■ぶつぎり鵲くんちゃん。

《シンイチロー君救済編》
「やめろよ!!」

 伸ばした手が、相手のパーカーの裾に引っ掛かる。離すもんかとギュッと掴んで引っ張れば相手は体勢を崩したようで、振り下ろしたワイヤーカッターはシンイチロー君にかすりよろけさせはしたものの、直撃は免れた。
 ホッとしたのも束の間、相手は即座に対象を俺に変更したらしい。ぐるんと遠心力による勢いがかったワイヤーカッターが、俺の左側から結構な勢いで振り回される。いやこれ死ぬやつアカンやつ。躊躇なく狙われている頭部を咄嗟に左腕で庇ったけど、聞きたくない音が腕から聞こえてきた。

「……っ!?」
「ソーシっ!!」

 シンイチロー君が切羽詰まった声を上げている。暗がりで顔はよく見えない。
 そっちに一瞬気を取られたけど、もう一度振り上げられたワイヤーカッターに意識を戻された。ちょっと2撃目に耐えられる自信はない。後ろに跳ぶように避ければ、すかしたワイヤーカッターは地面にガツッと大きな音を立ててぶつかった。あれも当たったら絶対駄目なやつ!

「(まぁすでに腕がヤバいんですけど)」

 痛いとかの次元じゃない左腕に、もうこれ以上動きたくなかった。見てないけど、多分人生最悪の重傷だと思う。
 尚も俺を殴ろうとする目の前の相手にちょっと覚悟を決めた時、俺の背後から顔の横を通り過ぎた脚が相手を薙ぎ払った。──姉ちゃんだ。
 ぶっ飛んでいくパーカー男が店内を転がって止まるまでを眺め、ようやっと詰めていた息を吐く。安心からズルズルと地面に座り込んだ俺に、シンイチロー君が駆け寄ってきた。

「大丈夫か、ソーシ!」
「シンイチロー君……、いやこれだめぽ」
「は?っうわ、腕エグイな……」


《黒川イザナ遭遇編》
 いつも通り帰宅したら、玄関に靴が一人分多かった。大きさとデザインからして母親でも父親でもない。え、まさか姉ちゃんに家に遊びに来てくれるような友達が?ソワソワしながら靴を脱いで、うるさくならない程度に駆け足でリビングに向かった。

「おかえり」
「ただいま姉ちゃ、ん?」

 いつも通り挨拶を返して、予想の斜め上の光景に体が固まる。

「なんかいる!」
「なんかとは何だ、クソガキ」

 リンチに遭ってるところを助けたんだってさ。で、手当のために連れ帰ってきたんだって。どおりでイザナ君ボロボロだと思ったよ……。
 姉ちゃん?姉ちゃんは勿論無傷だよ舐めんな。

_ _ _
「もうさ、自分で家族作った方が早くない?産まれた子どもは自分と血が繋がった家族になるじゃん。女の人は、まぁ追々好きになってくってことで」
「それは女性側に失礼だと思う」
「じゃあ事前に話して了承もらえばいいよ」
「女を胎として見ているのはシンプルにクズ」
「どこの腐ったミカンのバーゲンセール。
 いやイザナ君の顔面見て?あの顔で“オレと家族作って”ってお願いしてみ?きっとホイホイ釣れるよ、母性強めのお姉さんが」
「犯罪臭がする」
「じゃあ“オレと家族になろう”は」
「普通にプロポーズ」

 どっと笑えば、イザナ君がドンッとテーブルを殴った。ふざけ過ぎたね、ごめんね、睨まないでね。ちなみに笑ったのは俺だけだから、睨まれたのも俺だけである。姉ちゃんだって掛け合いしたのに。

「そもそも義務教育中の人間にする提案としては不適当」
「だってイザナ君が、いいお兄ちゃんだったシンイチロー君なんかどうでもいいから血の繋がった家族が欲しいとか言うから……」
「……どうでもいいとは言ってねぇ」
「この土砂降りの中シンイチロー君捨ててきたんでしょ?」
「捨ててねぇ!」

 またドンッとテーブルが拳で叩かれる。耐久値減るからやめてもろて。


《柴家とは拳で語るしかない編》
「何そのケガ。そして後ろのボコボコのボロボロの大型獣」
「拳での語り合いの結果」
「姉ちゃん女の子なんだからもう少し生傷減らしてもらってもいいですか!?」


《ドラケン君男見せろ編》
 いつも通り隅っこに座って集会後の幹部クラスの雑談を遠目に見学をしてたら、終わると同時にドラケン君が俺の前に仁王立ちした。え、シンプルに怖。
 わけが分からず無言で見上げていると、ドラケン君が深刻そうな顔をしながら「話がある」なんて言うから、すわ山の養分にでもされんのかな、と思いつつ神社の裏までついて行った。他に誰もいない状況で向かい合って立つも、中々話し始めようとしない。珍しい歯切れが悪い様子に不思議がっていたら、決心した目で俺を真っ直ぐ見下ろした。……身長差的に見下ろされんの仕方が無いじゃんね。

「オレ、エマに惚れた」
「は?」

 俺は何の報告を受けているの?あんまりにも予想外な言葉に間抜けな顔を晒してしまったようで、ドラケン君が少したじろいだのが分かる。

「オマエには悪いと思ってる。でも惚れたもんはどうにも出来ねぇし、コソコソするより正々堂々戦った方がいいと思ったからよ」
「戦う……?」
「別にオマエと殴り合って勝ち取るつもりはねぇ。そもそも、そんな事でどーにかなるわけでもねーしな」
「???」

 もうドラケン君が何を言ってるのか分からない。
 頭一杯のハテナマークが顔にも出ていたらしく、そこでようやくドラケン君も何かがおかしいと察してくれた。お互いに首を傾げて向かい合う。ドラケン君の辮髪が揺れて現実逃避がてら引っ張りたくなった。しないけど。

「総志は、エマが好きなんだよな?」
「うん、好きだね」
「惚れてんだよな?」
「…………惚れてはないよ!!?
 あっ、そういう好き!?違うからね!ラブじゃなくてライクの好きだから!!」

 指差し確認されて、やっとこお互いの誤解に気が付く。俺は頭を抱えて天を仰ぎ、ドラケン君は片手で額を覆い俯いた。見える範囲の顔というか頭部が真っ赤なのでとてつもなく恥ずかしいんだろうなぁ。俺もドラケン君の立場だったら恥ずかしさで地面に穴掘って埋まってるもん。
 て、やべぇじゃん!ドラエマに横槍入れるモブとか俺はなりたくないんですけど!?誰だよそんなデマ情報流した奴!!
 そんな俺の疑問は、いくらか復活したドラケン君の「マイキぃっ!!」と言う怒鳴り声で解決した。テメェか万次郎。
 暢気に「なんか呼んだケンチン?」なんて言いながらひょっこり顔を覗かせたマンジローは秒でお縄に着いた。正しくはドラケン君にアイアンクローされてるんだけど。まったく痛くなさそうなのはドラケン君の優しさなのかマンジローの頭が鉄なのかどっちだろうな。

「総志はエマに惚れてるんじゃねーのかよ……」
「えー、だってコイツ昔からエマに可愛い可愛いって言ってたから、てっきりそーだと思うだろ。オレ悪くねーもん」
「…………」
「睨むなドラケン君!俺のは慈愛だから!親愛!兄が妹に可愛いって言ってるよーなもんだから!!」

 ソーシは兄貴じゃねーし、とか正論は要らん!
 それでもドラケン君が納得してくれてないようなので、アイドルとかグラドルに対して可愛いって言ってんのと一緒!と叫んだら、エマをそんな目で見るんじゃねーと俺まで顔面を掴まれた。そうだね、例えが悪かったと俺も思うんだけど痛いんで離していただけると痛゛だだだだだっ!
 マンジローの頭部が鉄で出来てるが正解だったわ。

 とても悔しかったので、“ドラケン 男を見せろ!”のキラキラ応援団扇を一晩で作り上げて会う度に振ってやった。俺の頭はその都度潰されたけどやめてやらないんだからな!

「なぁなぁソーシ、オレにも同じよーなやつ作ってよ」
「え。マンジローも男見せるような相手見付かったん?誰?同中?」
「は?ちげーし、うざっ」
「シンプルに傷付く。シンイチロー君にはウザイとか言うなよ、更にウザく絡んでくるだろうから」
「この前泣き真似しながら抱き着こうとしてきたから殴った」
「遅かったかー」
「そんな事どーでもいいから、オレにもアレ作れよ」
「命令になったじゃん。何書けば良い?“マイキー 健やかに育って☆”とか?」
「何目線だよ」
「保護者☆」
「うざっ」
「つら。まぁ冗談はさておき、“マイキー バク宙蹴りして☆”とか?」
「バク宙蹴りってなに」
「えー……、出来るかな。あの枝狙うからちょっと離れてよ。そんじゃ、よいっ、しょっ」
「おー」
「やれば出来るもんだわ。まぁバク宙しながら蹴るだけなんだけど」
「よゆー」
「マジで余裕でやりやがるし。もうお前のは難しそうな足技の希望と“健やかに育って”で作ろ」
「だから何目線だよ」
「保護者だっつってんだろ」
「…………」
「…………」
「ドラケーン、ケンカしそうだから回収回収」
「おー。三ツ谷は総志を回収してけよ」
「オレ総志の保護者じゃねーんだけど」
「オレだってマイキーの保護者じゃねーよ」
「ケンチン!ソーシが!!」
「三ツ谷君!マンジローが!!」
「「はいはいはいはい」」
(((オトン/オカンだなぁ……)))


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