【02 ワンピース ーなまえー】

「…ねぇ、本当にこれで外に出ろと?」
『うん、私の持ってるクラブ用の服の中ではおとなしい方だよ?』

いや、そうかもしれないよ。
確かに前にクラブに行った時は、皆んなセクシー過ぎて女の私から見ても目のやり場に困ったくらいだ。

それに比べれば、私に着せられたワンピースは大人しい方なのかもしれない。
でも、ちょっと屈めば下着が見えそうなくらい短いスカートに、胸も開きすぎだし…。

『なまえ、めっちゃ似合ってるよ!てかあんたスタイルいいよね。』

ユラがマジマジと人の体を見るから恥ずかしくて体を隠す。
全然スタイルなんて良くないのに。

『クラブに入っちゃえば気にならないよ!ご飯もあの辺で食べればこんなのいっぱいいるし!さあ、諦めるのよ!』

さすがにこのままご飯を食べに行くのは恥ずかしくて、カーディガンを羽織ってスビンの車に乗る。

『車で来たってことは飲まないの?』
『飲むに決まってんじゃん?代行にでも頼むよ!じゃあ出発!』

車を走らせ江南に向かう。
週末だからなのか、いつもなのか、あまり来ない私には分からないけれど、人が沢山いる。

しかも皆んな、ご飯の後はクラブに行くであろうセクシーな人が多い。

「うわぁ…」
『なまえ?どうした?』
「いや、今歩いてた女の子、お尻出てたからびっくりして。」
『ここじゃ普通だよ。あ、ご飯屋さんあったよ!』

少し雰囲気のあるおしゃれなお店、ゆったりとした音楽が心地良い。
私にはこういうお店の方があってるんだよな、なんて思いながら、ご飯を食べ軽くお酒を飲む。

『ヤー!ユラ!あんたこれからクラブ何だから程々にしなよ!』
『分かってるって!私の酒豪ぶりを舐めてもらっては困るよ、スビン氏。』

そう、ユラは酒豪だし、スビンもユラほどではないにしろ強い。
それに比べて私は…弱い。

取り敢えず付き合いで甘めのカクテルを一杯頼んだけど、既にちょっとフワフワしてる。

『なまえはいいよなー!』
「何がぁ?」
『小柄で童顔でもうめっちゃ可愛いし、細いし、守ってあげたくなるんだよ!お酒弱いのも、可愛い!羨ましいぞ!』
『分かる!舌ったらずな韓国語も可愛いよなぁ…。てかあんた自分がモテないって思ってるけど、意外とモテんだからね?』

2人の顔がぐっと近づいて来る。
いや、これでも日本では平均身長なんだよ…。

「私からすれば2人の方が羨ましいけどな。」

私の言葉に2人は顔を見合わせて『何処がぁ?』と口を揃える。

「2人とも背高くて、それこそスタイルいいし、しかも美人じゃん?ノリも性格もいいし、文句なしじゃん?」
『あー!もー!なまえー!好きー!』
『私も好きだぞー!』

両方から抱きついて来る2人を、私も抱き締め返した。
2人と出会えたから、韓国の大学に進学を決めて良かったって心から思う。

『よっしゃ!そろそろオッパがDJする時間だから行こ!』
『うん!』

せっかく良い友達が出来たんだから、私も楽しまないと。

お店を出て歩いてクラブまで行く。
クラブに近付くと人気店だけあって、行列が出来てた。

『カンオッパ!お疲れさま!』
『おー!スビン!それにユラちゃんになまえちゃん!そろそろユジュンの時間だから、早く入って!』

ずるーいって声を背中に受けながらクラブに入る。
重いドアが開いた瞬間の、むわっとした熱気と、チカチカと光るライト、耳をつんざくような爆音。

やっぱり苦手だ…。

『取り敢えずお酒飲みにカウンター行こ!スビンは?』
『私も行く!』

逸れないようにユラとスビンと手を繋ぎながらバーカウンターへ行く。
スビンを見るなりバーテンダーさんは手際良くお酒を出す。

あ、これはテキーラってやつだな。
映画で見たことある。

『なまえはやめとこ、オッパ、なまえには甘めのカクテル作ってあげて!ユラ!飲むよ!』

2人で乾杯して一気に飲み干す。
うわぁ、私には無理だ。

3杯くらい続けてテキーラを飲んだ2人は、ようやくお酒が回ったようで『踊って来る!』と言って踊りに行ってしまった。

おー、みんな凄いパリピだなー。

作ってもらったカクテルを一口飲む。
あ、美味しい。

甘くて美味しいカクテルは、お酒の味なんて全然しない。
もしかしてお酒じゃないのかな?

ノンアルコールカクテル?
だったらもうちょっと飲んでも大丈夫かな?

『美味しい?』

バーテンダーのお兄さんが声をかけてくれた。

「はい!とっても!」
『違う味もあるけど、飲んでみる?』
「これお酒ですか?」
『………ね。』

周りがうるさくてバーテンダーさんの声は聞こえなかった。
だけど、慣れた手つきで作り始めるから、思わず見惚れてしまった。

『お待たせ。』

すっと出されたのは淡いブルーとピンクがマーブルされたドリンク。

「うわぁ、綺麗…。」
『ふふ、そんな反応してくれる子初めてだよ。』

思わず出た言葉にバーテンダーさんがくすくすと笑うから、何だか急に恥ずかしくなった。

「あの、すみません…。」
『いやいや、嬉しいんだよ。だって見てよ、みんな酔えればそれでいいって感じじゃん?だから俺がどんなに綺麗なドリンクを作ってもすぐ飲み干してフロアに出ちゃうんだ。』

…確かにそうかも……。
皆んなお酒を頼んでも、グラスには目もくれず、グッと飲んで踊りに行ってしまっている。

「見ないなんて勿体無いですね!こんなに綺麗なのに!」
『ふはっ!ありがとう!えっと、なまえちゃんだっけ?スビンの友達の!俺はジェシー。よろしくね!』

カウンターからスッと差し出された手はとても綺麗で、私もそっとその手を握った。

「よろしくお願いします。」

ずっとバーカウンターにいる私にジェシーさんは、手が開くたびに話しかけてくれた。
最初はつまんないなって思ってたけど、ジェシーさんのおかげで、少し楽しいなって思った。

まあ、でも音楽が大きすぎて声を張らないといけないのは辛いんだけど…。

スビンとユラはたまに喉を潤しに戻って来ては、またフロアへと戻る。

『なまえちゃんは踊らないの?』
「…踊るように見えます?」
『いいや、見えないな。その服も、なまえちゃんのじゃないでしょ?』

私が着てるワンピースを指さして微笑むジェシーさんにコクリと頷く。

『やっぱり。これからの時間帯、お客さんの酔いも回り始めるから気を付けてね?俺もずっと見張っててあげれないからさ。』
「大丈夫です!ありがとうございます!」

さすがに自分のことぐらい自分で出来る。

未だにお酒なのか、ノンアルコールなのか分からないドリンクを飲みながらフロアを見つめる。

あ、ユラとスビン男の人と踊ってるじゃん。
楽しそうに踊ってる2人と目が合って、おいでと手招きされたけど、笑顔で首を振った。

さすがにこの人混みの中に入る勇気は私にはない。

このドリンクにお酒入ってる聞こうかな?

「あの、ジェシーさー…あれ?」

さっきまでカウンターにいたはずのジェシーさんが居なくなっていて、代わりに違うバーテンダーさんが立っていた。

「すみません!あの、ジェシーさんは?」
『ジェシー?ジェシーならVIP席に呼ばれたよ!おかわり?』
「え、いや、大丈夫です!ありがとうございます。」

VIP席なんてあるんだ。
どこにあるのか知らないけど…。

さて、本格的話し相手も居なくなってしまった。
いや、そもそもジェシーさんも仕事中だし。

『お姉さん何してるの?』

『お姉さん!ちょっとー!お姉さん!』
「うわっ!」

急に椅子がグルリと回転した。
暗闇の中に男の人の顔が映る。

『俺と踊ろ?』
「…え、ちょっ、待ってくださー…。」
『いいから!行こ!』

半ば強引に腕を引かれる。
助けを求めてスビンとユラが居た辺りに視線を向けたけど、2人は見つからなかった。




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