1




はろー!なんかグラニデにトリップしちゃった感じのレインちゃんでっす。皆さんお元気ですか?
さっそくですが、重大なお知らせがあります。


「…さぁこの状況どうしようか、黒猫君」
「にゃー」


そんなん知るか、とばかりに鳴かれた。
俺は頭をガシガシとかきながら、右、左、上、下と首を回らす。なんとなく斜めも向いてみた。意味ないけど。
チャットにこの船の船員としてめでたく迎えられたオレは、船内を案内してくれるというカノンノに連れられてバンエルティア号内を散策していた。
ちなみにこの黒猫はオレが面倒見ることに。俺が抱いてたらしいし、こいつといればもしかしたら記憶が回復するんじゃないか、という船長直々のご命令です。
まぁ別にそれはかまわんのだが。思い出すものなんて何もないだろうけどな!
それより今重要なのは。


「カノンノーどこー?」


見事にカノンノとはぐれました。
いや、ショップに行ったらなんかかなり興味をそそられるものが大量にありまして。グミとかボトルとか武器とか防具とか。テイルズファンならご理解いただけると思うの。今まで画面越しに見ていたものが!目の前に!!ずらっと!!!なテンション爆アゲ状態に陥ることを。
そんな感じで目を輝かさせて見ていたらいつの間にかカノンノさんがいなくなっておりました☆てな状況。
慌てて通路に出てみるも、そこにはカノンノさんの姿はもう欠片もなく。俺と足元にいた黒猫だけが残されたのでありました、まる。


「つかよーお前わかってたんなら教えてくれてもよくない?」
「にゃー」


人のせいにするなってか。そうですか。
あれ、何で俺、猫の言いたいことわかんの?意思疎通?えっトリップ特典??

ぴょん、と軽やかに俺の肩に飛び乗ってきた黒猫。微妙な重さを肩に感じつつ、別に支障のある重さではないのでそのままにしておく。


「お前軽いなー」
「にゃー」
「あ?お前は重いんだろうなって……ちょ、おま、どういう意味だそれ!」


人間と猫の体重で比べんな!
俺も一応同年代では軽い方だぞ?平均体重よりは下なんだぞ!なんだっけ?BMI…美容体重??くらいの重さなんだぞ!…多分。


「あーあ…どうしたもんか……」
「――――あれ?お前……」


困り果てて壁に背を預けると、ふと聞き覚えのある声が耳に届いた。
パッと振り向くと、そこには赤い髪のへそ出しルックスの少年と青い髪を後ろで括ったなんか動きにくそうなローブを纏った少年がいた。
訝しげにこちらを見る少年二人に、俺はぎょっとする。


「あ、いや、その…」
「見ない顔だな?部外者か?」
「いや、部外者って言うか、その…」


思わず視線があちこちに動く。
いやあの、まだ心の準備ができてなかったっていうかその…油断してる時に来られたから(しかも二人)色々ヤバい。
ああ、なんか長髪の方がなんだコイツ的なすっげー怪しいものを見るような目で見てる。
いや確かに怪しいだろうよ。黒猫連れた見慣れないやつだからね!
だからって睨むなそこ!!こっちはもう色んな意味でドッキドキなの!なにこのサプライズイベント!こんなのいらないよ神様!あ、やっぱいる!ありがとう神様!


「えーっと…その、俺は……」
「おいおいキール。お前が睨んでるからこの子怖がってんじゃねーの?」
「なっ、ぼ、僕は別にそんなつもりは…」
「あーはいはい。わーったよ。で?お前どうしたんだ?」


少年がオレに近づいてきて、爽やかな笑顔を浮かべながら言う。
あああなんか色々心臓に悪いかっこいいよちょっと。クソッ顔がいい…だからその手に持ってる赤い液体が滴るアックスピークは見なかったことにしていいですか。多分それアレだよね。【今日の獲物】ってヤツだよね。二人で狩りしてきたのか。


「えっと…カノンノと、はぐれちゃって、さ」
「カノンノ?お前カノンノの知り合いか?」
「えと…今日からここで世話になることになったから、船内案内してもらってたんだよ」


よし、だいぶ落ち着いてきた。
ふう…と息を吐き、俺は改めて二人を見上げた。
赤髪の少年の空色の目にオレの顔が映る。
彼は「んー…」と首を捻り、それから何か思い出したようにあ、と声を上げた。


「もしかしてお前、空から降ってきたヤツ?」
「あーうん、多分それだ」
「あーだからか。なんか見覚えあると思ったんだよなぁ」
「へ?」
「落ちてきたお前を運んだの、俺なんだぜ」


予想外の言葉に、思わずえ!と声を上げた。
まさかまさかの彼に運ばれたの俺!?
なにこのファーストコンタクト!俺が呑気に寝てる間にそんなビックサプライズが!!つかなんで気絶してたんだ勿体無いだろ俺ぇぇぇぇぇ!!!


「そ、そーだったのか…ありがとう」
「いや、別にいいんだよ。俺、リッド。リッド・ハーシェルっていうんだ。それであっちが……」
「…キール・ツァイベルだ。そうか、お前が皆が騒いでた………」


赤髪の少年―――もとい、リッドが笑う。そんな彼の隣からキールが前に進み出て、俺をまじまじと観察し始めた。
つか騒がれてんのか俺。いや、空から降ってきたって時点で注目浴びる要素は充分か。


「で、お前。名前は?」
「レインだ。よろしく、リッド、キール」
「ああ、よろしくな」


ニコッとリッドが笑って手を差し出す。
ああ、その笑顔がまぶしいよリッド!さり気なくアックスピークを掴んでたのと逆の手を差し出してくれたのは無意識なのだろうか。きみの優しさだと俺は思いたい。


「ああ、よろしく」


笑いながら俺もリッドの手を握り返す。
おおおおリッドの手と握手しちゃってますよ!すげーなやっぱ、男の子の手って感じがするな!!ところどころ硬いのはコレ、剣ダコか?へーすっげーなぁすっげーなぁ。


「キールもよろしく…ってあれ?キール?」


リッドと手を離し、キールを振り向くとキールは見事に固まっていた。
んあ?どうした?


「…キール?」
「ハッ!な、なんでもない!」


俺がキールの目の前でヒラヒラと手を振ると、我に返ったキールが慌てて俺から視線を逸らした。
髪の隙間から見える耳と頬が若干赤い。どうした?レインさん別に可愛くないぞ?にこぽとかされるほど可愛く無いぞ?ファラとかカノンノ…君の周りにいる女の子のがよっぽど可愛いぞ?ん?
リッドと顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
おお、なんかリッドとは仲良くやれそうな気がする。


「…おっ?お前」
「ん?」


ふと、リッドが俺の肩に乗っていた黒猫を見た。
黒猫はじぃっとリッドとキールを見ている。


「よかったなーお前。ご主人様がやっと起きて」
「…にゃぁ」
「…ご主人?」


ってもしかして、俺のことか?
…あ、そっか。俺が抱いて降ってきたから、こいつの主人は俺って思われても仕方ねぇのか。


「なぁ、コイツ名前なんていうんだ?」
「へ?名前……」


…そういや、コイツ名前何なんだろ。
そんな思いを込めて黒猫を見れば、ニャアと鳴いた。
そもそもお前、名前あんの?あ、ないのね。
なら勝手につけちゃって良いかな、いいよね。


「じゃあ…タマ」
「に」


あ、ふざけんなって顔された。
なんだよ定番じゃんか。
………はいはい俺が悪うございました。


「…じゃ、黒音クロートでどーよ」
「…にゃー」


ふと思いついた単語を口にしてみる。いいんじゃないかな、音的にも綺麗だしそれに黒石。
そうしたらふう、と溜息をつかれた。
それで勘弁してやるよってか。そんな顔されたぞ。


「…ってことで、クロートだ」
「今つけたのか」
「お黙りキール」
「クロートか………いい名前だな。お前もよろしくな、クロート」
「にゃあ」


リッドの言葉に、クロートは一声鳴いた。


「あ、そういやカノンノ探してんだっけ」
「あ、そうそう。カノンノどこだろ?」


やば、色んなイベントありすぎて忘れてた。
カノンノ探しに来てくれねーなぁ……。


「一緒に探してやるよ。ついでに船内も案内してやるし。な、キール」
「僕もか!?」
「いやなら別に良いぜ?じゃぁ行くか、レイン」
「まて、別にイヤとは言ってないだろう!…ふん、付き合ってやるさ」
「サンキューリッド、キール」
「にゃあ」


キールとリッドに連れられて、俺はその場を後にした。