何故か、秘書になって。早数日。
非公式で秘密のはずなのに、何故か当事者以外の人が知っている事実に今出食わしていた。
「君がノールの娘、ニコラだね?」
「…はい?」
私に声を掛けてきたのは、がっちりとした赤い甲冑に銀髪を靡かせる深紅の瞳の男。
他の騎士団とは違う。何かが違うのか。って質問が来れば、答えはほぼすべて。
声にすら感じる威圧感とか。オーラとか、何もかも。
見覚えのないはずなのに、この男は私の名前を知っている。
おかしい。おかしすぎる。
余りにも不自然すぎたため、一緒にいたシュヴァーンに声を掛ける。
(シュヴァーンなら、この理由知っているはずだし。)
ちらりと、見れば予想が出来たような反応をする。
「あ、あの。シュヴァーンさん?」
「どうした?」
「いや、どうしたじゃなくて。この方…。」
知らない人。だけど、今までになかった雰囲気。
気配を読むことを覚えたニコラに伝わる気配は、非常にびりびりとして冷たいもの。
否。冷たいというより、深かった。
深く、大きく。電撃の様に震える。並大抵の騎士では、味わうことのなかったもの。
その気配はまた、シュヴァーンとは少し違う。
「そうか。君のことは耳に挟んでいるよ。」
「…あ、あの…。」
「ん?どうかしたかね?」
その時、やっと気付いた。知らない、では済まさないものを。
そして、私にとっても、知らなくてはならない人だという事。
「…若しかして、若しかしなくても…。アナタは、団長さん?」
「あぁ、私が騎士団長のアレクセイだが?」
ピシッ、と固まった。毛嫌いする騎士団。その長。
最悪な日だ。まさかある意味一番嫌うはずであろう人に、出くわしてしまうなんて。
(そもそも、出会ったこと自体初めてだし名前も聞いただけだたし。)
だけど、何故バレたのだろうか。
「し、シュヴァーンさん…!秘密って言ったはずですよね?!」
「秘密も何も、最初からバレてはいたぞ?」
秘密、といったのに知っているなら。知る人に向ける矛先。
しかし向けるべき矛先を向けたものの、方向が違うと解ればすぐさまアレクセイに視線を向けた。
そして尚も淡々に、こう言い放ってきた。
「貴族や騎士団が嫌いで有名なノールの娘が何故か城で度々見かけている。
しかもその理由はいつも一緒にいるシュヴァーンにある。これ以上は言うまでもあるまい?」
「な…っ!」
要するに、口を割らせたってこと?
何てことを!せっかくの秘密を権力的なもので潰したというのか。
まぁ、確かに私がこの場所にいるのは不自然だろうけど。
それでも自分のことを棚に上げてはいらつきを覚えてしまう。
「ふむ、中々面白い逸材を見つけたな?シュヴァーン。」
「しかし彼女には騎士団に入るつもりはないようで。」
「そうなのか、ニコラ・ノール君?」
「えぇ、残念ながら。自由のない束縛は好きじゃないの。」
この光景。きっと騎士団の人々が見たらとんでもないんだろうな、と思う。
なにせ目の前にいる男は騎士団最強の剣士。アレクセイ・ディノイアだ。
騎士団の長、最強の剣士。
しかし、私はお手伝いさんであって騎士団ではない。
それに好奇心旺盛じゃじゃ馬お転婆娘に重ね、フリーダム主義のニコラ・ノール。
相手が誰であろうと。自分にマイナスが降らない限りは折るようなことはしない。
「ならば何故貴女は此処に御出でかな?ノールのお嬢様。」
「私は非公式でシュヴァーンさんのお手伝いをしてるだけなの。」
「非公式?中々面白いことを言うのだな。」
「えぇ、元々私の押し掛けで、シュヴァーンさんは許してくれている。
許していないのなら、私は前と同じく騎士団の困りものさんとなっているわ。」
その表情は昔のシュヴァーンと初めて出会った時の表情と同じものだった。
今ではシュヴァーンには向けていない表情。しかし嫌いという意識があり、また敵対とも取れる表情。
おかしい話だ。しかし、彼女はシュヴァーンが好きであっても、騎士団は大嫌い。
それは、昔も今も。変わることはない。
「では、私はそろそろ失礼させてもらうわ。一回出直していきたいの。」
本来ならば最敬礼のところを、軽い会釈で済ませてはカツカツとブーツを鳴らし歩いた。
そもそも最敬礼しなければならないのは、騎士団内ならばってことで彼女は騎士団の一員ではない。
それ故に。笑顔も見せなかった。ソレほどまでに嫌悪しているという理由もあって。
彼女はすぐさま避けようと、気配を辿りルートを極力短くしては数メートルだけ離れた。
多くの騎士を捲いていった、鬼ごっこで覚えた能力とも言える力。
しかしシュヴァーンはニコラのあの表情を思い出し、思わず声をかけた。
くるりと首だけ向けると、声を掛けた者がシュヴァーンだった為か表情は優しいものだった。
「…ニコラ。」
「…何ですか?」
「また後でな?」
「…はい!」
先程まで言い争いしていた男には決して向けなかった、笑顔。
そして軽く手を振っては窓から出て行った。
嘗てシュヴァーンにあれほどまでに窓からの出入りはするなと言ったにも関わらず、
実行したのはそれまでに城から出たかったのだろうか。ということを密かに暗示させていた。
「シュヴァーン。」
「はい。」
「面白い娘を見つけてきたな。」
「別にそういうつもりではありません。」
アレクセイには向けず、シュヴァーンにだけ向けた表情。
それでもなお。彼女は貴族でもなく、騎士でもない凛とした姿勢。
まるで一輪の花のよう。しかしながら悲しきことに、この鉢合わせが原因で。
今後も関わることになってしまうのは、今の彼女はまだ知る筈もなかった。
昔も今も、変わらない
(最悪…一回会ったら逃げるしかないじゃないの…。)
(そこまで騎士団が嫌いなのか?)
(騎士団もだけど…、ね。)