オレはオマエの兄貴じゃない。
仮眠の筈ががっつり寝てしまったらしい。見上げた先の時計は夜中の三時過ぎを指していた。
変な体勢で寝ていたからか少し凝った体を、軽くストレッチして伸ばす。ボキボキ鳴る身体に嫌でも年を感じた。■■に「オッサンくさい」と言われたことも思い出してダブルパンチだ。あれは何で言われたんだっけ?スカートの丈が短過ぎねぇかって注意した時だったか?いやだってアレは足出し過ぎじゃねーかって思ったからしょーがねーことだし……。
ぶちぶち考え込んでいると、店の方から物音がした。次いで話し声と、金属音。“泥棒”の二文字がすぐに思い浮かぶ。
はぁ、勘弁してくれよ。今は売りモンの他に■■■■■の誕生日プレゼントであるCB250Tも置いてあるのだ。せめて他の売りモンなら百歩譲って我慢できなくもないが、アレだけはダメだ。
自衛の為に近くに置いてあったモンキーレンチを持って、音がした表側の店に向かう。
居たのは一人だけだった。会話してるようだったから複数人かと思ったが、勘違いか?ソイツはフード付きの黒い服を着て、最悪なことに盗もうとしてるのは■■■■■にやる為に整備していたバブ。
「オイ!!なんだ?ドロボーか?」
声をかけるとソイツが振り返る。暗がりでよく見えねぇが、そんなに年は食っていない。どっちかと言うと、ガキだ。
「誰の店に入ってんだ!?コラ。逃がさねえぞ、コラ」
相手からのアクションはない。徐々に近付けば荒い息遣いが聞こえてきて、オレに見付かったことに少なからず焦っているらしい。パニくって殴りかかられるかとも思ったが、コイツのこの様子だとそれはなさそうだ。
コソ泥との距離が縮まる。暗がりに慣れてきたのもあって、相手の顔が見えてきた。
「ん?オマエ……、どっかで見た顔だな?
■■■■か?」
まさかの懐かしい顔に、状況も忘れて気が抜ける。弟とは昔と変わらず連んでんのは知ってるが、オレは弟の関係に口も出さないし、道場にはさっぱり行かなくなっていたから実際に会うのは数年振りだ。
「■、■■■■■■君……?なんで……、なんで、ここに?」
「あン?ここ、オレの店だもん」
なんでここに、はオレのセリフだが、嘘を吐く必要もないから正直に話す。オレがバイク屋やってるって知らなかったっけ?ひどく驚いた表情に、知らなかったのかと納得した。
うーん、弟のダチだし、今回は厳重注意で帰してやった方がいいのか?それとも本人の今後の為にもしっかり罪を償わせた方がいいのか?どーすっかな、と悩んでいると、■■■■がオレの背後に視線を向けた。
「やめろ■■■■あぁ!!!」
■■■■の言葉に反応して急いで振り返る。
視界に入ったのは■■■■と同じように黒い服を着たガキで、ゴツイ番線カッターを振り被っていた。ああ、これは、ダメだろ。
ゴキッ、と鈍い音が頭ン中で響いた。
_ _ _
目が覚めた。
肩まで被ってたはずの布団は足元に押されて丸まって、頭を乗せてたはずの枕はオレに抱えられて抱き枕にジョブチェンジ。カーテンの隙間からは朝の日の光が差し込んで、ベッドから落ちて床に頭をぶつけているオレの顔を照らしていた。
「…………いや、最ッ悪の目覚めなんだが???」
夢の内容もさることながら、ぶつけた頭の痛みで二度寝する気にもなれず、渋々起き上がって寝巻のまま部屋を出る。階段を下りるとリビングから母さんが朝食の準備をしてる音が聞こえてきて、顔を出せば「おはよう、珍しく早起きね」なんて声を掛けられた。父さんも椅子に座って新聞を読みながらも挨拶してくれる。二人にオハヨーゴザイマースと挨拶を返して、ダラダラとリビングのソファに腰を下ろしてテレビをつけた。
「なんか、夢見が悪くて目が覚めちゃってさー」
「……あらあら」
「まぁ腹も減ったし。母さん、オレの目玉焼きはひっくり返してちゃんと焼いてくんない?」
「はいはい。シンイチはその焼き方が好きね」
オレが“夢”と言った途端に二人の顔が強張ったのが分かる。父さんより母さんの方が誤魔化すのは上手で、少し間があいたものの会話ができた。
ジュワジュワとベーコンの焼ける音を聞きながら、頭に入れるでもない朝のニュースを流し見る。興味が無さ過ぎて出たでかい欠伸と同じタイミングで、母さんが思い出したように声を掛けてきた。
「そうだ、シンイチ。お兄ちゃんも起こしてきてちょうだい。ちょっと早いけど、もうそろそろ朝ごはん出来上がるから」
「えー……。あー、うん、分かった」
面倒くさいから断りたかったけど、忙しく動き回る母さんにそれを言うのも申し訳なくて、重い腰を上げて来た道を戻る。
オレの部屋の隣。小学生の時に手作りしたT・Yと書かれたプレートが掛かった部屋の前に立つ。ちなみにオレの部屋にはS・Yと書かれた手作りプレートが掛かってる。
「おはよーさーん。てか、起きてる?」
ノックしながら声をかける。耳を欹ててちょっと待つも、返事はないし物音もしない。
「はー。……入んぞー」
面倒臭さを隠しもせず、溜め息を吐きながらドアノブを捻り中に入る。冷房のよく効いた、オレの部屋と同じつくりの、でもオレの部屋よりちょっと物が多い部屋。ズカズカと進み、ベッドの上の布団で出来上がった饅頭を見下ろす。この状態でよく息できるよな、苦しくねーのかな。今夏だし、エアコン効かせてるにしても暑くねーのかな。
「おーい、起きろよ。起きろっつってんだろコラ」
優しく起こしてやろーなんて気は一瞬で無くなった。起きないコイツが悪いだろ。無理やり布団をはぎ取れば、身動ぎに合わせて長めのゴールドベージュがもさもさ動く。あーあー、布団引っ被って寝るから寝癖がひでーひでー。
剥がした布団はベッドの隅に投げ捨てて、いまだに眠り続ける兄の肩に手を伸ばす。起きろ起きろと何度も揺らせば、唸りつつもようやく薄く瞼を上げた。オレより薄い、父親譲りの灰色の目の焦点がなかなか合わずうろうろと彷徨う。目の前で手を振れば、ようやっとオレの存在に気付いたらしい。
「……おはよ、シンイチ……」
「おう、おはよータクヤ」
掠れた声で挨拶する双子の兄、タクヤは無言でオレに向かって両手を差し出してくる。引っ張って起こせってことね?しょーがねーなオニーチャンは。珍しく寝惚けているフラフラなタクヤに手を貸して起こし、階下のリビングに向かう。階段踏み外して転げ落ちやしないかヒヤヒヤものだった。
朝食が用意されたダイニングテーブルの席に座らせて、オレも自分の席に着く。お願いした通りに両面焼かれた目玉焼きでオレの気分がちょっと上がった。はー、ベーコンエッグ美味。
うまうまと朝食を食べ進めるオレとは反対に、兄ちゃんは少し顰めた面で黙って朝食を見下ろしていた。
「何してんの」
「……オレごはんいらない……」
「いらなくない。ベーコンエッグ美味いよ?ほれ一口、あーん」
「一口がデカいんだよ……」
朝から甘えたちゃんな兄ちゃんの口に、ベーコン一枚分を器用に巻いて挟んだ箸を運ぶ。拒否すんな首振んな、落とすだろ。
「朝飯食べないで学校行ったらタケミチが心配すんぞー」
「うぐっ……」
「せめて一口だけでも食えば、きっとタケミチだって安心すると思うんだけどなー」
「………………食うよ」
葛藤が長いんだよなぁ。まぁ食うなら別にいいか、さすがはタケミチ、名前だけでも我が家の兄の健康を守ってくれるぜ。
不承不承開いた口に、待機していたベーコンを突っ込む。嫌な顔して食うなよ、作ってくれた母さんが泣いちゃうだろ。別の意味で泣きそうになってはいるが。ご飯ちょっと口にしただけで感激されるってなんだよ。……日頃が日頃の小食サプリメント人間だもんな、しょーがねーか。
オレの朝食が終わる頃には兄ちゃんの意識もシャンとしたようで、競うように洗面所を使い、学校の準備を進める。洗面台の鏡には、相変わらず双子とは思えない似ない顔が並んでいた。二卵性の双子らしいから当たり前だが、母親似のタクヤと父親似のオレは一度も双子だと初見で分かられたことがない。そもそも兄弟と思われたことすらない。家族四人で居れば間違いなく“兄弟”って分かるんだけどな。
「何してんの、ガッコー行くんだろ」
「おー、ハイハイ」
ぼんやりしながらも準備だけはちゃんと出来てたようで、気が付けば学校指定の半袖ワイシャツにスラックスを穿いて、玄関でローファーに足を突っ込んでいるところだった。
先に外に出て待っている兄ちゃんは半袖の開襟シャツに改造ボンタン。毎日見ちゃいるが、この格好してるとタクヤって不良なんだなーと実感する。顔面が良くてヒョロイからすごくチャラく見えるけどな。その実タケミチ信者ってゆーね。女子からの告白よりタケミチ優先してるところあるし。
連れ立って通学路を歩く中、ちらちらと兄ちゃんからの視線を感じて落ち着かない。言いたいことあんなら言えばいいのに。
「なに」
「いや、別に」
「別にじゃねーだろ。言いたいことありますって顔にでかでか書いてあんもん」
「マジ……?」
マジじゃねーわ。ものの例えだわ。顔ペタペタ触んな。
「……また“夢”見たのかと思って、さ」
逡巡した後、言われたのはそんなことだ。オレはちょっと考えた後、少し痛む頭を乱暴に掻いてから口を開く。
「見た」
「どんな?」
「あー……、前とおんなじ。バイク屋で働いてた」
「そっか。他になんかない?」
「んー。何もないわけじゃないけど、多分もう“夢”は見ないんじゃねーかな」
「ホントか?なんで?」
「多分アレが終わりだから?」
訳が分からないと首を傾げる兄ちゃんに、ニッと笑いかけてから少し歩調を速めて先を進む。後ろから待てよと言われたけど無視だ無視。
はー……、長年付き添った気色悪い夢とおさらばできたって言うのに、なんでこんなに空しいんだろーな。
「あー、頭痛ェ」
_ _ _
“夢”を見始めたのはいつ頃だったか。
とりあえず物心つく前には見始めていて、困ったことに“今”と“夢”の区別がつかなくて大変な目に遭ったのは覚えてる。オレも、家族も。
生きてる両親に対して「オレの親は死んだんじゃないの?」とか言うんだから、実際は困るとか大変どころじゃなかっただろう。じーちゃんは?弟と妹は?とも訊いた覚えもある。居もしない、顔も分からない家族を探す子どもは、そりゃあもう気味が悪かったに違いない。下手したら嫌厭されてマトモに育ててもらえなかった可能性だってある。
そんな曖昧だったオレを、ちゃんとここに繋ぎとめてくれたのはタクヤだった。わけが分かんなくなってるオレをギュウギュウに抱き締めて「オレがオマエの兄ちゃんだろ」と言った。「それともオレみたいな兄ちゃんじゃ嫌なのかよ」ってグズグズ泣きながら、それでも離してやるもんかって、言葉にされるよりハッキリ分かるくらい強く抱き締めてくれた。そーだな、タクヤがオレの兄ちゃんで、オレはタクヤの弟だ。
そう自分の中で区切りをつけて山本シンイチとしてちゃんとしてからも、やっぱり“夢”は見続けた。オレじゃない誰かの日常の夢をごちゃごちゃと。
小学校に上がって図書室で本を読むようになって、夢というより前世の記憶か?なんて考えたりもした。おかげでちょっとオカルト方面の知識が身についちまったけど、まぁ雑学と思えば。
“夢”と連れ添って、気付けばそろそろ14歳になる。“夢”の中のオレは23歳で死んだようだけど、オレは何歳まで生きられるんだろーか。
_ _ _
タクヤの表情が暗い。
たしか三日前に渋谷三中の二年に喧嘩売ってくるとか言って、酷ェ怪我して帰って来てからそうだ。喧嘩に負けたのかな、と察しつつも、本人が何も言いたくなさそうだったから、せめてもと手当だけしてソッとしてたのは間違いだったか?
学校に行っても、他の溝中五人衆と暗い顔して連んでるし。
絶対なんかあったとは思うけど、向こうから相談してこないのに無理やり首を突っ込むのも気が引けた。こんな時、オレも“アイツ”みたいに兄ちゃんだったら頼ってもらえたのかな、なんて意味のない考えが浮かぶ。ホント、意味が無くてしょーもねぇ考え。
「山本ってあの不良五人組と仲良かったよな?」
教室で鞄に教科書やノートを突っ込み薄手のパーカーを羽織って帰り支度をしてると、あんまり喋ったことのないクラスメイトが話しかけてきた。
この中学で不良五人組なら、間違いなくタクヤ達だろう。わざわざ周りにオレ達兄弟です、なんて言ってないが前までは偶に連んでたから、たまにこういう確認をされることがある。アイツ等に用がある男とか、告りたい女子とか。告白の相手は主にアッくんやタクヤだ。
「まあ幼馴染みとかいるし。仲良いっちゃ良いかな。なに、なんか言伝とか?」
「いや、さっきトイレ入ろうとしたらヤバイ話聞こえてきたからさ」
「ヤバい話?」
穏やかじゃない話題につい眉間に皺が寄る。
「喧嘩賭博って知ってる?オレも噂でしか知らないんだけど、どっかの暴走族が下の奴ら無理やりケンカさせて賭け事してるらしいんだ」
「胸糞悪い話だな」
「だよな。それで、その喧嘩させられる奴が、今日は五人組の中のタクヤって奴らしくって」
「……はぁ゛?」
「ひぇっ」
ちょっと待って?オレの耳が悪くなったのかな。今、賭けの対象に無理やりケンカさせられる奴が、オレの兄ちゃんだって言った?は?首謀者は速やかに死んでくれ。
「その喧嘩賭博、どこでやってるか知ってる?」
「あ、えっと、話に聞いたのは────だとかって」
「ふぅん。ありがと」
「ど、どう、いたしまして……」
笑顔でお礼言ったはずなのに、滅茶苦茶恐縮された。え、なんで?
──はちゃめちゃに遠いんだが??
急いで走っちゃいるが、思った以上に距離があって苛立ちが増す。これで場所が違ってたりしたら、オレは形振り構わず本拠地で暴れる自信がある。渋谷三中だっけ?カチコミだワ。
なけなしの理性で身バレ防止の為にパーカーのフードを被る。間違ってもオレは不良じゃないからな。学校じゃ真面目な優等生で通ってるし。もしもの時は誰か分からない方が今後の問題が少なくて済む。
目的の公園に近付いてきた。喧嘩賭博って言うくらいだから、昔のコロッセオとかそういうのと同じようなもので騒がしいもんだと思ってたけど、予想に反して随分と静かだ。まさか外れじゃねーだろうなと不安になりながら公園の中に入れば、中心で倒れ込んでいたのはボロボロのタケミチ。そのタケミチの上に、学ランを羽織った金髪のチビが馬乗りになっていた。
瞬間、グワりと頭に血が上る。
「テメェ何してんだっ!!」
タクヤじゃねぇのかよとか、あの金髪チビ誰だとか、考えるより先に体が動いた。今まで生きてきた中で一番速く走れた気がする。
このまま駆け寄って殴るより、跳んで蹴り飛ばした方が早い。
そうとなれば行動は早く、経験上の目測をとって、最も効果的な位置で、跳ぶ。
「タケミチから離れろボケぇっ!」
「テメェこそ何しよーとしてんだ!」
「は?ぐぇっ」
確実に決まるはずだったのに、いつの間にいたのかデカい辮髪がオレのパーカーを掴み、あろうことかぶん投げやがった。引き留めるだけならまだしも、勢い乗った中学男子投げ飛ばすとかどんな腕力してんだよバケモノか!
油断してたから受け身もろくに取れず、地面をゴロゴロと転がる羽目になった。あ゛〜〜、格好悪゛ィ〜〜。
急いで体勢を整えて前を向けば、すぐ目の前に辮髪の拳が迫っていて慌てて避ける。風圧だけでもアレは喰らったらヤバいやつだと分かった。殺す気かよ。オレは殺す気で蹴りに行ったけどな!
「テメェ、誰に喧嘩売ったか分かってんだろーな?どこのチームだ?あ?」
辮髪が指の骨を鳴らしながら凄む。そんな事されても怖くねぇ。
「は?誰にケンカ売ったとかどーでもいいワ。どこのチ−ムにも属してねーし。お前らと違って不良じゃねぇ一般人だっつーの。
オレは自分より弱い奴ボコって悦入ってる奴を蹴り飛ばしに来たんだよ!なんか文句あっか!?」
叫ぶと、辮髪が微妙な顔をする。オレから視線を外して後ろを振り向くもんだから、オレもそれを追って視線を向けた。変わらず座り込んでるタケミチと、側にはもう馬乗りしてない金髪学ランが立っている。
金髪学ランは何を考えてるのか分からない顔で、ジッとオレを見ていた。なんだよヤんのかコラ。臨戦態勢のオレに、金髪学ランが一歩踏み出した。
「シンイチ!!」
一触即発の空気を壊すように、タクヤのオレを呼ぶ声が大きく響く。思わずそちらに顔を向ければ、焦った様子のタクヤがオレの方に駆け寄ってきていた。うわ、オマエ滅茶苦茶元気そうじゃん。はー……、よかった。
ちょっと距離あけた所にいるタケミチが、小さな声で「え、シンイチなの?」と首を傾げてる。そう言えば今の俺、フードがっつり被ってるから顔見えねーもんな。それなのに分かるタクヤは流石はオレの双子でオニーチャンってことだ。
「なんだ、タクヤ、元気そうじゃん」
「オレの代わりにタケミチがキヨマサ先輩に喧嘩売ってくれたんだよ。そんな事よりオマエ!何てことしてんだよ!!」
「はぁ?喧嘩賭博に参加させられるオニーチャンを助けに来ただけですけど?」
めっちゃキレてるタクヤに、不貞腐れながらそう教える。タクヤは一度グッと何かを飲み込んで、深い溜め息を吐いた。溜め息吐かれる理由が分からないんだけどな?
「……喧嘩賭博の胴元はキヨマサ先輩で、あそこで立ってる人だよ。その人達じゃない」
え、マジで?!ちょ、人違いで蹴り飛ばそうとしたのオレ?未遂だけど。辮髪くんには止めてくれた感謝しかない。
衝撃の事実に固まっていると、隣に両膝付いて屈んでたタクヤが辮髪くんと金髪学ランくんに深く頭を下げた。それが謝罪の姿勢だと察して、慌ててオレもそれに倣って頭を下げる。
「すみません。オレの弟が早とちりしてマ、……佐野先輩に殴り掛かろうとしました。謝って済むとは思ってません、でもヤるなら兄貴のオレに責任取らせてください」
「はぁっ!?」
「いいから黙ってろ」
「いや黙れるわけないだろ!?自分のしでかした事くらい自分で落とし前着けるワ!!」
うちのお兄ちゃんが血迷った事言ってる。オマエさっきの辮髪くんの拳のヤバさ見てないの?カラダ弱々な兄ちゃんじゃ一発殴られただけで即病院行きだからな?
オレがオレがと言い合うオレ達の頭上で、辮髪くんが咳払いをする。ピタリと口を閉じたオレ達は、同じ動作で上を見上げた。
「まず謝るなら顔見せろ」
「え」
「あ?なんか文句あんのかよ」
あるよ。あるけど、今この場で非があるのはオレだからな。……は〜〜、しょーがねぇ。至極しょーがなく、オレは被っていたフードを外してやる。
「勘違いしてすみませんでした……」
まだオレの口からは謝ってないのを思い出して、頭を下げて謝罪する。隣で兄ちゃんもまた頭を下げていた。
「…………シンイチロー?」
「へ?」
聞こえてきたのは謝罪に対する許す許さないとかじゃなくて、オレとニアピンな名前でつい顔を上げてしまった。声を出したのは金髪学ランくんだったようで、ひどく驚いた顔でオレを見ている。なんだろう、驚いてるのは確かだけど、期待?哀しい?怖い?よく分かんねーけど、あまり前向きじゃない感情が混ざり込んでる、そんな目だ。
「あの、オレの名前ならシンイチです。山本シンイチ」
「シンイチローじゃないの?」
「はい」
「……そっか。そーだよな、シンイチローなわけない……」
ガッカリ、なんてもんじゃない。落胆?自嘲?いや、諦めか?
初対面でなんでそんな感情を向けられなきゃいけないのか見当もつかなくて、チラリと辮髪くんの様子も窺う。けどこっちはこっちで、信じられないものを見るみたいにオレから視線を外せないでいるようだった。オレこの二人と初対面で間違いねーよな?ちょっと自信無くなんじゃん。
視線を前に戻して、金髪学ランくんを見る。どうにも座りが悪くて落ち着かないが、視線は逸らしちゃいけない気がしてジッと目を見る。ちょっとどこかで見た事あるかも、と心当たりを探せば、毎朝鏡で見るオレに似てるんだと思い至った。これが他人の空似ってやつか。
状況に似合わず気が緩んだのは、親近感を感じたからかな。
徐に向こうから顔を逸らされて、金髪学ランくんは離れた位置で頭を下げていたキヨマサに近付いていく。一言声を掛けたかと思えば、目で追うのもやっとな蹴りでキヨマサの顔を蹴り上げ、容赦なく顔に拳を打ち込んだ。誰も何も言えない中、鈍い音が規則的に響く。元の顔が分からなくなるくらい殴って満足したのかと思えば、崩れ落ちたキヨマサの側頭部をダメ押しで踏み付けた。
あんまりな凄惨さに、隣のタクヤの肩がビクリと跳ねる。オレだって少し怖いと思うけど、アイツがこの喧嘩賭博の元凶らしいし、タケミチのおかげで無事だったとは言え兄ちゃんに大層なお役目をくれたらしいし、いいぞもっとやれと声援を送りたい。なんならオレの殴る余地を残しといてほしかったくらいだ。
「“喧嘩賭博”とか下らねー」
「“東卍”の名前落とすようなマネすんなよ」
辮髪くんが言う“とーまん”ってなんだろう。どっかで聞いたことあるなと記憶を探っていれば、振り返った金髪学ランくんと目が合った。ちょっと驚いたが、すぐに視線は外れてタケミチに笑いかける。
「タケミっち!またネ♡ ……シンイチもね」
……オレも?
辮髪くんが解散を言い渡しながら去って行き、公園からはまばらに人が去って行く。ボコボコにされて気絶していたキヨマサも、仲間に引き摺られていなくなった。今度意識ある時に殴りに行こうと思う。
すっかり暗くなった公園に残ったのは、溝中の不良五人組とオレの計六人。
展開が早くて付いていけず呆けているオレは、頭をグーで殴られてようやく思考が再起動した。え、痛……、くもないなオレ石頭だから。
殴られた場所を擦りながら殴ってきた奴を見ると、怖い顔をしているタクヤが拳を構えた体勢で立っていた。痛くないにしても何度も殴られるのは嫌なので、立ち上がってタクヤと距離を置く。まーまー落ち着けよと両手を前に出せば、拳をといて平手で両手を叩き落とされた。おわ、マジで怒ってるなコレ。
「ご、ゴメンねオニーチャン?」
「誠意が感じられない。許さない」
「誠意!?」
慌てて両手を合わせて謝罪するも、そっぽを向かれて受け入れてもらえない。誠意とは?土下座か?土下座すれば良いのか??
公園の真ん中あたりでは山岸と鈴木がふざけ合ってるのになんて格差だ!あ、アッくんが一瞬だけこっち見たのに、ソッコーで逸らしてふざけ合いの仲間に入りに行きやがった!オレを助けて!!
唯一の良心であるタケミチの「もう許してやろーぜ」によってオレは救われた。不本意ではあるがタケミチが言うなら仕方ないと、とても納得がいっていないようだったが許してくれたようだ。
タケミチ大明神には今度ポテチをプレゼントしようと思う。
帰り道、不良辞典の山岸から“東卍”“マイキー”“ドラケン”について説明してもらった。話に聞く限りとんでもなくヤベー奴等だってことは分かる。一緒に聞いてたタケミチも顔色悪くしてたし、相当だ。
しかもオレが蹴りかかった時は、タケミチがキヨマサに殺されかける寸前に横入りしてくれてたところで。馬乗りになってると思ったのは、尻餅付いてるタケミチに合わせて屈んでただけらしい。
…………今のオレ、よく五体満足でいれたよな??
へらりと笑って訊いたオレが悪いと分かっちゃいるが、背骨に沿って強めに殴るのやめてくんねーかなオニーチャン!
_ _ _
前ドアに近い実験テーブルの席を陣取り、「今日はガスバーナーを使うので全員集中して〜〜」とかなんとか言ってる先生の言葉を真面目に授業を受けているフリしながら聞き流しつつ、昨日のことを思い返して今後を考える。まぁ、キヨマサとかいう不埒者はあとでぶん殴りに行くのは決定として。
改めて詫びを入れるべきか否か。
昨日の夜からずっとそれを悩んでる。確かに頭下げて謝りはしたけど、ハッキリと許してもらったわけでもない。これがただのクラスメイトなら放置しても良いんだが、相手はそれなりに有名な不良チームの総長らしいし。きちっとオトシマエってやつをつけておかないと、オレだけじゃなくタケミチとかタクヤとか巻き込んで後々面倒な目に遭いかねない。せめてもう一回くらい謝っといた方がいいかな、とは思うのだ。
……はぁ〜〜、でもなぁ〜〜、会いたくねぇなぁ〜〜。
机に突っ伏したくなるのをどうにか我慢して、左手で額をおさえて肘をつく。悩み過ぎてか頭痛い。
「みーっけ♡」
……本人来ちゃったかぁ〜〜〜。
昨日ぶりの金髪学ランくんことマイキー先輩が教室のドアからひょっこり顔を覗かせたのを認識して、我慢出来ずに両手で顔を覆って机に突っ伏した。現実逃避したって意味ねぇなとすぐにやめたが。
先生が「じゅ、授業中なんですが……」と小さく抗議するも意味はなく、昨日と違って満面笑顔のマイキー先輩はドアから近いオレの前に軽い足取りで近付いてきた。笑顔が怖いって本当にあるんだな……。ドアの所にまだ誰かいたので確認すれば、辮髪くんことドラケン先輩と、昨日よりはマシになった顔面のタケミチがこちらを見ていた。ドラケン先輩は軽い調子で片手を上げていて、タケミチはちょっと居心地悪そうに目線を逸らしている。なるほどオマエが二人をここに連れて来たんだな?
後でやろうと思ってたポテチは兄ちゃんにあげよう、と内心怒っているオレの両頬が強めの力で挟まれて、グリッと無理矢理に顔の向きを変えられた。首と胴体離れるかと思った!嫌な音はしたから、筋は痛めてるかもしれない。
「オレを無視するなんていい度胸だな?」
「……無視したわけじゃなく……」
「あ゛?」
「不良すぐ威嚇してくる」
オレが今学びたいのは鉄の化学変化であって、満面の笑みからの不機嫌顔からの無表情っていう不良の表情変化じゃねーんだよなぁ。
「なぁ、シンイチも一緒に遊び行こうよ」
「いやオレ授業中なんで」
「は?オレの言うこと聞けねーの?」
王様かな?
でもオレは不良ではないので、そんなホイホイ授業をサボるわけにはいかないと思う。ねえ先生!と同意と救いを求めて教壇を見れば、ビン底眼鏡陰キャ教師はしっぶい顔で手を払ってきた。早く居なくなれってか?善良な生徒の一人ぐらい死ぬ気で守れや教職者。
「あ、放課後からなら遊べますけど!」
「オレは今が良いの!」
「んーっ、ワガママだな!?」
さぁどうやって断り切ろうか、と悩んでいるオレの両脇にドラケン先輩が手を差し込んで持ち上げた。思考を放棄して宇宙が見えたが、頭を振って戻ってくる。待って!オレの身長大体170cmはあるんだが!?……重っ、って言うくらいなら離してくれて結構なんだが??
オラ行くぞじゃあないんだよ。廊下に出たら降ろしてくれたが、無情にも扉が閉められたので戻ることは出来ない。閉めたの教師だよな?後で覚えてろください。
タケミチに肩を叩かれて仲間認定された。イラついたので叩き落したら、ひんっと泣きそうな顔をされたので、しょーがねーなと頭を撫でてやる。マイキー先輩が凄い目で見てきたんだけど、男が男の頭撫でんのキモイとか思ってんのかな。オレ達幼馴染は昔っからこんななので許容してほしい。
マイキー先輩を先頭に、次にドラケン先輩、最後にオレとタケミチが並んで廊下を歩く。
所々で転がってる不良の先輩方は何なんだ。ああ、喧嘩売って返り討ちにあったのか。相手との力量差がはかれないとこういう痛い目を見るんだなぁ。え?さっきは並べて踏んづけて歩いてたって?人間カーペットかよ、ちょっと見たかったな。
タケミチは恐る恐る、オレはもう開き直って廊下を進んでいると、前方からタケミチの彼女である橘さんが緊張した面持ちで肩を怒らせて近付いてくる。なんかやらかしそうだなぁ、とちょっと不安に思っていると、その更に後方に溝中五人組マイナス1が顔を覗かせていた。その中の青い顔のタクヤと目が合ったので、大丈夫だから心配すんなと腰のあたりで○のハンドサインを送り笑っておく。顔色は悪いままだけど、雰囲気がちょっと和らいだのでぶっ倒れはしないだろう。
――バチンッ
いい音が廊下に響いた。
平手を振り切った体勢の橘さんと、ちょっと体の傾いだマイキー先輩。すごいな、不良を平手打ちなんてそうそう出来ることじゃない。
感心している間に、橘さんはタケミチだけじゃなくオレの腕も掴んでこの場を離れようとしてくれる。しかしそれはドラケン先輩が前に立ち塞がったことで、これ以上進めなくなった。高い背を屈めて脅しをかけてくる不良に、それでも折れずにタケミチの為に行動できる橘さんはホント格好良いなぁ。なんでタケミチを好きなんだろ?いやダセーし横恋慕する気は無いけどさ。
けどタケミチだって、橘さんの為なら自分より格上の不良に虚勢だろうが身体を張れる。オレの女に手を出すなってやつ?ちょっとクサイけど、かっこいいと思うよ。
かく言うオレは鑑賞者の心持ちで場を眺めている。
いや、だってさぁ。これ絶対、マイキー先輩とドラケン先輩によるタケミチがどんな人間かっていうテストだろ。ならオレは何の為に呼ばれたの?っていうね。見守るしかすることない。
「なーんてね。
バカだなータケミっち、女に手ぇ出すワケねーじゃん」
ほらな。
後々、分かってたなら教えろよってタケミチに八つ当たりされたけど、オマエがこの二人をオレのとこまで連れて来たこと許してねーからな?
ドラケン先輩が漕ぐ自転車のケツに乗り、夕方の河川敷沿いの道を走る。タケミチはマイキー先輩をケツに乗せて、オレ達より前を走ってる。
オレも漕ぐべきでは?と申し出はしたが、ドラケン先輩が頑なにハンドルをオレに譲ってくれなかった。そんなにチャリの運転が好きなのか、それともオレのドラテク()の信用値が低いのか。もしくは貧弱と思われてる可能性もある。確かに筋力の差は相当あるかもしれないけどさ、まぁ楽だからいいか。
「シンイチの家ってどの辺―?」
「オレの家はあの公園の近くですねー」
マイキー先輩が肩越しに聞いてくるので、ちょっと先にある集合住宅に挟まれた小さな公園を指差して、距離があっても聞こえるように大きめの声で答える。タケミチが、え!?って顔で振り返るけど、危ないので前向いて運転してろ。
「なので、そろそろお暇しますね」
「え!?」
タケミチさっきからそればっか。
驚くタケミチもドラケン先輩もマイキー先輩も放って、自転車の後ろからからヒョイと降りて進行方向とは反対に向かう。振り返って見た自転車はちょっと行った先で止まっていて、どちらもオレを追いかける気は無いようなので足を止めた。だよな、オレに何の用があったか知らないけど、先輩二人がもうオレに用がない雰囲気察したもん。
オレも用を済ませようと、その場で正面を向けて深く頭を下げ、しっかり顔を上げてから口を開いた。
「昨日は勘違いしてすみませんでした!タケミチ助けてくれてありがとうございました!!
今日もいきなりでしたけど面白かったです!でも二度目は無しでお願いします!!」
オレ的にミッションコンプリートな気分なんだがどうだろう?これで昨日の詫び入れたことにならねーかな。
何も反応が返ってこないならこのままとんずらしようと考えていると、徐にマイキー先輩が自転車から降りてオレと向かい合う。距離があってハッキリと表情は伺えないが、なんだかずっと遠くを見てるみたいだ。
「ねぇシンイチ」
「はい」
「オレの兄貴になって」
「ちょっと何言ってるか分かんないっスね」
ちょっとどころか大分わけ分かんねーな。真面目な雰囲気だと思って緊張してたのに。
「はは。ダメ?」
「ダメって言うか……、オレの方が年下ですけど」
まぁ身長はオレの方が10cmは高いな、と考えてたらマイキー先輩の投げた小石が顔面スレスレを飛んで行った。こわっ、エスパーかよ。
青い顔するオレを指差して笑い、ジョーダンだよとマイキー先輩は言う。
「オマエ、兄貴に似てたから」
「兄……?」
「でも見た目だけだな!」
「そのセリフはオレを貶してますね?」
「ははは!じゃあな、シンイチ」
「ああ、はい。さよなら」
──「 」
何か聞こえた気がして振り返るが、当たり前だが誰もいない。
首を傾げながらも正面に向き直れば、走り出して遠くなる自転車の後ろに乗ったマイキー先輩が、笑ってヒラヒラと手を振っていたのでオレも小さく振り返す。タケミチは強く生きろよ。
さて、オレは家路につくべく足を進めるわけなんだが。
「夕飯までに帰れるか……?」
指差した先の公園の近く、なんてのは真っ赤な嘘なので。山本家の場所を昔からよく知ってるタケミチは、そりゃあ驚いてハンドル操作の一つくらい狂うわな。
_ _
見知らぬ道を、こっちな気がすんな―、と緩い感じで歩いたら家に着く頃にはどっぷり日が沈んでいるし家の電気は消えていた。おかしい、そこまで距離もないだろうし夕飯までには帰れる予定だったのに。
途中で立ち寄ったコンビニでホットスナックを買い小腹は満たしたものの、中学生男子の胃がそれで満足するわけもなく帰宅と同時に空腹を訴えてきた。オレの分の夕飯って残ってるのか?兄ちゃんが事情を説明してくれれば残しててくれると思う……、いやどう説明すんの?不良の先輩に拉致られましたって?大問題だワ。
「ただいまー……」
「おかえりー」
「え、タクヤ起きてたのか?」
全員寝てるもんだと思って玄関のカギを開け、外からは分からなかったがぼんやりと明かりが点いているリビングに顔を出せば兄ちゃんが暗がりの中ソファに座ってテレビを見ていた。珍しい、この時間なら家にいても部屋に引っ込んでるのに。
横目で様子を窺いつつキッチンに向かえば、トレーに今日の夕飯らしい豚肉の生姜焼きとおにぎりが三つ乗ってラップされていた。メモ書きで“シンイチの”と書いてるからオレのに間違いない。生姜焼きをレンジで温めながら、おにぎりを一個手に取って食べる。具が無い。塩気はあるから塩おにぎりか。
軽い音を立てて温まった夕飯をトレーに乗せて持ちリビングに向かえば、テレビを見てるもんだと思っていた兄ちゃんがジッとオレを見ていた。ビックリしてトレー落とすかと思ったんだが。何とか持ち直してソファ前のテーブルに置き、オレは兄ちゃんの隣に座る。
「え、なになに。見過ぎ見過ぎ」
「なんでもねーよ。こんな遅くまで、あのマイキー君とドラケン君とずいぶん楽しく遊んだんだなと思っただけ」
「いや4・5時間くらい帰り道わかんなくて迷子してた。先輩たちとは日が沈む前に勝手に別れたよ」
「……シンイチ何歳?」
「オニーチャンと一緒でそろそろ14歳児」
「あはっ、だっさ。ケータイは?」
「学校に置いてった鞄の中。今思い出したけど宿題も全部学校じゃん、明日学校行きたくねーなぁ……、肉が美味いのに憂鬱……」
「ご愁傷サマ」
「イイ笑顔〜〜」
一人で食うのもアレだからと、おにぎり一個食う?て聞いたけど笑顔のまま要らねって言われる。フラれたおにぎりは可哀想だったのでオレが責任を持って頂いた。
夕飯を食べ終えても、兄ちゃんは中々オレから目を離さない。マジで何。自分の脚に肘をついて頬杖をつく兄ちゃんは自然と前屈みで、オレを下から覗き込んでくる顔は笑ってんのに笑ってなくてよく分からない圧がある。オレ何か悪いことした?うん、してねーな?不良のオニーチャンより優等生ですけど何か?
「マイキー君となんか話した?」
唐突な話題に、あぁそのあたりが気になってオレを待ってたのか、と納得する。
「大体話してたのはタケミチかなー。オレは最後にちょっとだけ話しただけ」
「何話した?」
「んー……、オレがマイキー先輩の兄貴に似てるんだってさ。見た目だけで中身は全然違うらしいけど」
「ふーん」
「ま、オレは弟だから。そりゃあ兄貴っぽくはないよなってゆーね」
「オレの弟だもんな」
「そーそー。オレはタクヤの弟だから」
「だよなー」
タクヤが満足げに笑うので、よく分からないが正しい応答だったらしい。兄ちゃん昔からオレが、オレは弟、って言うと機嫌良くなるのなんなんだろーな。
「そろそろ部屋戻るわ、おやすみー」とリビングから出ていく兄ちゃんに挨拶を返して、オレもそろそろ風呂入って寝ようかなと考える。考えるけど、中々体が動かないから、流石に数時間歩き通しは辛かったかなぁともうちょっとだけソファで休んでから行動することにした。
疲れた。ああ、疲れたな。
つけっ放しだったテレビの明かりを遮るように瞼を下ろせば、別れ際のマイキー先輩の姿が浮かんだ。なんかちょっと寂しそう、いや、空しそう、だったなぁ。
「……オレじゃオマエの兄貴になれねーよ」
ごめんなマンジロー。
あの日からずっと頭が痛い。
***
■マイキー先輩くん
兄貴だけど兄貴じゃなかった。
ちっちゃい兄貴が真面目な格好して真面目に授業受けてるー、と最初は楽しかったけど、見て話して、段々空しくなった。
別人だって分かってるけど目に入っただけでも同一視してしまう気がするので、今後は極力関わる気はない。溝中にはもう行かない。タケミっちが来い。
でもうっかり、近所と言われた公園にフラフラしちゃうかもしれない。
頭を撫でられていたタケミっちが少し羨ましい。
■ドラケン先輩くん
どんな事よりマイキーの精神が心配。
■タケミチくん
そういえばタクヤに弟いたなぁ!と思い出してる26歳()。
オレやタクヤと違って不良じゃなくて真面目な奴で……、あれ?喧嘩賭博の時にいたっけ?それにこんなに口悪くて不良に喧嘩売るような奴だったっけ?……あれ??
そんな奴だったけどタケミチが気付いてなかっただけである。
元々の時間軸では、喧嘩賭博でタクヤが死にかけたことが原因で疎遠になった。それまでは不良とか優等生とか関係なくいい幼馴染み。
■タクヤ(おにいちゃんのすがた)
弟がオレ以外の兄弟を求めるとか地雷です()。
オレの為に駆けつけてくれるのは嬉しいが、それで弟が危険な目に遭うとなれば話は別。
四人がいなくなった学校で、マイキーに似てるから兄弟かな、という噂話を聞いてオレの弟ですけど(^ω^#)と内心キレた。気付いたアッくんが即行でなだめた。許したけどちょっと落ち込んだ。
うちの弟がいつかどこかに行ってしまいそうで不安。
弟が喧嘩強いのは何となく知ってる。
■山本シンイチ
成り代わりでも生まれ変わりでも転生でもない。シンイチロー君にそっくりなだけの赤の他人です。ただし不思議な夢は見ましたので振舞うだけなら実は出来ます。
夢は他人事として見ていただけであり、“弟”として長年生きてきたので兄力の地力は低い。なんなら“弟”としての見本が夢に出てくる弟二人だったりするのでそちらに寄っている。喧嘩の仕方も夢の中の弟二人を見本にしてたりする。
キヨマサにはあとでしっかりお灸を据えて差し上げた。最低でも腕は折る。兄ちゃんやタケミチにしたこと考えればまだ優しいよなぁ?
優等生の皮をかぶってはいるが中々にアレな性格をしている。
最近ずっと頭が痛い。
◇身長:168cm ◇体重:55kg
◇年齢:14歳(中2) ◇誕生日:1991年7月15日
◇星座:かに座 ◇血液型:O型
◇好きなもの:炭酸飲料 ◇嫌いなもの:弱ってる時の兄
◇特技:運動全般(よく部活練習の助っ人をする)
◇尊敬する人、憧れの先輩:溝中5人衆(仲間に入りたいわけじゃない)
◇夢:特に考えたことがない
◇武勇伝(または失敗談):小4の時に1日お百度参りした。
◇お気に入りの場所: お百度参りした神社(東卍の集会所とは別)
***
タケミチがタイムリープする前の世界では喧嘩賭博に関与することなく、病院に担ぎ込まれた兄を見て幼なじみ達に原因について詰めるが返答はもらえず。しかし不良の所為だとは察するので兄に行われた蛮行に対する恨みは世の中の不逞の輩に向けられ、26歳時は警察官または検察官もしかすると公安となり世の悪を正義と法の下でぶん殴るお仕事に精を出していた。たぶんこれが一番平和な人生。殺伐とはしてるけども。
不良と関わり顔が知られたタイムリープ後はろくな人生がお待ちでない。時期はバラバラになるけど、マイキーに兄貴の紛い物は要らないもんされる。
その点イザナであれば兄貴はつくれるされるので、存在を知られたら有無を言わせず兄貴にしそう。
***20/22
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