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「…………えええええっ!!レインって女だったのぉ!!!?」
「んんん、気付いてほしかったなー」


ハニワ顔のまま石化してしまったアニスにパナシーアボトルを使用し、ステータスを正常にするといきなり叫ばれた。
アニスが来てから数日。普段通りの格好をした俺が廊下でアニスとすれ違い、声をかけた瞬間盛大に固まりやがった。ちょっと失礼だぞアニス。(ちなみに数日かかった理由はクエストやらなんやらであれ以来アニスと顔を会わせる機会がまったくなかったからである)
つーかこの数日の間に誰も俺の事を教えなかったのか。ある意味奇跡だぞ。


「むむむむむ…いやいや、確かに声高いなーとか、女顔だなぁとかは思ってたけど……」
「じゃあ気付けよ」
「だってルカとかいたし」
「………………」


すまんルカ、反論する言葉が一切見つからない。
…確かにルカ、可愛いけど男だもんなぁ…………。


「あーもう…とにかく、こんな口調だし女らしさの欠片もないが、一応俺は女だ。改めてよろしく」
「ちぇー…せっかくイイ男見つけたとおもったのになぁ……」


本気で残念そうなアニスに苦笑する。
つーか、俺よりもイイ男なんざこの船にわんさかいるだろうに。…金はないけど。


「あっ!じゃあじゃあ!女のレインにしっつもーん!」
「ん?」


ぱっと表情を切り替え、アニスはびしっと垂直に手をあげた。
切り替えの早い娘だな…。


「よし、アニスちゃん」
「はーいっ!なんでそんな男っぽい口調なの?」
「えっ」


今度はオレがハニワ顔になる番だった。


「さっきの反応を見るに別に男に思われたいわけでも無いんでしょ?なのになんで男口調なのかなーって、アニスちゃんの素朴な疑問!」
「ん、んんんんんん…???」


ぶりっ子しているわけでもなく、本当に気になっただけといった風で訊ねてくるアニスに俺は盛大に首を捻った。
い…言われてみれば確かに…?あれ、俺って元の世界にいたときこんな口調だったっけ…?少なくとも、目覚めたときにはこの言葉遣いだったような気がする、けど。え?あれ?


「ちょ…っと、待って、今思い出すから…?」


思考をめぐらせる。
元の世界、俺はどこにでもいるような普通の女子高生だった。
そんな有象無象の一般人A、所謂モブといっても過言ではない自分が、日常的に自分のことを“俺”と言って、こんな…男口調で…?
―――いや、違う。“俺”じゃ、ない。


「“私”…?」


口にして、少しの違和感。そして違和感を感じるほどに馴染んでいる、今の普段の口調。
待って。これは、どういうこと?“私”は、いったい何時から“俺”になった―――?


「…レイン?」


考え込んでいた“俺”は、怪訝そうなアニスの声にハッと現実に引き戻された。
見ると、突如黙り込んだ俺を不思議そうに見上げるアニスの姿。
あ、あぁ。いかん。何か、言わなきゃ。


「…悪い、覚えてない。でも、なんかずっと昔から…この口調だった気はする」
「…ふーん。まぁいいやっ!」


エッいいの!?
結構深く突っ込まれるかと思ったが、返ってきた反応は至極あっさりとしたものだった。
本当にふと気になった程度だったのだろう。…その問いは、確かに俺の中に消えない疑問を残したけれど。


「…それにしても」
「な、何だよ」


じろじろと、上から下までなめ回すように見てくるアニスに、俺は思わずたじろいだ。
一通り見終わると、アニスはニヤリといたずらっ子が浮かべるような笑みを浮かべて俺を見上げる。


「レインってサラシ外すと意外とスタイルいいんだねーっ。ティアよりはちっちゃいけど!」
「何処見てんだオッサンかおのれは」


あとティア始めメロン枠は規格外です。