細やかな出来事で、小さなイレギュラーだった。
たったそれだけにも関わらず、場を狂わせてしまうきっかけには十分すぎたのだと思い知る。
たった1つの、イレギュラーは普段愛用しているコンタクトレンズが反抗期だということ。
見た目も変わるし、その変化で面白がる人がいるからだ。
最近何故か彼……キンブリーのお気に入り(らしい)私に対して。
にこりと白いスーツを身に纏って微笑むも、それは仮面だと前々から知っている。
「おや、セナさん。…これはこれは、随分珍しいですね?」
「………唯のコンタクトが合わなかっただけです。」
お気になさらずに、とだけ言い残して早々に立ち去ろうとするも隣にぴったりとくっつくように歩き出す。
(だからストーカー紛いだといっているのに、何も聞きやしない……。)
普段はコンタクトをしているが、今日ばかりはとことん相性がよくない。
朝起きてから付けようとするも感触がよくなく、ずっと目がゴロゴロするから、とてもじゃないが仕事に手がつけられない。
その代わりの妥協案をしただけで、イメージチェンジだとか深い意味は一切ない。
代わりの眼鏡は可愛さなんてない、少しごつめの黒縁メガネ。
良い風な言い方をすればクラシックなんていうだろうが、残念ながら普段使いするもなので可愛らしい要素はないだろう。
「唯でさえ、誰かさんに時間を取られて仕事が終わらないんです。なので失礼します。」
嫌味の1つを言ったって何もに聞きやしない。
いや、そんなことはここ最近で散々経験しているのでとうに知っている。
そんな訳だし、こちらは早く仕事を片付けたいので本当に用事があるなら手短にして欲しい。
にも関わらず、彼は何も言わずただじっとこちらを見る。更に言えばじわじわと近寄る。
(少しは気にしてほしいんだけど……!そして離れてください。)
「ふむ……普段の貴女も素晴らしいが、これは中々……。」
「あ、あの……。近いです。」
青みがかった鋭い目がこちらをじぃっと見下ろす。
彼とはまともに関わったら詰みだと、まともに視線を合わせたことない。
だから、こんな目の色をしてたんだ、とぼんやり考える。
相変わらず何が目的かはわからないままではあるが、早く要件がないならさっさと離れて欲しい。
(まぁ、この要望が通ったことなんて一度もないんですけどね!)
じっと見下ろすのをやめると、クスリと笑ってはこともあろうことか眼鏡のフレームに手をかけてはそのまま外される。
私自身、そこまで目は悪くはないがこと細かい作業をするときには必須なのに。
「!あ、あの……、返して……!」
再度言うが、こちらの要望などまともに通ったことはない。
こういった些細な出来事でさえも。
ただ、眼鏡を取られて少し遠くに離されると少し視界がぼやける。
なんとか、伸ばす手の先に黒い眼鏡が主張していたので見えはするが
「あぁ、やはり素晴らしいですね。」
くるくると遊ばれていた眼鏡を手の中に収め、片手で急に背後の壁に押し込まれる。
まるで壁とあなたの腕に挟まれるような状態ではあるが、どうしたらこの状況を回避できるのか頭が回らない。
「なに、が……っ?!」
「貴女の目が素晴らしいですね。眼鏡でその美しさを控えめに隠すのもまたよいですが…
やはり貴女はこちらの方が良い。」
どこかニタリと読み取れる表情で彼は微笑んだ。
どこにそんな要素があるのかと聞きたくはなるが、うっかり墓穴を掘って自爆だけはしたくない。
青く鋭い目がこちらに視線を向ける。
もはや幾度となく刺される視線には、思わず目をそらしたくなる。
「…あ、あの……そろそろ………返して…。」
「目を逸らすな。」
「!」
「貴女を見ているのはこの私です。ちゃんと、その目で私を見なさい。」
急に圧される空間に思わず息が詰まる。
どうしたらいいのかわからない。逸らそうにも、逸らすなと空気がずんと重い。
おずおずとゆっくり視線を向けると、相変わらず注がれる青の目。
拘束されたわけでもないのに自然に動けなくなり、思考そのものも縫い止められる。
どうしてだろう、逆らいたいのに視線が思考を停止させてしまう。
「いい子ですね。」
そういって、視線が再び重なったまま、じんわりと熱をまた帯びていく。
彼の言葉に魔力がこもってるように錯覚してしまうほど。
その度に実感してしまうのだ。
相変わらず、この男は苦手だと。
番狂わせは青と言の葉と
(だから……っ!眼鏡返して!)
(これが無くとも私がこの場なら見えるでしょう?)