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新たに加わったクラトス達の話によると、ラルヴァを開発したのはジャニス・カーンという男らしい。ジェイドによれば、そのジャニスという男は学会から異端視されて爪弾きにされているような男のようだ。同一人物かどうかは不明だが、その名に間違いはないとクラトスは言う。


「なるほど、ラルヴァが有名でないのも頷けます。その提唱者自身が無名ですからね」


そういうもんなのか?と首をかしげれば、そういうもんなんです、と返事が返ってきた。


「だが、今後はわからん。ラルヴァのデモンストレーション実験が大々的に行われるらしいからな」
「なんて事!まだラルヴァの安全性も保証されていないというのに…!」


リフィルが息を飲む。
まだ安全面が保証されていないにも関わらず、更なる普及の引き金にもなりかねないデモンストレーションが行われる。


「実験の場所はペリー鉱山だ」
「…遠い……間に合うかしら。内陸だから、馬車を乗り継いで数週間かかる距離だわ。見ておきたいけれど、私自身の研究も放っておくわけにもいかないし…」


この位置からペリー鉱山までだと、大分時間がかかるらしい。そして現在リフィルが行っている研究も重要なものであり長期間放置して置くわけにはいかない。
しかし、そのデモンストレーションを見る必要性は高い。
肩を落とすリフィルに、ジェイドが事も無げに言った。


「なに、大丈夫ですよ。この船ごと乗り付けましょう」


驚きに顔を上げたリフィルの視線を、ジェイドはいつもの笑みを浮かべたまま受け止めた。


「それなら手間はない」
「船ごとって、…場所は内陸だぞ?できんのか?」
「えぇ、問題はありませんよ。リフィル、貴女には船内のあちこちに散りばめられた古代文字を解読していただきたい。まだ機能が明らかにされていない機関部分があるようですし。解読出来れば機能が解放されるはずです」
「あら、面白そうね。よくってよ」


リフィルの瞳がきらりと輝く。
古代の文献にも描かれた、空を駆ける船。その伝承が事実なら、可能だというのだ。


「ということでレイン、船長への報告、お願いしますね」
「俺!?」
「そうね、お願いできるかしら」
「アッハイ承知!」


リフィルからの頼みなら仕方ない。俺はその場を離れ、機関室へと続く梯子を降りた。


「さあ、ではバンエルティア号の方を先に片付けましょうか。デモンストレーションの期日まで、あまり時間がありませんし」
「えぇ。それじゃ早速、取り掛かりましょう」
「ジェイドーリフィルー!チャットの許可おりたぞー」


チャットにその旨を話せば、些か心配そうだったが了承してくれた。ひょっこりと穴から顔を覗かせて言えば、二人から労いの言葉が返ってきた。





――船員に船の改造計画が言い渡されたのは、その日の夕食時だった。