それは桎梏の、

「幹部様。」



銃声が、嘆くように叫ぶ。
そして、叫んだ後は ドサッと"何か"が倒れる音。

"何か"が倒れるのを、愛銃のベレッタを叫ばせるために 引き金を引いた男の隣で見る。


全てを奪う。
それは、夢も、希望も、そして命すらも簡単に。
可憐に咲いた小さな花をぐしゃりと握り潰すように、呆気なくて。


呆気ないほどに、容易で。
呆気ないほどに、愚かで。
呆気ないほどに、美しい。


私たちを知る者、関わる者。それらの人間は私たちの"標的"。容赦なく消去する。
そう、それはまるで不要なデータを消すように、躊躇も迷いも無く、あっさりと。


ベレッタが光る。銃声が鳴る。嗚呼そうだ。何度も聞いて聞かされて、慣れてしまった音。

横たわる冷たい体に、燃えつくすような炎を情けに渡す。
そこに倒れる屍はよく燃えて、きっと近いうちに灰も残らない。

それは熱く…否、冷たくなった体には最早感覚は不要だろう。
どうせ、息絶えている物質なのだから。


無残な、真っ黒い灰の物体となって 誰かが見つけるのだろうが、誰も本当の意味での真実を知らない。


そして、燃え盛る死体を背に、私たちは二人はその場を後にした。



「幹部様。この後…如何なさりますか。」



幹部様愛用の黒のポルシェの後ろにて、景色を見ながら口にする。
きっと、このセカイの醜さも。生きていなければ識ることはないだろう。

そして、…幹部様の名前は…、呼べない。否、呼ばない。
あくまで私は下っ端の一員であって、幹部様と一緒なんて恐れ多いもの。

…何故彼が私を連れて行ったのか知らないけれど。



「オイ、來。」



動いていた愛車が急に止まり、それと同時に頭に当たる鉄。
さっきまで、取り引き相手を血祭りに上げた あのベレッタ。



「名前を呼べと言っただろ?」
「そう言う訳にも参りませんよ。唯でさえ…」



彼女は、引くどころか、怯える気配すら見せない。
彼女の…來の大人しそうに見えて強い眼をしているところに惹かれたのだが、それを教える必要は全く無い。

銃の腕はそこそこあるものの、彼女に殺させたことは余り無い。
今でも自ら命を奪った亡骸を見たり、震え上がる手で殺(バラ)した日には、毎回悪夢に魘されているのを知っている。


黒に見えて、來は、まだ 白いままなのだ。
幾ら身を漆黒に染め上げても、まだ白い彼女。

漆黒を戒めとして、身に付けているも心身共にいかない。まだ未熟さを残す彼女。

だから、こそ。
こうやって、取り引きに連れて行かせたり、現場を見せたりする。

來が一刻も早く。身を心も、彼女の髪のように染め上げて。
そしてまた、黒く染め上げたのが何より俺であることに。





それは桎梏の、
(幾ら殺(バラ)して黒に染まったとはいえ、心まで染まらぬコイツは恐ろしくも綺麗さを覚えてしまった)