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「―――怪我はない?」


そう訊ねると、目の前の姫様はハッと我に返り慌てて頭を下げてきた。


「あ、はい!ありがとうございました!」
「いやいや、気にすんな」


ひらひらと手を振れば、姫様ははい、と顔をあげた。
肩の上で切り揃えられた桃色の髪が動きに合わせてふわりと揺れる。


「マジで助かったぜ…オレはユーリ・ローウェルってんだ」
「あ、私はエステルといいます」


黒ずくめの男―――ユーリの自己紹介に合わせて、姫様…エステルがぺこりと頭を下げる。
俺は…と名乗ろうとして、はたと気が付いた。


「あ、ちょっと待って」
「あ?」


不意にユーリの腕を掴む。
そこにあったのは、大きな裂傷だった。本人も今気付いたらしく、あ…と呟く。


「いつの間に…」
「気付かなかったのかよ」


かなり痛そうなんですけど。
血ダラダラなんですけど。


「だ、大丈夫です!?今治療を…」
「―――――キュア」


慌てるエステルの言葉を遮り、オレは目を閉じると言葉を紡ぐ。
足下に癒しの魔方陣が展開する。
辺りに穢れのない光が満ちていく。
ふわり、と髪や衣服が浮き上がった。


「詠唱…破棄…?」


癒えていく自身の傷やユーリの傷を見て、エステルが呆然と呟くのが聞こえた。
光が消え、陣も消滅する。
髪や衣服が重力に従い音もなく舞い降りた。
ス…と瞳を開けて顔をあげれば、驚いたようなユーリと目が合う。


「お前…」


俺はゆっくりとユーリの手を離した。
それから地面に転がっていた短剣を鞘に戻す。

………………うん、あれ?
なんか、忘れてるような…?


「お前…何者だ?」


ユーリが傷のなくなった腕を擦りながら問うてくる。
俺は忘れていたことを思い出そうと頭を捻りながら口を開いた。
ふと東の空をみれば、もう太陽は完全に顔を出していて。あぁ、朝焼け見逃したー……。

…うん?朝焼け?


「…俺は…ギルド“アドリビトム”の……って、ああぁぁぁぁ―――――っっ!!!」
「「!?」」
「やっばっ!思い出した!!」


慌てて空をあおぐものの、もう“早朝”なんてのはとっくに過ぎていて。
どこかで鶏が鳴く声もしてきた。ヤバい。ヤバいぞこれは。


「…え、これ死亡フラグかなんかですか。神様は俺に死ねとおっしゃってるんですか!いや神様なんて信じてないけど!!」
「え?ちょ…!」


みんなが起き出す前に船に戻らねば。無断で船を降りたことがバレればチャットに叱られる!
今日は買い出しだろ?一人で荷物持ちなんてごめんだからな!!
しかもクロートを一人で置いてきてしまった。多分もう起きてるからこれは爪出したままの猫パンチくらいされるかもしれない。
やだなぁ、あれ地味に痛いんだよ!


「俺、船に帰らなきゃ!またな!ユーリ、エステル!」
「は、おいっ、名前…!」


だがそんなユーリの言葉を聞かずに、俺はその場から全力疾走して走り去った。
引き止めようとユーリが出した手は中途半端な位置で止まっている。


「…なんなんだ?一体…」
「さぁ…?」


そんな会話がなされていたなんて、必死で船に帰りついた俺が知るよしもない。


ちなみに、部屋に飛び込んだ瞬間クロートから鳩尾にタックルされた挙げ句爪出したままの猫パンチをされたのは言うまでもないのであった。






出逢いはの下で


(くそっ、辛うじてチャットやその他にはバレなかったのに…!)
(うにゃっ!(しゃきーん))
(ああもうわかったから攻撃体制に入るんじゃねぇ!!)


(再会は、そう遠くない未来に)







090926