曖昧ガラムマサラ

表側の記憶は曖昧だ。
確か凛やラニと一緒にご飯を食べていた記憶はある。

食堂で、気晴らしに言ったりして食事を楽しんでいた記憶の。
だけど、この裏側に飛び込んでから会長が嘆いていた。


『旧校舎には食堂がない』と。
そのため、当番制にして食事を楽しんでいた。

色んな味が楽しめるので、この当番制は結構楽しかった。


そんでもって今日。
少し早目のアラームが鳴り、不思議に思いつつも生徒会室に向かった。

私の番ではなかったが、ひとつの会長命令が下った。



「会長、急にどうかしたんですか?」
「今日は兄さんの番ですが、柊さん。兄さんと一緒に作ってください。」



……は?
いやいやいや。なんで今日私の当番じゃないのに?
しっかりとした会長のお兄さんだから問題はないでしょと言うも、にっこりと笑って毒を吐かれた。



「ははは、柊さん。僕にもう一度黒いコールタールのようなものを食べさせるのですか?」



……え?
い、いや、今なんていった?
カレーなのに黒いコールタールのようなもの、って何。

何でも話を聞けば、ユリウスは紅茶を入れるのは上手いが料理はてんでダメだとか言っていた。
ユリウスにとって、カレーとはレーションに掛ける粉末状のものらしく、
再現したらドラム缶いっぱいに胡椒を入れ、水とオリーブオイルを混ぜて煮込んだ結果。そうなったらしい。


あくまで表情は穏やかのレオだが、どう考えても背後のオーラが怖い。
いかにも『つべこべ言わずに作って来い』とばりである。

そんでもって後ろに控えているガウェインも表情からは涼しいが切実に行くように促すようである。

まぁ、現にエリザベートの破壊料理を味わったため、
料理を彼女に教えたりしているから今更ひとり料理を教えても大して変わらないし…。

会長命令により、私はそそくさとユリウスのいるであろう場所に向かった。



「あ、いたいた。ユリウス。」
「ん?なんだ…柊か。どうした。」

「今日当番でしょ?一緒に作らない?」



とても言いにくい。
おそらく本人も苦手だと自覚はしてるし、そんな中自分が入ってきたことでどのような反応をするか。

ユリウスは勘が鋭い方だ。何故この場にいるのか容易に思いつくだろう。



「オレに遠慮は不要だ。そっちは迷宮探索に行って来い。」
「今日ははくのんが行ってるから大丈夫。それに一緒に作った方が早いでしょ?」



多分気を遣わなくていいと思っているようだけど、お願い空気を読んでユリウス!
ここでアナタひとりにさせたら後で会長に何されるかわからないんだ!



「…そうか。なら構わないが。」
「有難う。今日は何作るつもり?」

「そうだな…これから始めるところで特に決めてはいないが。」
「……あ。じゃあ、カレーにしない?」



その言葉に一瞬ユリウスの表情が硬くなったが、にこにこと微笑んではどれにしようか考えた。
…矢張り、レオに言われた言葉が少し響いているのだろうか。

しかしカレーは香りや辛さとバラバラだし、そもそもメンバーの味覚の具合わからないし。
取り敢えず、今日くらいはオーソドックスのにするか。



「うーん……じゃあ、今日はオーソドックスのカレーにしよう。」



全くといって苦手と聞いたので、ならばオーソドックスの作り方だけでも教えよう。
簡単に下ごしらえをして、それをしつつごはんを炊く準備。
お湯を入れて、野菜を入れたら煮込む…と。

多分普段通りのカレーでいいと思う。

苦心していたのだったら、こういう時くらいリードしててもいいと思うんだ。
もし、これで覚えてくれたならもっと嬉しいし。
(まぁ、そこまでドリーム見ませんけどね。)

一通りこなし、ルーも入れ終えればテーブルに置いておいたとある小瓶を持つ。



「よし、これで後は仕上げに…と。」
「なんだ、それは。」
「これ?ガラムマサラってスパイス。
私が作ると比較的甘めだから辛さ調整にちょっとだけ入れるの。」



そういって軽くぱぱっと入れて軽く混ぜる。そんでもって、味見を少し。
なんか、ほとんど私メインで作ってるななんて今更に思った。
(まぁ、指示を私が出してユリウスがサポートするようにしてくれているんだけど。そのおかげで本当に早く出来ることのなんの。)

生徒会のメンバーは辛いのは大丈夫なのだろうかと思いつつ味見も済ませては、
くるりとユリウスに視線を向ける。



「…ん、これくらいかな。辛さも程々だし…。……ユリウス。」
「どうした、柊。」
「…はい、味見して?」



カレーを軽く小皿に入れ、ユリウスに渡す。
って、なんでそんな驚いた顔してんの。

自分がしたから来ないとでも思ったのか、甘いよ。
これは作り手の責任でもあるし、そもそも今日はユリウスの当番だもの。



「……するのか?」
「料理に味見は大事だよ、それに味見は上達するのにいいんだから。」



ついこの間にアーチャーが本格料理を並べていったので自分も作りたくなったのだ。
多分彼が一番ノリノリで作るに違いない。
だが、今日ばかりは私が作るからと言い残してこの場にいる。
(だって、今度食べさせてくれって言っていたし。チャンスだチャンス。)

作らなければ上達はしない、味見しなければ感覚で作れない。
そういうものだ、それに味見は作り手における一つの責任だ。

もし、彼好みの辛さでなければ参考にもなる。
彼がどの料理が好みで苦手なのか、私としても知りたい情報だ。

小さく頷いて待っていれば、少しだけ掬ったカレーを一口味わう。
しばらく無言だったが、一言だけ返された。



「……美味い。」
「ふふ、それはよかった。」



にこりと、柔らかく微笑む。
いつもはそれだけなのに、異常なほどに胸を鳴らせたのは何故だろうか。

“いつも訓練に付き合ってくれるお礼”と“会長命令”だったのが、いつの間にか違くなっていて。
ぱらりと小さく、触れたときのあたたかさを感じていた。





曖昧ガラムマサラ
(今度色々教えてあげる。お礼もしたいしさ?)
(柊、意外に料理が美味いのか。)
(意外ってなに?!私どう思われてたの!?)