2

ガゴン




「わ!」
「きゃ!」


急に、船が動き出した。
危うくバランスを崩して倒れそうになったカノンノを抱き止める。クロートは流石というかなんというか、反動でぱしゃんと跳ねたミルクから逃げて俺の肩に飛び乗ってきた。


「大丈夫か?」
「うん…でも、なんでいきなり…」


そう言って顔をあげたカノンノが、はたと止まった。


「っレイン!あれ…!」
「うぁ…?―――!」


カノンノが指差した方向―――船の外を見ると、空がどんどん近くなっていく。
低い機械音と共に、微かな浮遊感を感じた。

慌てて立ち上がり、二人して柵から身を乗り出す。


「と…飛んでる…!?」
「…え、これ既に飛行船………」
「あらあら、二人ともここにいたのね〜!」


聞こえてきた明るい声に同時に振り向く。
どこか楽しそうに表情をキラキラさせたパニールが、こちらに向かって飛んできた。


「船の工事がやっと済んだみたいですよ。陸も移動できるなんてびっくりだわ〜」


あぁ…今頃キールが唖然としているだろう光景が目に浮かぶぜ……。


「何か用事があってペリー鉱山へ向かうんでしょう?あそこでは、どんな美味しい食材が手に入るでしょうかねェ。私、楽しみだわ〜♥」


あぁ、そういうことね。
パニールのやけにキラキラした表情の理由を知った俺とクロートは、顔を見合わせて苦笑した。
ルンルンウキウキとまるで恋する乙女のように足取り(?)軽く船内へ戻っていくパニール。俺は揺れのせいで形の若干崩れてしまったサンドイッチとおにぎりを手に取った。


「あぁ、こうなる日をずっと待ってたの…!やっと、やっと世界中の海を…大地を、周ることができるんだね!」


彼女の後ろ姿を見送ったカノンノが本を抱き締めながらそう笑ったのを、俺はサンドイッチにかぶりつきながら聞いていた。








空をる船



(古代の船は空を舞い)
(乗る者達を遠くの世界へと誘う)



091212