これは、ちょっとした事件である。
急に雨が降りだし、干していた洗濯物をベランダから部屋に移していた。
すべてを移し終え、ひと息つこうとしたときに、ピンポンとなったインターホン。
誰だろうか、なんて思いながらドアを開けた。
それは見覚えのある人物で、開けたドアは更に広がった。
「ちょ!どうしたの?ずぶ濡れじゃない。」
「悪ィ、白雅。雨宿りさせてくれ。」
そういって入ってきたのはコクトー。成り行きで付き合うことになってしまった彼氏である。
そんな彼氏なコクトーは今ずぶ濡れであった。恐らく、急な雨で濡れてきたのだろう。
「も、もう。シャワー使って良いから早く浴びてきたら?風邪引いちゃう。」
そのままぐいっと中に入れ、玄関で簡単に拭いてからあがらせた。
大分暖かくなったとはいえ、降りかかる雨によってコクトーの身体は酷く冷えていた。
「服はどうすんだ?」
「私の部屋着が確か男物だから何とかなるよ。あとで出しておくから。」
「悪ィな、白雅。」
「気にしないで。」
彼をシャワー室まで案内すれば、白雅は彼の荷物をタオルで拭く。
濡れていないか確認しつつ、ひとつひとつを丁寧に拭き終えれば、次はタンスの中を開けてごそごそと探す。
男物の部屋着とは言え、長身であるコクトーにサイズが合うかどうかと考えながら。
「確か、この辺に‥。」
「白雅?」
「あ、あがったの‥‥、」
声がする方へ思わず視線をずらすと、目の前にいた。
タオルで腰回りは隠されているとはいえ、逞しい上半身は晒け出されていた。
いわゆる、半裸状態。
「ぎゃあぁあ!その格好であがるな!」
「仕方ねぇだろ?タオルしか隠せねぇし。」
「そんなのいちいち言わなくても解るわ!」
彼氏なんぞコクトー以外に作っていなかった白雅。
ましてや大学生になってからも一度も男を上がらせたことがなかったため、過剰な反応は無理もない。
「早く着替えて!私の後ろで!」
ボサッと投げつけるように渡せば背に向ける。両目を隠してはそこから一歩も動かず俯いた状態にする。
何が何でも、終わるまでは動かないと強く表していた。
「なぁ、白雅。」
「‥‥着替えた?」
「あぁ、お陰で助かったぜ。」
さんきゅな、と言ってはわしゃわしゃと撫でた。
撫でられるときに衣服の感触があったため、着替え終えたのかと解れば少し顔をあげる。
屈託のない笑顔と少し濡れて艶のある白髪にどきりと胸が高鳴る。
撫でられる中でも、白雅は耳まで真っ赤になっていた。
「ククッ、白雅。顔赤いぜ?」
「う、うるさい‥。」
「俺の裸を見て欲情でもしたか?」
「そんなわけないでしょ!バカッ!」
ストレートな言葉ににボンと顔を真っ赤にさせた。
その恥ずかしさを隠すように、思わず手元にあったクッションを顔に押し付けた。
彼はそんなこと気にも止めないのか後ろからぎゅっと強く抱き締めた。
「‥‥。」
「白雅?」
黙り込んだ状態のまま、ポンポンとあやすように撫でる大きな手。
それに視線をずらすと、まだ濡れているコクトーのシャツがハンガーで掛けられている。
今の彼は服を着ているが、このまま外にも出せないし何分今は大雨だ。
「‥‥服、乾かさないと帰れないね。」
「白雅がいいならいっそ泊まりてェけどな。」
「な、何言ってんの‥!」
「良いだろ?」
優しく囁かれる声にびくっと震えた。少しずつ強く抱き締められる。
背中越しで感じるぬくもりに、目を閉じては小さくつぶやくように言う。
「‥服が乾かなかったらね。」
ちょっとした事件?
いえいえ。白雅自身が大事件に巻き込まれる恐れがあります。
大雨事件来襲?
(その代わり寝る時は隣の部屋だから)
(つれねェな。折角だから一緒に寝ようぜ?)
(何が折角なのよ!)