【03.ビーアンビシャス〜WZ〜】

ミンギュが助けた女。
一言で言うと、すげーぶっ飛んだ女。

ずっと道端で座り込むわけにもいかず、コンビニであったかい飲み物を買って近くの公園のベンチに3人で並んで座る。

どうやら学校に転入手続きをした後、親父さんに見捨てられ、適当にバスに乗り、彷徨ってたらここにいたらしい。

バカだろこいつ。

2日前に、親父さんの都合で日本から引っ越してきたばかりで、住所も知らないし、スマホの充電も切れたと。

親子揃ってバカなのかこいつの家は。

「すみません、イケメンを傷物にしたあげく、天使ちゃんに飲み物までいただいてしまって。」
MG「その傷物ってやめて。なんか嫌。」
「ふははは!」

韓国語は一応話せるようだけど、言葉のチョイスに癖はあるし、早口だと聞き取れないし、読むのもくそ遅いらしい。

そして、なんだその悪役みたいな笑い方。

WZ「で?どうすんの?」
「家の近くに何があったか必死に思い出そうとしてるんですよ。そしたら轢かれかけましたね!って痛い!」

へへっと笑う女のデコにミンギュが思いっきりデコピンしてる。
あれ、結構痛いだろ、笑

MG「轢かれかけましたね!じゃねぇよ!このバカ女!ボーっと歩くなよ!」

おー、ミンギュが強く出るなんて珍し。

「ごめんよ、イケメン。」

てかさっきから、イケメンとか、俺のこと天使ちゃんとかなんだよ。

WZ「お前名前は?」
「うぇ!?いや、私なんてそんなイケメンと天使様に名乗るようなもんじゃ…ぐぇ!」
MG「なに?名前は?」
「なまえです、みょうじなまえ!」

ミンギュが女の頬を潰すから、変な顔になりながら名前を名乗った。

なまえか。

WZ「俺はイジフン。そっちの大型犬はキムミンギュ。」
MG「ちょっ、ヒョン!大型犬って何さ!」
「お手。」
MG「は?お前やっぱり轢かれてこい。」

ごめんなさいと誤るなまえにめっちゃ笑ってるミンギュ。
なんか、さっき会ったばっかりなのに昔からこうしてるみたいな雰囲気だな。

MG「で?思い出したの?家の周りに何あるか。」
「そ!角にオリーブヤングがあって、それを右か左か、まあどっちか行くとだね、カフェがあるんだよ。その斜めこっち側のマンション!」

体で表現してるなまえ、いや言葉でいいじゃん。

WZ「カフェの名前は?」
「そこなんだよ!ジフンくん!」

どこなんだよ…。

「カフェの名前が確かなんか小洒落てて、“ア”から始まるはずなの!それで“ア”のつく単語を考えててたんだけど、出てくのがトキオ兄さんなのさ!」
MG「…は?」
「ビーアンビシャース〜わ〜が〜友よ〜冒険者よ、ビーアンビシャース、旅立つ人に〜勇者であれ〜!たたた、ビアンビシャース!だよ。知らんか?」

知らないだろ日本の歌だし。
それよりも俺が驚いたのは、こいつの歌だ。

WZ「お前歌歌ってた?」
「カラオケ得意よ!」
WZ「もういいわ…。」

え、何!?私何かした!?って慌ててミンギュに聞いてる。すげーミンギュに懐いてんじゃん。

MG「わがっだ、苦しい!離れろ!で!?歌はいいから、カフェの名前は!?」
「んー、あーん、あーんアンパンマンや〜さしい、き、み、はって痛いよ!イケメン!何でそんなにバイオレンスなのさ!」
MG「お前にだけだよ!」

いや、本当そう。
ミンギュは人見知りもしないし、誰とでも仲良くなれるけどどっちかと言えばミンギュが弄られ役なのに、そんなミンギュがいじり倒すなまえって何もんだよ。

「ぶー!ぶー!」
MG「豚かお前は!もう、ヒョンどうする?」
WZ「もう交番に届けるしか無いよな。」
MG「でかい落とし物だな。」

なまえはボケーっとすっかり暗くなった空を見上げてる。
今日は月が綺麗だな…。
なんか、いい曲書けそ。

「…今でも、愛を知らなくて愛を知らなくてなぜ、僕にはあの感情があの感情がない…ワットイズラブ…染められた、空の奥に僕は君は、沈んだ、鮮やかな夕暮れに〜見惚れながら〜」

また日本語の曲。
勿論曲は知らないけど、こいつが歌うと何故かすっと心に入ってくる。

純粋に綺麗な声だと思った。

MG「what is love?」
「お!お兄さん知ってます?この歌!?」
MG「いや、知らないけど、そこだけ聞き取れたから。」

まあ、そこだけ英語だからな。

「さーってと!イケメンと天使様にいつまでも甘えてる訳にもいかないし!帰りますか!」

そう言って勢い良く立ち上がるから、スカートがふわりと舞う。

MG「お前もうスカート禁止な。」
「無理だろ!制服スカートじゃん!」

確かに。

WZ「で、どうやって帰んの?家知らないのに。」
「…そうですね……、あ!スマホ貸してください!クソ親子に電話する!」

そうだよ、それだよ。なんで気づかなかったんだ?
俺らもなまえにつられてバカになった。

ミンギュがなまえにスマホを貸す。
親父さんは電話に出たようで、なまえがわーわー日本語で騒いでる。

「バカだろ!あー、うん分かった〜!はいはい、はいはい、わーったって!うっせぇ!じゃあね!」

ミンギュから借りたスマホをめっちゃ自分の服で拭いてる。

「ありがとうございました!カフェの名前はアンドロメダだって!なんか一つしかないからググって帰ってきてって言ってたんだけ…ちょっ!何!?イケメン!痛いって!」

話してる途中で、ミンギュがなまえの頬をまたむぎゅっと潰す。

MG「ヒョン、俺どうやらこいつと同じマンションらしいです。」
WZ「ふはっ!マジか!じゃあ連れて帰ってくれ!」
「よろしく頼む!」

何とも言えない表情を浮かべてるミンギュとは対照的に、なまえは嬉しそうで、なかなかのカオスだと思った。

WZ「じゃあな、ミンギュ。なまえはまた、いつか。」
「天使様!ありがとう!今日のことは死ぬま…ぐえっ、ちょっ、潰れる!」
MG「もっとそっち行け!じゃあね、ヒョン!」
WZ「おう。」

なまえを無理矢理バスに押し込み帰って行った2人に手を振る。
俺のバスもちょうど来た。

凄い女だったけど、歌は上手かったよな…。
あ、そう言えば俺も人見知りしてなかったか…。

本当、すげー女。





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