《あるかも知れない話》

 偉大なる航路グランド ラインは不思議で面白いことに溢れている。
 通常のコンパスは役に立たず、ころころと天候が変わる不思議な海。見たことのない動物や植物ばかりの不思議な島。出会う人間も面白く、今まで見たことのないような不思議な能力と魅力と夢に溢れている。
 そんな不思議人間たちの中の、数日前にポッと海上に現れて、パッと甲板の上から消えてしまった少女を、ルフィはぼんやり思い出した。

「あいつ、なんだったんだろうなァ〜」
「だから、おれが思うに『幽霊』ってやつなんだよ。ポッと現れて、パッと消えただろ?うん、あれは『幽霊』だ。きっと海難事故で亡くなった女の幽霊なんだ。忘れるにかぎる!」
「なんだったんだろうなァ〜」
「って聞けよ」

 船縁にもたれて海を眺めるルフィの言葉に青い顔したウソップが応えても、聞いてないのか納得できないから受け付けないのか、尚も少女のことを思い浮かべて首を傾げる。

「いつまでもぐだぐだ言ったって仕方ないでしょ。暇なら甲板の掃除か食料調達ついでに釣りでもしてなさいよ」
「でもよ〜」
「なによ」
「あいつからは面白そうな予感がしたんだよ!」

 航路を確認していたナミは、相変わらずの勘に従う船長の行動に呆れて溜息を吐いた。あんたが面白そうって思うことは、大概あたしたちにとっての大変なのよ。
 これ以上相手にしてられない、とルフィの相手をウソップに任せてナミは船内に戻った。頼まれたところで、ウソップの返答はやっぱりルフィの耳を右から左に流されるだけなのだけど。

 ゴロンとルフィは甲板に寝転がる。隣には言葉のやり取りを諦めて道具の手入れを始めたウソップが座り、視界の端では座った状態で壁に寄り掛かり居眠るゾロがいる。見える範囲にはいないけれど、ロビンもおそらく甲板の上でサンセットチェアに座りながら小難しい本を読んでいるだろうし、香ってくる匂いからサンジはキッチンで昼食の準備をしている最中で、チョッパーは部屋にこもって薬の調合中だろう。
 この中にあの少女がいたらを考える。きっとチョッパーの近くで小さく座りジッと眺めていたんじゃないか、と思った。あの少し吊り上がった目を爛々と輝かせていたんじゃないかなと。
 ししし、と思わず笑いがこぼれて、ウソップから胡乱げな視線が向けられたが気にしない。

「赤くてきれーな目だったなァ」
「ん?なに言ってんだよ、普通に茶色い目だったろ」
「ウソップこそなに言ってんだ?赤かっただろ?」
「いやいや。どう見たらあの茶色が赤く見えるんだよ」
「ん?おれの名前呼んだ時は赤かったぞ?」

 人の目の色がそんなコロコロ変わるかよ。そんな至極真っ当なウソップのツッコミが入るも、己が見たものに間違いはないと主張するルフィは口をへの字にして不満を隠さず声を上げる。

「なぁトムぅ!そんなやつだっているよなァ!?」
「……キミたちは本当に元気だね」

 ルフィの情けない声に呼ばれて、船内からひょっこりと顔をのぞかせたのは色白な肌に黒髪黒目の美男子だった。海賊船なんて似合わない、乗るなら船は船でも豪華客船の、それこそお貴族様の集まりに混ざっている方が似付かわしい、そんな気品をまとった美男子だ。
 トムは、トム・M・“ブラック”は、異なる世界から迷い込んだ迷い人である。
 御年71歳だが、迷い込んだ際に外見年齢が若返ったようで学校を卒業した頃の十八歳くらい。姪の娘と軽い喧嘩の末、軽い冗談のつもりで舟に乗せて海に流したらあれよあれよと沖に流れて行方不明となってしまったため、そんな姪孫を探しに海に出た。ら、そんな立場になっていた。
 世界を越えたことは、なんとなく「あ、世界が違うな」とその瞬間に感覚で捉えた。それくらい、トムは色々なことが色々な方面で色々と優秀な『魔法使い』なので。
 そんな世界渡りを知っているのはトム自身だけで、もちろん麦わらの一味は誰一人として知らない事実である。

 彼が麦わらの一味の船に乗っているのは、彼等に、乗っていた舟を木っ端微塵にされたからだ。なんでも海王類に船を襲われ、迎撃したルフィの拳によって吹き飛んでいった先にトムの乗った舟があり、ぶつかり壊れて沈めてしまったらしい。とんだとばっちりだった。
 咄嗟に姿現しで麦わら一味の船に移っていなければ、今頃どうなっていたことだろう。
 いきなり現れた男に警戒心を顕わにされたが、原因は麦わらの一味側にあるわけで。舟も航海道具も何もかも海に沈んでしまったが命があるだけましだよね、命以外は無くなって先行き不安しかないけれど、という、内容に遠回しな皮肉を交えて話し、目的の島もしくは新しい舟が手に入るまで乗せるという約束を取り付けた。
 そんなこんなで、慰謝料代わりに海賊船を渡し舟のように扱っているトムだが、新しい舟を買う予定も、目的地がないことも伝えていない。あえて言うなら孫姪がいる場所が目的地だ。どこにいるか知らないが。
 元々当てもない捜索だったので、運よく姪孫が見付かるまでは無賃乗船する心積もりでいたりする。誰かの世話になるのは、世話を焼かれるのは慣れたもので特に悪びれるつもりもない。学生時代の先輩後輩同級生、みんながみんなトムの世話を嬉々として焼いたものだったので。
 そんな考えに麦わらの一味が気付くのは、おそらくずいぶんと先の話である。

「その子はどうか知らないけれど、僕も目の色が変わるよ」
「ほんとか!?見せてくれ!!」
「今は無理さ。感情の昂ぶり……、そうだね、僕のことを怒らせることが出来れば見せられると思うけど」
「ばーか」「あーほ」
「ふふふ。小鳥の囀りかな?」
「逆におちょくられてんぞ、おれたち」

 いつの間に用意したのか優雅に紅茶を飲みながら小さく笑うトムに、ルフィもウソップもイッと苦虫を噛んだような顔をする。村にいた大様な年寄りのような対応だと頭の隅で思った。

「それにしても、その幽霊のような少女はどんな子だったんだい?船長くんはずいぶんとご執心のようだね」
「どんな、て言われてもなァ。ルフィが助けた時には気を失ってたし、目が覚めておれたちに会った後はすぐに消えちまったし。一番話したのはチョッパーか?」
「助けた?」
「ああ。海王類に襲われてたんだよ。あんな子どもなのに、なんでも伯父だったか大伯父に舟に乗せられて海に捨てられたらしくてよォ……」

 思い出したのか「かわいそうだよなァ」と目頭を押さえて涙声で語るウソップに、トムはおや?と思いつつも何も言わなかった。言ったら面倒な気配がしたので。日本人の奥さんに婿入りした際に空気を読むスキルは習得済だった。
 それでも、どう考えてもうちの姪孫だよね、と察する。捨てたつもりはないけれど。軽い冗談のつもりだったのだけれど。かわいい戯れの一つのつもりだったのだけれど。
 あの子ならあの程度どうにか出来ると思ったんだけどなぁ。
 まぁ、さすがに世界を渡る破目になるとは思わなかったが。

「そんな子どもの、何が船長くんの琴線に触れたんだい?」

 ウソップとの会話を続けていてもあまり宜しくないと悟り、黙ったままのルフィへと水を向ける。ルフィは大きな目をぱちりと瞬いた後、にっかり笑って一言。

「わからん!」
「…………そうかい」

 いっそ清々しいほどの、わからん!だった。どうにか絞り出したトムの返事は素っ気ないものになってしまったけれど、どうにか微笑みの形だけは保たせたので誉めてあげてほしい。

「でも、あいつが仲間になったら、きっともっと楽しいに違いねェんだ!」

 何を根拠に、と冷たく返すにはあまりにも楽しそうな心からの笑顔だったので、トムはいったん言葉を飲み込んでから「そうなのかい」と片笑んだ。
 どうやらうちの姪孫は、知らない間に船長くんにしか分からないような面白要素が付け加えられたらしい。なにそれ見たい。

「……いつかまた会えるといいね」
「おう!」

 まぁ、その時には連れ帰ってしまうから、麦わらの一味になることはないのだけれど。
 紅茶と一緒に飲み込んだトムの本心など欠片も知らず、ルフィは変わらず満面の笑みを浮かべていた。


■大伯父〈トム・マールヴォロ・ブラック〉
 天に何物も与えられし男。
 ロマンスグレーの老紳士から、若返って気品あふれる好青年に。
 最愛の妻にいい意味で人生を狂わされた人。



***
−ぶつぎり魔女さん。−
⇓続きに書くか分からない、思い付いたもの⇓
(内容すら思いつかなかったもの含む)

■勝手にビブルカード作ろうとしたら呪いが発動したドフィ君

「兄上の口から鳩が!!」
「「「鳩!!??」」」
「あー……。……実は私の何かしらを使って不思議アイテムでも作ろうとすると、呪いがかかるようにあれやこれやされててね?」
「ゴッ、ガフッ、おえっ。……びぶるかーどつくろうとしただけだぞ……」
「立派に不思議アイテムだし、何勝手にストーキングアイテム作ろうとしてるんですか?という気持ちでいっぱい」

■七武海の集まりに紛れ込む魔女さん

気付くミホーク。察しのよいクロちゃん。愉快なモリア。
「子どもがこの場に何の用だ」
「おいおい、おれの幼少からの教育係様だ。見た目で舐めてくれるなよ」
「養育者の方が正しいかと。結果が海賊なあたり、教育係ならば失格なんでしょうねぇ」
「……ちょっと待て。子どもの頃から?どう見ても年齢が合わねぇだろ」
「初めて会ったドフィくんはこのくらいで可愛らしかったです。クソ小生意気でしたが」
「どう見てもティーンエイジャーじゃねェか!?若づくりにもほどがある!!」
「若さの秘訣ですか?」
「聞いてねェよ!?」
「んふふふ、ありがとうございました」
「なにが!!!???」
 ネタが遂行できたことに対するありがとう。

■大伯父さんに再会しちゃった。

「そろそろオムツも取れた頃だろう?それじゃあ、私の姪孫を返してもらえるかな?」

「ドフィ君、あの人の魔法と私の魔法を同じに考えたらだめだよ。魔法を使うのに言葉が必要な私なんか、あの人に比べたらペーペーだ。あの人の魔法に呪文は必要ない。無言呪文とも違う。あの人の中で意味を持ってさえいれば、何を言ったって魔法が使えるんだ」
「どういう意味だ?」
「私なら“おやすみ”で失神呪文使えるけど、あの人なら“おはよう”で即死呪文使える感じ」
「分からねェがわかった」



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