甘味カンタータ
人の欲、とは恐ろしい物だ。
だけど、それを叶えるのは別物だ。
「‥何で‥私がわざわざ‥。」
しまった、という感情が先に走る。
話しても問題ないだろうという見解がそもそも間違えたか、など後悔するばかりだ。
「迂闊だった。あの極悪非道の旅団の団長あろう者が‥甘味好きだったとは‥。」
これでは、益々私がヤツに好かれてしまうじゃないか。
とひとりごちりながら、蒸し器を開ける。
中には、蒸したてホヤホヤのプリン。
「取り敢えず…いくつか用意しておけば問題ないでしょ。」
荒熱取っては冷やし、あとはじっくり待つだけ。
一通りの工程を終えてふぅ、と息をついたときに、カランと入り口に設置していた鈴が静かに鳴った。
裏から出てくれば、いつものスーツ姿ではなく漆黒のコートを纏っていた。
(あれ?仕事から戻ってきたときですかー?)
「やぁ。」
「‥いらっしゃい、取り敢えず珈琲でも用意するわ。」
いつもスーツでの彼を見ているからか、仕事モードの彼を見るのは改めてなら初めてで、つい構えてしまう。
殺し合いの時に一度見てるが、あの時は明かりは此処よりも暗めだったから。
(と、色々並べるけど本心言ってしまえば生死の境目にいたからそれ所じゃなかったのよ!)
「少し甘い匂いがするな‥何か作っていたのか?」
「ご明察。前にお菓子作ってというから‥。もう出来てるだろうから今から持ってくるわ。」
その場から離れ、裏手からキッチンに入っては作り立てのプリンを並べてはそれをトレーに乗せて運ぶ。
当の頼んだ本人は既に持っていた(盗んできた?)本を開いては寛ぐようにして読んでいた。
「はい、持ってきたよ。」
「まさか本当に作ってくれるとはね。先生?」
「出来ることならしなくてもよかったんですけどね…。」
『後が色々怖いから』となんて言えないため、口を噤む。
カタン、と置けば本を閉じて置かれたプリンに視界を移した。
(あ、なんか嬉しそう。)
「食べていいんだよね?」
「どうぞどうぞ。」
スプーンを手にとって、ぱくりと一口。嬉しそうな表情。
その反応に安堵して、私も食べようと、自分も向かい側に座る。
(不思議だ、そんな感情なんて持ち合わせてないのに。)
図書館ではお客さん、なんてあんまり来ないからこうして自分以外の人がいるという不思議。
それと、彼とこうしている事の違和感がじわじわとなくなる感覚。
まるで、これが日常だと錯覚してしまうかのように。
「ナマエ。」
「?」
首をかしげていると、クロロは自らの頬に指先でトントンと触れる。
「付いてるよ。」
「え?そんなことあるワケ…。」
頬に触れようとしたが、腕を掴まれる。
掴まれた感触に疑問を持って、目線を変えたが頬にべろりと何かが伝う。
その正体が何かと判ると頭の中が、一瞬にしてショートした。
「ッ!!!?」
「ん、矢張り甘いな。」
「ちょ…な…ッ、何…して…!」
ショートしたまんまの回路が、まともに回らない。
仕出かした本人は、先程の甘いプリンを食べたときとは明らかに違う笑みを浮かべている。
「ん?はっきり言った方がいい?」
「いやいや!言わないで!」
真っ赤になった顔を冷ますのに必死になって。
それを横でくつくつと意地の悪い男が笑ってた。
甘味カンタータ
(これは、幾つくらい作ったのかな?)
(ん?まぁ…後で自分の分も合わせるから10ちょっとかな。)
(それ全部くれない?)
(…は?)