。風邪引く。」

グッと腕を引っ張ってもなまえは動くどころか小さく首を振る。
え、何こいつ。自分の意思あったのかよ…。

「…すみません、私は…大丈夫ですから…。」

嗚咽を堪えながら話すなまえが子供が泣いてる時のそれで、思わず笑いそうになるのをグッと堪える。

さすがに笑うタイミングじゃない。

JH「こんな危ない場所で号泣シーン見せられて、あぁそうですか、分かりました。って身を引くほど俺は物分かり良くないんだよ。いいから来い。」

それでも動こうとしないなまえ。

JH「アイドルに迷惑かけていいのか?俺も一緒に落ちたらどうすんだ?」
「…それは困ります。」
JH「そう言うことだからこっち来い。」

さっきより、少し優しく言うとなまえは渋々立ち上がって、立ち入り禁止ゾーンから脱出した。

それにしてもこいつ、マジで冷たすぎる。
よく見れば唇も青紫色に変わっている。

JH「いつからここにいんの?」
「…みなさんの朝のメイクが終わってからです。」

朝のメイクが終わってからって…。

JH「は!?お前3時間以上ここにいんの!?こんな薄着で!?」
「みたいですね…。」

みたいですねって何考えてんだよ!
バカなの!?

JH「このまま外いたら倒れるぞ?取り敢えず中入ろう。これもやるから。」

買ったばかりのミルクティーを渡そうとするも受け取らないなまえ。
まあ、だろうとは思ってたけど。

「私は…、何で倒れないんでしょうか。」

…は?

JH「え、何お前倒れたいの?」

何で?普通倒れたいなんて思わないよな?
そりゃだるい時に風邪引いて学校休みたいなーとかそれぐらいはあったけど、倒れたいはない。

JH「なんで?」
「…倒れたら、行かなくていいかなって。」

…あぁ、歓迎会か。
スビンヌナはめっちゃ楽しみにしてるけど、こいつらそう言うの苦手そうだもんな。

JH「それでも俺が見つけたからだめ。取り敢えず中入るぞ。俺も寒い。」

なまえを半ば引きずるように屋上から室内へ引き入れた。
いくら、飲み会ぎ嫌いだからって、倒れたいとまで思うってよっぽどだろ。

JH「…泣くほど嫌なの?」
「え?」
JH「お前の歓迎会。」

そう言えば、なまえはまた膝を抱えて顔を埋めて、静かに泣き始めた。

JH「…お、おい。何でそんなに嫌なの?」
「……怖いんです…。」

怖い?何が?え?俺のこと?
まあ散々無視したり睨んだりしてたけど…。

JH「ごめん、今まで冷たくして。もうお前のこと悪いやつだって思ってないから、だから怖がんないでよ…。」

目に涙を溜めたまま、顔を上げ俺を見るなまえに心臓がギュッと痛くなった。
俺は今までこんなに幼くて小さななまえを無視してたんだと思ったら、辛くなった。

「…ジョンハンさん、そうじゃー…」
『ジョンハン!こんな所にいたのか!撮影次お前だぞ!』

なまえの言葉を遮るようにマネヒョンが来て、なまえは乱暴に涙を拭うと、またいつもの無表情に戻る。

その瞬間に思った。
あ、なまえにとって無表情は仮面なんだと。

「ご迷惑おかけしてすみませんでした。戻りましょう。」
JH「…う、うん。」

さっき言いかけたことはなんだったんだろう。
分からないけど、撮影中もモヤモヤは残ったままだった。

話したいと思ったけど、急に話しかけたらメンバーになんて言われるか分かんなくて、話さずにいた。

撮影が終わり、スタッフの車に連れて行かれそうななまえをディノが引き留めて、俺たちの車に乗せた。

俺は違う方に乗った。

JS「なまえちゃん、泣いたのかな…。」
MH「何で?」
JS「わかんないけど、目が赤かっんだよね。」

やっぱりシュアは鋭い。
だからきっと俺が感じてる違和感にも気付いてるはず。

HS「そう言えばマンネズ集まって真剣に話してたけど何の話か知ってる?聞いても教えてくれなかったんだよ!ヒョンにはまだ早い!とか何とか言われて!ひどいよなあいつら!」

拗ねるホシに呑気に笑ってるクプスとジュン。
きっとなまえの話だ。直感的にそう思った。

ボノニとスングァニはなまえと仲良い、と言うか話すし、ディノはなまえを引き留めた。

やっぱり何があったんだな…。
あの時俺が屋上に行かなかったら、なまえは飛び降りてたんじゃないかと思う。

…良かった。外の空気吸いたいと思った俺の体ありがとう。

SC「どうしたボーっとして。」
JH「なんでもない。」

車がお店の前に到着した。
スビンヌナやスタッフさん達はもう車を降りてて、それを見たクプスが駆け寄るように車を降りて行く。

前の車に乗ったなまえは?
なまえを探すと、ボノニとディノの後ろにいた。

JS「行かないの?」
JH「行くよ。」

皆んなの後ろからなまえの背中を見つめる。
明らかに重い足取り。

いくら飲み会が嫌いでもおかし過ぎる。
そんななまえとは正反対にご機嫌なヌナ。

お店のドアを開け俺らを中に入れる。

おー久し振り!なんてヌナの同級生の声が聞こえた瞬間、なまえは足をぴたりと止め、ボノニの服の裾を握ったまま、ボノニの後ろに隠れる。

………なんか、分かった気がする。
腑に落ちないところあるけど…。

なまえは震えながらボノニの服の裾を握って離さない。
過呼吸にでもなりそうな、なまえをこのまま店に入れるわけにもいかない。

どうしようかと考えてたらマネヒョンが車を置いて戻ってきた。

それを見た瞬間、ボノニが車のキーをマネヒョンから借りた。
心配そうなマネヒョンに俺もいるからと伝えれば、ボノニとスングァニは驚いた表情を浮かべてた。

まあ、そうなるよな。
つい数時間前まで話したことすらなかったのに。

車に戻りエンジンをかける。
本当ならこのままなまえを家まで送り届けてやりたい。

でも、さすがにそれは出来ない。

「ごめんなさい…、あの私は大丈夫なので…先にー…」

何でこいつは…

JH「大丈夫じゃないでしょ?今日の昼だって泣きながらコートも着ないで3時間も屋上にいたじゃん!大丈夫な人はそんなことしないよ!」

怒るようにそう言えば、なまえはまた小さくごめんなさいと謝った。

重い空気が流れる。
きっとここに居る皆んな、なまえに何があってもどうなってるのか知りたいはずだ。

俺だって真実を知りたい。
ただ、今聞いていいのか分からない。

DK「僕先戻ってるよ!スングァニとディノも行こ。」
DN「で、でも!」

ディノはマンネのくせに正義感が強い。
いつもとはなまえを見て、助けなきゃって本能が働いてるんだと思う。

「ディノさん…、ありがとうございます。私は
大丈夫ですから、先に行っててください。」

鼻声でディノの優しく伝えたなまえは、ほんの少しだけ微笑む。

…そんな顔出来るんだな。

DN「分かった…。」
SG「無理しないでね。」

車内には俺、ボノニ、そしてなまえの3人だけになった。




ノベルに戻る I Addict