【03 救世主 ーなまえー】

『お姉さん可愛いね、名前は?』
「え、あの…なまえです…。」

腰に手を回し体をグッと密着させる男の人からはアルコールの匂いがする。
皆んな飲んでるし当たり前か…。

『なまえって日本人だよね?俺ドンヒョン、よろしくねー。』

ぐいっと顔を近付けてくるドンヒョンさんから、反射的に体を逸らす。

『あー、なまえまだ飲みが足りないよ!よし、飲もう!』
「え、いや、あの!」

ドンヒョンさんに手を引かれ再びバーカウンターに戻る。
ジェシーさんが戻って来てるかもと淡い期待をしたけど、まだ戻って来てないようだ。

『テキーラ4つね。』

え、テキーラ?しかも4つ?
この人そんなに飲むの?

さっきユラとスビンが飲んでたテキーラ。
この小さいグラスのテキーラを飲んだ後、ライムをかじってた。

『はい、これはなまえのね。』
「え?私も飲むんですか?」
『当たり前じゃん!ほらほら!』

この人はかなり強引だ。
いや、韓国の人は日本人より強引な人が比較的多いけど、その中でもこの人はトップクラスだろう。

「ごめんなさい、私お酒弱いのー…」
『大丈夫!酔ったらお友達呼んであげるって!ほら!飲も!それとも俺に飲ませて欲しい?』

グイッと顔を近付けて私の顎を掴み、ニタリと笑うドンヒョンさん。

「1人で飲めます!」

ドンヒョンさんの手からテキーラが入ったグラスを奪い、一気に飲み干す。

『お!いいねー!』

熱い、喉も体も焼けるように一気に熱くなる。

『俺この曲好き!踊ろ!』
「いや、待ってください。」

今踊ったりなんてしたら酔いが回る。

『これ一緒に踊ってくれたら休ませてあげるよ。ね?だから行こう。』

これ踊ったら座れるの?

「…約束ですよ?」
『うん、約束。』

ドンヒョンさんに手を引かれ再びフロアに戻る。

フロアの熱気なのか、お酒のせいなのか、それとも両方なのか、分からないけど熱いし、頭がフラフラする。

『おっと、ふふ、大丈夫?可愛いねー!』

よたった私の腰を支えながらドンヒョンさんが微笑む。

だめだ、もう立ってられない…。
早く曲が終わってほしい。

『なまえは彼氏いるの?』
「ふぇ、彼氏なんて、いないですよ…」
『こんなに可愛いのに勿体無いなぁ。俺がもらっちゃお。』
「…ん?今なんて……」

気付けば曲が変わっていた。

『座りたい?』
「…うん…はぁ…はぁ…」

ドンヒョンさんに手を引かれ、カーテンとソファーがある席に連れてってもらう。

『はい、座って。』
「…はぁ…ありがとう、ございます……。」

ドンヒョンさんは私の隣にピッタリと張り付いて座ると、私の首に顔を埋める。

「…えっ…あの、ドンヒョンさん…やめてく…やめてくださー…」
『無理。』

…え?嘘でしょ……。
ドンヒョンさんが私の首筋から顕になってる鎖骨、そして大きく開いた胸元へ顔を埋める。

待って…、やだ…。
こんなところで、好きでもない男に抱かれるなんて…。

「…ドンヒョンさ…ん……やめてくださ…い……」

恐怖と後悔で声が震えてる。
ゆっくりと顔を上げたドンヒョンさんは、私の顔を見るとまたニタリと笑う。

『…それ、誘ってるようにしか見えないんだけど。』
「…え、や、ちがっ…」

唇を奪われた。
キスは初めてじゃない。

でも…、いやだ…。
涙が溢れて来て視界が歪む。

『泣かないでよ、すぐ気持ちよくなるって。』
「…や、やだぁ……」

胸元に顔を埋めながら、ドンヒョンさんの手は私の太ももを撫でる。
ワンピースの肩紐がゆっくりと降りて行く。

「…やだ…、やめて……おねが……」

ギュッと目を閉じる。
もう無理だ、私はなんてバカなんだろう…。

ショーツに手が掛かる。
もう、諦めるしかないんだ…。




「はい、ストーップ。」
『あ?何だよ、これからが良いところなんだから邪魔すんなよ。』

ドンヒョンさんの手が止まって、不機嫌な声が聞こえた。

恐る恐る目を開けると、男の人の姿が涙で滲む視界にぼんやりと映る。

誰なのかなんて分からない。
でも、助けて欲しかった。

「…助け…て…」
「うん、勿論。君はヒョンへの誕生日プレゼントに決めたからね。」

…え?何を言ってるの?
ヒョンへの誕生日プレゼント?私が?

『おい、お前何言ってんだよ!これは俺の女なー…え?』

フロアのライトが激しく点滅した。
その瞬間、男の人の顔がはっきりと見えた。

…え、嘘でしょ……?
私のよく知った顔に見えて、思わず息を呑む。

いや、でもあり得ない。

「出禁になりたい?」
『…嫌です。』
「じゃあこの子じゃなくて他の子にしてね。」

男はコクリと頷くと、逃げるように私の上から退いてフロアに出て行った。

…よ、良かった……。

「…間一髪かな。大丈夫?」

ゆっくりと近付き、さっきまでドンヒョンさんが座ってた場所に腰を下ろす、私を救ってくれた人。

「…ありがとう、ございました……。」
「うん。服直そうね。」

ずりさがったワンピースの肩紐を整えて、怖かったねと私の頬に伝う涙を親指で優しく拭う。

「ちょっと俺に付き合ってくれない?」

だめかな?なんて首を傾げた瞬間、フロアのライトがまた激しく点滅して、男の人の顔が再び照らされる。

…嘘……。
こんな至近距離で見間違える訳がない。

ライトが点滅してまるでスローモーションみたいに見える。

間違いない、私を助けてくれたのは…
私の推し……



キム・ミンギュだ…。




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