銀世界の中で


無機質のようでぬくもりある中で。
鈍色の空は、既に透き通った闇色となって。

その闇の合間に輝くもの。それは時に幻想的なもの。



「本日のノルマ終了、っと。」



いつものように身体作りから始まる修行。
修行・訓練、といっても身体が出来ていなければ、完現術なんて一度の使用で何分も持たない。

そのためにと、いつものように本日のノルマをこなして、終われば一息のために烏龍茶を貰う。
潤すために喉にお茶を流し、ご馳走様とグラスを置いて、
帰ろうとコートを羽織って着れば、唐突に一言降りかかる。



「なぁ、水上。」
「はい、なんでしょうか?」



声を掛けてくれたのは、ここのリーダー的存在でもある銀城さんだ。
カランといつものようにグラスを傾けて酒を飲んでいた。

そのグラスをテーブルに置くと、此方に向けて視線を向ける。



「突然だがこの後暇か?」
「本当に突然ですね。まぁ、空いていますけど‥。」



『なら決まりだ。』といって立ち上がる。
そのまま手を引かれ『少し出掛ける』とだけ言い残してはマンションを出た。

外はもう既に夜で正直言って寒い。
幸いコートと手袋をしているが、無ければさっさと帰りたいほどだ。

時間も女性一人で出歩くには少々無用心な時間であったため、
銀城さんと一緒というのはある意味都合はいい、だけど…。



「‥‥で、何でこんな場所に?
こんな時間ですし、流石にマズイですよ。一応人間ですし。」



手を引かれた場所は誰も居ない建物の屋上。
勿論、完現術を使えるようになっているお陰か、銀城さんが空気を使役してトントンと上った訳だが。

実際、人気の無い屋上で二人きり。何だが誤解を招かれそう。



「まぁまぁ、後ろ向けって。」
「後ろ?」



手を引かれたままのため、後ろなんて見る暇もなかった。
そんな状態で、言われたとおりに後ろを振り向くと。

地面に色彩鮮やかな光が闇を照らしていた。
屋上から見える街の景色が、イルミネーションで彩ってたのだ。



「わぁ‥っ。綺麗‥‥。」
「今日が丁度クリスマスで、今の時期はイルミネーションがすげぇからな。」



『こういうの好きだろ?』と言って、手をぎゅっと握られる。
確かに好きといえば好きだ。

赤や緑の光に目を奪われていると、頬に冷たい何かが伝う。
視界を見上げれば、銀世界が降り注いでいた。



「‥‥あ。雪‥。」
「今夜は雪か、どうりで寒ィ訳だ。」

「そうだね…って、ちょっと‥!!」



水上が驚くのも無理はない。
何故なら、急に後ろから抱きつかれてしまったからだ。

銀城さんの大きくて逞しい腕に、後ろから抱かれている。



「あー、やっぱりちっと冷てぇな。」
「ちょっと!何して、」

「そりゃ人間カイロ。」
「さらっと言わなくても!」



さらっと言いのける彼に思わず熱があがる。
咄嗟で離れようとして、もがくなり抗うなりの抵抗を試みてみた。
だが、がっちりとした腕の中で囚われて離してくれる気配はゼロ。

別に銀城さんが嫌いだとかそういうのはない。
だけど、単純な理由。男女の仲と言うモノに慣れていないのだ。



「あー。だが、あったけぇな。」
「ま、まぁ‥‥そうですけど‥。」

「たまにはいいだろ?水上。」



ほんとに二人っきり、なんて最初の頃だけだったから懐かしい気持ちが入り交じる。
低く誘うような声にぞくりとして、ノーなんて言えるはずもなく。

小さい雪が降る中で、唯唯彼のぬくもりを感じていた。





銀世界の中で
(なぁ…たまには空吾って呼べよ?今夜はクリスマスだぜ?)
(それ…関係あるの?)
(あぁ、大アリだな?)