痛みなんて、ない方がいいに決まってる。
だけど、この唐突すぎる展開は、いかがなものか。
「…あの、さ。ランサー。」
「あ?いきなりどうした。」
『それ、私が言いたいんだけど。』と思わず突っ込んだ。
それは、青髪の男・ランサーがベッドの上で寝ていた私を組み敷いていたから。
…え?
「あの、さ……。なんで、私。こんな状況なの?」
「魔力が足りねぇ。喰わせろ。」
「魔力供給だったら普通にあげるから…、それでいいでしょ?」
「つれねぇな?」
やれやれと男は息をつく。
確かに、魔力供給は魔術師との体液交換で行われる。
だが、それはイコールというわけではなく、血液にだって含まれているのだ。
しかし魔力の供給については言峰綺礼とケイネス先生のおかげでか、外に放出することはなんとか形にはなっている。
そのため、通常に魔力を注ぐことだって問題ない。
一般人にそれは不要とばかり思ってたが、まさかこんなところで役立つとは思わなかった…。
(こういうときだけは、言峰綺礼に感謝しよう。うん。)
そう小さく頷いてると、ぎしりとベッドがうなり、そっと囁いてきた。
「この前なんかいい声で求めてたクセになぁ?」
「ッ!!そそ、それがアンタが勝手に押し倒したからでしょ!私知らない!知らないからね!!」
そんなことは夢だ夢。むろん悪夢の類で!
良い声で求めてたなんて私は信じない!勝手に押し倒してその後はあぁあもう思い出したくない!
そもそもあれは事故なんだ、事故。アクシデント!
まぁ、故意が入ってたから事件なんだけども!
こっちで色々攻防を繰り広げるも、それすら一蹴する。
「いいから黙って喰われろ。」
「ん、んぅ………!!」
押し倒されたままで、腕も拘束されたままで、動くことがままならない。
更にその状態で口付けされるなんて、思いもしなかった。
逃げたいが、組み敷かれているままでは無理だ。
ましてや、相手は英霊だ。力勝負では明らかな敗北を告げられている。
「ふぅ、ん、んぅ、……ん、んうっ…!!」
違和感に気づいたのは、舌がぬるりと荒らすように入り込む。
こうされては、もう勝ち目なんてない。
あぁ、もう頭の中がじわじわと朧気になっていく。
真っ白にされる。あの感覚がこの男によって支配される。
じたばたと動いて切り抜けようとするも、それすら赦さないように両腕をひとつにまとめられて捕らわれる。
ぬるりと舌が入り込み、好き勝手に荒らされる。
自由だけでなく酸素すらも奪われる。あぁ、もう、何もかも。
手を動かして抵抗することも出来ないから、シーツをぎゅっと掴み目を瞑って耐えた。
「ッ、…。ちっとはよさそうな顔しろよ。」
「はぁ…はぁ…、誰がするか、誰が。」
よさそうな顔なんて、誰がするか。
こんな風に無理やりにされて、喜ぶ変態じゃないんだから。
「こんな…無理やりに…、されて、よくなんか…。」
「なら、本心ならいいのか?」
「……は?」
え?今。なんて言った?
無理やりにされるのはもちろん嫌だ。これは動くことない事実。
だが、この男は本心からならばいいのかと言いだしてくる。
まぁ、それは…確かに、そうなんだけど……。なんだか、こんな一面があって少し驚いた。
いや、相当驚いた。
「確かに俺はマスターであるお前の魔力で現界をしている。
だが、それだけの理由で身体を求めているわけじゃねぇぜ?」
「……え?」
あれ?ちょっと矛盾してる。
魔術師の魔力が欲するのは、サーヴァントの本能的部分でもある。
だから、欲しがるのは当然なのだが、それだけの理由じゃないというのがおかしい。
結局は、マスターの魔力だけが欲しがるのばかり思っていたから。
「マスターがお前だから、求めてるだけだ。」
「…!!ななな、なんで、そ、そんな…恥ずかしい、こと…!!」
さも、当たり前のように返すため、力強く、否定できなかった。
マスターの資格すらあやふやな私でも、マスターが自分だからと目の前の男は力強く告げる。
それ故に、強く否定を返すことが出来ず、沈黙。
少しばかり沈黙して、一言だけ返す。
「……あまり、痛くしないでよ。」
そう告げれば、男は満足げな笑みを浮かべて、再びぎしりとベッドのスプリングを鳴らした。
これが、本当のことなら、断っていたのに。
なんでだろうか。
まっすぐに見つめる鮮やかな紅の瞳に、捕らわれては頷く。
あぁ、もう。これが、夢であるように。と願いながら。
…まぁ、実際。
これはある男が見た夢で、すべて現実ではないのだが。
この事実をのちに知るのは、二人だけだった。
夢現にて、痛みを忘れて
(…という夢を見たんだが。)
(なななっ、何言ってんの?!そんなのは夢でしょ夢!)
(なぁ、既成事実、作ってみっか?)
(遠慮するわっ!むしろ断るわ!!)