唐突な、申し出だった。
「すまない。」
暫く沈黙し、静寂を破るように先に一言発したのは、彼だった。
急にどうしたの、と声をかけた。
「緊迫した状況と分かっているが……その、シャワーを浴びて、いいだろうか?」
ふむふむ………、ふむ?
一瞬、あっけにとられてしまった。
まさか、彼からそんな提案をするなんて思わなかったから、驚きで耳を疑った。
なぜこんな発言をするのか、わからなかったからだ。
「こんな時に不謹慎だとは承知しているが、もう我慢が効かないんだ。
君は魅力的な女性だ。だからこそ話したい。」
こ、これって…!で、ででで、でも、嘘かもしれないじゃない。
だって彼は鈍感だもの。恋愛だとかそういったことに疎い彼がそんな発言するなんて…
ででで、でも、これが…もし、もし!本当ならば…。
心の準備、ってやつが必要じゃないのか!
考えれば考えるほど、顔に熱が集中してしまう!
こんなのダメだ!でで、でも、申し出があったのなら、受け入れなくてはいけなくて…でで、でも!
……と、ひとり悶々としていたのがバカバカらしくなったのだが。
あぁ、私がバカだったよ。なんでそんなこと思ってたんだが。
メルトリリスの毒蜜を浴びてしまったから念入りにシャワーしたいとか、本当にバカじゃないの。
バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの!
もう考えるだけで悶絶ものよ。そりゃ怒りのベクトルで!
「すまない、時間を取らせた。」
こうやって、人が怒りのベクトルをまっすぐに向けてるのに、何の問題もないように見てくる。
まぁ敵意はないが、殺意はあるんだ。
しかも今はしれっと現代服に着替えてるし、あのメガネ割りたい。
(あぁでもかっこいいからやっぱ無理だ。)
異性との…で思い出した。
そういえば前にはくのんと話ししてたっけなぁ。
前にセクハラ発言を話題にしてた時、彼女のサーヴァントはギルガメッシュだから、アーチャーの方がまだ幾分マシな方だと。
それでもこの無自覚さは罪だ、罪!
極めつけは好みのタイプは「可愛い子ならだれでも好き」だと…?!
あの大馬鹿め。女性を敵に回すような発言である。
逆に私の好みを聞かれたときに彼だと答えたのにそれをお世辞だとかでのめり込まれた。
あぁ、思い出したらふつふつ湧き出る。
もう我慢の限界。
そう思ったが最後、私は彼を押し倒し、ベッドで組み敷くような体制になっていた。
「!ま、待て!いくら君でも女性なんだ、こんな手荒い真似は…」
「手荒くなんてないもん。ホントバカなんだから!」
思い出しただけでも湧き出るようなこの怒り。
バカだ、本当にこの男はバカだ。
鈍感すぎるそれは女性の敵で罪だ。少しは自覚しなさいよ。
「前に好みの話をしたら、お世辞なんてそっけなく返すし、魅力的な女性だとか…。
女性の敵よ。アーチャーは。」
私だって、こんな手荒いことはしたくない。
でも、鈍感すぎる彼の方が断然罪深い。
それでも、言いたいことを言わないと気が済まない。
私の許容範囲はとっくに、超えていた。
私をフラグ一級建築士だとか言うけど、逆に彼の方がそのフラグへし折り一級モノだ。
「そんなつもりもないのに、思わせぶりで無意識でドキドキさせて。」
「お、俺はそんなつもりじゃ、」
「もう聞かない。知らない。好みのタイプでは本心から答えたのに…。
あんな風に迫られて、私がドキドキしないわけないじゃない。」
勝手に意識過剰になってるだけかもしれない。私のエゴかもしれない。
でも、これだけははっきりと言いたいのだから。
「好き、なんだから。」
「…………まったく、君は。」
はぁ、とため息が漏れた。
なんでため息なんて漏らすの、と問いかけようとすると、あっさり反転させられて上下の位置が逆転する。
気づけば、目の前にはアーチャーと天井が背景になっていた。
「余り、困らせるな。」
「困らせてないもん。本心なんだから。」
きっぱり言い返してやれば、またため息。
息をつけばかけていたメガネをはずし、近くのベッドテーブルに置く。
今度こちらに向けられる視線は…、まるで。
「……後悔するなよ。」
獰猛な獣のソレだった。
本心
(例えそれが、禁断だとか言われようとも)