Equality
誰もいない部屋。いつもだったらいる、と思いたかったのだが。
逢いたかった相手。シュヴァーン・オルトレインの姿が此処にはない。
ルブランに訊いてみたら、今は任務で留守にしているという答えだった。
そりゃ隊長首席。ナンバー2だものね、と諦めたがこのまま帰るつもりはない。
(なんてたって、家に居ても面白みはなし!まさにアレは束縛する館以外の何物でもない)
時々長居はするのだけど、本人がいないなら、と今まで疎かにしていた本を鞄から取り出した。
その本は初めてシュヴァーンさんが私を呼んだときに貰った本。
余りに小難しいから、と常に持ってはいたものの読む時間がないとまた数回しか読んだことがない。
今日はシュヴァーンさんも居ないことだし、と久しぶりに分厚い本を開いた。
「うー…、むー…。」
内容はいわゆる指南書みたいなものだ。
ルナは父から教わる、所謂実践主義だったために、こうやって理論など立てて読むのは今までなかった。
あとこの本には魔術のことも記載されている。理論さえ解ればいけるとのことだったが、実際使ったことはない。
色々深く考えているため、彼女が一瞬遅れて人の気配に気づいた。
普通の人、即ちニコラ自身が抱く“敵対心”がなければ気付かなかったのだが、こればかりは気付いた。
侵入者?いやいやそんなものじゃない。
騎士団のメンバーでもシュヴァーン隊の人たちにはマークはない。
ならば、他の騎士?いやいや、だったらこんなビリビリする気配はない。
親でもなければ、他の騎士でもない。
こんなに強烈な敵対心を抱くのだとしたら。たった一人。
「こんな所でどうかしたのかな?ノールのお嬢様?」
「!アン…アナタはアレクセイ・ディノイア!」
アンタ、と言いそうになったが飲み込んでは言いなおす。
そう。騎士団長閣下だ。騎士団嫌いで有名な彼女が、一番真っ先に鋭く矛を向けるべき相手。
それが、この男。アレクセイ・ディノイアだ。
ニコラはすぐさま本を閉じ、臨戦態勢に入る。
「そう警戒するな。」
「警戒するわよ。騎士団なんて大嫌いなのに、その長なんて信用出来ません。」
「困った子だ。」
厳しい者とは違う、何処か見下されたような雰囲気。
ニコラは益々機嫌を損ね、怒りの表情を必死に抑えながらも辛辣に言葉をあげ、続ける。
「別に困っていいわよ。私は困らないので。」
「ならば、何故此処にいるのかね?シュヴァーンは此処に居ないのは知っているだろう?」
「任務でしょう。存じ上げております。」
棘が目立つ口調で述べる。ソレほどまでに嫌いだったのだから仕方ない。
目的の人はシュヴァーンだから此処に居るようなもので。
じゃなかったら、帰る。と言いたいが、家に居るのも嫌なのでと渋々居続ける。
それが、ニコラ・ノールという人物のようなものだ。
「それで…何でアナタはここに居るのかしら?」
「それは此方が訊きたいのだが?」
「…ホントはシュヴァーンさんに逢いに来たのだけど居ないから本読んでて待ってた…。」
本当はこんな男に素直にはなりたくないのだが、言わないままで摘まみ出されても嫌なだめに仕方なく言う。
結局お咎めされるようなことをしなければいい。
結構問題児みたいな言い方をされることが多いが、ニコラ・ノールはザーフィアス城では驚くほどに大人しいのだ。
そしてニコラが読んでいたという本を一瞥し、アレクセイは続けて質問した。
「その本はシュヴァーンのだな?」
「そうよ。素質があるからとか、って。」
再び座っては本を開く。開くたびに重さがずっしりと伝わるがちゃんと勉強はしたいもので。
素質がどうかとは期待できないが、勉強してダメならいい。
やる前から諦めるのはダメだとは流石に自覚している。
「元々騎士団の娘なら遅かれこうなるだろう?」
「私は入る気更々なけどね。でも腕を磨いておけばいいと思って。」
腕を磨くことは、彼女自身の意志だ。
それもこれも、シュヴァーンが初めてニコラ自身を認めてくれた気がしたため。
だったら、と。少しでも期待に応えられるようになるのが彼女の剣技を磨く理由だ。
「随分シュヴァーンがお気に入りのようだな?」
「そんなんじゃない。好きなだけよ。」
向けるべき相手はあくまで対等に、辛辣に。しかし抱くべき相手はあくまで、真摯に。
ニコラ・ノール。彼女の意志はあくまで重く。
対等に、なれ
(お前は私と対等に話すのだな)
(対等だなんて、思いたくないけど便宜上よ)
(ククッ、つくづくノールの所のお嬢様はお転婆であるか)
((…腹立つ。一発殴ってやりたいわ))