俺は悪いメタモンじゃないよう。
明日からの期末試験に向けて、その場しのぎだろうが徹夜でお勉強だぜと気合を入れていたはずなのに、いつの間にか寝こけていたらしく目が覚めるとメタメタ言ってる紫色の粘性生物になってた俺の話、する?
……まぁそういうことだよ。
ポケモンなんてちょい見したアニメや叔父さんの家にあったイエローバージョンのゲームしかやったことないんだが?なんなら途中でゲームはバグったから放り出したが?
その程度の知識しかない奴、わざわざメタモンにして転生させるとか神は正気か?そもそもこれは転生でいいのかという疑問もある。そうだとするとまず俺は俺が死んだことを受け入れなきゃいけないわけで、いやまぁそれは精神衛生的に考えんとこうな。
なんであろうが過ぎ去ったことに対してメタメタ文句を言ったところで現状が変わるわけでもなし。どんなもんでも第二の人生楽しんだ奴が勝ちだろうと俺は思う。
昔から肝が据わり過ぎているだとか神経が図太過ぎるだとか心臓鋼鉄越えてオリハルコンだとか言われていた俺は、メタモンになって更に柔軟性までも手に入れたのだ。
だから。突然死んだだとか転生しただとかポケモンになっただとか、小学生以下もやるゲームにしてはおどろおどろし過ぎる森の中に放り出されている現状だとかだとかだとか、全部ひっくるめて柔軟に「そっかー」で受け止めた。
ゲームやらない勢だった俺だけど、友達とか親戚の同年代や年下たちの中にはそれなりにゲームしていた奴らもいたし、その中には興味ないながらも聞くだけ聞いとくスタンスの俺にとりあえず語るだけ語っておきたい奴らもそれなりにいた。今回の地方はどこそこの地域イメージでとか、最初の三匹で悩んでてとか、種族値がどうのとか股下ローズタワーとかなんかそんな感じ。
何言ってんだろと思ったけど、優しい俺は突っ込まなかった。ほーん、そっかー。温かな笑顔。
さて、俺が今いるおどろおどろしいこの場所は何モチーフの地方かなぁ?
メタメタ言い始めて多分数か月経った。
だけど未だに、ここが何作目のどこをモチーフにした地方なのかも分かっていない。誰かに聞いたような風景もないし、きっと俺が死んだ後の新作なんだろうなと思う。
しかし、いつまで経っても葉の茂らないグネグネと曲がった全体的に黒い木や、粘体でなければ今頃血だらけであっただろうと予想できる尖りに尖った地面を這うように生える草に、地面はひび割れるほどに渇いているかと思えばいきなり現れる赤とも黒とも言えないヘドロのような水たまりと、見上げれば陽光とは縁遠い分厚い雲がグルグルと渦巻く灰色の空、の元になるような場所が現実の一体どこにあるんだろうか。
地獄か?新シリーズのモチーフは地獄。形相ごとに鬼と亡者をイメージした新ポケモンが登場。八熱地獄と八寒地獄で32匹は新ポケ確定ですおめでとう。
闇深ゲームとか言われてるからいけそうだけど、これ以上は怒られるだろうからやめような。
あと俺が知っているポケモンらしいポケモンに遭遇したことが一度としてない。ピカチュウいないのかピカチュウ!跳ねるだけでほぼ無害なコイキングでも可。おおよそ皆勤賞とか言ってたじゃん。
今まで出会った生き物だと、でっかいレンズみたいな眼が付いた薄い肉色の球体とか、サイとトカゲと何かを合わせたような何かとか、やたらでかくて足の筋肉が発達したカマキリとか、歩く根付きの草とか、空飛んでる虫ともトカゲとも言えない細長い飛行体とかしか見てない。
まさかこれがリアルポケモンとか言わないよな?
しかもやたらと好戦的で、俺と目が合うと問答無用で突進してくる奴ばっかり。従兄弟が言ってた「目が合ったらバトル」ってこう言うこと……?
バトルっていうより生死を掛けた食うか食われるかの戦いだけど。
最初は様子見とメタメタ逃げ隠れして観察してたが、負けたら死ぬ。食われて死ぬ。まさしく弱肉強食の世界。はわはわ言ってビビってたら簡単に死ぬ。ビビって固まるくらいなら右フックだ覚えとけ。
死にたくないのでジャブストレートフックアッパーを繰り返し、レベルをひとつふたつと上げて暮らした数か月。ふと考えが過った。
「(ここポケモンの世界じゃねーんじゃね?)」
天啓である。
ひらめきついでに、喧嘩を売ってきていた筋骨隆々な青黒い両生類にアッパーカットを決めた。勝利のゴングの代わりにレベルアップの音楽が脳内に響く。これで何度目かは数えていないので覚えていない。
そうだよ、そうに決まってる。小学生以下も楽しく遊べるゲームが、こんなに生き物も世界観もグログロなわけがない!
親戚のガキどもの夢壊れないじゃんよかったー!と喜ぶと同時に青黒い両生類を溶解・吸収。だから弱肉強食って言ったじゃん。俺だって食わないと死んじゃうじゃん。じゃんじゃん。
「(ん?そうなるともしかして俺はメタモンじゃない……?)」
それならおれはなに?
示された真理に間抜け面でSAN値チェックのお時間です。
捕食しつつ呆ける俺の脳内でダイスが振られる、ことはなく。何の前触れもなく足元に歪な魔法陣が浮かび上がり発光した。赤く、青く、黒く、白く、様々な色が混ざり澱み、終いには毎日の天気と同じ見慣れた灰色が渦を巻く。
逃げるべきだと本能が警鐘を鳴らすが間に合わない。深い沼に引きずり込まれるように、体が魔法陣に沈んでいった。
「(せ、世界観わかんねぇ〜〜〜っ!)」
とりあえず魔法がある世界ね、把握。
_ _ _
今日は使い魔召喚の演習授業を行うらしい。
これまでずっと座学で色々教えられてきたけれど、何を言っているのかさっぱり分からなかった。学園長の翻訳魔法がバグったんじゃないかと疑ったけど、ただただ自分に理解力がないだけと判明して泣いた。違うんだ専門用語が多すぎただけで馬鹿じゃないはずなんだ。
青空を見上げる運動場に集められたのは、1年A組とB組の二クラス。あとは先生の補助として、召喚術の得意な選抜された上級生が数人。きっと単位貰えるとかうま味があるに違いない。
なんとなくいくつかのグループで固まる生徒たちの前方で、拡声魔法を使った担当教師がほにゃほにゃと注意事項を並べてくれているけど、そわそわと落ち着きのない生徒たちは右から左に聞き流しているようだった。座学で散々言われ続けていた所為もある。
かく言う自分も、どうせ聞いたところで魔力なしには意味が無いしなぁ、と視界の端の蝶々を追いかけている状態だ。お、あそこに見える灰色のお耳は我が友ジャックかな?真面目にお話聞いてて偉いねぇ。
「――ぶん、やい子分!オレ様を無視すんじゃねーんだゾ!」
「え、あぁ、ごめんグリム。犬耳に夢中になっちゃった」
「またおかしなこと言ってるんだゾ」
呆れた目を向けてくるグリムの頭を撫でてゴメンゴメンと謝る。許す代わりにツナ缶を食わせろと条件出されたけど、月末の我が寮にそんな余裕があるわけがない。主な原因はそもそも渡される費用が少ないこととよく食べよく眠りよく騒ぎを起こすネコチヤンです。そして自分は程よく食べよく眠りよく騒ぎに巻き込まれるニンゲンチヤン。
「そんなことより、早くオレ様の分を渡すんだゾ!」
「あー、はいはいちょっと待って」
早く早くとズボンの裾を引っ張り急かすグリムに、持っていたファイルから取り出した15cm四方の紙を渡す。紙面に描かれているのは、ここ一週間で頑張って描いた落書き、ではなく召喚用の魔法陣だ。先生が言うには、召喚陣には基礎となる円があり、そこに各々の魔力の波長に合ったうんぬんかんぬん精神の働きによるうんぬんかんぬん、……まぁそういうことです。
とりあえず基盤となる円を描き、その内側で円に沿うように基本の文字を書き、後は個人のインスピレーション次第と言ったところ。
おかげでグリムの魔法陣は所々にツナ缶と書かれている気もする。考えてる途中でおなか空いたんだなぁこの常時腹っぺらしの猫ちゃんは。
魔力のない自分も、まぁ書くだけ書けと用紙は渡された。しかし無いものの波長なんぞ分かるわけもなく、仕方がないので一週間分の日記を書いた。
日本語で。
渦巻き状に。
細々と。
それをエーデュースとグリムに横から覗き込まれ、もらった評価は「なんか虫の集合体みてー」「僕も、これはちょっと……」「気持ちわりーんだゾ」だった。日本語に謝ってほしい。この出来事も魔法陣の一部になった。
「それでは順に、陣に魔力を込めていくぞー!」
やっと長い前置きが終わり、実践が始まるらしい。
各々の召喚陣片手にゾロゾロ動く生徒たちの後方に付いて動く。教師の前の地面には補助用魔法陣が描かれていて、その上に立ち、順に召喚術を行っていくらしい。
もう一度言っておくぞ!と念には念を入れていくスタンスな担当教師の「反応がないのはそもそも魔法陣が正しくないから描き直し!あとは相性の問題だね。光るだけでも陣に問題がないからGOOD、召喚できればGREAT、契約できればPERFECTだよ!」と拡声魔法なしの地声が響く。近くにいたら鼓膜やられてたなアレは。
片手に持った名簿を見ながら、生徒の名前を呼んでいく。
エペルは陣が光ったけど何もなく、グリムは何も起こらず描き直し、ジャックは獣型の魔獣が現れたけどすぐにいなくなり、デュースは一瞬点滅して終わり、エースはエペルと同じく光るだけで終わった。
それ以外の生徒も少数が何も起こらず大半が光るだけで、何人かが召喚は出来てもそのまま帰られ、ごく少数が奇跡的に使い魔と契約できていた。いやぁ、契約できた生徒のドヤ顔がすごい。内訳はオクタヴィネル一人、スカラビア二人、イグニハイド一人の計4人だ。
これが多いのか少ないのか知らないけれど、今後も勉強していくことで増えていく可能性はあるらしい。魔力さえあれば可能性はゼロじゃない。魔力さえあれば。
「最後に、監督生!」
「魔力ないので可能性ゼロですが?」
「やるだけやってみようぜ!」
いい見世物じゃない???
も〜〜〜っ!やだぁ〜〜〜っ!!と駄々をこねて逃げるわけにもいかず、しっぶい顔を隠さず処刑台もとい補助魔法陣の中に立つ。周囲の生徒がざわついていて、時間の無駄とか魔力なしとかまぁなんかそんな感じの言われ慣れた言葉が聞こえてきた。
保護者枠として近くに寄ってきていたエーデュースとエペルとジャックは、そんな周囲の反応にあからさまに機嫌を悪くしてくれる。いい子かよ。でもデュースとエペルはワル感抑えとこ?
「絶対なんも起こんないんですけど……、いっ」
投げやりな気持ちでやるだけやっとくかと紙を持ち直すと、指先に小さい痛みが走る。紙で指を切ったらしい。ぷくりと膨らんでいく血を眺めていれば、指を伝って血が流れていく。
ぱたり、と自分が書いた魔法陣の上に血が垂れた。
途端、魔法陣が輝いて、あまりの眩しさに驚いて紙を地面に落としてしまった。陣が書かれた側が伏せられて光が収まったかと思えば、今度はもわもわと灰色の煙が渦を巻きつつ溢れ出し、運動場に野太い悲鳴が響く。
「何やってんの監督生!?」
「自分が知るわけないでしょ!?」
「あんな虫の集合体なんか書くから……っ!」
「母国の文字だが!?」
「そったごどよりはえぐ逃げろ!!」
「そうなんだけど動けないんだよね!」
「何やってんだ監督生!!」
「ほんと申し訳ねぇ……っ」
他の一年生が四方八方逃げ惑う中、一年マブズは自分の心配をして留まってくれている。グリムもふなふな言いながら右に左に駆け回っていてとても可愛い。おまんが優勝。
そんなふざけた思考をしつつも、どうにか現状の打開を試みる。
自分の体⇒目と口は動くがそれ以外微動だにしない!
魔法陣⇒尚もぐるぐる煙なのか何なのかを吐き続けている!
一年マブズ⇒どうやら一定距離からこちらに近付けないらしい!壁がある、と言うよりも踏み込めないようだ。
教師と先輩さん方⇒せんせいは こうこつと きょうみぶかそうに けむりをみている!……いや生徒を心配しろ!?せめて先輩方のように生徒の避難に手を貸そう!?
……だめだな、打つ手がない。
「おい!諦めんな監督生!顔に出てんぞ!!」
「監督生サン、一気に真顔になったよね」
「監督生は表情に出やすいからな。本人はお国柄的にポーカーフェイスだと思ってるらしい」
「子分しっかりするんだゾ!!」
「諦めたらそこで試合終了なんだろ!」
エースってばなんとなく教えたオタク知識ちゃんと覚えちゃったわ。
まぁそんなこんな言われても、身動き取れない自分にはどうしようもないんだけど……。と考える内に、段々と煙が薄くなってきた。それに伴ってなんとか動ける身体の範囲も増えてきて、あともう少しで走り出せそうな感覚。
なんだ、結局煙だけ召喚とかしょぼいじゃ、
「全員校舎まで逃げよ!“暗き澱みを這う粘体”じゃ!!」
叫んだのは、数名の上級生の中にいたリリア先輩だった。少し離れた位置でマジカルペンを構える先輩はいつもの飄々とした笑みが鳴りを潜ませ、逼迫した様子で一点を睨みつけたまま動こうとしない。
睨みつけるのはこちらの足元。
くらきよどみをはうねんたい、とは?と漢字変換も出来ないまま自分の足元に視線を落とせば、落とした召喚陣の紙からデロリと現れる紫色の何かがいた。オ゛ア゜……。
_ _ _
ひねり出される歯磨き粉の気持ちを知った。普通なら一生知らずに済んだやつ。
ぎゅうぎゅうと狭いどこかを通り抜け、放り出された場所は見知らぬ芝生の上だった。青々とした芝生。人間体で踏みしめても何の問題も無さそうな、いい感じに柔らかさのある芝生だ。
上を見る。綿のような白い雲がいくつか流れる、晴れ渡る青い空がそこにあった。視線を遠くに向ければ、緑が茂る山もある。
「ンメ……」
ここ数か月見られなかった色彩に、感激のあまりまともに声も出ない。この身体になってからメタメタしか言えんけども。
感動のあまり涙まで出てきたんだが!地獄(仮)で数ヵ月過ごすとか、さすがの鍛え抜かれた俺のメンタルでも結構ヤバかったんだなぁ!!
じわじわじわじわ上がってくるテンションを自覚する。この湧き上がるような感情は何と呼べばいいのだろうか。パッション?これが世に言うパッションなの?oh!yes!passion!!溢れる熱情で俺の体は芝生を走り回りたくてうずうずしているんだぜ!
これはもう駆け出すしかなくない?駆け出すしかないでしょ?じゃあ駆け出すね!!
「メ、」
――スパンッ!
……俺の偉大な第一歩は、はっぱカッターみたいな、エアカッターみたいな、なんかそんな何かに阻まれた。はァ?
抗議すべくわざを放っただろう相手を睨みつければ、そこにいたのは懐かしい人型だった。耳がちょっと尖ってる気もするけど、間違いなく人間体だ。最近の若者はピンクメッシュとか気合入ってんな。多分俺と同じ年くらいだろうけど。
ついついぼんやり眺めてしまっていると、追撃をスパスパ食らった。さっきは行動を阻む為のものだったが今度は俺自身を狙っているようで、メタメタ避けるもおおよそ足の先っちょやおおよそ腕の先っちょを遠慮なしに切り裂かれる。この体の部位って、俺の認識次第だから、さ。
しかし地味に痛い。紙で指の先切った時みたいな痛さだ。粘体だからすぐにくっつくけど。だからっていい気はしねぇなぁ。
「クソッ、儂一人ではしのぎ切れんか……」
「メタ、メ」
「まったく、年寄りに無理をさせる!」
「メタァ」
話し合いで解決できんかな、とボディランゲージや声を掛けたりするけど、その度に容赦なくスパスパ体を切り付けられるからちょっと無理そう。たまにひのこみたいなのも当てられるし。
うぅん、平和的解決は出来そうにない、か。まぁ先に喧嘩売ってきたのはそっちだし?せっかく久し振りの人間との遭遇だったのに残念だな、とは思うがこれは仕方がない。この世は弱肉強食なもんで。
俺の雰囲気が変わったことに気が付いたんだろう。目の前のピンクメッシュが改めて構えをとる。
一瞬だ。一瞬で決めるンガッ!?
「そのバトルちょっと待ったぁぁぁぁッッ!!!」
「ンメッ!?」
「何やっとるんじゃ監督生!?」
まさに一触即発の状況で、まさか背後からタックル受けるとは思わないじゃん。
俺はいきなりのタックルに有るんだか無いんだか分からない心臓が飛び出しそうになったし、ピンクメッシュは驚き過ぎてでっかい目ん玉が飛び出そうなほど目をかっ開いて固まっている。そんな驚きの発生源はと言えば、俺のもにもにボディを遠慮なく堪能しているようだった。止めろ揉むんじゃねぇセクハラで訴えんぞ。
「はぁぁ〜〜っ、この色この感触!これはメタモン!確実にメタモン!!」
「メ!メタッ!メェッ!」
「鳴き声からしてもメタモン!可愛えぇ〜〜っ!!」
誰か俺を助けろ!!
_ _ _
腕の中でぐったりしているメタモンは、お餅のようなスライムのような人を駄目にするクッションのような、そんな色々を合わせたような何とも言えない感触だ。ずっと触っていても絶対飽きない自信がある。
はぁ〜〜〜、もにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもに……、
「メタァッ!」
「あ痛」
しつけーんだよ!とばかりにメタモンに側頭部をスパンッと叩かれたけど、それでも自分に抱えられたままでいてくれるので満面笑顔が崩れることはない。メタモン可愛い!!
場所は変わらず運動場のど真ん中。メタモンを抱える自分を中心に、警戒した様子の召喚術の担当教師とリリア先輩、恐々としながらも好奇心を抑えきれずそわそわするエースとデュースとエペルとジャック、そして自分の脚に抱き着き耳を伏せて見上げてくるグリムの計7人と2匹だけがこの場に残っている。腕の中にメタモンがいるだけじゃなく、脚にはふかふかネコチャンがくっ付いてるとかここが天国か?「締まりのねー顔」とエースに呆れられても全く気にならないね!
「それで、監督生が言うにはこの魔獣が、えーっと?」
「メタモンです!」
「ヴァンルージュ君の知識だと?」
「“暗き澱みを這う粘体”じゃ」
「私の知識でもそっちなんだよね。簡単に言えば、常に瘴気を放ち触れる全てを溶かすドロドロした何か」
「自分溶けてないですよ?」
「そーなんだよねー」
「おかしいのう?」
いやでもメタモンはメタモンですし。
先生と先輩があーでもないこーでもないと自分が描いた魔法陣を見つつ話し合いを続けるのを放って、腕の中のメタモンを見下ろす。うん、とてもメタモン。親分も気になるのか背伸びしながら腕を伸ばし、ちょいちょいとメタモンの先っちょをいじっている。
「変な感触なんだゾ」
「もにもにして面白いでしょ」
「面白い……?」
首を傾げる親分に見やすいよう屈んで高さを合わせる。メタモンとネコチャンが顔を突き合わせている光景は、端的に言って可愛い。心が潤う。また顔の筋肉が緩んでいたらしく「監督生、顔がひどいことになってるな」とデュースに指摘されたが、いいんだ可愛いんだから仕方ない。
にへにへしていると、腕の中のメタモンがブルブル震え始めた。いきなりの様子の変化に先生と先輩が身構え、一年生はズザッと一挙に距離を開け、グリムと自分は「おや?」と首を傾げて様子を見る。暢気か。エペルが「ぼやっとすてんな!」と怒鳴るが、だってこれはアレだもの。
「ふなっ!?オレ様とそっくりになったんだゾ!?」
「これがメタモンの生“へんしん”。すご。あ、でも顔までそっくり」
ブルブル震えてグネグネ動いて、出来上がったのは紫バージョンのグリムだった。毛艶もちょっと紫かかっているし、耳で燃えている炎も紫。瞳の色も紫だ。色違い親分可愛い。
「鏡みたいなんだゾ!」と喜ぶ親分は右手を上げ左手を上げ右足左足、たまにポーズなんか決めてくれる。そしてそれに応えるメタモン(グリムのすがた)も同時に手を上げ脚を上げ、同じタイミングで決めポーズ。は?スゥ……ッ、愛いっ!!!!(100セベク)
「ちょっとちょっと監督生、なんかグリムが増えてるんですけど!?」
「メタモンの“へんしん”って言うわざだよ。相手そっくりに変身するわざ」
「確かにそっくりだが、色は違うんだな」
「うーん、個体差ってやつかな?」
背中に貼り付くエースとデュースに答えながら、スマホで動画を撮影する。え?撮らないとかいう選択肢があるんですか??
「でも本当にそっくり、だよね」
「……見た目もそうだが、匂いでも分かんねぇな」
グリムの背後から手を伸ばしたエペルがメタモン(グリムのすがた)を撫で、感心したような声を上げる。ひくひくと鼻を動かしたジャックも、少し困惑しているみたいだけど思わず唸るほどのそっくり加減らしい。
「子分のおもしれー感触は分かんねーけど、オレ様とそっくりに化けるのはおもしれーんだゾ!」
「だゾ!」
「「「「「しゃべった!!?」」」」」
「……なーんで監督生まで驚いてんの?監督生、この生き物について知ってるんじゃねーの?」
「メタモン珍しいもん……」
「韻を踏んでる。余裕だね、監督生サン」
そもそも知ってるのはゲームや漫画やアニメの軽い知識であって、実際に存在してるわけじゃないからな、と思ったが説明が面倒なのでやめた。
「オレ様は火が吹けるんだゾ!」と得意げに無人の方向に青い火を噴く親分を見て、メタモン(グリムのすがた)も「オレ様も出来るんだゾ!」と紫色の炎を噴く。一年ズが「おぉー」と拍手を送る中、「「待て待て待て待て」」と割り込んで来たのは思考が追い付いてきたらしい先生と先輩だ。
「変身?変身するのか??」
「そうです!たしか、姿は勿論ですが、攻撃力や防御力などできることも全て同じにへんしん出来るすごいポケモンなんです」
「ポケモン?いやそれはともかく……、それはヤバヤバのヤバじゃが?」
神妙な顔をする先輩に、一年生5人と魔獣(暫定)2匹が首を傾げる。
「ふむ、儂の知る“粘体”とは違うようじゃから詳しくは分らんが……、そうじゃのう。例えば、仮にマレウスに化けたとしよう」
「げっ」
「その魔獣が、マレウスの能力を無暗に扱ったとしたならどうじゃ?」
「……想像するのもおっがなぇ……」
「それは、確かに。僕でもヤバいことになるって分かるな」
「こいつにはそんな可能性があるのか」
先輩の具体的な話に全員が嫌な想像をしてしまい、微妙な顔をメタモン(グリムのすがた)に向ける。
嫌な話の流れだな?
メタモン(グリムのすがた)も不穏な空気を感じ取ったのか、ちょっとオロオロしつつ自分の傍に寄って来る。先生と先輩から「強制送還するべき」と意見が出た時には、ビャッと毛を逆立ててへにゃりと耳と尻尾を垂れさせた。ん゛可゛愛゛い゛っ。
「というわけだ監督生、送還の儀式を行うぞ」
「えっ。いや、でも先生?こんなに可愛いのに……」
「残念じゃが、監督生にとっていくら可愛くともその能力は看過できん。お主と従魔契約する前に送還するのが最善なんじゃ」
「あの、でも、その」
「其奴が何か仕出かした時、監督生では責任も取り切れんんじゃろ?そうなってしまえば、お主の身元保証人であるクロウリーがすべての責任を負うことになるんじゃぞ?」
「それは、確かに、そうですが……」
優しく諭すような言い方に、何も言えずに視線が彷徨う。
先生、は送還提案者だ。支援はしてもらえない。エーデュースを見る。視線を逸らされた。エペルとジャックを見る。悲しそうな顔で首を振られた。孤立無援とはこのこと!
どぉ〜しよぉ〜かなぁ〜、とグルグル視界を回していると裾を引かれた。控えめな力加減に視線を落とせば、メタモン(グリムのすがた)が小さなクリームパンを二つ作って裾をギュッと握り込んでいる。おずおずと上げた顔は不安そうで、グリムとは違うアメジストのような瞳は水の膜が張って潤んでいた。
「オレ様、もうあっちには戻りたくねーんだゾ。……オマエはオレ様と一緒にいたくねーのか?」
「一緒にいたいですッッ!!!!!」
学園長に迷惑がかかる!?知らない子ですね!!
絶対に放すもんかとギュウギュウに抱き締める自分に、周囲は駄目だなコレはと呆れた表情を隠す素振りもない。いいんです!いくら呆れられたって寂しそうなメタモンと離ればなれになるくらいならどうだっていいんです!!
「メタモンはオンボロ寮の子です!!」
「あ、やりおった」
……まさかその宣言で従魔契約が結ばれるとは思わなかったと供述しており……。
_ _ _
野生のメタモンから、めでたくトレーナー付きのメタモンになった俺である。とりあえず俺はメタモン(確定)。
あんな地獄みたいな地方には戻りたくなくて、プライドも何もかもかなぐり捨てて渾身の懇願するお猫様のポーズを披露してしまったが結果良ければ全て良し。あのトレーナー、監督生が猫派の人間みたいでよかったよかった。不発の場合、ひたすらに俺が羞恥で死ぬだけだからなァ!
あの後は監督生の保護者らしいデカイ鴉みたいな学園長にもお目通りさせられたが、一瞬白目剥かれた(仮面越しなので雰囲気)後に「元あった場所に返してらっしゃい!」と言われたもんだから、監督生と一緒に駄々をこねるという一幕もあった。
お猫様の姿でもメタモンの姿でも首を縦に振ってくれなかったが、目の前のデカイ鴉の姿にへんしんして駄々をこねるぞと構えてやったら即OKである。「私……優しいので……」と絞り出すように鳴くのを横目に監督生とハイタッチした。最初から素直にそう言ってくれていればこんな手を考えずに済んだのになぁ?
トレーナー付きのメタモンになって数日経った。
過ごして気付いたが、どうやらこの世界はポケットモンスターの世界とは別物らしい。
そもそもポケモンはおらず、いるのは普通の動物や、いても魔獣や幻獣や妖精といった類のようで、俺はその中で魔獣か幻獣に分類されるんだとデカイ鴉が教えてくれた。監督生と揃って「ほへー」と間抜けな面を晒してしまったが、知らないものは知らないんだから仕方がない。
監督生も知らないのかよ、とも思ったが、こいつはこいつで異世界からこの世界に来たらしいので色々知らないのだとか。だからと言ってポケモン世界からと言うわけでもなく、サブカルチャーとしてポケモンがある、つまりは元々の俺と似たようなものだ。
だったら俺も人型のまま異世界に来たかった。今更言っても仕方がないが。
まぁ取り敢えずそんなわけで、ポケモン世界ではないファンタジーな世界にメタモンとして転生していたらしい。それでも俺はメタモン、いいね?
ポケモン世界でないならモンスターボールがあるわけもなく。アニメ版ピカチューのように、俺は基本放し飼いとして自由に生活させてもらっている。
この世界についても、学校に通う監督生と別行動して自力で学んだことだ。
「メタモン、学校行ってくるからいい子にしてるんだよ」
「オレ様がいない間に、勝手にツナ缶食うんじゃねーゾ!」
「カァッ!」
寮の門扉に留まり、登校する一人と一匹を見送る。いつもであれば見送った後に別行動するのだが、今日は俺も羽ばたいて校舎を目指す。今日の俺はカラス姿だ。と言うかほぼずっとカラスだ。
メタモン姿のままだと、大人連中と黄色と薄紫と黄緑の腕章をつけた生徒共が警戒するし、最初にへんしんした猫の姿だと本人の親分と間違えられて喧嘩売られるので超不愉快。親分の姿だと喋れて楽で良かったのにな。
まぁカラスは飛べるし、この学校だと周囲に沢山いて紛れ込めるし、色々利点があるから良し。次点で猫。犬はこの前鞭持った白黒コートに追い駆けられたから今後一生無い。俺が全速力で走ってるのに、向こうは息一つ乱さないとかホラーじゃん。
カラスは頭がいいし色々と知っているから情報収集にもちょうどいい。
良い餌場とか、生徒のあんなことやそんなこととか、教師のあんなこととかそんなこととか、近寄らない方がいい金髪おかっぱのこととか。え?弓構えて撃ち落とそうとしてくんの?えー、マジぃ?やだぁー、命が惜しいから近寄らんとこ。
カァカァガァガァ井戸端会議しつつ、この世界の知識をくれたのは大概カラスだ。
緑が茂る木に留まり、我がトレーナー監督生の教室での様子を窓越しに眺める。大体隣に親分がいて、教室にいる時はハートマークの生徒とスペードマークの生徒が良く一緒にいるようだ。俺がここに来た時も一緒にいたなそういえば。
ちらと見た別の教室にも、似たようにハートスペードダイヤクラブのマークを顔に描いた生徒が結構いる。流行りか?異世界の流行はよく分かんねーな。
午前最後の授業が終わって、食堂に向かうんだろう監督生が席を立つ。
俺も後を追うかと羽を広げると、監督生は廊下に向かわず俺が止まっている木の近くの、開いている窓へと寄ってきた。
「おいでよメタモン、一緒に食事に行こう」
「え、メタモンいんの?」
「僕にはカラスしか見えないが……。あ、もしかして例のへんしんか!」
「正解!」
「カァッ」
呼ばれれば駆け付けるのがトレーナー付きのポケモンである。と思う。多分。だって俺は監督生に呼ばれると近くにいてやらんこともないなと本能的に思うので。
腕を差し出されたが、間違って足の爪が刺さったら危ないから窓の縁に着地する。
鷹匠みたいなことがしたいと思っているのは俺がカラスにへんしんしてからここ数日で察したことだが、せめて腕の保護をしてから試みてほしい。残念そうにするんじゃねえ。タオルでも何でもぐるっぐるに巻けばやってやるから!
「へー、近くで見てもまるっきりカラスじゃん。見分けつかねー」
「まぁ?自分はトレーナーなので?それくらいは、ね?」
「いやドヤ顔うぜーんだわ」
「猫や犬でも、飼い主なら見分けがつくと言うしな!すごいな監督生!」
「いや素直か」
わちゃわちゃ喋る三人を大人しく待っていると、待ってられない親分が足元から「ふなぁ、腹減ったー」と抗議の声を上げた。そうだな、俺も減った。
「そのままだと歩きづらそーだし、オレ様にへんしん?するの許可してやるんだゾ」
「カァッ!」
いつの間にか親分へのへんしんは許可制になっていたらしい。屋内で飛ぶのもどうかと思ってたし、お言葉に甘えることにした。ドロっとへんしんするのはウケが悪いので、くるっと回ってポンだ。監督生から惜しみない拍手をもらった。もっと褒めろ。
_ _
いつもなら見慣れた魔獣も、二匹に増えると注目の的になるらしい。視線がウザい。
初めての食堂に視線も体もフラフラする中、親分が親分らしく俺の手を引いて食堂の使い方を教えてくれる。「子分の子分なら、オレ様の子分だからな!」とは親分の言。ちょっと何言ってるのかメタモンなのでよく分からんが、世話してくれるなら甘んじて受け入れよう。
なるほど、自分で好きなものを選んで食べんのね?うちのガッコと一緒だわ。
「それならオレ様、監督生と同じ物食べてみたいんだゾ」
「ふぐぅ……っ」
最初だしこの世界の食堂のメニューすべてまでは把握してないし、似たような世界からきた監督生の味覚に合わせれば美味しく食べられるだろうと提案すれば、監督生は何故か胸を押さえて変な声を出して膝をついた。発作か?
「大丈夫か監督生!」
「はじめての学食に自分と同じもの食べたい♡とか可愛いこと言われて大丈夫でいられるわけがない……」
「多分もっと打算的な目だからなアレは」
監督生はどうやらハートマークとスペードマークの介護が必要なようなので、手を引いてくれる親分のメニューに倣うことにした。チキンのソテーとか絶対美味いじゃん。
監督生の両脇に魔獣を置いて、向かい側にはハートマークとスペードマークの生徒が席に座る。横からいただきますの挨拶が聞こえてちょっとしんみりした。地獄地方にそんな礼儀を知るやつはいない。
「!美味いんだゾ!」
「あぁ〜、感激に見開いた眼がきらめいてる〜。ヤバ〜」
「オレたちからすると監督生の言動が本当の意味でヤバい」
「ここの学食は何でも美味しいんだ。僕は特にオムライスがおすすめだな」
「オレ様はツナ缶が入ってればなんでもいいんだゾ」
「グリムはいつもそればっかりだな」
「ふなっ!ツナ缶をバカにしたら許さねーゾ!」
ワイワイガヤガヤ。横から餌を分捕られる心配も、餌どころか命を狙われる心配もなく、安心して食事がとれる現状の幸福感よ。マジ二度とあっちに戻らんからな。
そのまま、美味かったー、で終われれば良かったが、どこにでも空気を悪くするやつはいるらしい。
コソコソと聞こえるか聞こえないか絶妙な声量で、オンボロ寮がどうの監督生がどうの魔獣がどうの魔力も無ければ金も無いうんたらかんたらと、よくもまぁつらつらと陰口が出ることで。
幸い監督生は聞こえてないのか単に気にしていないのか、とりあえず平気そうだ。それに比べて目の前のハートとスペードの顔が大変なことになっている。今にもケンカ売りに行きそう。特にスペードの拳が血管浮いてんのヤバいね。
まぁケンカくらい好きにやってくれと思わないでもないが、食事の場で埃を立てられるのは勘弁願いたい。ようやく手に入った文化的で衛生的な食事の邪魔はされたくねーなって。うん、金、金ね。
「……監督生、オレ様、別のポケモンにへんしんしてもいーか?」
「え?あー、まぁ、いいよ。危なくなくて、大き過ぎなくて、ヤバくないようなものなら?」
目の前に危なくて大き過ぎる何かがいないから問題ないだろうけど、と言う監督生の言葉を聞く間もなく、くるりと一回転。
親分と同じ猫のような姿ではあるものの、毛色は全体的にクリーム色に、くるんと先が丸まる長い尻尾の先と脚先は茶色。三角の耳は黒く、その間にはキラリと光る小判が一枚。
「ニャースでニャース」
「ニャースだぁ〜〜っ!!」
サービスとして、猫の手を顔の両側に添えるあざといポーズも見せてやる。監督生に こうかは ばつぐんだ!
見たことのない俺の姿と監督生の奇声に注目が集まるが、あんまり人の目が増え過ぎるのも面倒なので当初の目的をさっさとやってしまおう。とりあえず、腕を振り下ろせばできる気がする!
「そ〜れ、ネコにこばん!でニャース」
じゃらじゃらじゃら、と小銭よりも大分重い音を立てながらテーブルの上に投げ出されたのは黄金色の小判たち。マジで腕振っただけで出たな。
「もう一回、ネコにこばんだニャー」
もう一度腕を振れば、同じくじゃらじゃらとどこかから現れる小判たち。鋭い爪先でひーふーみーと数えれば、合計16枚あった。なるほど、一度に8枚出てくるのか。
数えた小判を重ねて、隣にいる監督生の前へ押して滑らせる。どやっと監督生の顔を見れば、視線を俺と小判で行き来させ、困惑いっぱいで目がグルグルと渦巻いているようだった。なんでそんな顔されるのかさっぱり分からんが?
「えと、メタモン?この小判は一体どうしろと……?」
「あっちのジャリボーイどもが監督生には金がにゃいと言ってたニャ。どーりで、あんなオンボロ屋敷に住んでいるのニャ」
「オンボロ……」
「いやまぁ、オレたちもオンボロ寮って言ってるじゃん?」
「メタモンに言われるとグサグサくる……」
「はぁ〜〜?」
「でも、それもこれもニャーの小判で解決でニャース!いくらでも出せるから任せるのニャ!」
もごもご言い合う監督生とハートマークの目の前に、扇持ちした小判を差し出す。食堂の照明を反射してキラキラ輝くそれは、間違いなく“金”だろう。多少他の何かが混ざってはいるかもしれないが。ひとまず売れて金になればそれでいいのだ。
ザワッ、と静かに騒がしくなったのは食堂全体だった。
なんだか背筋が寒いな、と体を震わせつつ周囲に目を向ければ、いつぞや体験した獲物として狙われている目、目、目、目。
……また俺なんかやっちゃいました?
_ _ _
放課後、学園長室の前。
腕の中にニャースにへんしんしたままのメタモンを抱えて肩を落とし、数分前まで注意を受けていた学園長の顔を思い出す。まぁ仮面で隠れて上半分見えないんですけど。
見えないけど雰囲気でわかるじゃないですか日本人の空気読みスキルなら!
「とりあえず、ネコにこばんは禁止かぁ……」
「それもこれもがめついジャリボーイどものせいだニャー」
「自分も、あそこまで群がられるとは思わなかった」
思い出すのはメタモン(ニャースのすがた)がネコにこばんを使った後。輝く小判に集るカレッジ生たちは、まさに光物を奪い合うカラスのようだった。
そして親分鴉に騒ぎの元凶としてすべて没収されてしまった上に、今後のわざの制限までされてしまう始末。はぁ〜〜、……しょんぼり。
「騒ぎの原因になるから禁止と言うニャら、そもそもの原因のQOLの低さをどうにかしてほしいものだニャー。あのオンボロ具合は自力でどうにか出来る範囲外ニャ」
「あれでもいくらか修繕したんだけどねぇ」
「水回りや電気系統は素人が手を出せるもんじゃニャース」
「それは確かに……」
全部が自力で直せるわけじゃないなと考えを改めていると、腕の中から飛び出したメタモン(ニャースのすがた)が奇麗に着地を決めた。どこかで見たような10点札を掲げれば、照れたメタモン(ニャースのすがた)がニャハニャハ笑う。可愛い。
グリムは早々に「オレ様は関係ないんだゾ」と説教から逃れたので、先に寮に戻っているはずだ。思ったよりも時間が掛かってしまったから、今頃腹が減ったと騒いでいることだろう。ストックのツナ缶も切れている、どころか冷蔵庫にまともな食材が残っていたかどうかも怪しい。果たして今日の夕飯が存在するか否か。
うーん、と捻じれる勢いで悩んでいると、メタモン(ニャースのすがた)がちょいちょいと裾を引く。顔を向ければ、小判を三枚手に持ったメタモン(ニャースのすがた)がにんまりと笑っていた。
「え、ちょ、待って、まさか、……ネコババ?」
「これは元々ニャーの物ニャ!」
良いからさっさと換金して美味しいものを食べるのニャー!
自分の手を引いて駆け出すメタモン(ニャースのすがた)に行き先を聞けば、購買部に向かうらしい。あそこなんでもあるけど、換金までしてくれるんだ。数ヵ月いる自分より、数日のメタモンの方がこの学園事情に詳しい可能性が出てきてちょっと悲しい。精神的にも時間的にも余裕が無いと言ってしまえばそこまでだけれど。
情けなさに涙が出そうになるが、今はグリムとメタモンと自分の腹事情の方が大事なので、それは取り敢えず横の端の方に置いておこうと思う。
_ _
濡れ手に粟とはこのことか。
想定以上に潤った懐に挙動不審になりながら、これでもかと買い込んだ食料を持ってオンボロ寮に帰れば、お腹を空かせて半ギレ状態のグリムも喜色満面踊り出すほどだった。高級ツナ缶タワーは最強だね!
豪勢な夕食後、テンションが上がり過ぎて爆買いした肉の山を背景にオンボロ寮組で写真を撮り、一年マブズのトーク画面に送信した。
-小判がお肉になりました
-ぜんぶ没収されていなかったか?
-うちのネコチャン手癖が悪くて(テヘペロ)
-テヘペロじゃねーんだよな〜
-食堂で出してたデカい金貨のことか?KOBANって言うんだな
-小判ってこっちに無いんだ?自分の世界で昔使われてた硬貨で、成分は大体金。たぶん。正確には違うけど
-どっちだよww
-まぁ取りあえず肉祭りしようぜってことで
-焼き肉だ!!
-エペル早いwww
-さすがエペルwww
-セベククンは既読付かないね?
-落ち着くのも早いな
-護衛の仕事が忙しいんじゃないか?この前「今度こそ若様の散歩にご同行するのだ!!!」って言っていたからな
-あー、ちょうど今くらいか
-先に予定だけ決めちまってもいいんじゃねーか?
-調子乗り過ぎて冷蔵庫がいっぱいいっぱいで、近い内に出来たらいいんだけどみんなの予定はどうかな?
(許容量を超えてパンパンの冷蔵庫の写真)
-いっぱいいっぱいどころじゃないwww
-僕でももう少し考えて買い込むぞ
-それきちんと閉まるのかな?
-大丈夫、閉まらない
-だめじゃん
-写真撮った後に、入りきらない分は冷凍にした
(大きな氷塊となった肉たちと、その横のビニールプールに浸かる、灰色の甲羅をもった水色の首長竜のような生物の写真)
-恐竜!?
-冷凍どころの話じゃない
-もしかして、メタモンクン?
-正解!!ラプラスって言うんだよ
-アイツ、なんにでも変身できるな……
「……本来は何にでもじゃないんだけどな」
ジャックの言葉にポツリと零す。
自室のベッドの上で、尚も進むトークの内容にポチポチ返しながら、自分の知識の中のメタモンと召喚されたメタモンの差異に考えを巡らせる。
メタモンのへんしんは、相対した相手に変身する能力だったはずだ。だから、目の前にいたグリムにへんしんするのは分かる。ポケモンじゃないけど。顔もそっくりそのままでメタモン顔じゃなかったけど。でもニャースは?ラプラスは?可愛いで思考が止まっていたけど、目の前にいないのにどうしてへんしん出来たのか。
そしてなんでR団ニャース……。でも本当にあのニャースならネコにこばんは使えないんだよね……。
「もしかして、メタモンじゃない……?」
某検索風にふざけたところで、それが答えじゃと可愛すぎる三年生が脳内で肯定してくるだけだった。こわい。
メタモンじゃないなら一体何なのか。うんにゃらかんにゃら粘体だと先生と先輩は言っていたので、まさか本当にそう言うヤバい魔獣なのだろうか。いやでも何か文献と違い過ぎるとか仰ってましたし?
「メタァ?」
グルグルグルグル悩みに悩んで頭を抱えていると、少し開けていたドアの隙間からメタモン(仮)が顔を出していた。(仮)が付いても可愛いことに変わりはないんだよなぁ。真理。
来い来いと手招きすれば、メタメタ言いながら床を進みベッドの上に乗ってくる。可愛いなぁと頭を撫でる感触は相変わらずもにもにのぷにぷにで最高だった。もっにもっにもっにもっに。
「こんなに触り心地がいいのにメタモンじゃないのか……」
「メッ!?」
「あ、嘘です。ダイジョブです。メタモンはメタモンです、今更違う何かとか言わないからそんなショック受けた顔で震えないで。いやぷるぷるして美味そうだし可愛いな」
「メタ、メッ……」
「じりじり離れてく姿もただただ可愛い。可愛いしか言葉知らんのか自分」
美味そうと言ったのがマズかったらしく、ベッドの端までじりじり後退して行ったメタモン(仮)は、それ以上下がれないと分かるとくるんとバク転しながら飛び下りた。この跳ねて回転する動作は、メタモンがへんしんを行う際に分かりやすいよう、わざわざしてくれているらしい。いじらし可愛い。
地面への着地音は聞こえず、何か浮遊系のポケモンにでもへんしんしたのかな、と姿が見えるのを待った。
数拍待って、ふわりと浮かんできた薄っすらと桃色がかったイタチのようなポケモンの姿に、間抜け面を晒してしまう。いやだってこれは、完全に不意打ちですよ。
「みゅー」
「……ミュウじゃん……」
天井でくるんと一回転。口元に両手を当ててクスクス笑う姿は、正しくミュウそのものだった。
「え、ちょ、待って待って、ミュウにまでへんしんできるの?それとも、ミュウがへんしんしてた感じです?」
「みゅー?」
「あーッ!困りますお客様!!その姿で首を傾げるのは可愛いが過ぎますお客様!!!」
「み゛」
奇行が過ぎたらしい。あまりの可愛さでベッドの上で五体投地した自分に、虫を見るような視線を投げてメタモン(ミュウのすがた)はくるんと窓から外へと飛んで行ってしまった。
慌てて窓辺に走り寄るも、真ん丸月に向かって行くプリティな尻と尻尾が遠い彼方に見えるだけ。「メタモ〜ン」と情けなく呼びかけてもちょっと振り返るだけで戻ってくる様子はない。はぁ〜〜ッ、そんなつれない所もグッド!いや戻って来てくれるって分かっているからですけどね。メタモンのパートナーで契約主は自分なので!戻ってくるのは自分が寝落ちした後だろうけど。
「……メタモンってすげー……」
小並感を抱きながら、眠たい目をこする親分と一緒にベッドに入る。
瞼の裏に思い出すのは、メタモンのへんしんしたすがただと分っていても尚神々しいミュウの姿だ。輝いてたな、物理的に。後光が差していたとかじゃなく、メタモン(ミュウのすがた)自身がほんのり光ってる感じ。色味がちょっと違うけど、ツノ太郎と似てるなと思った。ツノ太郎はほんのり緑色に光ってるけど、メタモン(ミュウのすがた)は乳白色にほんのり光って綺麗だったなぁ。
メタモン(ミュウのすがた)とツノ太郎を思い浮かべて、ぱやぱやと思考を飛ばす。
いつの間にか夢を見ていて、メタモン(ミュウのすがた)とツノ太郎が夜空で楽しそうにワルツを踊るのを、自分はオンボロ寮の屋根から眺めていた。いや仲間に入れてくれないんかい。
朝、目が覚めると、窓枠にでろりと溶けるメタモンがいた。最初に見た時は悲鳴を上げたものだが、これは所謂“帰宅したが玄関で力尽きてそのまま寝てしまった姿”なので心配はいらないだろう。
こんなに疲れ切る前に帰ってくればいいのにと思いつつ、甲斐甲斐しく窓からメタモン専用の寝床へと運んであげる。メタ、メタ、と小さく聞こえるそれは寝言のようで、可愛いというかあまりの愛おしさに床に崩れ落ちた。
この可愛さの前じゃあ、マジでメタモンじゃなかったとしても全然構わないね!
_ _ _
カラス姿でオンボロ寮のガーゴイルの頭に留まり、眼下で開かれている焼肉パーティーを眺める。
親分は大量の焼かれる肉にテンションが上がって踊り出しているし、食いざかりの男どもは吸ってんのかと訊きたい勢いで肉を食っている。監督生は焼いても焼いても消える肉に、笑いながらじゃんじゃか網の上に具材を追加して焼いてはまた食われて笑い転げていた。焼けば焼くだけ食うので清々しささえ感じているらしい。若者って胃もたれ知らんのかな。
俺も出来ることならあの中に加わりたいが、残念ながら連夜の出来事にグロッキー状態である。心なし羽根の艶も悪い気もする。乱れた部分を嘴で突いて直し、原因のツノ野郎に呪詛を吐いた。
思い出すのは夜のこと。
デカイ月の輝く空をミュウのすがたでフラフラ飛んでいると、どこからともなくわざを放たれた。
思い出すのも嫌だが、あのはっぱカッターやエアカッターみたいな、あれだ。確かリーフショットとかいう魔法。
「みゅー!」
「見慣れない生き物が空を飛んでいると思ったが、……本当に見たことのない生き物だな?妖精の類ではないようだが、魔獣か……?」
攻撃してきた奴を睨みつければ、俺と同じように空に浮いているデカイ角が生えた人型がいた。顎に手を当て首を傾げるソイツに、ポケモンだ!と主張したところで口から出るのは「みゅー」と言う可愛らしい鳴き声だけ。ちょっと待ってろ、人語喋れて飛べる奴にへんしんするからな!
「まぁいい。さっき僕の魔法を避けたな?面白い、どれだけ飛び回れるのか見てやろう」
「みゅっ!?」
なんでそうなる!?
こちらの意見なんぞ一切聞かず、マジカルペンとかいう宝石の付いたペンを振って問答無用で魔法を仕掛けてきた。ひのこやらみずでっぽうやらはっぱカッターやら、ビュンビュンバシバシ飛んできて右に左に上に下にと避けるものの煩わしいのなんのって。
……マジでうぜぇなぁ。
「(くらっとけ“ねんりき”!)」
「む?……動けない?」
「くすくすくすくす」
「お前の仕業か」
魔法を仕掛けようと腕を差し出した姿勢で固まるツノ男の周りを、挑発するように小さく笑いながらクルクル回る。プークス今どんな気持ちぃ?睨まれても怖くねぇなぁ。どうにか動こうと体に力を込めているようだが、俺のねんりきがそう簡単に解けるとでもぉ?
……人はそれをフラグと呼ぶんだよ。
「手緩いな」
「み゛ゅ!?」
ガッ、と尻尾を掴まれる。驚き過ぎてかけていたねんりきがゆるみ、その隙を逃さないとばかりに攻撃を弾かれた。なんでゆるむ前から腕動かせてんのかなぁ〜?チートか?性能バグってんのか?
アイアンテール喰らわせたろかと掴まれている尻尾に力を込めれば、察したのかパッと離し一定の距離あけられた。勘のいいやつめ。
そこからはもう殴って蹴っての応酬だった。あっちが魔法を仕掛けてくれば俺は避けるか防ぐか返すし、俺がわざを使ったところであっちは避けるか防ぐかわざとかかって「ふむ、面白い」とか強者の余裕を見せつけてくる。俺は何一つとして面白くねぇんだよなぁ〜〜〜。
ムカついたからかみなり使ってやったら、「僕も出来るぞ」なんぞと言いながら倍返しでかみなり降らせやがるし。見た目も相まって魔王じゃん。
もぉ帰りてぇ〜、と投げっぱちにわざを繰り出していれば、下の方から「若様ぁ!!!」とどデカイ声が聞こえてきた。ちょっと待って地上からここまでどんだけ距離あると思ってんの?人類の声量越えてんだろ。
「ふむ、見付かってしまったな」
どうやらツノ男の保護者か何からしい。
「興が削がれた」とか言ってるが、俺は最初から興が乗っていないのでさっさとお帰り頂きたい。別れのあいさつ代わりに中指立てようにも、ミュウのあんよは可愛いサイズなのでそんな野蛮なことは出来なかった。
「また会おう、……人の子の眷属」
「(いや会わんが???)」
こちらの反応なんぞ知らんと、緑色のホタルのような光を残しツノ男は消えた。テレポートか?魔法は便利だな。
そうして、想定外のバトルによる疲労感に、フラフラと部屋に戻り窓枠で力尽きたのが初日のこと。
それからというもの、今日までの連日連夜、空の散歩に出ると必ずあのツノ男がバトルを仕掛けてくるので俺のライフはもうゼロよ……。何にへんしんしてても喧嘩売ってくるんだから、マジで勘弁してほしい。ただのカラスに雷落とすとか鬼か?カラスの丸焼きが食いたいなら自分とこの学園長でも丸々焼いてどうぞ。
丸焼き、という単語に連動するように、下から香ってくる肉の焼かれた匂いに涎が口内に溢れた。グロッキーさも回復し、腹からも切ない鳴き声が聞こえて俺は涙を流しながら切なく摩る。
俺だってこんな嫌なことを思い出すよりも、あの中に加わりながら美味い肉が食いたい。しかし、監督生の友人の中に黄緑色の腕章を着けている黄緑頭がいるからそれは無理な話。しかもあの黄緑頭、俺の姿を見ると親の仇と言わんばかりの眼力で俺を睨む。正直俺だけならどうでもいいと思えるんだが、監督生がぼのぼの汗出して困るからさ……。
「(あ〜〜、でも肉食いてぇ〜〜〜)」
男どもの胃に消える肉共をガン見する。ねぇ知ってる?その肉俺の出した小判を換金して買ったの。出資者の俺が省かれるBBQってなんぞ。
嘴の端から涎がたって、オンボロ寮の屋根に落ちる。ジュワッと音を立てて溶ける洋瓦に、やべぇやべぇと焦りつつ足で擦って無かったことにすれば貫通する穴にまではなっていなかった。ただでさえ雨漏りがひどいのに、俺のせいで家の欠陥を増やすのはごめんである。
ちょっと考えた後、どろっと溶けてへんしんする。監督生が見てるわけでもないのに、わざわざ回転してやる意味はない。
どろどろと体を変えて、出来上がったのはトレーナーの顔より先に見たピンクメッシュのアイツの姿。
「……ふむ、なかなか強い個体のようじゃのう」
黒いマニキュアの塗られた手でグーパーを繰り返し、なんとなく感じ取れる能力を把握する。強い個体どころか随分と長寿な……、いや妖精ならみんなこんなもんか?
頭についたサンバイザーが邪魔で、外して指でクルクル回して遊ぶ。それに太陽光が反射したようで、気が付いた黄緑頭がこちらを見上げた。目が合い、弾けるような笑顔を浮かべるも一瞬のことで、すぐさま明王像のような恐ろしい形相に代わる。
「貴様!リリア様に化けるなど何のつもりだ!!」
「くふふ、相変わらず元気じゃのう」
「聞こえん!もっとハキハキ話せ!」
「このかわゆい態でお主のように話しては、キャラ崩壊も甚だしくないか?」
尚もギャンギャン騒ぐ黄緑色を、監督生他友人たちが背後から羽交い絞めにして止めていた。
俺はその様子をガーゴイルの上で足を組みつつ座り見下ろして、挑発するようににんまりと笑ってやる。噴火するように怒りが増す黄緑が面白すぎて笑い転げた。やべぇ落ちる落ちる。
「メタモン!その姿はやめてやって!!」
「むぅ、しょうがないのう」
他の誰かが言うなら知ったことじゃないが、他でもないトレーナー様が半泣きで訴えるなら聞くしかあるまい。
ちょっと考えて、くるっと縦回転。
「!!??貴様ぁッ!!!!」
閻魔様も裸足で逃げ出しそうな形相で顔を真っ赤にする黄緑に、内心で呵々大笑する。
ちょっと待って、ヤバい。思った以上に怒るじゃん。笑うしかなくない??大・爆・笑。やっべ、寮の周辺が花畑になったんだが。笑いが止まらん。
変身したのは連夜に渡るストレス原因、ツノ野郎。
この前わざわざ迎えに来てたようだし、同じ寮みたいだから絶対怒ると思ったんだよね。まぁ想定以上の大激怒で、今にも血管ぶち切れてぶっ倒れるんじゃないかと心配になるくらいの怒りっぷりだが。ちょっと心配になってきたな……、あぁ、花が萎んでしまった。
感情が自然に影響を及ぼすとか、この姿の力有り余り過ぎだろ。は?恐っ。二度とへんしんしないどこ。
くるっとターンし、慣れ親しんだメタモンの姿に戻る。何回もへんしんすると、なんかちょっと疲れる。あそこにいた時は基本メタモンのまま生活してたからな。
デロン、と屋根の上でだらける。
地上ではまだ黄緑色が暴れているらしく、やいのやいのと元気に騒いでいるようだ。俺は一通りからかって楽しんだから、もう飽きたんだが。まぁその内あっちも飽きるだろ。
もう相手にされないと分かったのか何なのか、黄緑色がひと際デカい声で怒鳴る。
「このっ、災厄の魔獣め!!!!」
災厄なんて失礼だな。こんなにいい子のメタモンなのに。
まぁ、そもそもメタモンはポケモンであって魔獣じゃないから関係ない話だろうけど。ハハッ!
***
■メタモン()
真面目に試験勉強していただけなのに、なぜかよく知りもしないメタモンに転生してしまった可哀想な俺。
現代っ子のもやしだったのに、地獄で生き抜くために弱肉強食を身につけ一生懸命生きていた。
この度、親近感のわく中庸な監督生がトレーナーとなりとってもハッピー。生活水準が爆上がりしたが、それでもまだまだ底辺なので陰でコソコソ小判を売って生計を立てる。ラッキーのタマゴも売れますか?ヤドンのしっぽも食材になるらしいですね?……駄目ですかそうですか。
今後も色々なものにへんしんして遊びたい。
残念ながら ×メタモン ◯暗き淀みを這う粘体
概略:
暗澹の森(あんたんのもり)に生息する魔獣。
定型の姿を持たない粘液状の生物。
知能は然程高くなく、目につくモノ全てを覆い溶かし喰らう。
取り込んだその姿を稀に模倣することもあるが、姿のみ。
つまりメタモンな今の姿はただの模倣。
最初の自己認識時に“メタモン”と思えていなければ、現状のようにハッキリした意識は保てずただのドロドロの何かになっていた。かも、しれないね?
他のスライムやらベトベトンやらドンヨリーヌやらぷよぷよやらになっていた可能性もあるので、いろいろと便利なメタモンで良かったなぁ。
本来であれば取り込んだものの模倣だし、へんしんしたとしても姿のみの筈だが、中身が転生した人間であることや知能が高く想像力・記憶力・再現力・思い込みやいい塩梅の無知さエトセトラエトセトラが最高に良い感じに合わさって、実はスペック高杉君な粘体くんの真の実力が最大限に発揮されている状態。
ご都合主義の塊なんじゃな。
■監督生
語彙力は溶けた。
猫派。
***おしまい。22/22
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