【act.07 なまえ】
ジアさんが私のスマホを持って来れたおかげで、私は自分の現状を知ることが出来た。
私のはSEVENTEENと言うグループで紅一点としてデビューしたこと。
メンバーが13人もいる事。
カムバックショーケースに向かう途中で、アンチに刺された事も。
入院した日から、ジアさんとミンギュさんが毎日お見舞いに来てくれている。
他のメンバーもたまに来てくれる。
でも、私が刺された時、ミンギュさんと一緒に私の傷を抑えててくれたスングァンさんとは会えていない。
衣装汚しちゃって謝りたいのにな…。
記憶を無くした私のために、皆過去の思い出を話してくれる。
映像や写真を見ながら、この時はあーで、この時はこうでって。
私がどれだけ大切で、大事なメンバーかも皆んな一生懸命伝えてくれた。
それでも私の記憶が戻ることは無かった。
私のスマホの中にも、皆んなとの写真や動画が沢山あって、人見知りの私がよくこんなに仲良くなれたなってちょっと意外でもあった。
自分たちのライブ映像を何度観ても、現実味は無くて、本当に自分なのかなって思ってしまう。
皆んなよく笑う、いいグループだってことは伝わって来た。
でも、思う。
ここに私は必要ないんじゃないかなって。
何をアップしても必ずある私へのアンチコメント。誹謗中傷。
私が居なければもっとレベルの高いパフォーマンスが出来る。
女は必要ない目障り。
そんなコメントも結構あった。
“何でジアが辞めた時カウルも辞めなかったの?要らないじゃん。”
…え?ジアが辞めた時?
ジアって、私の知ってるジアさん?
でも過去の映像を見ても女性は居なかった気がするんだけど…。
コンコンと控えめにドアをノックする音が聞こえてスマホの画面を閉じる。
「…どうぞ。」
『なまえ!今日はなまえの好きなドーナツだよ!これスングァナも好きで2人で隠れて食べて良くドンジェオッパに怒られてたんだよ?』
そうなんだ。
「ありがとうございます。」
ドーナツを受け取り、箱を開けると可愛らしいドーナツがたくさんあった。
うん、美味しそう。
『今は誰にも怒られないし、一緒に食べよ!』
「はい。」
SEVENTEENのライブ映像を流しながら、ドーナツを食べる。
ああ、やっぱり何度観ても私は必要ない気がする。
紅一点なんて…、あ、そうだ。
「…あの、ジアさん。」
『ん?なーに?』
「一つお伺いしてもいいですか?」
私の問い掛けに何よ改まって!なんて笑うから、私はさっき見たコメントのことを聞いてみることにした。
「もしかして、ジアさんもSEVENTEENでしたか?」
『…え?な、何で?』
明らかに動揺してるジアさんを見て、あの書き込みは本当だったんだと確信する。
『なまえがこんな事になったのは、私のせいだよ。本当にごめん。』
「え?いや、これはジアさんのせいじゃ…。」
『私は逃げたの。アンチが怖くて。』
ジアさんは淡々と、時に言葉を詰まらせながら当時の事を話してくれた。
ジアさんは非公開練習生で、SEVENTEENのメンバー候補だったこと。
デビューがほぼ確定してたが、私へのアンチが増えるのを見て、自分にもアンチが出来ることが怖かった事。
『…私が辞める時、なまえも辞めるって言ったの。オンニが辞めるなら辞めるって。でもね、私が止めたのよ。なまえはアイドルになるべく存在だし、SEVENTEENに必要だって思ったから。
アンチからも私とアイツらで守るって決めた。なまえの側で見守りたくてメイクの資格を取ったの。
私が辞めなければ、アンチが全員なまえだけにいくことは無かったのに…。私が辞めたから…。ごめんね…なまえ、ごめんなさい。』
そこまで言って泣き出してしまったジアさんを、私には責める事など出来なかった。
ジアさんに止められても、辞めることなんて出来たはず。
それでも私はSEVENTEENになることを自ら選んだんだ。
「謝らないでください。きっと私自身がSEVENTEENになることを選んだんです。だからジアさんのせいではありません。」
『それでも後悔してるの!辛そうに笑うなまえを見て、ずっと後悔してたの…。』
辛そうに笑う?
私はSEVENTEENに居て辛かったのかな?
今となっては分からないや…。
「…私はSEVENTEENで辛かったのでしょうか?幸せではなかったのでしょうか?」
『そ、そんな事ないよ!幸せな時もいっぱいあったはずだよ!』
そうだよね、幸せな時もきっとたくさんあったはずだよね…。
「私SEVENTEENの映像見てて思ったんです。」
『…何を?』
「…私はSEVENTEENに必要ないなって……。」
ステージ上ではそれなりに見えてる。
けれど、オフショットを見れば私が足を引っ張ってるのは明らかだった。
特にダンス。
皆んなと合わせるのに苦労してる様子が、何回も映されていた。
「…ずっと私が皆んなの足を引っ張ってたんです。いつもメンバーに迷惑かけて…、私が居なければアンチなんて存在しないし、彼らももっと上を目指せると思うんです。」
『え、何言っ…』
「記憶が無くなったのは、神様からのお告げなんじゃないかなって。お前はSEVENTEENに要らな…」
私の言葉を遮るように病室のドアが勢い良く開いて慌てて顔を上げた。
そこには、怒ってる表情のミンギュさんと、大粒の涙を流しているスングァンさんが居た。
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