【19.大丈夫は嘘〜JH〜】
体育祭も終わり、後10日もすれば夏休みに入る。
夏休みとは言え、俺らはきっとほぼ毎日練習だけど。
あっちぃ〜。
ハンドファンは持ってるけど、緩い風が来るだけで全然涼しくない。
自販機で飲み物を買って、教室に戻ろうと踵を返す。
…あ、あれなまえの友達の…えっと確か…ユリちゃんだったっけ?
売店から出て来たなまえのお友達は、普段から色白な顔をさらに青白く、どこか急いでるようにも見える。
それにいつも周りで騒いでるなまえの姿も見えない。
嫌な予感がして、友達に駆け寄る。
JH「ユリちゃん?」
後ろから声を掛ければ、驚いたように振り向き、一瞬ばつの悪そうな表情を浮かべる。
YR『ジョンハンさん。こんにちは。』
なまえがユリはお嬢様だって言ってただけあって、挨拶一つとっても凄く丁寧だ。
JH「急いでるみたいだけど大丈夫?てか、なまえは?」
なまえって名前を出した瞬間、ユリちゃんの眉がピクッと反応したのを見逃さなかった。
きっとなまえに何かあったんだ…。
ポケットからスマホを出してカトクを開き、ミンギュに電話を掛けようとした手を、ユリちゃんに止められた。
YR『あ、あの!すみません!でも、ミンギュ君には言わないでと…』
JH「なまえに言われたんだね。」
コクリと小さく頷くユリちゃん。
それだけでなまえに何か良くないことが起こった事は安易に想像が付く。
JH「何があったかはなまえに直接聞くか…。案内して、なまえのとこまで。」
YR『…分かりました。』
なまえは屋上に続く階段の踊り場に居た。
「ねぇ、ユリ〜これ化粧でどうやって隠したらい…げ!ジョンハン氏!」
俺に気付き慌てて髪の毛を口の周りに巻きつけるなまえよりも、先に左の頬が真っ赤に腫れているのが目に入った。
JH「隠してももう遅いよ。てか、げ!はショック〜。」
「え、あ、やー、すみません…。」
きっと誰かにやられたんだろう。
よく見れば膝も擦りむいてる。
結構やられたのかな…。
てかこれが初めてなの?それとも俺らが知らないだけだった?
考えてる途中でチャイムが鳴る。
「ユリ!ありがとう!大丈夫だから教室戻って!ジョンハン氏も、お戻りください!」
YR『うん、後で来るね!これ、置いておくね!』
「うん!ありがとう!」
ユリちゃんがなまえを心配しながら教室に戻っていく。袋の中には水とタオル、消毒液が入っていた。
「ジョンハン氏も戻っ…」
JH「派手に転んだね〜。」
「え?」
タオルを床に敷き、なまえの膝に水を掛ける。
JH「誰にやられたの?」
「いや、派手に転ん…」
JH「誰に、やられたの?」
水を掛ける手を止め、なまえの目を真っ直ぐに見つめて聞く。
「…キムミと、同じクラスの…子です…。」
JH「あぁ…背の高いピンクのロン毛の子でしょ?」
「え!?ジョンハン氏は、エスパーなの!?」
やっぱりな。
ミンギュと同じクラスのソンヘジンだ。
確かそいつもどっかの練習生してて、ミンギュが言い寄って来てウザイって言ってた。
JH「いつから?」
「何が?」
JH「こういう事されるようになったのは、いつから?」
俺の予想だと手まで出してくるようになったのは最近だろう。
でも、なまえのことをよく思ってないんだろうなってのは、第三者の俺が見ても分かるくらいだった。
ミンギュがいるところには必ずソンヘジンも近くにいたから。
でもミンギュの隣はいつもなまえで、凄い顔でなまえを見てた。
「こんなバイオレンスなのは、体育祭の後からかな?まあ、流石に今日のはちょっとびっくりしたけど!」
そう言って呑気に笑ってるなまえ。
JH「笑ってんなよ。沁みるぞ。」
「うわっ!つー!!!沁みる!」
JH「こら!バタバタすんな!」
いや、今俺ミンギュみたいになってんじゃん。
JH「絆創膏は?」
「持ってる!」
カバンから出したのは、いつだかミンギュが手のひらにつけてた子供用の絆創膏。
JH「それいつだかミンギュも同じの付けてたわ。確か冬くらい。」
「それたぶん私がつけたやつ!初めて会った時に怪我させちゃってコンビニで買ったんだよー!」
あの時のキムミはイケメンだったよなんて、そんな昔でもないのに凄い昔のことのように話すなまえ。
JH「貸して、貼ってあげるから。」
「F4にそんなこと!」
JH「はい、黙る。」
「…なんか、キムミみたい。」
いや、違うよ。
俺がミンギュみたいなんじゃなくて、なまえがそうさせてるんだよ。
JH「で?ミンギュには言わないつもり?」
「もちのろん!」
JH「何で?」
なまえは鏡で赤くなった自分の頬を見ながら呟く。
「そもそも誰にも言うつもり無かったんだよ!ユリにもね〜!まあ、バレてしまったけど!」
こう言うのを誰にも言わないのはよくある話で、でも言わないともっと酷くなるのもよくある話。
JH「心配かけたくない?」
「うん。キムミだけじゃなくて、出来れば誰にも心配かけたくないなーって!」
へへっと笑うなまえ。
その笑顔はどこか悲しそうで、ズキっと胸が痛くなる。
JH「心配かけるのは悪い事だと思ってる系?」
「思って…る系だな。」
JH「何も悪い事じゃないのに。てか、そもそもそんな大きな傷つけてたらすぐバレるよ?」
だから今化粧品で隠そうとしてんの!って…、無理があるだろ。
「ジョンハン氏…、お願いだから…ミンギュだけには言わないで…。」
初めてなまえの口から聞いた、ミンギュ呼び。
なまえはいつも笑ってる。
本当にいつも笑ってるけど、今の笑顔は、やっぱりいつもの笑顔ではない。
JH「なまえって同じ歳だよね?でも学年は俺より下だから後輩だよね?」
「ん、ま、まあ。」
JH「ハニオッパ。」
「…は?」
ポカンっと口を開けるなまえ。
JH「は?じゃなくて、これらからハニオッパって呼んでよ。」
「え、や、普通に無理。」
JH「おい、普通に無理って何だよ!傷付くわ!」
あははと笑うなまえはもういつものなまえで、ちょっとだけ安心する。
「隠れたかな?」
JH「まあまあかな。」
「これ以上は無理だな…。」
どうしようと悩んでるなまえに手を差し伸べるつもりは無い。と言うか、ミンギュなら薄々勘付いてるんじゃないかと思う。
JH「で?どうすんのこれから。」
「え、今日の予定?」
JH「俺はそれを聞いてどうすんの?今日の予定じゃなくて、ソンヘジンのこと!」
腕を組んでそうだなぁと考え込む。
こう言うのはミンギュからはっきり言うのが1番得策だと思う。
それか、俺らか。
でも、なまえの性格的にそれは絶対に望まないんだろうな…。
「キムミと…F4と疎遠になる……。」
JH「…は?お前それ本気で…言ってる?」
俺の問い掛けになまえは答えなかった。
「まあ!大丈夫!よし!今日はもう帰るかな。」
大丈夫じゃないくせに、大丈夫って笑うなよ…。
本気で疎遠になるつもりなの…?
「今日もダンスでしょ?」
JH「あ、うん、そうだね、ダンス。」
「そっか、頑張ってね!傷手当てしてくれてありがとう!ハニオッパ〜!」
JH「え!?」
驚く俺に悪戯に笑って、なまえはヒラヒラと手を振って帰っていく。
一瞬、なまえともう会えなくなるんじゃ無いかと嫌な予感がした。
JH「気のせいだよ…ね…。」
自販機で買ったイチゴウユはもうすっかり緩くなっていた。
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