blindness trap
「あ。」
うっかりしてた。分厚い本を読んでいたら、指を紙で切ってしまった。
一線の鮮やかな、赤。
これを見てしまうと、ついつい彼を思い出す。
あの、常識の通じない赤い男を。
どこかに絆創膏的なの有ったかな、と思い本をしおりに挟み立ち上がれば壁から現れる人影。
誰かって?そりゃこの屋敷ないではただ一人だ。
「私をお呼びかな?お嬢さん(フロイライン)?」
「呼んでるわけないでしょ変質者。」
「クククク‥相変わらずだな。」
ひどく嬉しそうに歪んだ笑み。忌々しい。あぁ忌々しい。
やつが人間だったら即蹴りのひとつや二つ入れたってのに。
どうやらこちら世界では非人間の存在がある。
まして彼も非人間。
男女、年の差を重ねても圧倒的な差と言うものがある。
「にしても珍しいわね。寝込みを襲わず。かといって誘拐もしないなんて。」
「なに、そんなことせずともお前は私のモノだ。」
「なってやるなんて言った覚えありませんが?」
くそぅ、皮肉ってやったのになんか言い返されてる。
そんなに私をからかって楽しいか?
犯罪と言うことばはなく、ましてモラル的なものもない。
パッと見は英国紳士なのに、行動は紳士と言う単語を木っ端微塵にしてくれる。
「さて、私はお前の、」
「血を奪いに来たのなら出てって下さい。」
即決。猶予など必要であるものか。
そもそも私は彼の食料ではないのだ。
そうだと思ってるなら冗談じゃない。
鉄の引き金の代わりに蹴りをありったけくれてやる。
「そう遠慮するな。血ならそれで十分だ。‥今のところはな。」
それ、と指したのは先程切ってしまった指。
こんな会話をしながらも私は絆創膏を探していたと言うのに、知っていたかのように言う。
さては切ったときから居たな。
「こ、これでもダメです!そもそもアンタにあげる血なんて一滴も‥‥」
必死に死守していたといのに、それを感じさせない。
血を流した指は腕ごとアーカードに掴まれ、垂れて降りた肘からゆっくり舌を這わせる。
この動きが妙に卑猥で官能的。
腕ぐらいなら抵抗できたはずなのに、冷たい舌のねっとりとした感触に妙な震えが止まらない。
やがて垂れた血を舐めとれば今度は指に絡ませてくる。
やっぱり卑猥だった。
「は、離しなさいよ‥!」
「ククク‥私に舐められて感じたかお嬢さん(フロイライン)?」
「ば、バカなこと言うんじゃ‥ッ!!」
やっと離して貰ったが、切って流れていたはずの血は止血していた。
そんなに浅くはなかったはずだが、止まったなら良しにしよう。
‥とは思いきれなかった。
「お前の血は相変わらず甘く別格だな。」
「全然嬉しくないわよ。」
あぁ‥只でさえ対処が厄介なのに好かれてはインテグラ様やセラスに心配かけられているのに‥。
アーカードはアーカードで私を玩具みたいに扱って。
それを楽しんでいる。
情熱的な言葉、腰に響くような甘い声。
何もかもが惑わしてくる。
盲目になりがちの罠。といったところか。
blindness trap
(ねぇ、アーカード。いつになったら名前で呼ぶのよ。)
(ククッ‥お嬢さん(フロイライン)では厭だったか?)
(そうじゃないわよ。アンタがしつこく名前を聞いたからじゃないの。)