聖夜のお楽しみ
年に一度の特別な日。
世界も時代も形は違うけれど。
私にとって、この日が楽しみである事には変わりないから。
「ふふ〜ん〜♪」
「随分機嫌がよろしいようだな?ノア。」
上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていると、一言声を掛けられた。
運んでいる足をぴたりと止めてくるりと振り向く。
黒い影と赤の姿を見かければ、嬉しそうな表情を一旦止めて。
ごくごく普通に笑いかけては、サングラス越しの目に視界を向けた。
「あ…、アーカード。そりゃそうよ。今日は聖夜だし。」
「ほう?」
「さっき聞いたんだ。今日はクリスマス、って。」
クリスマス、の一言だけでノアは上機嫌の表情を露にしてその場をくるくる廻った。
その勢いのまま、飾りを運びながらもすることを忘れずにスタスタ歩く。
彼はノアを追い越すようなことはしないけど、後ろについていくように進める。
彼は興味はないと思うが、何故か私の行動には興味があるようで。
本当に…平々凡々(一部除いてだけど)な私に興味なんて、改めて思っても不思議だ。
「成程な。ノアの世界ではこうして楽しむ訳か。」
「場所によって違うだろうと思うけど、此処の世界だとどんな感じになるか判らないし…。
取り敢えずパーティみたいなのを開きたいな、と思って。」
私の世界じゃ、盛大な料理を並べて食べて騒いで楽しんで。
夜は家族や恋人と楽しい時間を過ごすのだ。
私の世界でのクリスマスの話をすると、ほんの少し興味を持ったように聞いていた。
しかし、サングラスで表情を隠されているから、
不気味なほどに愉快そうな笑みでしか表情が判らない。
私には彼が何を考えているのか、さっぱりなのだ。
「…で、今は何をしている?」
「インテグラ様と執事さんに許可貰って只今パーティ作りの準備。」
テーブルには既に豪華料理の準備もしていて、小さいツリーも飾って。
その一室はまるで、日本のクリスマスのパーティのようだ。
その光景を見れば、ノアは嬉しそうに笑っていた。
「どうせ…アンタは興味は無い訳でしょ?」
「そうだとは言っていないが?」
さらっと流して肯定の言葉を言うのだと思っていたが、否定にもなる返しに作業が止まった。
(いや、本当に。止まるよソレは。)
だって、あの。
あの、アーカードが興味が無い訳ではないと返すから。
「…興味、あるの?」
「あぁ、ノアがどんな様子で楽しむのか色々とな?」
あぁ、結局私なのか、と脳内で語る。
本当につくづくアーカードという男は私の存在に興味と言うか面白がっているから複雑。
何故彼が自分に興味を抱いたのか、それなりの付き合いになっているが未だに分かっていない。
「…あ。クリスマスのプレゼントも出しておかなきゃ。」
「ノア。」
「…ん?」
「私には寄越さないのか?」
私は“目が点になった”、という状態だ。本当に、意外な展開だ。
あのアーカードがプレゼントに矛先を向けるなんて。
だが、本来は物とかの形なんだけど、彼は吸血鬼だ。
人間にある物欲というものは無い。
ただ、彼が私に願うもの。それは決まりきっている。
「…アンタのは大体決まってるから。パーティ終わってからね。」
「ククッ、物分りのいいお嬢さんで助かる。」
パーティが終わってからじゃないと、パーティどころの話じゃなくなる。
私は今日であるこの日を楽しみたい。
その楽しみを奪われるのだけは、避けたかったから。
聖夜のお楽しみ
(但し、5秒だけね。それも手加減して。)
(あぁ、ノアから頂くのはこれしかあるまい?)
(ホント…何故こうなったんだろ。)