人魚くんの話。-むかしのはなし-




前置き:
 イデア君と友情、に至らずともまぁ気の置けないような関係性が築ける子。を出発地点として考えたはずなのに、最初に出来上がった文章が“幼少期:稚魚イド君と”になった不思議。それでもやっぱり友情に至らない。友情、とは?
 ワンダーランドも複数言語が存在し、その中には人魚語もあると仮定して、表現に迷った末に台詞頭に〰〰──を付けています。きゅいきゅい鳴かせるのも可愛いんですけどね。文字化けは怪異だし……。

■ロア・ニシキ♂(前世♀)
 ローシェンナと黒の髪。割合は年々変わる。
 スモークブルーの目。
 幻燈の島出身。
 祖父が人魚(ヒレナガ・緋写り)なクォーター。
 基本は陸の人の姿で、海や池や湖などの大量の水に浸かると人魚の姿に変わる。お風呂は平気。強めの違和感と不快感を覚えるので好んで変化したいとは思っていない。でも人魚姿が嫌いなわけではない。
 人魚だけどカナヅチ。
 お山の愉快な妖怪や神様やらと暮らしている。
 前世の記憶がある。
 ユニーク魔法は主に自分の体験を他者に見せるもの。
 ゲーム開始時はスカラビア寮の三年生。
 基本的には誰とでも友好的。監督生にも友好的。


■■
《――本日は波も高く危険な為、海には近付かないよう十分に注意を――、》


 幻燈の島は流れつく島である。
 潮の流れの影響か、それとももっとファンシーでファンタジーな理由かは知らないが、まぁ色んな所から色んなものが流れてくる。要らない物も要る物も。生き物もそうでないものだって流れ着く。
 この島に住む人間も、元を辿ればどこかから流れ着いた何らかの子孫、なんていう説が図書室の本に載っていた。これでもかと批判されていたけど。

 毎日毎日、大なり小なり何かが流れつくこの島も、高潮の次の日はまた一際変わったものが流れついていることがある。この前はクラーケンが打ち上げられたっけ。ぽっぽ焼きは好きだけど、クラーケンはちょっと弾力があり過ぎて噛み切るのに苦労した。

 今回は何が打ち上げられているだろうか。
 空の袋を二つ持ち、いつもは山に籠っている時間に海に向かう。遠くから浜を眺めれば、自分と同じように暇人が数組、浜辺を歩き回っていた。親子連れの中の女の子が、宝石を見付けたらしく賑やかになる。それを横目に通り過ぎた。
 遠くから分かるほどの大物は今回いないようだ。
 もう少し歩いて、大小さまざまな岩肌の浜に到着する。ここは満潮になれば海に沈むが、それ以外の時期だと波際から大分遠いただの浜、と言うより岩だらけで歩くのも面倒な場所だ。大人も子どもも危ないから近付かない。身軽で運動神経が良ければ別だろうが。自分みたいに。
 ひょいひょいと岩から岩へ飛び移り、その間に引っかかっている珍しそうなものを拾っていく。
 瓶入りの手紙、宝石、装飾品、調度品、貝殻、ただのゴミ。ゴミは要らないが放置もどうかと思うので、不用品の袋に一応突っ込む。
 貝殻をよく見れば、何か文字が書いてあった。この島の文字とは少し違う文字だ。公用語のものとも違う。どこの文字だろうか?残念ながら、ここに流れ着くまでに大分削られたらしく判別は難しい。

 動きの邪魔にならない程度に袋を重くして、岩の群れの最後に辿り着く。
 山の崖沿いにある、大きな大きな岩の塊。遠くから見ると、海に向けてスフィンクス座りをする猫に見える。丸々と太ったお猫様だ。
 今日もデカくて貫禄があるな、と上を見上げる。
 ピチャリと頬に水滴がかかった。雨でも降るのかと空を仰ぐが、そんな様子はなく雲一つない快晴が広がっている。狐の嫁入り予定はなかったはずだけど。
 気のせいではないが気にしなくていいかと踵を返そうとして、ザバッと今度は頭上から大量の水が降ってきた。頭からつま先までぐっしょりだ。すわ集中豪雨かと驚いたが、口に入った水は塩辛い。ああ、雨じゃなくて海水か。

「……、鰭だ……」

 見上げた猫の背の上。陽の光を反射する長い尾鰭が見えた。

_ _
 好奇心が殺しにかかってくる。
 ヒィヒィ言いながらロッククライミングする現状、もちろん安全帯なんかは着けていない。だって日頃から山は駆けるし、急な坂もピョンピョン行けるし、背の高い木も猿のようにスイスイ登っていける身体能力があるから、この程度の岩登り朝飯前だと思うじゃん。
 そんなことなかった。
 凹凸は不規則で手や足の掛場は見付かるようで見付からない。見付けたと思えば苔か何かが生えていて、危うく滑落するところだった。体力の問題じゃなく精神的にヒンヒン泣いている。
 前回のクラーケンのことがあったにしても、今回はどんなデカい魚が漂着したのかと好奇心の赴くままに登り始めるんじゃあなかった。好奇心は猫だけじゃなく鯉も殺す気満々だ。後悔が強い。
 それでも意地で半分以上登り、安全に飛び降りられる高さはとうに過ぎた。まぁ元々途中で投げ出そうなんて思ってないけど。

「つ、い、たぁ!」

 漸く背の上に辿り着いた。最後の力を振り絞り、体を上へと引っ張り上げる時に達成感から声が漏れる。
 背の上で立ち上がり、遠くを見渡し絶景だなと満足感。下を見ればゴツゴツとした岩の群れが大分遠く、落ちたら死ぬと確信した。7mか8mか。割れたスイカにはなりたくない。

 さて、と気持ちを切り替えて、目的の鰭の持ち主を探すべく行動を始める。かと言って、無様に岩の上でビチビチ跳ねる魚とご対面、とはならなかった。
 猫の背には大きな穴が開いていた。外周に幅2mほどを残し、ぽっかりと開いている穴。大きなネコ型の岩は、大きなネコ型の岩製の壺だったらしい。中は海水で満ちているようだ。
 縁の近くに膝を付き覗き込む。
 ゆらゆらと暗い水面が揺れるが、水中を望めるほど透明度は高くない。
 いっそ顔を突っ込んでしまおうかとも思ったが、その瞬間に顔面を食いちぎられるのは嫌だし。せめて魚の種類だけでも知れれば、多少心の準備も出来るのだけれど。
 もう一度水面を覗き込む。黒い水面にぼんやりと顔が浮かんでいた。

 顔が、浮かんで……?

 ヤバいと思った時には遅かった。
 後ろに退く前に水中から腕が伸びてきて、落下の危険性から強く下がれないこちらを問答無用で引き摺り込もうとする。いや、抵抗らしい抵抗も許されず、掴まれた右腕から引き摺り込まれた。力強いな??
 最後に酸素を取り込む暇もなく、ドプリと全身が水に沈む。それと同時に始まる体の変化が気持ち悪い。痛くはないが、ぞわぞわする。背と肋骨付近と下半身の違和を感じながら、この事態の原因に意識を向けようとした。

「(痛゛ぁっ!)」

 掴まれていた右腕を噛まれてそれどころじゃなくなる。
 マジかよ最悪!利き腕噛まれるとか生活に支障が出るからやめてくれない!?

「(ッざけんなボケェ!)」

 あまりの痛さに足が出る。今はヒラヒラ鰭の付いた尾鰭だが。
 勢い任せの一撃でも、どうやら綺麗に決まったらしい。腕を掴んで噛みついてきた何かは、衝撃の余り吹き飛んで離れていった。ざまぁみさらせ!!
 距離の出来た相手に両手中指立てて威嚇していると、向こうも体勢を立て直したようだ。少し前のめりでこちらを睨みつけようとして、失敗したようにポカンとした間の抜けた表情を晒す。
 そこでようやく、自分も相手の姿を認識した。

「(人魚……)」

 向こうも何か言っていたが、言語が違うようで聞き取り辛い。多分似たようなことを言っているんだろう。
 目の前に人魚がいた。自分とは違う、長い長い尾をもった人魚だ。鱗の色は青碧色。日の届き切らない水中で、左右で少し色味の異なる金目が爛爛として見えた。
 あと、なんかこう、魚!て感じが強い。こっちが上半身ほぼ人間なのに比べて、全体的に鱗があるようだし、腕に鰭あるし、耳も鰭みたいな形してるし。強そう、強度的に。
 これは分が悪いなと判断し、即座に撤退を選び水面に向かって浮上する。追いかけられている気配はあるが、確認する暇があるならその分速く泳ぐわ。
 跳ね上がる勢いで縁に上がり、落ちないギリギリまで下がる。ジッと水面を見ていれば、相手の人魚が顔の上半分だけ出して恨みがましそうにこちらを見ていた。ホラーじゃん。
 水から上ってまで追いかけてはこないらしい。水陸両用タイプじゃなくて良かった。

 一先ず、変化した尾を乾かして脚に戻す。着流しだからまぁいいけれど、パンツが無いのはちょっと落ち着かない。このままノーパンで家に帰るのか……、嫌だな。靴も失くしたし、あぁヤダヤダ。もうどうしようもないけど。
 最後に万感の思いを込めて、親指で首を切って下に向けるジェスチャーをしてから家に帰った。


_ _
 翌日。性懲りもなく猫岩の頂上に来ている。
 今回は縄梯子を持参した。帰りは途中まではしごで降りて、足りない分はまぁ飛び降りても平気かなぁの予定。昨日は登りより降りの方がロッククライミングは辛かった。

 家に帰ってから改めて考えてみたのだけれど、あの人魚はもしかしなくともこの岩の中に閉じ込められている状態なのではないだろうか。きっと満潮の時に入り込んで、潮が引く時に一緒に出て行かなかったから置いて行かれたのだ。満潮が過ぎるとこの辺りは岩だらけだから、飛び下りて遠くなった海に向かうことも出来なかっただろう。ちょっと間抜けな話だが、そうに違いない。間抜けな人魚もいたものだ。
 つまりコイツは家に帰れない状況なわけで。
 飯が食えていない状況なわけで。
 閉じ込められるわ腹は減るわの状態で、仕方がなく自分を襲った可能性も無くは無いのでは無いかなと思わないこともないわけで。いやでもそうなると私はアイツにとって完全に今日のご飯扱いだったわけだが。
 何はともあれ、良い子のロア君が「何か助けてあげられないかな」とひょっこり顔を出してしまった。おねがいだからステイしていてほしかった。結果は背中に背負ったリュックサックでお察しである。
 中には食料(調理前と調理後)と、救急セットを詰めてきた。容赦なくぶっ叩いたから一応ね。こっちも容赦なく噛まれましたけど。

 また引きずり込まれたらたまったものじゃないので、穴から1m離れた地点で荷物を下ろして立つ。
 よし声を掛けるぞと意気込み息を吸った瞬間、大きな水飛沫をあげて昨日の人魚が飛び上がって姿を現した。驚き過ぎて吸った息で噎せる。ぶっかけられた水飛沫にも噎せた。

「うぇ、またビショビショじゃん……」

 口に入った海水を顰めっ面で吐き出すこちらを、人魚は縁に肘をついてニコニコと見ている。……昨日はよく見てなかったから分からなかったけど、この人魚、顔が良い。
 それにしたって二日連続びしょ濡れは最低だと悪態吐きながら、荷物の無事を確認する。特に救急セットの中の傷薬。防水の物を選んではきたけれど、それは塗った後であればという条件があるかもしれないし。
 ゴソゴソと荷物を全部外に出して点検する。うんうん問題はないようだ。

「もしもし人魚さんよ」
「〰〰──なぁにぃ、メヌケちゃん?」
「もうやだぁ、言葉通じないとか最悪なんですけどぉ」

 まるで歌うように綺麗な声だが、そんなこと今は関係ない。
 困っているのなら手助けするのも吝かではないが、意思疎通に問題が生じると一気に吝かになる。こちとら念のために気を遣って公用語で話してるんだぞ。
 萎えたなと横倒しに寝転がると、人魚はケラケラと楽しそうに笑う。実はこちらの言葉を分かっていて分からない振りしているとかじゃないのかこの人魚。そうかもしれない、言われてみれば賢そうな顔してるもの。
 本当は言葉が分かってるし喋れるだろう、と確認するも返されるのは、にっこりキョトンとした顔と歌うような声。
 ちくしょう顔も良いが声も良い。

「まぁいいや。取りあえずこっちが薬でこっちが食べ物。簡単な傷薬とかあるから好きに使って。食べ物は何食べるのか分かんないから適当に持ってきたけど、食べられない物は持って帰るから教えてほしい、傷むのもあるから」

 もう通じていること前提で話を進めることにした。
 ズイッっと荷物をすべて人魚側に寄せて様子を見る。視線が荷物とこっちとを行き来して、なんでかこっちに手を伸ばしてきた。違うんだ荷物に興味を持ってほしいんだ。

「昨日ぶつけたとこ痛くない?」
「〰〰──別にぃ、俺そんな弱くねぇしぃ」
「腹減ってないの?それともどれも食べられないやつ?」
「〰〰──気分じゃないだけぇ」
「うぅん、分かんねぇんスわぁ」

 お手上げしたらケタケタ笑う。なんも面白くないからね。
 こっちが困ってるの見て楽しんでるじゃん。良い性格してんな。このまま見捨てても図太く生きてけそう。
 どうせ次の満潮でどうにかなるしなぁ、と空を眺める。次っていつだ。この時期だと一週間後くらい?この島の潮の満ち引きは引力や気候だけじゃなくて、精霊とか妖精とか妖怪とか神様とかの気分次第なんていうファンタジーな要因が多いから、不定期過ぎて把握しきれてないのだ。

 うつらうつらしていたら、水の中に引き摺り込まれた。余裕で溺れるんでやめてほしい。
 ずぶ濡れのまま、荷物は全部持って帰った。飢えても知らん。


_ _
「また来てしまったよ」

 飽きずに水飛沫でずぶ濡れにしようとしてきたので、持ってきた傘でガードした。三日連続濡れネズミ帰宅は阻止したぞ。
 そんな対応が不満だったらしく、不機嫌そうに顔を歪ませて水の中へと戻ってしまった。おいこらフザケんな、こちとら遊びに来てるわけじゃあないんだぞ。

 待っていればもう一度顔を出すだろうと、とりあえず持ってきた食糧を穴の縁付近に置いておく。
 人魚は海の生き物だし、まぁ海産物を選べばどれか気に入るだろう、という安直な考えから本日の食材は海鮮づくしだ。しかも今日の朝獲れたてのぴちぴちをクーラーボックスに突っ込んで持ってきた。釣ったのも獲ったのも自分。労力が半端ない。
 これで今日も食べなかったらもう知らんぞ、と言う気持ちで奮発した。実際、これも手を付けなければ多分明日からもうここには来ないと思う。

「さすがに腹減ったでしょー?それともその中って結構な生け簀になってたりする?」

 そしたら無駄骨じゃんね、はぁ最低。
 ぐだぐだ考えていると、予想通りひょっこりと顔を出した。そのまま縁に腕を付いて上半身を乗り出し、クーラーボックスの中をしげしげと眺める。そんなに珍しい物はない筈だけど。

「〰〰──これってぇ、全部メヌケちゃんが捕まえたやつ?」
「何言ってるか分かんないけど、どれか興味引いた感じ?一番苦労したのクロダイなんだけど、要らないなら持って帰って自分で食う」
「〰〰──全部もらうねぇ」
「ちょっと待ってボックスは返して、びぇっ」

 いい笑顔で容れ物ごと水の中に戻ろうとする人魚を引き留めようとして、力が足りず一緒にドボンしたのは自分です。最悪だこの馬鹿力。
 魚を丸齧りする姿は結構ワイルドだった。野性味を感じる。


_ _
 いっそ開き直った。
 本日は食料の他に浮き輪も持参して登頂。しっかりと浮き輪の穴に身体を差し込んで入水した。死ぬつもりは無いので本当にただの入水。
 プカプカ浮きながら、変化していく下半身の感覚に顔を顰める。これは一生慣れない。マジムリ……リクジョウデセイカツシヨ……。
 そのまま浮かんで待っていると、そろりといった様子で人魚が顔を出した。心なし顔色が悪いような気がする。まさか昨日の魚が中った、なんてそんな馬鹿なことないと思いたいがどうだろう。

「〰〰──何それメヌケちゃん、鰾外に出てんじゃん。え……、え?」
「うぇ、めっちゃ迫りよる。なになに」
「〰〰──なんで平気な顔してるわけ!?メヌケちゃん死ぬの!!?」
「勢い増した!浮き輪か?浮き輪になんか恨みでもあんの?あ、浮き輪知らない?これが浮き輪だよ!」
「〰〰──ぎゃ!」

 恐る恐る近付いてきたかと思えば、何やら捲し立てながら一気に距離を狭めてきた。必死に、しかし決して触れないようにする人魚の視線は胴体の浮き輪に固定されている。
 原因はこれか!と慌てて脱げば、今までにない不協和音が短音で発せられて耳が死んだ。

「ぉぇ。……これ、浮き輪。泳げない人の補助器具ね……」

 弱い吐き気と眩暈に苛まれながら縁にしがみつき、どうにか浮き輪について説明する。詳しくは水をちょちょっと魔法で動かして、溺れた人に浮き輪を与えて泳げるようになる過程を簡略化した映像で見せた。
 なんでか泣きそうな顔をしていた人魚は説明をきちんと理解してくれたらしく、今度は浮き輪に興味津々だ。たぶんスゲェスゲェと言っている。そのテンションのまま、こちらの意見も聞かず浮き輪は奪われた。
 それが無いと溺れるんだが?と抗議する間もなく、殺傷能力の高そうな尖った爪が刺さって浮き輪はご臨終した。
 おまえ最低。


_ _
 潮の様子を見がてら、今日の食事の調達をするために海辺を歩く。まぁそんなこと言っても「今日は海が近いなぁ」くらいの認識しか出来ないので何の確認にもならないが。
 一応、気分さえ変わらなければ、明日か明後日には満潮になるらしい。
 ぼんやり沖の方を眺めていると、最近見慣れた長い尾鰭が見えた気がした。見間違いか、もしかして気にし過ぎて幻覚か?
 もう一度見えるかと、歩みを止めて先程尾鰭が見えたところをジッと注視する。ただただ海面が太陽光を反射して、きらめきながら揺れるだけだった。

_ _
「人魚さんもしかして仲間いる?あっちの方で同じような尾鰭見たよ」

 今日のご飯を渡しながら、沖の方を指差しつつ質問する。伝わった所で、自分は返事を理解できないが。

「〰〰──……ふーん?」
「あ、今のはちょっと分かったかもしんない」

 嬉しいとか愉しいとか珍しいとか、そんな何かしらが混ざった「ふーん」でしょ。仲間がいるのか、良いねぇ。

 もうお腹いっぱいになったのか、それとも食べる行為に飽きたのか。トプリとまた水の中に戻り、見えなくなる長い尾鰭を見送る。
 そのまま横に身体を倒し岩肌の地面に耳をくっつければ、かすかに歌らしき音の流れが聞こえてきた。たぶん水の中で歌っている人魚の声が、水を揺らし岩を揺らし、伝わってきているんだろう。よく分からんけど。
 楽しそうなそれをちょっと真似して歌ってみたら、わざわざ再度浮上してきた人魚に指差されて笑われた。すぐ煽りよるなこの稚魚。


_ _
 今日の晩、待ちに待った満潮となるらしい。
 それを伝える為にいつもより少し早い時間に猫岩に向かえば、途中の道が大分海水に浸かっていた。これは早く戻らないと自分が溺れて死ぬ可能性が大。
 えんやこらと猫岩を登り切れば、縁に手を置いた人魚が珍しく水から上半身を出して沖の方を見ていた。野生の勘か何かで、言われずとも今日が満潮だと分かるのかもしれない。
 こちらが来たことに気が付いているんだかいないんだか知らないが、反応が無いことをいいことにしばらくその横顔を眺めた。

「はぁ、ツラが良い」
「〰〰──なに言ってんの〜?」
「ほにゃほにゃ笑いよる。この顔も見納めかぁ」

 清々するなぁ!!
 何故だかいつも以上に水の中に引き摺り込もうとする人魚に全力で抵抗し切り、逃げる間際に今夜が満潮であることを伝えて去った。


_ _ _
 上弦の三日月が笑う夜。
 猫岩の天辺を見下ろせる山の崖の端に座り、のんびりと満潮になる様子を眺める。猫岩の所では、水面近くまで上がってきている人魚の鱗が月の光を反射して煌めいていた。潮が満ちればすぐにでも海に戻れるよう、水面を漂い待っているようだ。
 視線を沖の方へずらせば、同じようにキラキラと光るものが見えた。

「いや、めっちゃ仲良いな」

 沖の人魚が猫岩の人魚を待っていたのは間違いないとして。
 猫岩の人魚も、海に戻れるのを今か今かと待っているのは勿論のこと、あの沖の人魚と合流できるのを心待ちにしているらしい。この距離でも伝わってくる。仲がいい。なんとも羨ましいことだ。
 そうこうしている内に、海面が猫岩の天辺に到達した。
 流れるような動きで人魚が海へと戻っていく。暗い夜の海の中でも、キラキラ輝く鱗はよく見えた。

 合流し、二人分の鱗光が黒い海の中に消えていく。
 何ともあっさりとした別れだ。自分がここにいると知らないにしても、一度として振り返りもしない。名残惜しさだとか、後ろ髪を引かれる思いだとか、そういう何かは無いんだろうか。無いんだろうな。無さそうな性格してた。

「あーあ、メダカか金魚でも飼おうかなぁ」

 駄目だな、面倒みきれる気がしない。


_ _ _
――ボードゲーム部部室――

「〜〜♪〜〜〜、、、♪」
「おや、それは陸の歌ではないですよね?」

 うっかり口ずさんだ歌に、円卓の左手側に座るアズール君が盤面から顔を上げて反応した。
 ゲームの進行が自分有利だった為に、ちょっと気が緩んでしまったらしい。慌てて片手で口を押さえ視線を逸らし関係のない鼻唄を歌うが、それで誤魔化されるとでも?という無言の圧を向けられて終わった。誤魔化されろよ。

「それ、ロア氏時々歌ってるよね。無意識みたいだけど」
「え、嘘。マジで」
「マジでござる」

 右手側に座るイデア君が、にんまり笑って恥でしかない情報を漏らす。

「うまく聞き取れないからリオ氏の国の言葉かと思ってたけど、違う感じ?」
「そうですね。おそらく僕たちの言語に近いかと」
「ああ、ロア氏一応人魚だもんね。カナヅチだけど」
「やだぁ、イデア君さっきから要らないことしか言わないじゃん。口閉じて?」

 要らん口は封じるに限る。手近にあった棒状のスナック菓子を口に突っ込んで黙らせた。そのまま黙ってモソモソ食べる所に、そこはかとない育ちの良さを感じるね。
 そんなんどうでも良いから続きやろうぜぇ〜、と賽を振って駒を進める。アズール君は運ゲーが嫌いらしいが、私は運ゲーが得意なのでそれなりに好きだ。アズール君の苦い顔が見られるマジカルライフゲームは楽しいなぁ〜。
 おめでとう、貴様ら二人からそれぞれ一千万マドルを徴収です。

「いやぁ、他人から金を搾り取るって楽しいんだねぇアズール君」
「……〜〜──♪〜〜〜──、、、♪」
「おいやめろよ」
「いえいえ、気になってしまっては賽も振れないもので」

 私のせいで素寒貧になりかけているアズール君にドヤ顔したら、様になり過ぎるドヤ顔を返された件。

「アズール君ひでぇ。マジ勘弁して。たぶん歌詞間違ってるし音も違うから」
「おや、ロアさんの歌じゃないんですか?」

 アズール君のキョトンとした顔かわよ。いやそうじゃねぇ。

「子どもの時に一回聞いて、真似して歌って、……下手過ぎて指差されて笑われたやつ」
「……そんな嫌そうな顔するくらいなら歌わなきゃいいのに」
「駄菓子もっと詰め込もうか?テンポが好きで頭に残ってんの。脳内で繰り返すくらい良いと思わん?」
「拙者入学から両手で足りないくらい聞いてるんだが?脳内とは??」
「マジか」

 最低。出来れば片手に足りるくらいの時点で教えて欲しかった。

「もういいじゃん。今後この話題出したら処すぅ」
「おや、具体的にはどのように?」
「高度600mから落下傘なしでのスカイダイビングを疑似VR体験させる」
「「やめて」ください」
「あれは私が12歳の時だった――、」
「急な自分語りやめてくだしあ」
「子どもをそんな高度から放り投げるだなんて、陸も恐ろしいことをしますね」
「いやこれロア氏の故郷のみですしおすし」
「ああ、あの」
「そう、あの」

 おかしい、なぜか私の国のディスりが始まってしまった。
 いいからゲームしようぜ!お前ら私のATMな!!


**
■ロア・ニシキ
島国育ちの野生児。
幼少時に縁あって数日間のみウツボの人魚(稚魚の姿)のお世話係をしていた。
食に妥協したくないタイプ。
音痴ではないと思いたいが気付くと音程がズレてハモっている。
強制スカイダイビングは同じお山に住む子天狗の悪戯。大人の天狗に助けてもらったが、その際の勢いで両肩の関節が外れた。
ボードゲーム部には遊びに来てるだけ。
人生の運は運ゲーで使い果たしている可能性がある。

■稚魚イド・リーチ
海の精霊とか妖精とか魔物とか神様とかの気分で流されてきた。
人間に捕まったのかと思いやられる前にやる精神で引き摺り込んだら同族だった。
ヒラヒラしてて綺麗じゃーん。
何の人魚か分からなかったが色が赤いからメヌケちゃん。
ワンチャン持って帰りたかった。
帰った後にもう一度来ようとしたけど行けなかった。
何回かチャレンジしたけどその内に飽きた。
アズールの鼻歌に既視感を覚えるも、聞いてもはぐらかされたので「じゃあいいやぁ〜」ですぐに忘れた。
多分二度と思い出さない。
それでも呼び名は“メヌケ先輩”。

■アズール・アーシェングロット
運ゲーに見放された男。
話題にしなければいいのだと、歌の内容を考えて脳内でリピートしていたらうっかり口に出ていた。
疑似だろうが高所からの落下体験はしたくないので考えるのもやめた。
弱みを握る良い機会だと思ったのにとても残念。
よき先輩後輩の関係を築けていますよ()。

■イデア・シュラウド
駄菓子おいしい。
ロア氏は気を抜くとすぐに歌い始めますなぁ、とそんな気を抜く現場に頻繁にいるシュラウド。
ちょっと調子外れなのが面白くてまぁ好き。


***[newpage]
□□□
おまけ 監督生ちゃんくんと。

 放課後。部活があるらしいエースとデュースと別れ、グリムには「オレ様は眠いから先に帰ってるんだゾ」とさっさと置いて行かれてしまい、残された自分は一人で校内の外廊下を歩く。
 こういう時に限ってガラの悪い人に絡まれるんだよなぁ、と嫌な経験則が頭を過った。
 いやいや、別に一人でも無事に寮まで辿り着いたことくらいありますし?なんなら体力育成で鍛えられたこの足で逃げ切りますし。流石にサバナクロー寮生は無理なので、出来れば陸上生活一年生の人魚がいい。二年目以降は機動力が馬鹿みたいに上がる人もいるから却下で。
 でも一番は絡まれないことなんだよなぁ、と心なし歩調が早まる。

「どぅわっ」

 しかし注意力が下がっていたらしく、曲がり角で誰かにぶつかった。

「(これは「骨折れたじゃねぇか!」って絡まれるやつ!)」

 もうお約束過ぎて笑うしかない。
 反射的に目を瞑り、尻餅をつく衝撃に身構えた。

「あっぶないなぁ」
「……に、ニシキ先輩」

 グンッ、と腕を引っ張られる感覚に目を開ければ、驚いた顔のニシキ先輩がそこにいた。予想していなかった人物の登場にぼんやりしていると、更に腕を引っ張られてきちんと立たされる。
 少し乱れた制服を正してもらい、「怪我無い?」の問い掛けに対して「……ふぇい」と情けない返事をしてしまった羞恥心から、今すぐ墓穴に入って死にたくなった。
 軽率に死を願っていれば、ニシキ先輩に右手を持ち上げられて、手の甲にある擦り傷に苦笑される。

「まぁた生傷こさえてんねぇ、監督生」
「へへへ。飛行術の時間に、グリムの後ろに乗ってみたんですけど上手くいかなくて……」
「飛行術一年生に、いきなり二人乗りは無茶が過ぎるよ」
「おっしゃるとおりで」

 情けないが笑うしかない。
 足がつくかつかないか程度での転倒だったからこの程度で済んだものの、これでへたに上手くいったが為に空中で投げ出されていたらと考えるとゾッとする。骨折で済んだらまだマシ、な状況だろう。
 掴まれていた手をそのままに、外に面した広いへりに座らされる。どうしたんだろうかと少し屈んだニシキ先輩の様子を見ていると、いつも着ているカーディガンのポケットを探り始めた。ポケットあったんだ、それ。

「じゃん、河童印の傷薬〜」
「カッパ?」
「河童河童。よく効くんだこれ」
「はぁ、カッパ……」

 阿呆みたいに「カッパ、かっぱ?」と繰り返す。ニシキ先輩も同じように「河童」と繰り返すその顔は楽しそうだ。
 ……カッパいるんだ、この世界。
 取り出したのは小さな軟膏用の容器で、少し緑がかった軟膏が入っていた。それを薬指ですくい、丁寧に擦り傷に塗っていく。

「これめっちゃ効くからね。あかぎれ、しもやけ、ひび、すりきず、きりきず、火傷、なんでも。私が昔でっかい噛み傷つくった時も、これ塗って寝て起きたらまっさらだったから」
「どこのオ○ナイン軟膏。犬にでも噛まれたんですか?」
「いーや。迷子の人魚に噛まれたの。ギザギザの鋭い歯でガブッとね。ハハ、噛みちぎられるかと思った」
「うわぁ、笑い事じゃないですよ」
「可愛い稚魚ちゃんのすることだからね。私は心が広いから笑っといてやんの。ちゃんとやり返したし」
「はぁ、先輩強い。なんの人魚だったんですか?」
「なんだろうね?長かったしウナギかな?ツラが良かったのは覚えてる」
「ツラって……」

 雑談している間に、いつの間にか右の手の甲どころか両手の至る所に薬を塗られていた。慣れない家事のせいでアカギレが酷かったから、きっとその為だ。サラサラとした手触りで、薬を塗った後という感覚はあまりしなかった。

「これ一個あげるから、寝る前にでももう一回付けて」

 掌に置かれた河童印の傷薬。本当に蓋にカッパのマークが描かれていた。ゆるキャラ風。かわいい。
 ……じゃなくてっ。

「いやいやいや!貰えないですよ!!」
「なんで?」
「なんでって、そんないい物貰っても、対価とか、払えませんし……」
「対価wwいや私オクタじゃないから」
「オクタヴィネルじゃなくても、ここってこう、利害の一致とか損得とか気にするじゃないですか!」
「へぇ」

 いや、へぇって!

「今は損得考えんの面倒臭いからどうでもいいや。じゃあね」

 言うが早いか、ニシキ先輩は止める間もなくさっさと走って行ってしまった。角に消えたかと思えばひょっこり顔だけ出して「ちゃんと使ってね」と一言、手を振って居なくなる。

「……NRCの善意ってスカラビアに偏ってるのかな」


 言われた通りに寝る前にもう一回塗って寝たら、翌朝には手の擦り傷もアカギレも一つとして無くなっていた。これはピカピカの卵肌。うわぁ、効き目がエグイ。
 グリムの肉球に塗ったらぷにぷにで気持ち良かったので、後でルチウスさんにも勧めてみようと思った。


_ _ _
■友好的なスカラビアの人。
初見では、監督生ちゃんくんが不良に絡まれているところにロアが乱入した。ロアの中には“いい子のロア君”がいるので、弱い者イジメや多勢に無勢には頻繁に乱入している。遠くから全速力で駆け付けつつ、初手は飛び蹴りが定石。一応靴底にクッション性を持たせる魔法をかけているので、大怪我にならない程度の配慮はしている。
河童印の軟膏は幻燈の島ではそれなりにポピュラーな薬。
まさにオ○ナイン軟膏。
ただし、島外では相当な高級品。
そもそも幻燈の島が基本的に外の国とほとんど交流を持たないので、島内独自の製品は島外では希少で貴重で高値になる。アズールに見せたらいい笑顔でご相談を持ち掛けられる品物。


***[newpage]
□□□
おまけ イデア殿とお話させたかった。はずだった。

 いつもであれば引き籠りまっしぐらの真っ昼間。
 オルトからの緊急の連絡を受けたイデアは、珍しく全力で走って中庭に向かった。
 息も絶え絶え辿り着いたイデアが見せられたのは、中庭を囲むような複数の野次馬と、それらに見守られながら仲良くブーメランで遊ぶロアとフロイドの姿。野次馬の一人の頭にフロイドの投げたブーメランが当たって昏倒し、見守られていた二人が爆笑した。

「ちょ……、ま……、ど……?」

 ちょっと待ってどういうこと?
 酸素が足りず言葉も成り立たない。中庭に面した廊下の柱の一本に寄り掛かり、支えられても立っていられずズルズルと地面にへたり込んだ。

「おや、イデアさん」
「兄さん!」

 声を掛けられ、状況を理解し切れないイデアは取り敢えず顔を上げる。
 そちらを見れば、こんな時間にこんな場所に珍しいと顔に書いてあるアズールと、イデアを呼び出した張本人であるオルトが並んで立っていた。

「お、オルト!怪我はッ?不調はッ?さっきの緊急メッセージは何事???」
「兄さん落ち着いて、僕は大丈夫!あの後改めてメッセージを送ったけど、見てない?」
「見てませんけど!!??」
「イデアさんは一度落ち着かれては?」

 縋り付かんばかりの勢いでオルトの安否を確認するイデアに、アズールは呆れた様子で溜め息をつく。
 オルトの掛け声のもと何度か深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻したイデアはいそいそとタブレットを操作しメッセージを確認した。中庭に向かう前に見た「どうしよう!兄さん助けて!」と言った内容の次に、「仲直りしたみたい!」と言うメッセージに現状の様子のデータが添付されているようだ。

「今北産業??」
「ロアさんとフロイドがケンカを始め、遭遇したオルト君がイデアさんに救援を要請し、イデアさんが到着するまでの間に仲直りして今に至ります」
「???」
「以上です」
「????」
「どうしよう、兄さんが壊れちゃった」
「放っておきましょう」

 事の始まりだった殴り合いの喧嘩の為に集まっていた野次馬が徐々にいなくなる中、酸欠諸々のせいで動作停止中のイデアと、そんな兄を心配するオルト、フロイドに用があったアズールのみがその場に残る。
 そろそろ昼休みが終わる頃、フロイドの「飽きたぁ〜」でようやく解散となったようだ。

「あれぇ、アズールなんでいんのー」
「お前に用があったので待っていてあげたんですよ」
「え〜、待たないで呼べばいいじゃん」
「呼びましたが気付かなかったでしょう!」
「はぁ?そんなの知らねーし」

 用があると言われておきながら、じゃあねと長い足を生かしてフロイドはその場からさっさといなくなる。それを一瞬見送りそうになったアズールも、「待ちなさい!」と声を上げて慌てて後を追って去って行った。
 残るのは、今まで遊んでいたブーメランをどう考えても入らないだろうカーディガンのポケットにいそいそと仕舞うロアと、イデアとオルトの三人のみ。仕舞い終わったロアはイデアの側まで歩み寄ると、腰を屈めて眼前で手を振った。

「イデア君起きてる?もしかして目を開けたまま寝るとか器用なことしてる?」
「ハッ!起きてますぞ!!」
「おはよう兄さん!」
「おはようイデア君」

 漸く焦点の合ったイデアに手を差し伸べ、引っ張り上げて衣服を正す。猫背ながら180超えの長身に見下ろされるのも、170程度しかないロアにとっては慣れたものだ。

「こんな昼間に会うとか貴重じゃん。どうしたの?」
「お、オルトから緊急の連絡あって……」
「フロイド・リーチさんとロア・ニシキさんがケンカしてるのを見つけて、僕が呼んだんだ。フロイド・リーチさんはアズール・アーシェングロットさんがいたから大丈夫だと思ったけど、ロア・ニシキさんは兄さんに任せた方がいいかと思って」
「いやぁ?イデア君にケンカの仲裁は荷が重い過ぎるでしょ」
「まったくもってその通りっすわ……」

 猫背を更に丸くして暗雲を背負うイデアの背中を、ロアとオルトが撫でて慰める。

「そもそもケンカしてた二人がブーメランで遊び始めてるとか意味不明なんだが?もしかして陽キャの最近の流行りだったり?」
「そんな流行り嫌だわ。
 違う違う。口喧嘩しててなんかウツボ君に言われたんだけど、お前それブーメランだかんなっつったらブーメランって何って訊かれて」
「それでロア・ニシキさんが偶然持ってたブーメランに興味を持ったフロイド・リーチさんが、ケンカよりもそっちに気分が向いちゃったんだよね」
「……まぁ、海にブーメランは無さそうだしね」

 偶然持ち歩くブーメランに関しては誰も触れない。

 三人以外誰もいなくなった中庭で雑談を続けていると、予鈴が鳴った。次の授業は何かと考えて、トレイン教授の魔法史の授業だったと思い至る。
 面倒ではある。が、せっかくのお猫様ルチウスとお目見えできる貴重な機会だ。猫派な二人に否やはない。

「仕方ない、ルチウスたんの為ですからな」
「あのイデア君すら動かすルチウスたん。お猫様パワー偉大っすわ〜」

 はーやれやれと重い足取りながら教室に向かうイデアの後ろに、オルトと軽く囃すロアが続く。

 そんな意気揚々と向かった教室で、ルチウス無しの単体トレイン教授に二人揃って肩を落としたのは余談である。猫は気まぐれな生き物なので仕方ない。そこもまたお猫様の魅力。
 代わりと言っては何だが、あまりの二人の落胆ぶりについつい笑ってしまったオルトが可愛かったのですべて許した。

「私の弟がこんなに可愛い」
「はぁ??拙者の弟ですが???」
「はいはい、イデア殿の弟ばりかわでらかわ」

 弟を褒められて満足げなイデア君もかわいいかわいい。


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 今北産業は死語ですか。
 ネットスラングの生き死にの把握が難しい。
 フロイド君とはまぁお互い覚えていないし昔のことは無かったこととしつつ。「あ゛?」て言われたら「あ゛?」て返す間柄。「お前ぇそれブーメランだかんな?」ていうと「ブーメランって何」って言われて実物作ったり実演したら目を輝かせて「おもしれー!」って喜ぶもんだから喧嘩してたのも忘れてそのまま一緒に遊ぶ。途中で受け取り損ねてどっちかの頭にぶつかると指差しながら遠慮容赦なく爆笑して喧嘩の第二ラウンドが始まる。そんな仲。
 近距離なら殴る投げるが得意。
 シュラウド兄弟かわいいけどパソスト所々しんどい。


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