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ギラ、と手に持った剣の刃が煌めく。足元でくるくると紅の光陣が回る。
周囲のマナを十分にかき集め、閉じていた眼を開けた俺は、組み立てていた術を一気に解放した。


「焼き尽くせ!バーンストライク!」


解放された魔力が炎の塊となり、そこら中を跳び跳ねていたオタオタやライニネールの軍団に襲い掛かった。


「うっし完了!今日もOK☆」


パチン、とウィンクしながら、俺はくるりと剣を回すと鞘に戻した。


「すごーいレイン!強いんだね!」
「いやいやそれほどでも」
「調子に乗っていると痛い目を見るぞ」


パチパチと拍手をしながら自分のことのように無邪気に喜んでくれるカノンノの頭をなでなでする。うむ、今日もかわいい。
すると杖で肩を叩きながら、些か不機嫌なキールに突っ込まれた。
む、水を刺すのか貴様は。俺は半目でキールを振り向くと、唇を尖らせた。


「なんだよキール。俺に魔法使われて出番とられたからって、そんなこと言うなよなー」
「なっ!そんなんじゃないッ!僕はただ、慣れてきたと思って油断するなよと言いたかっただけだ!」


キールに言われ、俺は笑いながら分かってるよ、と肩を竦めた。
心配してくれてるんだろ?キール、優しいから。
…でも二割くらい、ホントに拗ねてるだろ。


「肝に命じておきますよ、キールせんせー」
「…ふん」


にまにま笑いながら言うと、キールは眉間に眉を寄せて顔をそらした。でも若干顔が赤いところを見ると、「先生」呼びは満更でもないらしい。
肩にのったクロートが、そんな俺たちを横目で見ていた。


「さ、依頼も終わったし帰るかー」
「そうね。キールも手伝ってくれてありがとう」
「…出番なかったけどな」
「うるさいッ!」


一言多いんだよ!と頭を拳骨で殴られた。お前は心が狭いぞぅ。
カノンノがそんな俺達を見て、クスクス笑っていた。


「早く帰るぞ!僕は修士論文で忙しいんだ!」
「まだ研究テーマも決まってねぇくせにー」
「うるさいな!ていうか、何でお前が知ってるんだよ!」
「リッドが教えてくれた」
「アイツ、余計なことを…っ」


ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべながら言ってやると、何やら本気で悔しがっていた。
お前いい加減にしとけよ、と言うように鳴いたクロートに免じて今回はこのくらいで勘弁してやろう。


「カノンノ、キール!早く帰ろうぜ!俺もう腹減ったよー…」
「ふふ、そうだね。レインったら、リッドみたい!」
「まったくだ」
「あれ、カノンノに言われたらそうかナー?くらいで終わるのに、キールに言われたらなんか張り倒したくなったんだけど。ということでキール、ちょっと一発殴らせて」
全身全霊で断る
「ちぇー」


うーん、イリアはルカの方が弄りがいがあるって言ってたけど、俺はキールの方がいいなぁ。
だってルカ、すぐ半泣きになるし。罪悪感が出来ちゃうからなぁ…………うん。


「やっぱりキールの方がいいや」
「一見良い言葉に聞こえるが、素直に喜んだらいけない気がする」


チッ、勘の鋭いやつめ。
俺はむっすぅ…と膨れていたが、不意にカノンノの手を握った。
今まで微笑ましそうに俺達を見守っていたカノンノは、いきなりの事態にキョトンと目を瞬かせた。


「レイン、どうしたの?」
「さぁカノンノ!拗ねてる泣き虫キールは放っておいて、俺達だけで俺達の愛の巣へと帰還しよう!」
「そんな言葉どこで覚えた!?それ以前に泣き虫っていうなっ!あと別に拗ねてない!」
「さぁ行こうカノンノ!」
「え?え!?」
「ってこら、無視するなぁ!」


背後から聞こえるキールの声を華麗にスルーし、俺はカノンノの手を引き洞窟の出口まで一直線に疾走した。
ちなみにたまに襲ってくる魔物にはもれなくファイアーボールをプレゼントだ。
後ろからあわててキールが追い掛けてくる気配を感じながら、オレは脇目もふらずアメールの洞窟を駆け出した。


「おい、待てと言って……わっ!」


ドテッ


あ、キールこけた。