【04 プレゼント ーなまえー】
「立てる?」
「…あ、はい……。」
立ち上がったミンギュさんに続いて、私も立ち上がろうとした。
だけど、さっきの恐怖と酔っているせいでふらっと体が揺れる。
「危ないなぁ、お酒弱いのにテキーラなんて飲むからだよ?」
「…ごめんなさい……。」
ミンギュさんの大きな手が私の体を支えてくれる。
それだけで、余計に酔いが回りそうだ。
でも、何で私がテキーラを飲んだことを知ってるんだろう…。
「名前は?俺はミンギュ。」
「え、あ、なまえです、みょうじなまえ。」
日本人だねと優しく微笑むミンギュさん。
知ってます、あなたがキム・ミンギュだってこと!
信じられない。
こんなに間近で推しの笑顔が見れるなんて…。
「なまえちゃん。」
「…ん?」
名前を呼ばれゆっくりと顔を上げると、ミンギュさんと目が合う。
お酒も入ってるせいで心臓の音がうるさい。
「そんな可愛い顔して、潤んだ目で男見たらそりゃ襲われちゃうわ。誘ってるようにしか見えないもんなぁ。」
「…え、や、あの…そんなんじゃ…、ごめんなさい…。」
誘ってるつもりなんてさらさら無い。
ましてや、私なんかがミンギュさんを誘うなんて、そんな烏滸がましいことできる訳がない。
謝りながら俯けば、頭上からミンギュさんの笑い声が聞こえる。
「…こんな素直な子に会うの久し振りだわ。よし、行こっか。ってフラフラだね。」
「だ、大丈夫です、歩けます。」
なんて言ってはみたものの、正直頭がぐわんぐわんしてる。
「嘘つかないの。ちゃんと捕まっててね。」
「ん?…うわっ、え!?あ、あの!」
「暴れたら落ちるよ。よし、バレないうちに行こ!」
あろうことかミンギュさんにお姫様抱っこをされたまま、私はソファーのある場所から連れ出された。
バレたらマズイんじゃないかと思ったけど、皆んな酔ってるし、暗いしで、ミンギュさんに気付く人は居なかった。
怖い顔のスタッフさんらしき人が立っているドアから階段を登る。
ドアが閉まると、フロアの音が少し静かになった。
「…あの、どこ行くんですか……?」
「VIPルームだよ。」
VIPルーム?ジェシーさんが行ったって言う部屋?
階段を登った先に、またドアがあってその前にも怖い顔の男の人がいた。
そのドアがゆっくりと開く。
「おい!お前何急にフロア出てってんだよー…って誰その子。」
…え?
…何ここ。
しかもなんかほぼ裸のセクシーで綺麗なお姉さんも居るし…。
…あぁ、なるほど。
この人達はきっとドールだ。
やっぱり噂は本当だったんだな…。
「こら!ミンギュ!聞いてんの!?」
てか、何より今ミンギュさんに怒ってるのはホシさんじゃん…。
「なまえちゃんだよ。」
「いや、なまえちゃんだよ。じゃねえーよ!バレたら危ないだろ?」
「でもバレなかったじゃん!はい、なまえちゃんはちょっと座ろうね。」
よいしょっと私をソファに降ろし、テーブルの上にあったシャンパンを一気に飲み干す。
「ヒョンは?」
「トイレ。てか、何で連れて来たんだよ!その子どう見ても一般人だろ?」
ホシさんは私が来たことに対してものすごくご立腹のようだ。
「だねー。でもなまえちゃんは大丈夫だよ。」
…何が?
何が大丈夫なの?
聞き返したくても頭がフラフラしてて、上手く言葉が出ない。
ボーッと大きなガラス窓を見ると、フロアが一望できた。
あ、ユラとスビン見つけたー、いつ帰るのかなぁ…。
さっき私を襲いかけた男は既に違う女性とイチャイチャしてる。
…そう言えば私、あの人にキスされたんだった…。
思い出すと自分の唇をもぎ取ってしまいたくなる。
「…あの……。」
「ん?どうしたの?」
「これ、一杯頂いていいですか?」
私はテーブルの上にあるシャンパングラスを指差した。きっと高いものだろう。
でも、飲んで全てを忘れたい…。
「いいけど、なまえちゃんお酒弱いじゃん。ヒョンに会う前に潰れた困るんー…」
「…忘れたいんです、さっきの男の人のこと……。」
ギュッと拳を握ると、ふわっと優しい温もりに包まれた。
さっきの男とは違う、優しい温もりに、少しだけ香る香水の匂い。
ずっとこうしてくれたらいいのになんて、そんな事を思ってしまう。
『あー!ミンギュー!ミンギュはこっちでしょー!』
鼻にかかった、女の人の声がする。
ユラ、私も無理かもしれない。
推しに目の前でドールになってって頼まれたら、断れないよ…。
「そうだよね、ごめんね。もっと早く行けなくて。飲んで忘れる?それとも…上書きしようか?」
温もりが離れたと思ったら、ミンギュさんの大きな手が首に回って綺麗な顔がゆっくりと近付いてくる。
「…や、あ、あの…」
「ごめんごめん、俺のじゃないからね。上書きはヒョンに頼むよ。はい、どうぞ。」
「…あ、ありがとう、ございます。」
あのままミンギュさんにキスをされるのかと思った。
ミンギュさんからグラスを受け取り、一気に飲み干し、ドキドキと大きな音を立てる心臓を抑える。
さっきのテキーラほどではないにしろ、お酒の弱い私にとってこれだけで十二分に酔いが回る。
「ミンギュ、それ誰?」
背後から低い声がしてミンギュさんと同じタイミングで振り向いた。
うわぁ……こっちも、本物だ…。
私たちの背後に立っていたのは、ユラの推し、ジョンハンさんだった。
テレビで見るよりも実物の方が男らしく見える。
「なまえちゃんだよ。」
「だからなまえちゃんだよ、じゃなくて、何でその子をここに連れて来たんだってさっきから聞いてんの!」
痺れを切らしたように言うホシさんと同じくらい私だってここに連れて来られた理由が知りたい。
そう思ってると、さっきと同じようにまたミンギュさんにお姫様抱っこをされる。
「…え、あの、ミンギュさー…」
「ヒョン、誕生日おめでとう。はい、プレゼント。」
私をジョンハンさんに手渡すミンギュさん。
「…え?」
「はぁ?」
小さく驚く私の声と、ホシさんの驚いた声が重なる。
ジョンハンさんはミンギュさんから受け取った私を、軽々と持ってる。
「…え、あ、あの、重いんで下ろしてくー…」
「重くないからちょっと黙ってて。」
「…すみません……。」
ジョンハンさんは私を見下ろした後、ゆっくりとミンギュさんを見上げる。
「この子が俺へのプレゼントなの?」
「そうだよ。ヒョンにピッタリでしょ?」
…いや、待ってどう言うこと?
さっきもミンギュさんは私をプレゼントだと言ってたけど、意味が分からない。
もしかしてこれは夢?
酔っ払って帰って寝てるの?
だとしたら早く目覚めろ自分!
「嬉しくない?それなら俺がもらうけど?」
ミンギュさんの言葉にジョンハンさんが腕の中にいる私を見下ろす。
「…好きにしていいんだよな?」
「ん、まあ程々に?」
…え、待って、意味が分からない……。
これから私に何が起こるの…?
「ミンギュ、ありがとう。」
「どういたしまして!帰る時呼ぶねー!」
ジョンハンさんは私を抱き抱えたまま、VIPルームの奥へと私を運んだ。
ねぇ…、私はこれからどうなるの…?
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