暗い、暗い。一室。太陽の光を嫌うように、窓がない部屋。
だだっ広い部屋で何も無い。訳ではないけれど、ひとつの椅子とテーブルにはワインとグラス。
そして、この部屋の主の寝床。
そして…非常に。冷たく重い部屋。
何故こうなった?
何故ああなった?
そして、何故今此処にいる?
本来ならば、知らないはずの部屋。
だったけど、此処の部屋の主によって連行されてこの場所を知った。
暗い道が長く続いて、着いた先がこの男…アーカードの部屋。
「離せ、放せ!放せ!!」
「暴れるな。」
「暴れるわよ!アンタが離してくれないんだから!」
サングラスを掛けた男の表情で読み取れるのは、ニタリと口元を歪ませる笑み。
その笑みを見て、良い予感など今まででは一度も無い。
やっと首根っこを開放された。
これで逃げられる!と慌てて走っても無意味だったとは知らず。
扉が開かない。そして後ろが無防備になったのを付狙って…。
「!!はーなーして!」
「お前の血を貰うのはこの方が良いからな。」
な、何て言ったこの男!血を貰う?
確かにかつて夜這い掛けられて一回だけ吸血された。
それ以降はインテグラ様に助けて貰っては阻止をし続けたが…。
まさか。このために此処に連行したというのか!
「イヤです!断固拒否!血ならちゃんと用意されてるんでしょ!?」
「五月蝿い黙れ。」
半ば無理矢理。というより、強制。
腕をがっちりと掴まれては後手に回され動きが取れない。
じたばたと暴れて抵抗をしているというのに、男女の差…というよりそれ以前の問題だけれど。
(だって人間と非人間ですよ!純粋な力じゃ勝てませんから!)
「だ、ダメ…!ひぁ…!」
背後に回ったことを良しとは思っていないが、その予感が的中したのなら、この展開を実行したこの男を憎みたい。
後手に回され動けない中、無防備となってしまった項に舌を這わせてくる。
ぬるりとした舌はぬくもりを持たず冷たさにぞくりと悪寒のようなものが走る。
今は項だが、このままではいずれ首筋にまで顔を埋めだしてしまいには‥がぶりだ。
それだけはなんとしても阻止しなければならない。なんとしても。
だが手は動かないし、身を捻って避けようとしても効果がないし。
噛みつかれて吸血されるならまだいい。‥吸血だけなら。
だがそれによって問題なのは‥吸血による快感。それはつまり行為のそれに似ていて‥。
夜這いで寝ぼけていたのが少々あったとはいえ、私が最初に吸血されたときは、まさにそんな感じ。
(と言うより、私まだ純潔保ってるからあの行為での快感って知らないんだけどね。でもそんな感じだ!)
あの快感が困るために抵抗はするが‥‥。抵抗による成果が出ないのが事実だ。
「ククク…何をそんなに怯えている?」
「怯えるに決まってるでしょ!前なんか夜這いなんぞ掛けおって!」
「だからこう堂々と攫ってきたじゃないか。」
いや、夜這いじゃなくても困るんですけどね!
つか堂々と攫うとか犯罪発言してんじゃないよ!
(いや、この場所で犯罪という枠組みが少々壊れているのだろうけど)
「唯の人間の血を吸わなくても、足りてるでしょうが…!」
「だがお前の血は格別だ。」
ちらっとだけど、見えたのはぎらりと見せる犬歯。だめだ、これは確実にスイッチが入った。
これは逃亡しなければ。このままでは、確実に…やられる!
「や、あ…。だ、だめだって…ッ、っああっ…!」
このずぷりとリアルに刺さって感じる音。そして耳の近くて鳴り響く啜る音。
間違いない。噛みついた挙句に吸ってるよこの男は。人の制止も聞かないで!
どうしよう。吸われて指先がびりびりする。痙攣が止まらない。
さっきまで冷たくなかったぬくもりも、徐々に熱く感じる。その反対に血を抜かれていくのか熱を失っていく。
「どう、せ…。私の‥血、以外…何の興味、も…ないん、でしょ‥っ。」
明らかに異常となっている私の身体が痙攣に近い震えていく。
それを必死に制御しながらこうなった元凶の男に一矢を報いる風に言う。
そうでもしないと、やられっぱなしが性に合わないから。
やっと解放されたときは私は鳥肌がたつぐらいまで血を抜かれていた。いや吸われた。
吸った男は満足そうにニタリと笑みを浮かべ、ぺろりと舌で首筋を這わせるように舐める。
あとでインテグラ様に輸血でも頼もうかな‥このままでは失血で死んでしまう。いや、喰い殺される?
「はぁ‥は‥‥はぁ‥はぁ‥は‥。」
細かい呼吸で何度も酸素を求める。
だが私の気も知らないで、ぺろっと今度は噛み跡を舐めていくこの男。これ以上吸ったら怒るわよ。
(というより、蹴り倒してやる!殺せないのは知ってるから)
「私は別にお前の血以外に興味がないわけではないぞ?」
「‥‥は?」
「お前のすべては私のモノだ。お前の血から髪、唇、骨の髄まで。ただそれだけだ。」
ただ、それだけって‥。何ていう独占欲。それも堂々と言いおった。
それを言い切った後は至極満足そうに笑みを浮かべ、逆転した体温で唇を重ねる。
すっかり冷えてしまった私と、奥の底から熱が篭るこの男。
ああ、もう。そんな情熱を孕んだ目で見ないで。
低く甘く、腰にクるような声はまるで悪魔の囁き。
そして、逃れる事叶わない。
さしずめ蜘蛛に囚われた哀れな蝶とでも云えばいい?
night in darkness
(インテグラ様に黙って…こんなところまで拉致しておいて!)
(何言ってる。我が主にはお前を借りると伝えておいたがな)
(は?!何それ!それで私見殺しにされそうになった訳?)
(ククク…夜はまだまだこれからだ。楽しませてもらうぞ。)